高い天井に、センスのいい家具や調度品に囲まれた部屋は、文句の付け所がないくらい素敵なものだった。
部屋の中央に置かれた天蓋つきのダブルベッドを除いては。
「アーニー、これは一体どういうことだ?」
「実は大旦那様が・・」
「お前達は子作りに励め!なぁに、若いからすぐに子供なぞできる!」
いつの間にかヘンドリックスが部屋に入ってきて、そう言って豪快に笑うと自分の寝室へと引き上げていった。
「ったく、余計なことをしやがって、あの爺・・」
ウォルフがギリギリと唇を噛んだあと、ソファに腰を下ろした。
「お前はベッドに寝ろ。俺はここに寝るから。」
「わ、わかった・・」
ヘンドリックスに自分の正体がバレないで良かったと思ったアレックスだったが、いつまで彼の目をごまかせるかどうかわからない。
マスコミに取り囲まれ、ヘンドリックスには変な勘繰りをされ、ストレスでどうにかなりそうだった。
「取り敢えず、第一関門は突破したな。」
胸元を締め付けていたブラックタイを解きながら、ウォルフは整髪料でベトついた髪を手櫛で乱暴に梳かした。
「これからどうするの?あの人、結構曲者だと思うけど・・」
「長年この町を仕切ってきて、その上政府のお偉方にも顔が利くあの爺さんを騙すのには、時間と労力が居るな。」
「まさか、こんなことになるなんて思ってもみなかったよ・・」
「俺だってそうだ。あの爺に女装したお前の姿を見られたのは誤算だったな。まぁ、このゲームを途中で降りるわけにはいかないな・・」
「シャワー浴びてきていい?緊張で汗かいて気持ち悪いよ。」
「浴室は出て右の部屋だ。」
「ありがとう。」
寝室を出て浴室に入ると、アレックスはドレスを脱ぎ捨てバスタブの中へと入り、シャワーカーテンを閉めた。
シャワーコッドを捻り、冷たい水を浴びていると、突然浴室のドアが誰かにノックされた。
(誰!?)
アレックスは素早くタオルで身体を包み、ノックの音が激しくなっていることに気づいて恐怖に震えた。
鍵を内側から掛けておいてよかったと思いながらも、彼はそっとドアの方へと近づいていった。
「どなた?」
アレックスがそう言ってドアの前に立っている者に声を掛けたが、返事は返ってこなかった。
その代わりに、ノックの音が今まで以上に激しくなった。
(一体誰なんだよ!?)
恐怖とパニックでアレックスが震えていると、ウォルフの声が聞こえた。
「お前、そこで何してる!」
相手はウォルフの怒鳴り声に驚いたようで、浴室の前から立ち去っていく足音がドアの外から聞こえた。
「アレックス、俺だ。大丈夫か?」
「う、うん・・大丈夫。」
アレックスがそっとドアを開けると、ウォルフが溜息を吐いていた。
「何かあったの?」
「ああ、それが・・」
ウォルフが次の言葉を継ごうと口を開いたとき、小さな影が浴室に入ってきた。
にほんブログ村