イラスト素材提供:十五夜様
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歳三と鈴田が自転車で落盤事故があった炭鉱に向かうと、事務所の前には、負傷者が担架に寝かせられていた。
「一体何が起きたんですか!?」
「突然坑道が崩れて・・中にまだ人が居るんです!」
事務所の前に寝かせられている負傷者を診察していた歳三は、事務所に黒塗りの車が入ってきたのを見た。
「社長!」
「おい、一体何があった?」
「落盤事故が発生しました。負傷者の数はまだ正確に把握できておりません。」
「落盤事故だと!?」
車から降りて来た樽崎興産社長・雄一郎は、そう言うと秘書を睨んだ。
「ソ連の会社との取引を控えているというのに、よくも落盤事故を起こしてくれたな!この事故の所為で我が社の信用が落ちたらどうする!?」
「申し訳ありません、社長・・」
「事故の事は、まだ誰にも嗅ぎつけられていないだろうな?」
「ええ。」
「この事は誰にも口外するな、わかったな?」
「わかりました・・」
「樽崎社長、それは一体どういう意味ですか?」
「何だ、貴様?」
「わたしは土方歳三といいます。」
「土方・・貴様が、あの土方の義理の倅か。診療所に新しい医者が赴任してきたという話を聞いたが・・まさか、土方の倅だったとは。」
雄一郎はそう言うと、歳三を睨んだ。
「あなたのお嬢さんが、先程診療所にいらしてわたしにサンドイッチを差し入れてくださいました。お嬢さんに、わたしの方から宜しくと伝えておいてください。」
「わかった、伝えておこう。土方君、まさかうちの娘を嫁に貰おうなどということは考えていないだろうね?」
「いいえ。わたしには日本に残してきた妻子がおりますので、そのような事は考えておりません、ご安心ください。」
「そうか・・」
「土方先生、来て下さい!」
「では仕事に戻りますので、失礼致します。」
歳三はそう言って樽崎に頭を下げ、彼に背を向けて患者の元へと戻った。
「中には何人くらいの方が残っているのですか?」
「そうですね・・まだ百人ほど中に取り残されています。俺は入口の近くに居て助かったんですが、他の皆は奥の方に居て・・」
「これから、負傷者が増えそうですね。土方先生、一旦診療所に戻って、薬や包帯を補充しておきます。」
「鈴田さん、宜しくお願いします。」
炭鉱を出た鈴田の背中を見送った後、歳三は再び負傷者の治療にあたった。
「何処か痛いところはありませんか?」
『足が、足が痛い・・』
朝鮮人の坑夫は、そう言うと左足に走る激痛で顔を顰めた。
『もうすぐ消毒しますので、我慢してくださいね。』
『中に居る人達は、無事なのか?』
『それはまだわかりませんが、皆さんが無事であるよう祈っています。』
歳三が坑夫と炭鉱の中に取り残された生存者の事を話していると、坑夫達の家族が事務所に押しかけてきた。
「一体どうなっているんですか!」
「二ヶ月前も事故を起こしたばかりじゃないですか!それなのに、また事故が起こるなんて・・この会社は、一体どういう管理をしているんですか!?」
「皆さん、落ち着いて下さい!炭鉱の中に取り残されている皆さんのご家族は、必ず救出いたしますから・・」
落盤事故から数日後、歳三は炭鉱の中に取り残された百人余りの坑夫達が全員死亡したという報せを樽崎の秘書・新山から聞いて絶句した。
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