「ねぇ、何処まで行くの!?」
ウォルフの腰に掴まりながらアレックスがそう聞くと、彼は無言で幹線道路を突っ切っていった。
やがて彼らが辿り着いたのは一軒のクラブ「ジャーヘッド」だった。
「降りろ。」
「う、うん・・」
このクラブには夜な夜な悪魔崇拝者が集まっては怪しげな集まりを開いているというのが、町の人々のもっぱらの噂だった。
「あら、誰かと思ったらウォルフじゃない。元気にしてた?」
クラブに入るなり、ウォルフを目敏く見つけた女がそう言って彼に挨拶した。
彼女は胸元を大きく開いたドレスを着ていたので、彼女がどんな職業なのかアレックスは想像がついた。
「ねぇ、その子は?」
「こいつはアレックス。NYから来たシティボーイさ。」
「ふぅぅん、可愛い子ねぇ。坊や、筆下ろしはもう済んだの?」
女は真っ赤に塗られたマニュキュアを施した手で、そっとアレックスの頬を撫でた。
それだけでも、アレックスの肌は粟立った。
「こいつには手を出すな。」
ウォルフが低い声でそう言うと、女はつまらなそうにアレックスから離れた。
「あいつなら奥の部屋にいるわ。まぁ、お楽しみ中だけどね。」
「そりゃどうも。行くぞ。」
「う、うん・・」
開店前の店内は閑散としており、音といえば清掃員が床を磨く度に響くモップの音くらいだった。
ウォルフに腕を掴まれ、アレックスがやって来たのは店の奥にある事務所のような部屋だった。
「おい、居るか?」
ウォルフがドアを叩くと、何の音もしなかった。
彼は舌打ちすると、ドアを蹴破った。
部屋に入った途端、マリファナの匂いがアレックスの鼻をついた。
泣き叫んで逃げ出そうとするのを堪え、アレックスが部屋の中へと入ると、ベッドでは半裸の男達が互いの肉体を貪り合っているところだった。
華奢な一人の男を前後に挟み、ボディレスラーのような筋骨隆々の男二人が居た。
一人の男は激しく華奢な男の尻に腰を叩きつけるかのように動き、前の男は自分の股間を咥えている男を見ながら苦悶の表情を浮かべていた。
やがて男達の動きが激しくなり、一人の男が吐精して床に転がると、華奢な男が緩慢な仕草でシュミューズを纏い、漸くアレックス達に気づいたようだった。
「誰かと思ったら、ウォルフじゃない。」
ふっくらとした唇に優雅な鼻梁、そして華奢な身体つきも相まってか、アレックスは彼が同性とは思えなかった。
「また昼間から盛ってたのか。」
「だってこんな田舎じゃ、何も出来やしないもの。セックス以外はね。」
男の視線がウォルフからアレックスへと移り、アレックスは彼と目が合った。
「その坊やはだぁれ?」
淡褐色の瞳が黄金色に輝き、男は舌なめずりしながらゆっくりとアレックスの方へと近づいてきた。
「おいラリー、こいつを相手にするな。」
「なぁにウォルフ、嫉妬してるの?」
「そんなんじゃない。」
「じゃぁなに?」
「着替えてからお前に話したいことがある。」
「わかったよ。」
膝丈のシュミューズを纏い、細い腰を揺らしながら男がバスルームに入ると、ウォルフはショッキングピンクのけばけばしいソファに腰を下ろした。
「彼は誰?」
「ああ、彼はこのクラブの経営者の、ラリーだ。お前も見たと思うが、クラブっていうのは表向きで、裏は高級売春クラブだ。奴が元締めで、時間と金を持て余している金持ちどもに娼婦を派遣している。どうやらお前が気に入ったらしい。」
「そうなんだ・・じゃぁ、町の人達が、ここが悪魔崇拝者たちの集会所だっていうのは嘘だったんだね?」
「ああ。俺達はサタンはもとより、神なんか信じちゃいない。自由気ままに暮らしているだけさ。」
ウォルフがそう言ってスマートフォンを弄くっていると、ラリーが彼の隣に座った。
「それで、用件っていうのはなに?」
「昨夜こいつの爺さんが何者かに襲われた。幸い一命を取り留めたが、お前何か知ってるか?」
「ふぅん、そんなことを聞きに来たの。少しだけ教えてあげるけど、タダじゃ駄目。」
「どうすりゃいいんだ?」
お前のふざけたお遊びに付き合うのは嫌だと言わんばかりにウォルフがラリーを睨むと、彼は足を大きく開くと、シュミューズの裾を捲り上げた。
にほんブログ村