『あなた、一体何を言っているの?わたしはその髪飾りを盗んでなどいないわ。』
『嘘おっしゃい、わたし知ってるのよ!』
『何を知っているというの?』
興奮する少女―マリーを前に、美津は毅然とした態度で彼女にそう話しかけた。
すると、マリーは少し動揺しながら、ポツリとこう漏らした。
『何よ、あの女が言ったとおりにしたっていうのに・・』
『あの女?』
『ええ、さっきあなたの居場所を教えてくれたのよ。本当に、あなたはこの髪飾りを盗んでいないのね?』
『本当よ。』
『そう・・誤解してしまって悪かったわ。』
マリーはそう言って自分の非を認め、美津に暴力を振るってしまったことを謝罪した。
『あなた、これからどうするの?』
『横浜に戻るわ。』
マリーは侍女を従えて、屯所から去っていった。
「姫様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。誤解は解けたようだし。」
自分に駆け寄るエーリッヒに、そう言って美津はマリーが去っていた方を見つめた。
『あぁもう、恥ずかしいったらないわ!勝手に誤解して人を殴ったなんて!』
横浜へと帰る道中、マリーはそう言いながら頭を振った。
『お嬢様、もう終わったことですから、そうお気になさらずに。』
『そうね。でもあの人ともう一度会えるかしら?』
『さぁ、それはわたくしにもわかりかねます。』
ロゼはそう言ってマリーに笑った。
美津と再会できることを願いながら、彼女達は横浜へとたどり着いた。
『マリー、何処に行ってたんだ、心配したぞ!』
『ごめんなさい、お父様。』
『お前が無事でよかった。』
父と久しぶりに抱擁を交わしたマリーは、彼と共にダイニングへと入っていった。
「ねぇ、あの子とはまた会えるかしら?」
「それはどうでしょう。」
「また会えるといいわね。」
美津は月を眺めながら、そう言って部屋の中へと戻っていった。
「ちっ、失敗したわね・・」
月明かりも届かぬ暗い路地に女―りえは居た。
「あの娘を唆してあの女を始末しようと思っていたのに・・」
そっとりえは頭巾を外すと、火傷の痕が残る顔を擦った。
この火傷は、あの鬼姫がつけたものだ。
自分の一族は、彼女に滅ぼされた。
「わたしが生きているのは、あの女の復讐の為・・一族の無念を晴らす為・・」
業火に焼かれる親兄弟の姿を思い出しながら、彼女は唇を噛み締め、闇の中へと消えていった。
一方、祇園の茶屋では、長州の女間者・絢が一人の男にしなだれかかっていた。
「黒田様、首尾はどうどすか?」
「まずまずだ。心配するな、そなたの目論見通りに動いておる。」
「おおきに。」
絢は妖艶な笑みを口元に浮かべた。
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Last updated
Oct 9, 2012 08:34:21 PM
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