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テーマ:お勧めの本(7257)
カテゴリ:小説
以前、小説をタイトル買いするのが自分の中で流行った時に購入した一冊。これが意外に面白かった。主人公も時代も違う短編が5つ収められており、それらが巧妙に絡み合い、時空とパラレルワールドを越えつつ一点に収束していき、ストーリー冒頭に話が戻って全ての謎が解ける、という構成は実に見事。その中で唯一共通するのは千両箱とアロハシャツ・スキンヘッドの大男という存在。この要素を軸に、物語は全く違う姿を見せつつも少しずつ読者にヒントを与えていく。 スピード感のある文章と共に、現在進行形で文章を止めるのがこの作者の特徴。それによって、登場人物の悲壮感や諦観を表現し、さらには読者を舞台に引き込んでしまうという力をも付与される。例えば、『そして突然男も笑いはじめる。全身を揺すり涙を流しながら、甲高い声を張り上げて狂った家畜のようにいつまでも笑いつづける。』で章が終わったりする。これが映画なら、カメラが「男」からどんどん引いていく画面を想像するだろう。「イリヤの空、UFOの夏」で卓越した描写力を見せた秋山瑞人もそうだが、まるで本当に映像を見たかのような現実感を与えてくれる著者・田中哲弥は本当に凄い。 タイムパラドックス、時間旅行、という使い古されたネタを使っているにも関わらず、構成の上手さによって、全く新しいモノに昇華させている点も見逃せない。この辺は「タイム・リープ~あしたはきのう~」(著・高畑京一郎)を彷彿とさせた。この手のSF時間旅行ものが好きな人なら読んで損はないと思う。コメディ、時代劇、ラブコメ、ブラックユーモア、と種々雑多な短編が一つに収束していく様は、爽快感すら感じる隠れた名作。艦長セリオ、オススメの一冊です。 やみなべの陰謀 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.08.23 15:45:42
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