「先生、ご無沙汰しておりますわ。」
「おや、誰かと思えば。」
吉田稔麿議員が読んでいた文庫本から顔を上げると、病室に千尋が入ってくるところだった。
「外が急に騒がしくなったかと思ったら、何でも女子高生が救急車内で出産したというじゃないか?」
「ええ。あの子は育てるつもりはないそうですわ。親になる資格がない癖に、簡単にセックスをするなんて、まるで獣ね。」
「そんなことを言うもんじゃない、マダム。彼女はある意味被害者だ。身勝手な男に騙された被害者さ。」
「それはそうかもしれませんわね。まぁ、事が公になれば、男の方だって無傷ではいられませんわ。」
そう言った千尋は、何処か嬉しそうな顔をしていた。
「まるで、君ははじめから計画していたんじゃないかい?」
「まさか、そんなことありませんわ。それよりも先生、退院したらうちの店に来てくださいな。たっぷりとサービスいたしますわ。」
千尋は吉田議員にしなだれかかった。
「ああ、わかったよ。」
「では、お待ちしておりますわ。」
千尋は吉田議員に一礼すると、病室から出て行った。
「あら、誰かと思ったら汚らわしい娼婦じゃないの。」
「あなたにそんなことを言われたくないわね、奥様。若い男のものを平気で咥えている癖に。」
「何ですって!?」
廊下で稔麿の妻・瑠美と鉢合わせした千尋がそう言って笑うと、瑠美は顔を怒りで赤く染めた。
「土方先生、お客様が来ております。」
「ああ、わかった。」
医局でカルテの整理をしていた歳三が外へと出ると、そこには香帆の姿が廊下にあった。
「どうしたんだ、香帆?」
「これから産婦人科に行くの。残念だけど、おなかの子は諦めるわ。それだけ言いにきたの。」
「そうか・・」
「これにサインして。」
「わかった。」
香帆に差し出された中絶同意書にサインした歳三は、それを彼女に手渡すと、香帆はその足で産婦人科病棟へと向かった。
「中絶手術を受けたいんですが・・」
「暫くお待ちください。」
待合室の長椅子に彼女が腰を下ろすと、隣には赤ん坊を抱きかかえた少女が座っていた。
ところどころ地毛が見えるくすんだ金髪に、濃いメイクをした少女は、ぼうっとした様子で赤ん坊をあやしていた。
香帆が声を掛けようかどうか迷っていた時、千尋が少女の下へとやってきた。
「どう、決心はついた?」
「はい・・」
「あなたはいいことをするのよ。もう過去は忘れておしまいなさい。」
少女から赤ん坊を受け取った千尋は、赤ん坊をあやしながら少女の前から立ち去っていった。
「どうぞ、処置室の方へ。」
「はい・・」
千尋と何があったのか香帆が少女に聞こうとしたとき、看護師が彼女を処置室へと案内した。
「すぐに済みますからね。」
「はい・・」
「じゃぁ、10から0まで数えてくださいね。」
「わかりました・・」
香帆は病衣に着替えて下着を脱ぎ分娩台に横たわると、医師が麻酔の注射を彼女の腕に打った。
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Last updated
Nov 23, 2012 03:32:42 PM
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