環達を乗せた汽車は、ウィーン西駅に到着した。
『ルドルフ様、どうぞこちらへ。』
汽車から降りたルドルフを、駅で待機していた皇帝の侍従が出迎えた。
『ルドルフ様・・』
『タマキ、お前もわたしと同じ馬車に乗れ。』
『ルドルフ様、それは・・』
『構わないだろう、タマキはわたしの客人だ。』
『では、そちらの方もどうぞこちらへ。』
皇帝の侍従は、チラリと環を見ると、そのまま駅の出口へと向かっていった。
『出て来たぞ!』
『ルドルフ様だ!』
『じゃぁルドルフ様の隣に居るのが、例の舞姫か?』
ルドルフが環と共に駅から出ると、二人を待ち伏せていた記者達が一斉にカメラのフラッシュを焚(た)いた。
環は、人波に押され、ルドルフから離れそうになった。
『大丈夫か?』
『はい・・』
紋章つきの馬車にルドルフと環が乗り込むと、それは静かにウィーン西駅から出て行った。
窓から見えるウィーンの美しい街並みを、環は飽きることなく見ていた。
『ルドルフ様、あれは何ですか?』
『あれはシュテファン寺院だ。』
『綺麗な教会ですね。異国のものは凄いなぁ。』
環の嬉しそうな横顔が、一瞬ルドルフには天使に見えた。
どうされました?』
『いや、何でもない。』
馬車はシュテファン寺院を通過し、ホーフブルク宮へと向かって走った。
白亜の美しい宮殿を見た環は、その美しさに絶句した。
『ここが、あなたの住むお家なのですか?』
『ああ、そうだ。』
馬車は美しい彫刻が施されたミヒャエル門を抜け、ホーフブルク宮の中庭に停まった。
『ルドルフ様、お帰りなさいませ。皇帝陛下がお待ちです。』
『わかった。』
ルドルフはそう言うと、環の手を離し、馬車から降りた。
『ルドルフ様・・』
『心配するな、また会える。』
自分と離れる事に気づいた環が、何処か怯えたような目でルドルフを見つめた。
ルドルフは環に笑顔を浮かべながらそう言うと、彼に背を向けて皇帝の私室へと向かった。
『失礼いたします、父上。』
『入れ。』
『失礼いたします。』
ルドルフが皇帝の私室に入ると、部屋の主は、流浪の旅に出ている美しい妻の肖像画を見ていた。
『ルドルフ、あの少女の処遇についてだが・・』
『父上、タマキはわたしが責任を持って面倒を見ます。ですから・・』
『お前がそう言うのなら、あの者はお前に任せることにしよう。但し、間違いは犯すなよ。』
『はい。』
『今夜舞踏会が開かれる、必ず出席するように。』
皇帝はそう言うと、再び妻の肖像画へと視線を戻した。
同じ頃、環は優駿達と共にホーフブルク内にある部屋でルドルフが来るのを待っていた。
「環、ひとつ聞きたいことがある。」
「何でしょうか、師匠?」
「お前は、ルドルフ皇太子様とどのような関係なんだ?」
「それは・・」
「彼には、抱かれていないのだな?」
優駿の問いに、環は静かに頷いた。
「嫌な事を聞いてしまったな。」
優駿がそう言って環の頭を撫でると、ルドルフが部屋に入って来た。
『タマキ、迎えに来たぞ。』
「師匠、失礼いたします。」
環は優駿に頭を下げると、ソファから立ち上がってルドルフの元へと駆け寄った。
その姿を見た優駿は、環が自分の元から遠く離れてゆくような気がした。
『タマキ、少し目を閉じていろ。』
『はい・・』
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