香が裏サイトを見ると、そこには歳三の不倫のことや、香の実母・千尋が高級娼館を経営していることなどが書かれており、掲示板には香の悪口で溢れていた。
掲示板のスレッドを読んでいる途中で香は気分が悪くなり、履歴を消してから二ノ宮の携帯に掛けた。
「なぁ、あれ、誰の仕業だ?」
『きっと足立のやつらだよ。多分、お前の教科書を切り裂いたのもあいつらの仕業だよ。』
「証拠もであるのか?」
『まぁな。』
翌日、香が登校すると、二ノ宮からメールが来ていた。
『証拠持ってきた。教室じゃ不味いから学食で。』
学食へと香が向かうと、二ノ宮が笑顔で彼に手を振った。
「それで、証拠っていうのは?」
「ああ、これ。」
二ノ宮がそう言って鞄から取り出したのは、何の変哲もない万年筆だった。
「何だ、これ?」
「俺の親父、弁護士なのは知ってるだろ?俺中学ん時にいじめに遭っててさ、親父に相談したらこういうやつに小型カメラ仕掛けて動画や写真を撮れって言われたんだよね。朝練行く前、何かあるだろうなと思って俺、お前の机にこれを入れたんだよね。そしたらビンゴだった。」
そう言って二ノ宮はにっこりと笑った。
「ビンゴって?」
「撮れてたんだよ、あいつらの顔がさ。じゃ、行こうか。」
二ノ宮に連れられ、香はPC室へと入った。
二ノ宮はおもむろに万年筆のキャップを取り外し、ペン先を引っ込めてUSB端子をPCに接続すると、動画が自動再生された。
そこには、剣道部の更衣室で足立たちが石灰を香の袴に掛ける姿や、香の教科書を引き裂きノートに剃刀を仕込む姿がばっちりと写っていた。
「な?これって、確実な証拠になるだろ?」
二ノ宮はそう言うと、万年筆をPCから抜いた。
「これ、二階堂先生に見せたらいいかもな。あと、コピーも作ってCDや他のメモリにも焼いといたから、場合によっては教育委員会に送った方がいいな。」
「二ノ宮、サンキュ。」
「礼なら親父に言ってくれよ。ま、暫く足立たちも気まずくなるだろうな。」
そう言った彼の顔は、何処か嬉しそうだった。
案の定、足立たちは無期限の謹慎処分を食らい、来年度の全試合出場停止処分を受け部活にも居づらくなったのか退部していった。
足立たち二年部員が居なくなったので、それまで彼の影に怯えていた一年部員達は、今までのように練習に精を出すようになった。
「これでお前が部長になることは確定したな。でも気を緩めちゃ駄目だからな。」
「うん、わかってるよ。」
「じゃぁ、おれこっちだから。」
「ああ、またな。」
部活が終わり、校門の前で二ノ宮と別れた香は、バス停の前でバスを待っていると、突然赤いスポーツカーが彼の前に停まった。
「お前、土方香だよな?」
「はい、そうですが?」
運転席に乗っている開襟シャツの上に高級そうなジャケットを羽織った男は、掛けていたサングラスを外すと香をじろじろと見た。
「ちょっと付き合ってくんないかな?」
「はい?」
香がキョトンとしていると、男が急に腕を伸ばし、彼を無理矢理助手席に座らせた。
「え、あぁ、ちょっと!」
抵抗する間もなく、あっという間に香を乗せたスポーツカーはエンジンを唸らせながら高校の前から走り去っていった。
(香のやつ、家にはまだ帰ってねぇのか・・)
何度掛けても繋がらない息子の携帯のアナウンスに、歳三は舌打ちしながら携帯を閉じた。
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Last updated
Nov 26, 2012 01:24:33 PM
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