「す、すいません・・」
「すいませんじゃねぇだろ、謝れよブス!」
アンジェラの前でディーンはカッコいい男を見せ付けたいのか、そう言ってアレックスを睨みつけたかと思うと、彼を勢いよく突き飛ばした。
「きゃぁっ!」
慣れないヒールを履いている所為で、アレックスはバランスを崩して転倒してしまった。
「何よこの子ダッサ~イ!」
アンジェラはケラケラと笑いながら、冷たくアレックスを見下ろしていた。
「さっさと謝れば許してやったのによ。」
ディーンは冷笑を浮かべながら、シャンパンを飲み干した。
これが彼の本性―傲慢で問題ばかり起こすディーンの姿なのだろうか。
「おい、聞いてんのかよ!?」
アレックスのウィッグを掴もうとしたディーンの手を、誰かが捻り上げた。
彼が顔を上げると、そこには怒りで目を滾らせたウォルフが立っていた。
「わざとじゃないだろう、許してやったらどうだ?」
「てめぇ、何しやがる!その汚い手を放せ、悪魔の私生児め!」
「その口の利き方はなんだ?金持ちの坊ちゃんなら、他人に許しを乞う時はどうするのか親に教えて貰わななかったのか、ん?」
ウォルフはディーンの腕を万力のように締め付けると、彼は悲鳴を上げた。
「許してくれぇ・・」
「俺ではなく、彼女に謝れ。」
「悪かったよ・・」
「それでいいんだ。」
ディーンの言葉に満足したのか、ウォルフはディーンの拘束を解いた。
その弾みで彼は一番近くにいたテーブルに頭から突っ込んでしまい、アンジェラに格好良い場面どころか、情けない姿を見せてしまった。
「大丈夫か?」
「う、うん・・」
「いくぞ。」
自分を助けてくれたウォルフに礼を言おうとしたアレックスが彼の手を取って立ち上がったとき、向こうから鋭い声が聞こえた。
「あなた、何しにここに来たの!?」
二人が後ろを振り向くと、そこにはブルネットの髪を結い上げた美しいドレスを着たタンバレイン夫人が自分達のほうへと向かってくるところだった。
「パーティーに来ただけだ。」
「あんたを呼んだ覚えはないわよ、出ていって!」
「あらら、そんなに怒り狂ってどうしました、奥様?」
涼やかな笑い声とともに、ラリーがタンバレイン夫人の前に現れた。
「彼はわたしをエスコートするために来たんですよ。そうだよね?」
ラリーのほっそりとした手にウォルフはキスすると、静かに頷いた。
「ふん、ここにはあんたの居場所はないわよ。まぁそれくらい、解っているでしょうけど。」
アイスブルーの冷たい瞳でタンバレイン夫人がそう言ってウォルフを睨みつけていると、ダークブロンドの髪を靡かせながらタキシード姿の男が彼らの方へとやって来た。
「どうしたんだ、アビゲイル?そろそろ皆さんに挨拶しなくてはいけないだろう?」
「あなたがこの子をここに呼んだんですの!?」
タンバレイン夫人がそうヒステリックに叫ぶと、ダークブロンドの髪をうっとうしげに払った男は、漸くウォルフの存在に気づいた。
「君は・・リリアナの・・」
周りの空気が突然冷えた気がして、アレックスはブルリと身を震わせた。
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