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カテゴリ:やまももの創作短編
雅人くんが小学校低学年の頃に彼の母親が勤務先の学校から白い仔猫を紙箱に入れて持ち帰って来ました。校内に捨てられ、生徒たちがエサなどを与えて可愛いがっていたのですが、教頭先生が処理することになったと聞いた母親が可哀想に思って家で飼うことにしたのです。
この白い仔猫を雅人くんはシロと名付けて可愛いがり始めましたが、この仔猫の元気さ、特にジャンプする飛翔力には驚かさせられました。雅人くんが紐などを使ってじゃらして、その紐の先端を彼の頭上近くに引き揚げたとき、なんとこの仔猫はピヨーンとジャンプして紐の先っぽにツメをかけてから飛び降りました。 それからは照明器具のスイッチの紐を使ってのシロのジャンプの訓練を毎日行ない、その飛翔力はどんどん伸びていき、ついには仔猫の世界新記録を達成したとかしなかったとか、とにかくそのジャンプ力には驚かされました。 シロは成長するにしたがい庭で狩りをはじめました。トカゲやカエル、ヘビの死骸を咥えてもちかえったときには雅人くんはビックリしましたが、シロがスズメに脚を忍ばせて近寄り、ジャンプ一番襲いかかって捕獲する様子を目の前で見たときには感激を覚えました。 シロは一歳を過ぎると身体がでっぷりと太り始め、家の近所のボス的存在になったようで、道路の真ん中をのっしのっしと歩く姿を雅人くんは何度か目にしています。しかし、たけきものもついにはほろびぬ、と申します。いつしかシロの姿がどこにも見られなくなってしまいました。保健所の職員に捕獲されてしまったのか、狂暴な野良犬に噛み殺されてしまったのか、嗚呼、祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す、でございますね。 雅人くんが小学校高学年の頃と思います、これまた雅人くんの母親が勤務先の学校から小さな黒い仔犬をケーキの小箱に入れて家に持ち帰って来ました。黒い仔犬は痩せ細っており、身体をブルブル震わせていました。栄養不足のためか身体の毛もあっちこっち抜け落ちており、なんとも貧相な仔犬でした。 雅人くんはこの黒い仔犬にクロと言う名前を付けて大切に育てましたが、1年ほどしても身体はさほど大きく成りませんでした。どうやら豆柴との雑種のようですが、その賢さには驚かされました。いつも雅人くんの表情を確かめ、彼の意思通り忠実に動こうとしているようでした。お手、お座り、お待ちは勿論んのこと、小枝を目の前5センチほどの高さに握って飛べと声をかけ掛けますと、1回で飛び越えたのには感心させられました。 チッシュにいろんな臭いのものを擦り付け、複数のチッシュを並べた中からクロに嗅がせたものだけを探し出せと命じますと、これまた1回で咥えて持ってきたものです。どんな犬も嗅覚が優れていることは自明なんですが、人間が嗅がせた臭いのものだけを選び出して持ってくるなんてことはそう簡単に出来るものではないと思いますよ。 雅人くんが故郷の高校を卒業して仙台で一年間浪人生活を送った後、里帰りしました。そのとき雅人くんの母親がクロを連れて家の前で待っていてくれたのですが、遠方から雅人くんが母親とクロの姿を見つけ、「クロ」と大声を掛けましたら、クロが脱兎のごとく走り出し、彼の身体に飛び付き、何度も嬉しそうに繰り返し抱き付きました。 そんな賢くて可愛いクロも雅人くんが大学2年のときにフラリアに罹り、あっけなく病死してしまいました。 d お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年10月08日 17時10分13秒
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