「こら、待てぇ!」
『ヤバい、捕まるぞ!』
『逃げろ!』
聖ヴィトー大聖堂から逃げ出した少年は、仲間の少年達に向かってそうジプシー語で叫び、
複雑に入り組んだ路地裏へと逃げ込んだ。
警棒を持った男は暫く彼らを追いかけていたが、やがて諦めて元来た道へと戻っていった。
『なぁ、今日は何か金になりそうなもの取れたか?』
『さっぱりさ。観光客に募金箱を差し出して金をせびったけど、怪しまれた。』
『俺も同じことをしたけど、警察に突き出されそうになった。』
『なぁロカ、俺達これからどうするんだ?』
『どうするって・・何とか金を稼ぐしかないだろう?』
少年達の中でも最年長で、聖ヴィトー大聖堂でステファニーのバッグを漁っていた14歳のロカは、そう言って仲間を見た。
彼らは幼くして両親を亡くし、頼れる親戚もおらず、孤児として路上で仲間と暮らしていた。
『良いか、絶対に警察に捕まらないようにするんだぞ!』
『わかった。』
『じゃぁリアム、お前はプラハ駅に向かえ。あそこには沢山観光客が居るから、上手くあいつらを騙してこい。』
『了解!』
ロカが実の弟のように可愛がっている6歳のリアムは、そう言ってロカに敬礼すると、素早く路地裏から駆けだしていった。
『カンデ、お前は俺と一緒に来い。』
『何処に行くんだ、ロカ?』
『市場に行こう。あそこなら、飯にありつけるさ。』
『金を持ってないのに?』
『これを見ろよ。』
ロカはそう言うと、首に提げていたプラチナで出来た鍵型のネックレスを取り出した。
『それ、お前の母さんの形見じゃないか!』
『これを売れば、当分生活には困らないさ。母さんだって、俺達を飢え死にさせたくないって天国からそう思っているだろうよ。』
ロカはそう言うと、母の形見であるネックレスに口付け、カンデとともに市場へと向かった。
『どうだった、リアム?』
『ちょっとは稼げた。それよりもロカ兄ちゃん、このパンどうしたの?』
『市場で買ったのさ。母さんのネックレスを売ったんだ。』
『そんな・・』
『そんな顔するなよ、リアム。ロカは俺達が飢え死にしないようにネックレスを売ったんだ。』
今にも泣き出しそうな顔をしているリアムにそう言うと、カンデは彼の前にパンを差し出した。
『ほら、食えよ。碌な物食べてないだろ?』
『いただきます・・』
リアムはそっとパンを一口大にちぎって食べると、その甘さが口中に広がって思わず笑顔を浮かべた。
『美味いだろ?』
『美味しいよ、ロカ兄ちゃん!』
『そうか。』
幼い“弟”の頭を撫でながら、ロカは笑顔を浮かべた。
「ほら、ボーっとしてんじゃないよ!」
「すいません・・」
「全く、暇さえあればサボろうとするんだから!今日中にこれ全部洗っておきな!」
一方、プラハ市内にある貴族の邸宅では、一人の少女がメイド長に大量の洗濯物を押しつけられていた。
メイド長が去った後、彼女は舌打ちしながら仕事を始めた。
これも、幼い兄弟達を飢え死にさせない為だと思いながら、少女は黙々と手を動かした。
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Last updated
2013.09.15 14:36:40
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