「それにしても、こんなクソ寒い中でバーベキューをするなんざ、近藤さんは変わっているな。」
「バーベキューは夏だけのものじゃないぞ、トシ。」
バーベキューコンロで肉を焼きながら、勇はそう言うと笑った。
「まぁ、そうだな。」
ダウンジャケットを着こんだ歳三は、そう言うとコンロの近くに置いてある座椅子の上に腰を下ろした。
「トシ、そんなところに居たら火傷するぞ。」
「大丈夫だよ。」
「寒がりな所は相変わらず変わっていないな、トシ。」
「皆さん、料理の下ごしらえが出来ましたよ!」
下ごしらえを終えた女性陣と千尋が野菜と魚介類を持って中庭に出ると、そこから食欲をそそる肉の匂いがした。
「美味しそうな匂いだねぇ。」
「ええ。つね達も、遠慮せずに食べろ!」
「あなたがそうおっしゃるのなら、有難くいただきます。」
「勇、あんたはいつもつねさんに甘いんだから。あたしの嫁時代には、そんなことはなかったよ。」
「今と昔とは時代が違うんだよ、義母さん。」
「つねさんは良い時代に勇の女房になったもんだね、羨ましいったらありゃしない。」
近藤の養母はそう言うと、母屋の中へと戻っていった。
「お義母様、一体どうなさったのかしら?」
「いつものことだから、気にするな。」
勇はつねを励ますかのように彼女の肩を叩くと、缶ビールを彼女に手渡した。
「土方先生、ちょっと今宜しいですか?」
「ああ。」
千尋と歳三は、人気のないところへ移動した。
「話って何だ?」
「昨夜、母から僕につきまとっている男の事を話したんです。そしたら、母はその男の事を知っていると言いました。」
「それで、お袋さんは何だって?」
「その男は、もしかすると自分が別れた夫かもしれないと・・」
「お前のお袋さんは、離婚歴があるのか?」
「ええ。前の旦那さんと別れた理由は、子供が出来なかったからだって・・詳しくは、話してくれませんでした。」
「そのこと、荻野の親父さんは知っているのか?」
「ええ。土方先生、このことは誰にも・・」
「わかった。」
歳三と千尋が中庭に戻ると、そこにはダウンジャケットとジーンズ姿の女性が立っていた。
「トシ兄、久しぶり!」
「誰かと思ったら、希(のぞみ)じゃねぇか!」
女性は歳三の姿を見るなりそう叫ぶと、彼を抱き締めた。
「土方先生、この方は?」
「ああ、お前が会うのは初めてだったな。こいつは近藤希、勇さんの義理の妹だ。」
「初めまして、希です。あなたが、トシ兄さんの生徒さん?」
「はい。荻野千尋と申します。」
「千尋ちゃんっていうのね、宜しくね。」
女性―希はそう言って千尋に笑顔を浮かべると、右手を差し出した。
「こちらこそ、宜しくお願いします。あの、希さんお仕事は何をされていらっしゃるのですか?」
「記者よ。世界中を回っているの。日本に帰国するのは久しぶりだわ。」
「希、久しぶりだな!」
「勇兄、久しぶりね!義姉さんも元気そうで何よりだわ。」
「希さん、1年ぶりね。ゆっくりしていってね。」
「ええ。」
千尋が希たちと談笑していると、彼は門の外から自分の事を見つめている男の姿に気付いた。
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