(母/あゆみさん)
「『そろそろ問題行動が復活かな』の兆しが……数日前から。
手洗いとかが結構好きなので、
せっけんで洗って私の隙を見てそれを顔につけるという」
せっけんのほかにも、飲み物を顔につけたり、
顔を洗いすぎたりすることがあり、
龍史さんの顔の肌は少し荒れていました。
(母/あゆみさん)
「せっかくウインドヒルで(生活の)リズムがついていたのに、
またこういう、やってほしくないことが出てくるっていう。
そういう不安が大きいですね」
龍史さんは献立表を見るのが好きです。
冷蔵庫に貼られていたのは、
9月のウインドヒルの献立表でした。
(母/あゆみさん)
「戻りたいよね? ウインドヒルね」
(龍史さん)
「(うなずく)」
龍史さんが利用していた高松市三谷町の「ウインドヒル」は、
親が亡くなった後も自閉症の人たちが安心して暮らせるよう、
保護者らが寄付金を出し合って2004年に開設しました。
9月8日までは、
自閉症と診断された重度の知的障害者を中心に
47人が利用していました。
しかし6月から7月にかけて、
職員全体の約3割に当たる11人が退職。
施設は「利用者の安全を確保できない」として、
定員を36人に削減することを決め9人の契約を解除しました。
(ウインドヒル/松原正子 施設長)
「職員なかなか新しい人集まらないねって。
じゃあ仕方ないけど、減ってる分、
利用者の数を本当に悲しいけど、
減少するしか方法ないね、という苦渋の選択」
自閉症の人はこだわりが強く、
対人関係やコミュニケーションに困難さがあると言われています。
彼らが、集団や地域の中で生活できるようになるために、
ウインドヒルでは9人一組でユニットを作り
共同生活を送っていました。
しかし、職員の減少を受けて、
それまで6つあったユニットを4つに減らしました。
(ウインドヒルの主任支援員)
「(定員削減後は)職員が利用者さんに対して、
以前よりも関わりが多くなった。
何より、前できていた行事・レク・作業、普通にしていたことが、
また改めて、再出発できたらと思っています」
一方、契約を解除された
龍史さんら9人の利用者とその保護者は、
利用の継続を希望しています。
9月8日には、利用の継続と補償を求めて、
高松地方裁判所に仮処分を申し立てました。
(母/あゆみさん)
「施設(ウインドヒル)に戻ることですよね。
それしか考えていない。
自分の子どもには、
やっぱり施設しか合うところがないと思っています」
施設に戻ることを目指しつつ、一時的に、
日中だけ通所施設を利用するかどうか迷いながら生活しています。
香川県の依頼で障害者福祉に関する研修
などを行ってきた宗澤忠雄さんは、
「施設側は障害者福祉の協会に応援を要請すべきだった」
と指摘します。
(障害者福祉に詳しい/宗澤忠雄さん)
「香川県知的障害者福祉協会に対して、
これは支援者の団体で規模も大きいところですから、
複数の施設から一人ずつでも、
辞めた分の職員を臨時的に応援要員として出してもらう。
このお願いをするというのが、普通の手順だと考えます」
また、ウインドヒルの運営法人を指導監督する高松市に対しては……。 (障害者福祉に詳しい/宗澤忠雄さん)
「自治体の立場で、障害がある施設利用者の人権を守る必要があるわけだから、ウインドヒルの要請がなくても、自治体として職員の応援派遣の要請を出すというのが普通の良識だと思います」
このことについて、高松市は……。 (高松市/大西秀人 市長[9月27日])
「具体的な職員のどうこうにつきましては、具体的なものはしておりませんけれども、(施設が)体制を整備した上で、基準を満たすようであれば、できるだけ入所を受け入れてほしいというような話はしている」
施設と話をするとしつつも、職員の応援に関しては
「施設から要請がない限り、市独自で動くことは考えていない」
としています。
この姿勢に宗澤さんは……。
(障害者福祉に詳しい/宗澤忠雄さん)
「障害当事者やそのご家族の生きづらさを
少しでも支援して改善していこうという
課題意識を持っている市だとは、とても思えない」
契約解除から1カ月あまり……。
龍史さんの家族は、裁判所に申し立てた仮処分の結果が出るまでは、
ほかの施設を探すのではなく、自宅で介助を続けるつもりです。
(母/あゆみさん)
「本当に光が見えない。まだトンネルの中ですよね。
戻れるのが一番いいんですけど、子どものことだけですよね……」