アレックスが驚愕の表情を浮かべながらあたりを見渡すと、邸の前には報道陣のバンやリポーターがごった返し、記者達がマイクを剣のように構えながらウォルフに迫ってきた。
「あなたがタンバレイン家の私生児ですね!?」
「タンバレイン家の後継者ということになるのですか!?」
「そちらにいらっしゃる方が、うわさの婚約者なのですか!?」
ウォルフはアレックスの手を無言でひくと、すばやく屋敷の中へと入っていった。
「全く、とんだ茶番だこと!この子の所為で、落ち着いて食事も出来やしないわ!」
ダイニングテーブルに二人が入るなり、そう言ってタンバレイン夫人は憎々しげにウォルフを睨みつけた。
「その女が、お前の婚約者か?」
タンバレイン家の家長・ヘンドリックスがじろりとアレックスを睨みつけた。
すぐにここから逃げ出してしまいたい気持ちを抑え、彼はにっこりとヘンドリックスに微笑んだ。
「はじめまして、ミスター・タンバレイン。わたしはアシュリー=ハノーヴァーと申します。」
「ハノーヴァー家の娘か。ウォルフとは何処で知り合ったんだ?」
「ええと・・」
「NYで知り合ったんだ。」
「そうか。さてと全員揃ったところだし、飯を食おう。」
ヘンドリックスの鶴の一声で、どこか不満げな顔をしたタンバレイン夫人は口を噤み、ディーンは母親の隣で食前の祈りを捧げた。
「ジョージ、お前は一体長い間こいつをほったらかしにして何をしていたんだ?」
「父さん、わたしは父子の名乗りをしたかったんだが、家族が反対して・・」
「当たり前じゃありませんか、あなた!娼婦の息子が居ること自体、この名誉あるタンバレイン家にとって大きな汚点ですわ!」
「黙れ、アビゲイル!貴様の家が南部の社交界を牛耳っていたのは、あの戦争で北部に負ける以前のことだ!没落寸前の貴様を持参金なしにもらってやったのは、誰だと思っているんだ!?」
ヘンドリックスの口ぶりから察するに、ジョージを常に尻に敷くタンバレイン夫人も、舅である彼には逆らえないらしく、悔しそうに唇の端を噛んでいた。
「ウォルフ、お前の母親はどうしている?元気にしているのか?」
「母は俺が5歳のときに死にました。確か交通事故だったと思います。」
ウォルフはタンバレイン夫人を金色の瞳で睨みつけながらそう言うと、フォークとナイフで器用にチキンを食べた。
「リリアナが事故で死んだとはな。あの女は車の運転には人一倍気をつけていた。詳しく調べてみる必要があるな・・」
ヘンドリックスの独り言を隣で聞きながら、アレックスは震える手でチキンから肉をナイフで切り取った。
「アシュリー、どうした?北部人のお前には、南部料理は口に合わんか?」
「い、いいえ・・はじめてタンバレイン家の方々とお食事をするので、緊張してしまって・・」
「そう硬くなるな。初めは慣れないだろうと思うが、家族の一員になるのだから、時間が経てばどうにかなる。おいアーニー、地下のセラーからとびきり美味いワインを持って来い!」
「かしこまりました、旦那様!」
タンバレイン家の晩餐は、上機嫌なヘンドリックスが勝手に喋り、笑い、ワインを飲むだけで終わった。
「ウォルフ坊ちゃん、アシュリー様、こちらです。」
夕食後、アーニーに案内された寝室を見るなり、アレックスは絶句した。
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