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トールも製作に関わったオラクルカードです♪

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2009年04月13日
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かけらの自分に意識を合わせると、後ろ手に柱か何かに縛られているところだった。

銀巫女がかすかに身動きすると、かけらを隠していたアスタロトは、驚いたように彼女を見た。

「これはこれは。……その手でくるとは思いませんでしたよ。
失敗すれば最悪の結果になるとわかっていて、よくもまあ」

整った顔立ちに、肩を越える漆黒の髪。秀麗な顔に猛禽のごとき笑いが浮かぶ。
周囲にいるおびただしい魔物たちが、鬱積した重い気配を放っていた。

ばらけてしまった銀巫女のかけらをデセルが必死に探してくれたが、大きなかけらが足らず、彼女はむこうでは目覚めることができない。
巧妙に隠されて取り返せないなら、かけらのほうに集めた残りをあわせるしかない……それが彼女のとった手段だった。

むろん、ここで失敗すれば、デセルの苦労は無駄になってしまう。
けれどもデセルやその本体の手を、これ以上煩わせるのは嫌だった。無茶を無茶としない彼らの姿勢は、ありがたくも胸が痛い。
動けるトールと今の本体のエネルギーをあわせて自己ヒーリングをしつつ、どうにか彼女はこの荒業をなしとげていた。

「気の強い女性は好きですよ。まして美しければ言うことはない」

アスタロトは腕を組み、指先で顎に触れながら、とっくりと女性を見つめた。乱れた銀髪が顔にかかり、エネルギーは弱っていても、なおすみれ色の瞳は強さを失っていない。

「いいですねえ。やはりあなたの魂は、極上の味がしそうだ。
どうやって泣かせようか、目移りしますよ」

「お褒めにあずかって恐縮ですわ。でもあいにく、痛めつけられる趣味はありませんの。
ここから放していただけません?」

アスタロトは笑った。

「それはできない相談です。あなたが我々の手に落ちるなど、めったにあることではありませんのでね」

銀巫女とて、本気で放してもらえると思っていたわけではない。だが今はあまりに衰弱していて、なんとか時を稼がねばならなかった。
それはまた、当然アスタロトも承知していると思われた。

「待っていれば彼が助けにきてくれたでしょうに。わざわざ危険をおかしてここへ来るとはねえ。
彼の苦労が水の泡ですよ」

「それで彼らにもっと無理をさせろというの? ごめんだわ。
彼らには彼らの人生がある。選択は自由であるべきよ」

じわじわと補充されてくるエネルギーを感じながら銀巫女は言った。
それに気づいたのか、アスタロトは彼女を締め上げる力を強くし、にやりと笑った。

「それでは直接交渉といきましょうか。
あなたの魂を食べてしまうのも非常に魅力的ですが、他に甘美な見世物があるなら、それも捨てがたいのですよ。
私は見世物が好きでしてね」

「素敵なご趣味ですこと」
冷たく銀巫女は言ったが、アスタロトは気にもとめない。

「私が見たいのは甘美なるドラマ。あなたが血の涙を流して苦しむさま。これほどそそられる見世物はありません。
どうです……あなたの持つ神の恩恵、その額の封印とひきかえに、ここから放してさしあげましょう」

美麗な悪魔はゆったりと手を広げた。
今生の本体がイメージワークをしていた際、虹色のしずくが額に入ってきたことがある。それが封印の寓意であったことを、銀巫女は知っていた。

「すべてを知って苦しむか、知らずに苦しむか。
元々、あなたの見通す目は簡単に封印できるようなものじゃない。それは神の恩恵があってこそ。
私はまた見たいのですよ、神殿崩壊のような壮大なドラマ、転生そのものに介入するようなゲームをね。あれは素晴らしかった」

「……」

銀巫女が答えようとしたとき、背の高い影が彼女の前に立ちはだかった。

「巫女姫様、彼と契約をしてはいけません!」

それはデセルだった。

「デセル! 来てはいけないと……」
「なんと麗しい、なんと身勝手な愛というもの。互いが相手の行動を台なしにするつもりらしい」

二人の声が重なり、アスタロトが大仰に拍手する。渇いた音が闇に響きわたった。

「デセル。おまえはとっくに私と繋がっている。偉そうなことを言う資格はないだろう」

うってかわって低められた悪魔の声に呼応するように、デセルの額に紋章が浮かび上がる。彼は手をあててそれを隠し、銀巫女から顔をそむけた。

「隠す必要はないのよ、デセル」

銀巫女は言った。デセルの出現で、予想より早く力が満ちてきている。もう少しだ。
いつでも自分を護ってくれる長身を見つめながら、彼女はゆっくりと唇を開いた。

「隠す必要はないのよ。それは強い薬草のしるしみたいなものだわ。
毒草と呼ばれることもあるけれど、それでなければ治らないものもあるのだから……
それがあなたの姿なら、誇っていいのよ。そうでしょう?」

銀巫女はにっこりとデセルに微笑みかけた。
ちょうど急速に時が満ち、華奢な身体を戒めていた縄がふわりと解けて落ちる。
アスタロトが舌打ちした。

彼女は自分の額に手をあてて虹色のしずくを取り出すと、それをデセルに渡した。

「封印のしずくよ。私はあなたの額の紋章なんて気にしないけれど、これを使えば望まない人格の変化は押さえられるでしょう。必要なら使ってちょうだい」

わずかに目を見開いたアスタロトに向き直り、彼女は微笑んだ。

「私にはもう必要ないものなの。
知った上でどんなに悩み苦しもうとも、それでも想うことも想われることも、すべてを経験するために三次元に降りたのだと、ちょうど本体が気づいたところだったのよ」

アスタロトは肩をすくめ、天を仰いで嘆息した。

「なんと……この取引は私の負けです。どんな罰則でも、好きにされればいい」

すると銀巫女は首をかしげ、彼に手を差し出した。

「巫女姫?」

虹のしずくを握りしめたデセルが問う。
その姿を見やって、彼女は視線を悪魔に戻した。
一緒においでなさいな、と微笑んで。

「はっ。何をばかな。あなたはご自分が何を言っているのか、わかっているのですか」

「もちろんよ、アスタロト。封印を手放したのを見たでしょう。
あなたが真実誰であるか……、それでなくても、あなたは彼らと繋がっている。それなら私にとっても仲間だわ」

「ばかなことを……
デセルの本体が私とかわした契約をわかっているのですか」

「知っているわ。
でも、どちらかを選んで泣くのはもう嫌なの。
私はどちらの手も離さない。
相手が離れたいと望むなら別だけれど」

銀の髪の巫女はきっぱりと言い、やや語調をゆるめた。

「もう、光も闇もないのよ。天使も悪魔も、元々同じ生まれじゃないの。
私の仕える主の二つ名を知っていて? そんな区別は表向きのものでしかないわ。
デセルは私を包んでくれる。
私もあなたを想っていてよ、アスタロト」

銀巫女はもう一度彼に手をさしだした。
アスタロトが躊躇しているのを見ると、彼女はついと身体を寄せ、その頬に唇をよせた。

「無理強いはしないわ。気が向いたらいつでも来てくれればいいもの。
……あなたに、あなたの神の御恵みがありますように」

振り返るとデセルが仏頂面になっていた。
彼女はくすりと笑い、白い手をのべて背伸びすると、ほんの一瞬唇を重ねた。

「助けてくれてありがとう、騎士さま」










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最終更新日  2009年04月13日 09時09分51秒
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