「なんですって、王妃様が殺された!?」
「ええ。昨夜、賊が王妃様の寝室に押し入り、騒いだ王妃様を殺害したと・・」
「なんてこと・・」
セレステが何者かに殺害された事を知り、クリスティーネは彼女を殺害した犯人がアンジェリーナではないのかと思い始めていた。
「どうなさったのですか、お嬢様?」
「今回の事件に、アンジェリーナ様が絡んでいるんじゃないの?」
「それはわかりません。お嬢様、そろそろ王妃様の葬儀が始まります。」
「わかったわ。」
セレステの死を弔う鐘の音が国中に鳴り響き、国民達は慈愛に満ちた王妃の死を悼んだ。
「余には死に神が憑いておるのか・・はじめはアレハンドロ、次に母上、そしてセレステ・・余が愛した者は皆、黄泉の国へと旅立ってしまう・・」
「陛下、そのようなことをおっしゃってはなりません。陛下は決して、死に神ではありません。」
セレステの棺に取り縋り、そう呟いたフェリペを、クリスティーネはそう言って慰めた。
「クリスティーネよ、そなたが居てくれて助かった。」
「いいえ・・わたくしに出来る事など何もありません。」
「余は暫く部屋で休む。」
フェリペはそう言うとセレステの棺から離れ、覚束ない足取りで礼拝堂から出て行った。
「アンジェリーナの姿は見当たりませんね。」
「ええ・・ねぇアウグスト、あなたに話したい事があるの。」
「わたくしに、ですか?」
「何処か人目のつかない所に移動しない?」
「わかりました。」
アウグストはクリスティーネとともに礼拝堂を出て、中庭へと移動した。
「お嬢様、お話とはなんですか?」
「わたしね、王太后様を殺したのは、アンジェリーナ様だと思っているのよ。」
「それは確かなのですか、お嬢様?」
「まだ確証はないけれど・・これからステファノ様にお会いしようかと思っているのよ。彼なら、何かを知っているようだし・・」
「行きましょう。」
クリスティーネはアウグストとともにステファノの自宅へと向かったが、彼は留守だった。
「旦那様なら、今旅行に出かけております。」
「いつお戻りになられますか?」
「さぁ・・長くて2年、短くて半年位は戻らないとおっしゃっておりました。」
「ありがとうございました、それではこれで失礼致します。」
クリスティーネはそう言ってステファノが雇っているメイドに頭を下げ、アウグストとともに彼の自宅を後にした。
「収穫はなしでしたね、お嬢様。」
「ええ。でもおかしいとは思わない?王太后様の治療にあたっていたステファノ様が、王太后様の死後にすぐ姿をくらましたなんて・・」
「ステファノ様がもし、アンジェリーナと深い繋がりがあるというのなら・・彼は既にこの世の者ではないのかもしれませんね。」
「そうね・・」
アウグストとともにクリスティーネが川辺を歩いていると、突風が二人を襲った。
冷たい木枯しが頬を打ちつけるかのように吹いて来て、クリスティーネは思わず目を閉じた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ええ。帰りましょう、今夜は冷えそうだわ。」
数日後、ステファノの遺体が南西部の街・ラトスの山中で発見された。
「やはり、今回の件は、アンジェリーナが絡んでいますね。」
「アンジェリーナ様は、きっとわたし達のことも狙っている筈よ。慎重に動かないとね。」
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