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2010.02.19
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『星空のメモリア』感想 第二十六回

“姫榊こさめ”編



……。

こさめが何に怯えて、何を焦っていたのか、今になって理解した。

それは具体的な死の恐怖だ。

こももが感じていた物と同質だが、もっと身近な死の感覚。

こさめはこんな凄まじい苦しみを隠して、いつもたおやかに笑っていたのか……あががががg

この娘には救われて欲しい。

心底そう思ったから、洋はさっさと行け。


※以下、ネタバレ注意







































前回のあらすじ。

こさめが焼き芋中にヤケドした。



【9月13日】

半日程度しか経っていないにも関わらず、こさめのヤケドは完治していた。

瞠目する洋。

「おかしい、変だって思いますか?」

「こんなわたしを……恐れますか?」

んなこたない。

「ケガが治ってよかった。それに勝るものはないだろ」

そう言う洋に、こさめは苦笑する。

「星天宮の先人たちは、鬼を討つために心の目を養ったそうです」

「夢幻に惑わされないよう、強い意志を持って相手に挑むんです」

言外に、自分も鬼と同種の存在だと言っている。

事ここに至って、洋はようやく、こさめの為に何が出来るか考え始めた…。




【9月14日】

明日は天クルでお月見の日。

洋はこさめをデートに誘う。

「えいっ」

「甘い」

チョップを防いだ。

よしいいぞ、ここは譲るな。

また資格云々言い出しそうなこさめの先手を取り、洋は、これは焼き芋のお礼だと言う。

「こさめさんは、焼き芋の分だけ、俺と恋する資格があるんだよ」

くさいセリフなのか間抜けなセリフなのかわからんが、とにかくいいぞう、その調子だ。

衣鈴の時のように、ガンガン押して行け。

「小河坂さん、女たらしですね」

「こさめさん限定でな」

「それでは、わたしたらしですね」

こうして二人は一日だけの恋人ごっこへ。

「一日限定でしたら、困ったことにはなりませんから……」

「小河坂さんの恋人になるのも、悪くないと思いますから」

エロゲ主人公お得意の一日デート詐欺だな。




ミルキーウェイに寄ると、明日歩だけでなく飛鳥もいた。

……飛鳥、なんか学校以外でお前見るの久し振りな気がするよ。

洋とこさめがデート中と聞き、明日歩は卒倒する。

「……おまえ驚きすぎだろ」

「驚かずにはいられない新事実だったんだよ~!」

事情を話すと、二人ともからかったりせずに納得してくれた。

でも、明日歩はきっと、心中穏やかじゃないだろうな。

「一日だけ、小河坂さんをお借りしますね」

「ううん、一日なんて言わないよ。こさめちゃんだったら、洋ちゃんとほんとの恋人になっても驚かないよ」

なにぃ……?

「さっき驚いてたじゃねえか」

「驚くかもしれないけど、納得できると思うんだ」

……そうか。

この時も、明日歩はきっと、見えないところで涙を流していたんだろうな。

「もう終わりにしよう」と……って、思いがけず切ない気分になっちまった。

 

ミルキーウェイを出ると、こさめはもう学校に戻ろうか、と洋をからかう。

「明日歩さんにしてやられた分、小河坂さんを困らせて発散です」

「Sだな」

「はい。ですから、わたしとつきあう方はMじゃないと務まりませんよ」

そうとも言えない、と言う洋。

「Sを屈服させるのが楽しいSなら務まりそうだ」

「小河坂さん、ケダモノですね」

いや、洋はヘタレSだよ。

そしてロリコンで野外好きの変態でもある。

腕を組んで街を歩く二人。

楽しそうだなぁ…。


夕方になり、二人は運河を眺めて足を休める。

こさめは、幽霊と人間の恋物語について語り出す。

その結末は、大抵の場合は悲恋だと。

悲恋を味わうくらいなら、ひっそりと消えることを望む幽霊もいるだろう。

「みんなの日常を壊さないよう……別れの際、大切な人の心に影を落とさないよう……」

「恋をしないよう、過ごすでしょうか」

そんな幽霊に、恋をする資格は無い、というこさめ。

名残惜しそうに洋の腕から離れ、家まで送ろうとする洋を拒絶し、一人で帰って行った。

……。 

 

