「あなた、大丈夫?」
ロリエンヌがそう言って子どもに声を掛けると、彼は苦しそうに呻くとロリエンヌを見た。
「どうやら、親とはぐれてここまで逃げてきたようだな。」
兵士達は子どもを自分達の野営地へと連れて行くと、泥や垢に塗れた彼の身体を洗った。
「綺麗な髪だな。」
「ええ。まるで天使のようだわ。」
泥と垢を洗い流した彼の髪は、美しい黄金色をしていた。
「あなた、名前は?」
「エリオット・・」
「そう。わたしはロリエンヌ、宜しくね。」
ロリエンヌはそう言うと、エリオットに微笑んだ。
ロリエンヌ達は行き倒れになっているエリオットを放置できず、そのまま彼を連れて次の野営地へと向かった。
「ロリエンヌ、こいつを戦場へは連れていけねぇよ。親元に返した方が・・」
「その親を、わたし達が殺していたとしたら?」
「それは・・」
「もうわたしは、人が傷つくのを見たくないの。」
ロリエンヌはそう言うと、セルフォード家に伝わる宝剣を握り締めた。
その宝剣は、ロリエンヌが遠征する前に父から託されたものだった。
「敵襲だ!」
「全員、持ち場につけ!」
敵から夜襲を受け、ロリエンヌ達十字軍の野営地は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
「女だ、女が居るぞ!」
「殺すな、生け捕りにしろ!」
敵兵がロリエンヌに気づき、下卑た笑みを浮かべながら彼女の方へとやって来た。
ロリエンヌは宝剣の鞘を抜くと、敵兵の喉元にその刃を突き立てた。
「おのれぇ!」
「女だからといって馬鹿にするな!」
ロリエンヌはそう叫ぶと、もう一人の敵兵を斬ろうと宝剣を上段に構えた。
その時、敵兵が放った二本の矢が、彼女の首を貫いた。
(お父様・・)
ロリエンヌの脳裏には、自分に笑顔を浮かべる父の顔が浮かんだ。
「エリオット・・」
「ロリエンヌ様、目を開けてよぉ!」
「逃げなさい・・あなただけは、生きて・・」
ロリエンヌはそう言うと、そっとエリオットの頬を撫でて目を閉じた。
「・・これが、わたしが知っている“あの日”の全てだ。」
「ステファニーさんは、その事を覚えていないのですか?」
「ああ、そうらしい。だがもう昔の事は思い出さなくてもいいとわたしは思っているんだよ。いつまでも辛い記憶を引き摺ったままでは、幸せにはなれないからね。」
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Last updated
2013.10.21 12:52:27
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