(一体俺は何をしているのだ。)
その夜、斎藤は昂る心を抑える為、素振りをしていた。
昼間、局長室で歳三と勇が睦み合っているのを見た時に感じた胸のざわめきに、斎藤はどうこのざわめきを鎮める術があるのかを考えていた。
その結果が、素振りである。
「あっれぇ、こんなところで何してるの?」
「あんたこそ、こんな時間まで何処に行っていたんだ?」
神経を逆なでするかのような声が聞こえ、斎藤が振り向くと、そこには総司が井戸に凭(もた)れかかるようにして立っていた。
「別に。それよりもはじめは、土方さんのこと好きなんでしょう?」
「あんたには関係のないことだ。」
「大ありだよ。僕にとっては、すごく邪魔なんだよね、あの人。」
「総司、一体何をするつもりだ?」
「何もしないよ。今はね。」
きらりと、総司の目が光った。
まるで、血に飢えた狼のように。
「ねぇ、いつまで君は指を咥えて土方さんが自分のものになるまで待つつもりなの?」
「何が、言いたい?」
「奪っちゃいなよ。このまま土方さんを近藤さんのものにされちゃう前に。」
「総司!」
翡翠の目を怒りで滾らせ、自分を睨みつける斎藤の姿を見て総司は嬉しそうに笑った。
「冗談だよぉ。君って、本当にクソ真面目なんだから。」
総司はポンポンと斎藤の肩を叩くと、彼に背を向けて屯所の中へと入っていった。
(総司め、馬鹿なことを・・)
斎藤は再び素振りを再開したが、頭の中では総司の言葉が何度も浮かんでは消えていった。
“奪っちゃいなよ。”
「土方さん、斎藤です。少し宜しいでしょうか?」
「何だ、どうした?」
副長室の襖が開き、斎藤が入って来るのを、歳三は文机に向かって仕事をしながら横目で見ていた。
「土方さんに折入ってお話があります。」
「何だ、妙にかしこまって。」
仕事を終わらせ、歳三がゆっくりと斎藤に振り向くと、彼は何処かそわそわとした様子で自分を見ていた。
「斎藤、どうした?」
「土方さんは、局長の事をどう考えておられるんですか?」
「何だよ、藪から棒に。勝っちゃ・・勇さんのことは男として尊敬してるぜ。」
突然斎藤の口からそんな言葉が出たので、歳三は若干戸惑いながらもそう答えると、突然彼は自分を畳の上に組み敷いた。
「斎藤・・」
「あなたを、お慕いしておりました。」
そう言った彼の目は、熱で潤んでいた。
「いつからだ?いつからそんな・・」
「江戸に居た頃から、ずっとあなたをお慕い申し上げておりました。」
斎藤は歳三の両手首を押さえつけると、ゆっくりと唇を彼のそれに近づけた。
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