「如月先生、お話って何ですか?」
「あなた、まだ土方先生とはお付き合いしているの?」
如月は家庭科室に入るなり、そう言うと千尋を見た。
「いいえ。」
「じゃぁどうして、いつも数学準備室に居るのかしら?あなた、まだ土方先生に未練があるの?」
「どうして僕にそんなことを聞くんですか?」
「どうしてって、あなたはわたしの最大の恋敵だからに決まっているじゃないの。」
如月は大袈裟な溜息を吐きながら、椅子の上に腰を下ろすと、髪先を指で弄んだ。
「如月先生は、土方先生の事を狙っているんですか?」
「ええ、そうよ。彼ほど素敵な男は、何処を探したって居ないわ。たとえ彼が既婚者でも、わたしは彼の奥さんから土方先生を奪える自信はあるわ。」
「そうですか・・」
「土方先生の奥さんのことはともかく・・あなたが土方先生の事を諦めてくれればいいの。これ以上彼につきまとわないと、この場で約束なさい。」
「それは出来ません。」
千尋がそう言って如月を見ると、彼女は般若のような顔をして自分を睨んでいた。
「そう・・あなたがそんな態度をわたしに取るのだったら、わたしにも考えがあるわ。」
「では、僕はこれで失礼いたします。」
千尋はそう言って如月に頭を下げると、家庭科室から出て行った。
「千尋、今日から部活休むって聞いたけど・・」
「うん、ちょっとね。じゃぁね、平助。」
「またな、千尋!」
放課後、千尋は教室を出ると、歳三が待っている数学準備室へと向かった。
「土方先生、失礼いたします。」
「時間通りだな。それじゃぁ千尋、家まで送っていってやるよ。」
「はい。」
歳三と千尋が校舎から出て、駐車場へと向かっていると、校門の近くで一人の男が自分達を睨んでいることに千尋は気づいた。
「どうした?」
「校門の近くに、男の人が・・」
千尋がそう言って男が立っている場所を指すと、そこにもう男は居なかった。
「嫌がらせをされていることを、警察には言ったのか?」
「ええ。担当の刑事さんは、力になってくれると言ってくれましたが・・こういった嫌がらせとかストーカー被害って、警察はなかなか調べてくれないんですよね。」
「ああ。警察は事件が起きねぇと動かねぇもんだ。」
歳三がそう言いながら車を発進させて職員専用口から出ようとしたとき、車の前に一人の男が立ちはだかった。
「危ねぇだろう、気をつけろ!」
咄嗟にブレーキを踏み、車を急停止させた歳三はそう言いながら突然車の前に飛び出してきた男に向かって怒鳴ったが、男は無言で歳三を睨みつけた。
「おい、俺達に何か用か?」
「・・別に。」
男は助手席に座る千尋の方を見ると、そのまま歳三に背を向けて校舎から外へと出て行った。
「何だ、あいつ・・君が悪いやつだな。」
「あの人、この前プールで僕に話しかけてきました。」
「そいつに何かされなかったか?」
「ええ。」
「千尋、これからは一人きりになるんじゃねぇぞ、わかったな?」
「わかりました。」
千尋が帰宅してリビングに入ると、育子が溜息を吐きながらキッチンで夕食を作っていた。
「ただいま。母さん、何かあったの?」
「ええ・・後で、話すわね。」
「わかった・・」
にほんブログ村