「やっぱりあなた、あの女のことを忘れていなかったのね!だからこの子をパーティーに呼んだんでしょう!?」
タンバレイン夫人がそう夫に食って掛かったが、彼はどこか心にあらずといったような顔をしながらウォルフに近づいた。
「君が、ウォルフなのか?」
「はい、そうです。」
「あなた、その子に構わないで!」
いらいらした様子で夫の腕をタンバレイン夫人が掴んだが、ミスター・タンバレインはその腕を振り払った。
「君に話がある。」
「わかりました。」
「わたしも行くわ、あなた。」
三人が屋敷の中へと入っていくのを見ながら、一人残されたアレックスは状況がわからずにポカンとしていた。
「アレックス、向こうで座らない?」
ラリーがいつの間にかアレックスの隣に立ち、彼の手を取って人目のつかないテーブルへと腰を下ろした。
「さっきの様子、見たでしょう?ここだけの話、ウォルフはミスター・タンバレインの私生児なんだよ。」
「え・・じゃぁディーンとは・・」
「腹違いの兄弟さ。アビゲイルが妙にピリピリしていたのは、彼が原因だったのさ。」
「ウォルフはそのことを知ってるの?」
ウォルフにも高貴なタンバレイン家の血が流れていることを今知ったアレックスが気分を落ち着かせるために水を一杯飲んだ。
「まぁね。あいつの母親とミスター・タンバレインの関係は町中の噂になったし、何よりも身寄りがない孤児のリリアナが名家の御曹司との間にできた一粒種を生んだんだから、とんだスキャンダルさ。」
ラリーは溜息を吐くと、煙草を吸った。
「だからタンバレイン夫人はウォルフのことを怒ってたんだ・・」
「ご名答。アビゲイルにとってウォルフの存在は目障り以外の何者でもない。可愛いディーンにやる筈の財産を、脇からウォルフに掠め取られたらたまらないからね。」
「そうですか・・」
タンバレイン家の複雑な事情を知ったアレックスは、パーティーを楽しむ気にはなれなかった。
「彼らはもう戻ってこないだろうから、わたし達だけで帰ろうか?」
「ええ。」
ラリーと共にタンバレイン邸を後にしたアレックスは、自分達の方へと近づいてくる一人の男の姿に気づいた。
「誰かと思ったら、ラリーじゃないか。」
「ハーイフィリップ、元気にしてた?」
ラリーはそう言って男に笑顔を浮かべると、そっと彼の股間を撫でた。
「なぁラリー、君に会えなくて寂しかったんだ。」
「わたしもだよ。」
ラリーは男にしなだれかかると、アレックスの方へと向き直った。
「少しここで待っててくれない?すぐに済ますから。」
「は、はい・・」
ラリーは男の手を引いて、暗い森の中へと消えていった。
数分後、彼らは一向に森から戻って来なかった。
(どうしたんだろう・・)
不安な気持ちになりながらアレックスがラリー達を待っていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。
にほんブログ村