―ロリエンヌ・・
遠くで、誰かが呼ぶ声がして、ステファニーはゆっくりと目を開けると、そこには心配そうに自分を見つめるエドガーの姿があった。
―良かった、気がついて。
宝石のような美しい翡翠の双眸が、安堵の光を宿しながら自分を見つめてきて、ステファニーは頬を赤らめた。
(いや・・これは違う・・これは、ロリエンヌ様の記憶だ。)
家系図から名を消された女戦士の記憶を、ステファニーは夢に見ているのだ。
エドガーに似ている男は一体誰なのか、彼は解らなかった。
―あまり無理をしないでくださいね。
―わかっているわ。
鈴を転がすような声で、ロリエンヌは軽やかに笑った。
彼女が頭を振る度に、キャラメル色の髪が日光に照らされて美しく輝いた。
ロリエンヌとエドガーに似た青年との甘い時間は瞬く間に過ぎていった。
「・・さん、ステファニーさん?」
「ん・・」
ステファニーがゆっくりと目を開けると、そこにはエドガーが心配そうに自分を見つめていた。
「エドガーさん・・ここは?」
「パリのホテルですよ。ロシアで倒れた時、どうなるのかと思っていたんですが、何処にも異常がなくて良かった。」
エドガーはそう言って安堵の溜息を吐いた。
「すいません、ご迷惑をおかけしてしまって。」
ステファニーがすまなそうにエドガーにそう詫びると、彼は首を横に振った。
「あなたに何かあったのではと心配してましたが、単なる旅疲れで良かった。」
「ええ・・」
家族が居る英国から旅立ってウィーン、モスクワへと旅から旅を続けていた所為か、ステファニーが知らぬ間に疲労が蓄積されていたらしく、エドガーの前で倒れてしまった。
だが、ステファニーはあれが単なる旅疲れではないことに気づいていたし、あの時脳裡に浮かんだ光景はいつまで経っても消し去る事ができない。
それに、先ほど見たあの夢―何故、ロリエンヌの記憶が自分の夢に出てくるのか。
一体自分と彼女に、何か接点でもあるのだろうか?
そんな事を考えている内に、腹が減って来た。
「どうしました、ステファニーさん?」
「お腹が空いてしまって・・」
エドガーはステファニーの言葉に微笑んだ。
「待っていてください、ルームサービスを今から頼みますから。戻るまで暫く休んでいてください。」
「はい・・」
エドガーが部屋から出て行った後、ステファニーは寝台の中で寝返りを打って眠り始めた。
数時間後、部屋の外からガタンという大きな音がして、ステファニーはエドガーが帰って来たのだと思い、寝台から起き上がった。
「エドガーさん?」
外の廊下に向かってステファニーは声を掛けたが、返事はない。
何かがおかしいと思ったステファニーは、“報復の刃”を握り締め、そっとドアを開いた。
そこには、誰も居なかった。
(おかしいな・・)
ステファニーが首を傾げながらドアを閉めようとした時、枯れ枝のような手がドアの隙間から突然突き出て来た。
「な、なんだ!?」
ステファニーは咄嗟に身構えると、ドアを開けて、得体のしれない化け物が部屋に乱入してきた。
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Last updated
2013.09.06 12:26:03
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