「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
土方さんが両性具有です、苦手な方はご注意ください。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「さっき、巫女姫に会いましたわ。」
「ほぉ、それで?」
「このわたくしを見てひれ伏す事もなく、わたくしを睨みつけて来ましたわ。」
皇太子・カディーは、そう言うと愛妾を見た。
「どんな女だった?」
「殿下、わたくしという女がありながら浮気なんて許しませんわ!」
「勘違いするな。俺は巫女姫がどんな女なのか知りたいだけだ。」
「何でも、神羅国の部族長の娘だそうですわ。この国へ来たのは、敵対する部族長の元へ娘を嫁がせる為ですって。でも、娘は盗賊に殺されたそうだと・・」
「ほぉ?」
「そのような事をわたくしに尋ねてどうなさるのです?」
「少し、考えている事がある・・」
「まぁ、それは何ですの?」
「秘密だ。」
カディーは、そう言うと柘榴の実を握り潰した。
「カラシャ様、どうかなさいましたか?」
「カラシャ様、あちらへ。」
アリーシャが去った後、カラシャは突然“気分が悪い”と言って自室へと戻っていった。
「一体どうしちまったんだ?」
「アリーシャ様は、カラシャ様を虐待していたのです!」
カラシャの乳母・クララは、そう言うと歳三にアリーシャの本性を話し出した。
「あの女は、キルシャ様のお気に入りだったカラシャ様に手出しが出来なかったから、今まで大人しくしていました。しかし、キルシャ様が軍務で忙しくなると、アリーシャ様と皇太子殿下は、事あるごとにサラ様を自分達が住まう離宮に呼び出し、無理難題を押し付けたのです。」
「嫌がらせを受けていたと言っていたが、どんな嫌がらせを?」
「わたくし達には、申し上げにくい事ばかりでしたわ。サラ様は、やがて心を病まれて・・」
「アリーシャ様は、サラ様の代わりに幼いカラシャ様を虐待するようになりました。言葉による暴力は、身体的暴力よりも残酷なものなのです。」
「じゃぁ、さっきあいつがあんなに怯えていたのは・・」
「母を死に追いやり、己の心を壊した相手を目の前にしたら、怯えるのは当然ですわ。」
「そうか。」
「巫女姫様、どうかカラシャ様を守ってやって下さいませ!」
翌朝、歳三はカディーの離宮に呼ばれた。
「お目にかかれて光栄です、皇太子殿下。」
「堅苦しい挨拶などはいい。実は数日後、弓術大会を開こうと思っているのだ。」
「弓術大会、ですか?」
「そうだ。そなたも出場するように。」
「かしこまりました。」
カディーの目が一瞬光ったのを、歳三は見逃さなかった。
「弓術大会、とは?」
「何でも皇太子様が発案されたそうで、俺にそれに出ろとさ。」
「罠かもしれぬな。」
「罠?」
「今、王宮は国王を失い、混乱している。あの者は、次の王は己だと誇示したいのだろうよ。」
「へぇ・・」
「まぁ、あの者には用心した方が良い。」
「わかった。」
「殿下、あの者はここへ来るまで騎馬部隊長の娘として育った者ですのよ。」
「勝負は、余の勝ちだ。」
「まぁ・・」
「アリーシャ、耳を貸せ。」
「殿下、それは良い考えですわね。」
弓術大会当日は、朝から晴れていた。
「見て、巫女姫様よ・・」
「素敵ね・・」
歳三が現れると、その場に居た者達は彼女の凛とした姿に思わず溜息を吐いた。
「キルシャ様もお美しいわ。」
「お二人が並ぶと、まるで一幅の絵画のようですわ。」
弓術大会は、カディーの領地である狩猟地で、より多くの獲物を獲った者が勝ち、というルールだった。
「巫女姫よ、気を抜くなよ。」
「あぁ。」
歳三はキルシャと共に、狩場へと向かった。
広大な森は、静寂に満ちていた。
(こんな所で、狩りが出来るのか?)
そう思いながら歳三が馬で狩場を駆けていると、何処からか一本の矢が飛んできて、木の幹に当たった。
(何だ?)
歳三が辺りを見渡すと、向こうの方に黒衣の男達の姿があった。
(こいつら、まさか・・)
歳三が身構えていると、男達の一人が、何処かに合図を送っていた。
その直後、数本の矢が歳三に向かって飛んで来た。
「殿下、巫女姫は森の中から逃げ回っていますわね。」
「そうだ。巫女姫はこの森から生きて出られない!」
カディーがそう叫んでワインを飲んでいると、彼の顔から数センチ近くに矢が天幕の柱にめり込んだ。
女官達は悲鳴を上げ、逃げ惑った。
「獲物ですわ、殿下。」
歳三はそう言うと、カディー達に“獲物”を差し出した。
それは、カディーが雇った男達の首だった。
「ひぃ~!」
「あの程度の者達で、このわたしを倒せるとでも?」
「や、やめろ!」
「今度は外しませんわ。」
歳三は恐怖に震えるカディーとアリーシャに背を向け、弓術大会の会場を後にした。
「あの者、只者ではないな。」
「ミダス様・・」
「神羅国の巫女姫は、弓一本だけで敵部隊を殲滅させたとか・・」
(あれが・・)
ミダスは、颯爽と馬に乗っている歳三の姿を望遠鏡で見た。
「見事だったぞ、巫女姫。」
「いつからあんたは、あいつらの企みに気づいた?」
「あの者が酒ばかり飲んでいる姿を見てピンと来た。妾の部下があの者の動きを探ってみたらクロだった。」
「そうか。」
「まぁ、そなたの反撃に遭ったのだから、そなたやカラシャには手を出さぬだろう。」
「カラシャと俺が、何か関係あるのか?」
「王宮では、そなたがカラシャの保護者代わりである事は皆知っておる。」
キルシャはそう言うと、歳三の手を握った。
「カラシャを守ってやってくれ。」
「わかった。」
弓術大会から数日後、キルシャが歳三の離宮にやって来た。
「どうした?」
「あの女・・アリーシャが、カラシャを寄越せと言って来た。」
「それは、一体どういう事だ?」
「カラシャを人質にして、そなたを従わせたいのだろう。」
「そんな事に俺が従うとでも思っているのか?」
「・・そなたなら、そう言うと思った。どうだ、あの女を少し痛い目に遭わせてやらないか?」
「あぁ。」
歳三はそう言うと、拳を鳴らした。
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