「エリス、嬉しいわ。こうしてあなたと戦えるなんて。」
「それは、わたしも同じです、ユリノ様。」
そう言ったエリスは、肩で息をしていた。
それは、シンも同じだった。
彼女達が着ている服は、ところどころ破れていた。
「あなたは、強くなったわね。ねぇエリス、初めて会った時のことを覚えてる?」
まるで歌うかのようにエリスに話しかけながら、シンはエリスの腕を剣で貫いた。
「あなたと宮廷で他愛のない話をしていた頃のことが、昔のことのように思います。」
「あら、そう。」
「そんな無駄話はもう終わりにして、本気で戦いましょうか?」
「ええ。」
シンはそう言って笑うと、エリスに刃を向けた。
「これで、終わりにしましょう。」
「ええ。」
シンとエリスは互いに睨み合うと、突進した。
エリスは、シンの胸に剣の切っ先が吸い込まれていくのを見た。
血飛沫とともに、シンが地面へと倒れたのは、その直後のことだった。
「ユリノ様!」
エリスが駆け寄ると、シンは血の海の中で喘いでいた。
「エリス、ごめんなさい・・あなたのこと、沢山傷つけてしまったわね。」
「いいえ。わたしはいつも・・」
エリスはシンの手を握って何か言おうとしたが、口から出てくるのは嗚咽ばかりだった。
「いいのよ、何も言わなくても。」
「わたしは・・」
「後のことは、お願いするわね。あなたの力で、この国を変えて・・」
「はい、必ず・・」
「お願い、わたしの代わりに、ね・・」
シンはそう言って目を閉じると、彼女の脳裏に、幼き頃故郷で母と弟とともに過ごした平和な日々が浮かんだ。
(母さん・・俺は、どこで間違ったってしまったんだろう。)
“シン・・”
どこかで、母の声が聞こえたような気がした。
“あなたは、もう苦しまなくてもいいのよ。”
(母さん・・)
シンは母が差し出した手を、しっかりと握った。
「ユリノ様、さようなら。」
エリスはそう言うと、見開いていたシンの目を、そっと閉ざした。
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