王宮庭園でのピクニックから数日後、環はルドルフと共にバイエルンへと向かった。
『今までルドルフ様とプラハやブタペストには行きましたが、バイエルンに行くのは初めてです。』
『緑豊かで、良い所だ。きっとお前も気に入ることだろう。』
ルドルフはそう言うと、馬車の窓の外に広がる緑豊かな森を眺めた。
『ルドルフ、お久しぶりね。』
『お久しぶりね、姉上。息災で何よりです。』
王宮前に停まった馬車からルドルフと環が降りると、二人をルドルフの姉・ジゼルが出迎えた。
『この人が、貴方の恋人なのね、ルドルフ?』
『タマキと申します、ジゼル様。どうぞお見知りおきを。』
『まぁ、綺麗な方ねぇ!貴方の事はバイエルンでも噂になっているわよ!』
ジゼルはそう言って環の肩を叩くと、彼に好奇の視線を向けた。
『ねぇ、貴方ルドルフとは何回しているの?』
『え・・』
『あらぁ、隠さなくてもいいじゃない。貴方達の関係なんて、わたしにはお見通しよ。ルドルフから昨日手紙が届いた時、そうじゃないかと思ったのよぉ。』
ジゼルは嬉しそうにそう言って笑うと、環の耳元でこう囁いた。
『ルドルフは上なの、それとも下?』
『姉上、タマキに一体何を聞いているのですか?』
二人の様子がおかしいことに気づいたルドルフがそう言って姉に詰め寄ると、彼女はクスクスと笑いながら彼を見た。
『わたしは何もしていないわよ。さてと、立ち話もなんだから、中でゆっくりと話をしましょう?』
ジゼルの案内で王宮内へと入ったルドルフと環が廊下を歩いていると、環は擦れ違う女官達がチラチラと自分達の方を見ていることに気づいた。
『ルドルフ様、あの・・』
『気にするな。』
女官達の視線に気づき、不安がる環の手を、ルドルフはそっと握った。
『レオポルト、ルドルフが来てくれたわよ。』
『久しいですね、ルドルフ様。』
ジゼルの夫・レオポルトはそう言うと、ルドルフに微笑んだ。
『こちらの方は?』
『この人はタマキさんといって、ルドルフの恋人よ。』
『姉上!』
『いいじゃないの、別に隠すことでもないでしょう?』
ジゼルは弟の赤くなった顔を見ながら、そう言ってクスクスと笑った。
『タマキさんは、日本からいらしたのですよね?』
『ええ。』
『日本は、わたしが一度行ってみたいと思っている所です。詳しくお話を聞かせて頂けませんか?』
『はい、喜んで。』
環がレオポルトと共にソファへと座るのを見たルドルフは、少し寂しそうな顔をした。
『ルドルフ、そんな顔をしては駄目よ。』
『姉上・・』
『大丈夫よ、レオポルトはわたし以外の女には眼中がないから。まぁ、浮気したら殺すとわたしが脅したんだけどね。』
『姉上なら、やりそうですね。』
『あら、何か言った?』
『いいえ、何でもありません。』
『そうだ、今夜の舞踏会には必ず出席してね。わたしの顔を立てると思って。』
『はい、わかりました。』
いつも冷静沈着で、ウィーン宮廷では権謀術数に長けるルドルフだったが、完全無的な姉・ジゼルの前では彼女の言いなりになるしかないのであった。
『姉上、先ほどタマキに何を尋ねていらしたのですか?』
『ふふ、それは秘密よ。』
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