イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
「夕食はみんなと食べないのかい?」
「ああ、そうしたいところだが、少し用事があってね・・」
「そうかい。残念だねぇ。」
夕刻、歳三が玄関先で実の兄姉達に見送られ、実家から出ると、実家の前に歯一台の黒塗りの車が停まっていた。
(あれは・・)
その車に、歳三は見覚えがあった。
あれは、養父・篤俊のお気に入りの車だ。
「歳三、久しぶりだな・・」
「義父さん・・」
車の中から降りて来た篤俊は、少し老けこんでいるように見えた。
「お前も、この家に用なのか?」
「いいえ、もう済みました。義父さんは、何故ここへ?」
「お前がここに居ると、信子さんから電報が届いてな・・歳三、ホテルに着くまで少し話をしないか?」
「わかりました。」
篤俊が運転する車にホテルまで揺られながら、助手席に座った歳三は、彼を見た。
「義父さん、お話とはなんですか?」
「お前、母さんと絶縁したんだってな?」
「ええ。あの人は女衒に金を渡し、千尋を長崎の芸者置屋に売り飛ばしました。」
「それは、本当なのか?」
「ええ。俺はもう、あの人とは親子の縁を切りました。」
「そうか・・歳三、母さんはお前が家から出て行ってから、少し体調を崩してしまったんだ?」
「仮病でしょう?」
「いや、母さんを病院に連れて行ったら、胸を患っていた。」
「そうですか・・」
「歳三、お前にこんな事を言うのはどうかと思うが・・母さんに会ってくれないか?」
「わかりました。」
「今日はもう遅いから、明日母さんをお前が泊まっているホテルに連れて来る。」
「送って下さって、ありがとうございました、義父さん。」
「おやすみ、歳三。良い夢を。」
ホテルの前で車を降り、篤俊と別れた歳三はホテルの中に入った。
「土方様、ロビーでお客様がお待ちです。」
「客?」
「ええ。男性のお客様です。」
歳三がロビーのソファを見ると、そこには学生服姿の青年が座っていた。
「君、わたしに何か用か?」
歳三がその青年に声を掛けると、彼はまるでソファから弾かれたように勢いよく立ちあがった。
「土方さん、お願いがあります!」
「おいおい、まずはてめぇの名前から名乗りやがれ。それに、こんな静かな場所で大声出すんじゃねぇ。」
「すいません・・」
「詳しい話は部屋で話そうか。」
周囲の客達の視線が自分達に集まっている事に気づいた歳三は、そう言うと青年とともに昇降機に乗り込んだ。
「先程は、ご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありませんでした。」
昇降機の中で、青年はそう言って歳三に向かって頭を下げた。
「いや、いいってことよ。」
「自己紹介が遅れました。わたくし、遠山尊と申します。」
「国は?」
「鹿児島です。」
「へぇ・・訛りがない標準語を話すな?」
「上京する際、寮の先輩達から方言を直されましたから・・」
そう言った遠山尊青年は、俯いた。
「俺に頼みたい事って何だ?」
「わたしを・・土方さんの会社で雇って貰えないでしょうか?」
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