千尋が歳三とともに大部屋に戻ると、相沢と彼の仲間である三人の隊士達は布団の上で正座して俯いていた。
「荻野から話は聞いた。お前ら、こいつの寝込みを襲おうとしていたそうだな?」
「はい・・申し訳ありません。」
「謝るくらいで済むんなら、罰なんざ要らねぇんだよ。」
歳三はそう言うと、相沢達を睨んだ。
「お前らの処分は後で言い渡す。それまで、大人しくしておくんだな。」
歳三はそう言って相沢達を睨むと、大部屋から出て行った。
「相沢、だから止そうと言っただろう?」
「そうだよ、いくら荻野が気に入らないからってあいつの寝込みを襲うなんて、まともじゃないぜ?」
相沢の仲間達はそう言って相沢を責めると、彼は憤然とした表情を浮かべながら彼らを睨みつけた。
「お前らとはもうこれきりだ。」
相沢は、仲間に背を向けると布団に包まって寝た。
今回の事件で、相沢達に除籍処分が下った。
「トシ、あいつらに除籍処分なんて、厳し過ぎないか?」
「甘ぇよ、近藤さん。今回のような事がまた起こったら、こっちの監督責任を問われるんだぜ?会津藩に伝わらなかっただけでも良かったじゃねぇか!」
「う~ん、そうだなぁ・・」
近藤はそう言って唸ると、両腕を組んだ
「まぁ、男ばかりの集まりで荻野君みたいな可愛い子が居たら、つい手を出したくなっちゃいますよねぇ。」
「おい総司、何寝ぼけたことを言っていやがる。そんな暇があったら、新入りの隊士に稽古でもつけろ!」
「わかりました。」
総司は近藤と歳三に頭を下げ、副長室から出て道場へと向かった。
「総司、遅かったな。また土方さんに呼ばれていたのか?」
「ええ。原田さん、稽古はどうです?」
「まぁまぁだな。お前が目を掛けている荻野ってやつ、可愛い顔をして結構強いぞ。」
「そうですか。」
「あと、魚屋の倅も江戸で道場通いをしているからか、腕が立つ。あの二人は将来が楽しみだな。」
「そうですね。」
総司はそんな事を原田左之助と話しながら、新入隊士達が稽古に励む様子を眺めていた。
「沖田先生、わたくしに稽古をつけてくださいませ。」
「わかった。手加減はしないから、そのつもりでいてね。」
「はい、宜しくお願いいたします。」
千尋は竹刀を構え、総司に向かって突進した。
総司は千尋の攻撃をかわし、間髪入れずに竹刀を千尋の胴に叩き込んだ。
「稽古をつけていただき、有難うございました。」
「荻野君、これからも精進してね。」
「はい。」
稽古が終わり、千尋が井戸で顔を洗っていると、そこへ佐助がやって来た。
「昨夜は災難だったな?」
「ええ。相沢さん達は今どちらに?」
「あいつらなら、俺達が起きる前に江戸に帰っちまった。まぁ、あんな騒ぎを起こしておいて、俺達と合わす顔なんざねぇんだろうさ。」
「そうですか・・何だか、相沢さん達に悪いことをしてしまいましたね。」
「そんなに自分を責めることはねぇよ。悪いのはあいつらなんだから。」
「そうですね・・」
千尋が佐助とともに朝餉を食べていると、総司が千尋に一通の文を渡した。
「あなたに、江戸のお兄様からお手紙が届いていますよ。」
「有難うございます。」
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