夜、神社の境内、こさめは雪菜に呼び出される。

「この時間になると、さすがに冷えるな」

他愛ない世間話にも、こさめは悲しげに自嘲する。

「この身は寒さを感じずにすませられるのに……わたしの過去の経験が、錯覚を生んでしまいます」

こさめの身体が成長していくのも、こももの成長をトレースしているに過ぎないと言う。

こんな自分を送り還してくれ、と頼むこさめを、雪菜は友情の宣言を以って跳ね返す。

「キミが自分を想わず、他人ばかりを想った結果、私はキミに手出しができなくなった」

「キミが自分を想わないせいで、私が代わりにキミのことを想うようになってしまったんだ」

この辺りの流れはこももルートと同じ。

雪菜先輩、相変わらず格好良いです…。


【9月15日】

月見の日。

昼、手伝いを断られたのに神社で掃除してる洋。

そこに、巫女装束を着たこももが寄ってきた。

まだ落ち葉も少ないのに焼き芋なんかやってたのね、と言われる。

「こさめも張り切ってたんでしょうね」

「めずらしくはしゃいでたぞ。焼き芋、好きみたいで」

「嫌いな人なんていないでしょ」

いや居るだろ。

どんだけ焼き芋崇拝してんだ。

毎年、満月の時期、こさめは部屋に閉じ篭って出てこなくなるらしい。

今日も同じく、こももに何の相談もせず、部屋に篭ったままだ。

……恐らく、人に見られちゃまずい変調が表れてるんだろうな。


夜、綺麗な満月を背に、屋上に集まる天クルの面々。

但し、姫榊姉妹と雪菜、それとメアも居ない。

「望遠鏡も準備したし、それではこれより天クルの天体観測回を始めま~す!」

「……待ちなさい、一人忘れてるわよ」

ザ・もこもこ登場。

どういう風の吹き回しかと思ったら、洋に来いと言われたから来たそうだ……いや、本当か?

「望遠鏡で見る満月は、すっごくまぶしくてにぎやかだけど、クレーターとかは見え辛いんだ」

「欠けてる方が見えやすくて迫力があるんだよ。だから、月の観測って満月を避けるのが普通なの」

「じゃあなんでわざわざ満月を観測するのよ」

「それはね、満月だとその他の星も見え辛いからさ」

じゃあ天体観測する意味ないじゃん、と呆れるこもも。

…満月は満月で綺麗だからいいんだよ別に。

和気藹々とした月見になるが、こさめが気になる洋は、月見団子を手土産にさっさと早退。

「ばいばい、裏切り者」

「帰りの夜道には気をつけてください、裏切り者」

「よい週末を、裏切り者」

「うへへへぇぇ……裏切り者に乾杯ぃぃ……」

これは言われても仕方が無い。

 

一度家に帰った後、夜の神社にやって来た洋。

そこでこさめと出会う。

「小河坂さん……」

「なにか……ご用ですか……?」

「わたしを……誘いに来たんですか……?」

「お月見は……しないって言いましたのに……」

ちょ、何故半裸?

……。

「なん、だ……?」

「…………」

「これって……?」

最初は気づかなかったが。

こさめの肌、髪の輪郭を透過して、背後に輝く満月が見える。

こさめの身体が実体を失っている。

「満月の夜は……だから、嫌いだったのに……」

「小河坂さんのせいですよ……」

「小河坂さんが……期待を持たせるようなことをして……」

……。

「もしかしたらって思って、外に出たんです」

「ずっと……満月の下に立っていなかったから……」

「だから……その間に、わたしの身体……普通になってたらいいなって……」

「ほかのみんなといっしょだったらいいなって……」

……。

「そうすれば……堂々と、デートできるかもしれない……」

「恋……できるかもしれない……」

「小河坂さんを……好きになれるかもしれない……」

「資格を……持てるかもしれない……」

でも、叶わなかった。

こさめは笑っている。

落胆を隠さず、悲笑している。

……。

「わたしのこの身体は、夢幻なんです……」

「満月の夜には、それが現れてしまうんです……」

「突きつけられてしまうんです……」

……。

こんなにも儚い存在だったのか。

こさめは七年前から、月に一度は必ず、こんな恐怖に晒されていた。

自分が消えて無くなる恐怖に、ずっと苦しんでいたんだ。

「わかっていただけましたか……?」

「……ああ。わかったよ」

「でしたら……もう、帰っていただけますか……」

「神社の手伝いも……やめていただけますか……」

「わたしに……優しくしないでいただけますか……」

「わたしを……迷わせないでいただけますか……」

……。

「こんなわたしを見たら……人は普通でいられなくなる……」

「それは大切な日常が壊れてしまうということ……」

「だからわたしに、資格はない……」

「わたしには、恋をする資格がないんです……」

……。

いや、あるね。

洋。

洋、行け。

こさめは涙を流しているんだ。

こさめはこんなことを言いたくないんだ。

例え夢幻でも、そこにある。

今がそれを証明する時だろ、洋!!






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Last updated  2010.02.19 03:15:42
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