素材は
NEO HIMEISM 様からお借りしております。
「スヨン、スンヒならすぐに見つかる、心配するな。」
真羅国大使チェ=ボクナムはそう言うと、少女はコーヒーカップを乱暴にソーサーの上に置いた。
「お父様、わたくし本国には戻りたくないわ。」
「何を言う、本国へ戻る事はもう決まった事だ。そろそろお前も嫁に行く年頃だし・・」
「わたくしは結婚なんてしたくありません。大学へ行って、世の中の事をもっと知りたいの。」
「女は大学へなぞ行かんでいい。」
「兄様達は大学へ行って留学したのに、不公平だわ!」
スヨンはそう言うと、ホテルの部屋から出て行った。
いつも父は、兄二人に対しては優しかったが、自分にだけは冷たかった。
自分が女だから父に冷たくされている事はわかっていた。
渡欧してから、スヨンは母国の女性達のように家に縛られる事なく、自由に生きている女性達の姿を見て驚いた。
自分も彼女達と同じように広い世界を見てみたいだけなのに、何故父は分かろうとしてくれないのか。
「お嬢様、お風邪を召される前に戻りましょう。」
「わたしの事は放っておいて。」
「ですが・・」
「少し頭を冷やしたいの。」
スヨンの言葉を聞いた彼女の秘書・スンドクは、スヨンに傘を渡すと、ホテルへと戻った。
土砂降りの雨の中、スヨンが人気のない道を歩いていると、突然彼女の前に二人組の男が現れた。
『姉ちゃん、一緒にお茶でも飲まない?』
『やめて、離して頂戴!』
『いいじゃないか。』
男達から逃れようと、スヨンは必死に傘を振り回した。
その拍子に、スヨンの傘が男の目に入ってしまった。
『何しやがる、このアマ!』
男に顔を殴られ、スヨンは悲鳴を上げた。
『行こうぜ。』
『あぁ。』
男達は地面に倒れているスヨンに向かって唾を吐くと、その場から去っていった。
どれ程路上に蹲(うずくま)っていたのだろうか、スヨンが男から殴られた顔を押さえながら泣いていると、誰かが自分の上に傘をさしてくれた。
「大丈夫?」
「あなた・・」
「こんな所に居たら風邪をひくわ、わたくしの所へいらっしゃい。」
スヨンは、女の手を取って、彼女の自宅へと向かった。
「あなたは誰なの?」
「スヨン様、わたくしならあなたの望みを叶えてさしあげるわ。」
「何故、わたしの名前を知っているの?」
「あなたは何も聞かず、わたくしの言う通りにすればいいのよ。」
女はそう言うと、スヨンの顔を―彼女の少し青みかがった緑色の瞳を見た。
「あなた、不思議な色の瞳をしているわね。」
「母が異国人なの。何故そんな事を聞くの?」
「興味があるのよ。」
女の態度にスヨンは少し不安になったが、彼女が作った食事を食べて安心したら、いつの間にか眠ってしまった。
妙な音がしてスヨンがベッドから起き上がろうとした時、女が自分の上に馬乗りになっていた。
「暴れないで、一瞬で終わらせてあげるわ。」
女はそう言って笑うと、スヨンの鼻と口を、薬品を染み込ませたハンカチを押し当てた。
スヨンは自分の目に向かって迫って来る注射針を、黙って見る事しか出来なかった。
やがて、彼女の意識は闇に包まれた。
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