カテゴリ:民衆の歴史
ウィッテンベルクの鶯…
ブログ仲間の「おじゃる」さんが、「早春賦」を取り上げていました。私は知らなかったのですが、詞の中にある「谷の鶯」というのは、自分を鶯に例えている…という説もあると、紹介されていました。 そこで思い出したのが、昨年連載した「宗教改革」に関連して、ルターの支持グループの宣伝活動の中に、「ウィッテンベルクの鶯」という木版画入りの説話詩があることです。筆者はザックスと呼ばれる宗教改革期最大の詩人で、本業は靴屋の親方でした。彼は総計6,200篇に及ぶ作品を残しているのですが、この「ウィッテンベルクの鶯」は、彼の出世作となった作品です。 この版画は、この「ウィッテンベルクの鶯」という説話詩の表紙です。この詩の1部を引用します。 「目覚めよ、夜明けが近づいた。 緑の野辺に小鳥のさえずりが聞こえる 楽しく歌う鶯のさえずりが。 その鳴き声は山や谷を冴え渡る。 夜は西に沈みゆき 昼は東に昇り来る。 太陽の光がそこからのぞき 月の輝きを押しやり いまや月は色褪せ 翳となった。 それ以前には 月はそのきらめきによって 羊の群れの目をくらませ 羊らを牧人と牧草地から 顔をそむけさせていた。 羊の群れはどちらも見捨てて 月の輝きに導かれ 誤った道を荒野へと入り込み ライオンの声を聞いて 彼に従って行った。 ライオンは策略を用いて 羊らを遠く荒野の奥深く導いて行った。」… ここでの「太陽の光」とは、正しい福音の教え、即ちルターの教えを指し、「月の輝き」はカトリックの教えを指しています。「ライオン」はローマ教皇レオ10世であり。荒野はカトリック教会の制度を指しています。 詩はさらに続き、荒野に引きずりこまれた羊たちは、ライオンを助ける狼や蛇によって、食べられそうになるのですが、そうした時に鶯が夜明けを告げ、顔を出した太陽の光が、ライオンや狼そして彼らの見せかけだけの牧草地の真の姿を照らし出したのです。 怒ったライオンは、豚、山羊、カタツムリ、ロバといった動物を使って鶯を黙らせようとするのですが、無駄でした。鶯は益々声高に歌い続け、歯を剥き出して鶯に立ち向かった動物たちは、みな鶯に屈服する破目になるなるのです。こうして、誤った牧草地に連れ込まれた羊たちは、再び牧人の下に帰ることが出来たのです。 これが「ウィッテンベルクの鶯」という説話詩の第1部のストーリーです。このストーリーを上に掲げた木版画は見事にあらわしています。 中央に1本の大木があり、木に止まった鶯が太陽に向かって囀っています。左上には、燦々と太陽が輝いています。その下には明るい風景が広がり、丘の上には十字架を掲げた羊が立っています。右上には翳ってしまった月が、鶯に顔を背けるように描かれ、下には鬱蒼とした森があります。 森の上の2羽の雁と大木の下の動物たちが、鶯を鳴き辞めさせようとしています。大木の下では、ライオンが仲間達を叱咤激励していますが、それでも鶯のさえずりを止めることは出来ないのです。 そして、説話詩の第2部の冒頭で、この「ウィッテンベルクの鶯」こそ、マルティン・ルター博士であることが明かされるのです。 以上が「ウィッテンベルクの鶯」という説話詩と、この木版画の由来です。声を立てない鶯とは大分違うのですが、それは季節の違いということにしておきましょう。 おじゃるさんへのコメントに、石版画と書きましたが、木版画の誤りでした。ここでの訂正でご容赦下さい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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