「ねぇ、何かあったの?」
「実はね、あなたに変な荷物を送りつけてきた人がわかったのよ。」
「え、それは本当なの?」
夕食の後、千尋は育子から自分に汚物を送り付けてきた犯人が警察に自首してきたことを知った。
犯人は、荻野家の近所に住む主婦だった。
犯行の動機について、犯人は自分が苦しい生活をしているのに幸せそうな荻野家が妬ましくてついやってしまったということだった。
「そう。ねえ母さん、僕に変な荷物を送りつけてきた人は、あの人じゃないかって思っていたんだけれど・・」
「それはないわよ。あの人は今、精神病院に居るんでしょう?」
「そうだけど・・土方先生は、あの人から汚物を送り付けられているんだよ。」
「それ、本当なの?」
「うん。この前、土方先生とファミレスで夕食をしていた時、先生が話してくれたんだ。それにね、今日土方先生に家まで送って貰ったとき、変な男が僕の事を見ていたんだ。」
「その人、どんな顔をしていたの?」
「余りよく憶えていないけど、右の頬に傷があったな。母さん、その人を知っているの?」
「ええ、ちょっとね・・」
育子はそう言って千尋を見たが、彼女は男について何かを知っているようだった。
「明日、近藤先生の家でバーベキューパーティーがあるんだ。」
「そう、わかったわ。おやすみなさい。」
「お休み。」
部屋に戻った千尋は、ベッドに寝転がると目を閉じ、そのまま眠った。
「近藤先生、おはようございます。」
日曜日、千尋は歳三とともに近藤宅を訪れると、近藤達は既にバーベキューの準備を中庭で始めていた。
「荻野君、よく来たな。」
「何か僕に手伝う事はありますか?」
「済まないが、台所で食材の下ごしらえをしてきてくれないか?」
「はい、わかりました。」
千尋が近藤家の台所に入ると、そこでは女性陣が食材の下ごしらえをしていた。
「あの、近藤先生に言われて来たのですけれど・・」
「荻野君だっけ?あんたは海老の背ワタを取っておくれ。」
「わかりました。」
近藤の養母からそう言われた千尋が海老の背ワタを取っていると、台所に近藤の妻・つねが入ってきた。
「お義母さん、遅れてしまって申し訳ありません。」
「つねさん、あんたは野菜を切っておくれ。」
「はい。あなたが、荻野君ね?」
「はい。初めまして、奥様。」
「奥様なんて呼ばなくてもいいわ。荻野君、忙しいのに来てくれて有難う。」
「いいえ、こちらこそ。わざわざ招待してくださって有難うございます。あの、これ母が作ったパウンドケーキです。」
「まぁ、有難う。後でいただくわね。」
つねは千尋からパウンドケーキを受け取ると、それを冷蔵庫の中に入れた。
「何だかこういった賑やかなことをするのは、久しぶりだねぇ。」
「そうですね、お義母様。」
「まだ勇とトシが学生だった頃、二人はよくつるんではあたしが二人の飯の世話をしたもんさ。」
「近藤先生と土方先生は、昔から仲が良かったんですか?」
「二人は同じ学校に通っていたからね。家も近かったから、自然と仲良くなってつるむようになったのさ。」
「そうなんですか・・」
「人と仲良くするのに、理由なんて要らないのさ。」
「そうですね。」
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