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コチラからお借りいたしました。
「薔薇王の葬列」二次創作小説です。
作者様・出版者様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「あら、帰って来たのね。」
「母上・・」
ヨーク公と共に実家の母屋の中に入ると、そこには珍しく笑みを浮かべた母・セシリーの姿があった。
「バッキンガム様からの文が届いたわよ。」
「はい・・」
バッキンガムの文には、“あなたが恋しくて堪らない”という旨の和歌が書かれてあった。
「帝の乳兄弟でいらっしゃるバッキンガム様に見初められるなんて、あなたは何て幸運なのかしら。」
「母上、わたしは・・」
「リチャード、局へ行きなさい。」
「わかりました。」
リチャードはヨーク公に向かって頭を下げると、自分の局へと向かった。
そこは、幼い頃から過ごしていた時の部屋と、変わらない場所だった。
唯一つ、式神が居る事だけを除いては。
――姫様、お帰りなさい。
「ただいま。」
白い毛を揺らしながらリチャードの元へやって来たのは、バッキンガムの魔手から助けてくれたあの狼だった。
彼女は、森の中で怪我をした時にリチャードに保護されたのだった。
――何か、あったのですか?
「あぁ。」
考えなければならない事が山程あるが、とにかくリチャードは休みたかった。
「少し休むから、誰か来たら教えてくれ。」
――はい。
御帳台の中に入ったリチャードは、夢も見ずに眠った。
「あなた、リチャードさんに縁談が来たというのは本当なの?」
「あぁ。しかもその相手は、帝の乳兄弟だそうだ。」
「まぁ、それはめでたい事。お義母様も、さぞやお喜びの事でしょう。」
「そうだが・・それよりもエリザベス、弘徽殿の方はどうなっている?」
帝が病に臥せってしまい、帝不在の朝議に出席する為参内したエドワードは、昨夜事件が起きた弘徽殿へと向かった。
「皆、動揺しておりますわ。ですが、女御様は冷静に対応されておりますわ。」
「そうか。」
「それよりもあなた、アンソニー達の事を早く主上に話して下さいな。」
「あぁ、わかったよ。」
エリザベスの弟と兄達は、粗暴な性格でこれまで色々と厄介事を起こしていた。
夜中に公卿の屋敷を襲ったりして、その悪名を都中に轟かせていた。
そんな者を宮中に上げる事など到底出来ないが、エリザベスは何としてでも自分の親族達を宮中へ上がらせようと躍起になっていた。
何故ならば、エリザベスの実家であるウッドウィル一族は下級貴族で、エリザベスがプランタジネット家に嫁いだ事によりその存在は宮中で良い意味でも悪い意味でも注目されていたが、それ以後は忘れられていった。
「どうか、お願いいたしますね。」
エリザベスはそう言った後、夫を微笑みながら見送った。
(バッキンガム公とは、わたくしの妹と結婚させたかったのに。)
エリザベスは針仕事をしながら、己の野望がひとつ潰えた事に歯噛みした。
下級貴族である父は、立身出世など望まぬ穏やかな性格であったが、その子供達はそうではなかった。
長女のエリザベスは野心家で、何としてでも帝の目に留まり、やがて国母となる――その野望を叶える為、彼女が目をつけたのはプランタジネット家の長男・エドワードだった。
エドワードは都一の色男で、かなりの女好きであるという噂を聞いたエリザベスは、早速彼と接近する事にした。
「お父様、わたくしをプランタジネット家のエドワード様と結婚させて下さいませ!」
「突然何を言うのだ。そのような事、出来る筈がなかろう!」
「ならば、わたくしこの場で自害致します!」
「はやまるな!」
「わたくし、エドワード様以外の殿方と結婚したくありません!」
こうして、エリザベスは半ば強引にエドワードの元へ嫁いだのだった。
この時代の結婚は、夫が妻の元へ通い、文を送り合うものであったが、エドワードは己の為に自害しようとしたエリザベスの事を大層気に入り、周囲の猛反対を押し切り彼女を正室に迎えた。
だが、エリザベスはそれで満足するような女ではなかった。
(わたくしはこの程度で満足するような女ではないわ・・もっと、もっと上を目指すの!)
エリザベスは、自分だけではなく己の一族を宮中で一目置かれる存在となる事――それが彼女の最終的な野望だった。
だから、エリザベスは自分の妹であるキャサリンを帝の乳兄弟であるバッキンガムの正室に迎えようとしたのだが、その矢先に彼と義妹・リチャードとの縁談話が来た。
(リチャード、いつもわたくしを見下したような目で見る・・絶対に、潰してやるわ!)
「お母様、どうなさったの、怖い顔をして?」
「いいえ、何でもないわ。」
「そう・・」
「ベス、あなたには良い殿方と素敵なご縁を結んであげますからね。」
「お母様、わたしは・・」
「ベス様、こんな所にいらしたのですか、リチャード様が探されていましたよ。」
「リチャード伯父様が!?」
そう言った娘の声が少し弾んでいる事に、エリザベスは気づいた。
リチャードを心底憎んでいる自分とは対照的に、娘はリチャードを慕っている。
母と娘で、同じ価値観を持てとは言わないが、エリザベスは何処か寂しい気がした。
「お母様、わたしはこれで。」
「ベス、待ちなさい!」
エリザベスは慌ててベスを追い掛けたが、彼女は既にリチャードの局へと向かった後だった。
(わたくしから全てを奪うつもりなのね、リチャード・・そうはさせないわ!)
エリザベスは、リチャードへの敵意を日に日に募らせていった。
「リチャード伯父様、お久しぶりです!」
「久しいな、ベス。」
宮中へ上がって以来、久方振りに姪と再会したリチャードは、懐紙に包んだ唐菓子を彼女に渡した。
「わぁ、ありがとう伯父様!」
「暫く会わない内に綺麗になったな。」
「まぁ、ありがとう・・」
彼女の母親であるエリザベスは嫌いだが、娘のベスとリチャードは気が合った。
「ねぇ伯父様、主上はどんな方なの?一度お会いしてみたいわ!」
「リチャード様、大変です!」
「どうした、ケイツビー。そんなに大声を出して?」
「先程、エドワード様の従者から文を受け取りましたが、主上が血を吐かれたそうです!」
「それは、本当なのか!?」
清涼殿の上空は、黒雲で覆われていた。
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