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2012.08.23
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カテゴリ:昭和期・中間小説

  『野』三浦哲郎(講談社文芸文庫)

 短編小説とは何かについては、今まで何回か考えてきました。
 そもそも頭が弱いのにこんなことを考えるのがけっこう好きで、だから、というか、しかし、というか、ろくにモノになる結論が出たことはありません。最低限自分で、勝手にある程度納得しているだけであります。

 今回考えたテーマはちょっと捻りまして、短編小説集とは何か、ということであります。それも、ただの短編小説集ではなくて、一般的に「連作」と呼ばれるものについて考えたいと思っているんですが、さて、うまくいきますか……。

 そんなことを思ったのは、実は、クラシック音楽の「組曲」と「交響詩」の違いって何、というところからなんですがね。
 組曲というのは、例えばグリークの『ペールギュント』とか、ホルストの『惑星』とか、ムソルグスキーの『展覧会の絵』とかですね。まだまだいっぱいありますが。
 交響詩の方も、いっぱいありますよね。リストとかリヒャルト・シュトラウスとか、その辺の方がたくさん作っていそうに思います。

 話は少し飛んじゃうんですが、ビートルズのアルバムに『サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンド』ってのがありますね。あのアルバムは古来「トータル・アルバム」なんて言われていましたが、「トータルアルバム」というのは、「連作」のことなんでしょうか。

 「交響詩」に比べますと、ポップスの「トータルアルバム」は、各作品間の有機的繋がりがかなり弱いというか、柔軟な感じがして、小説の「連作」は、こちらに近いような気がします。
 なるほど、ポップスの「トータルアルバム」というのが、「連作」短編小説集である、と。

 (ただひとつ、私的に気になる連作小説集があります。黒井千次の『群棲』という名作なんですが、これは向こう三軒両隣の各家庭の話を順番に書いていった、とてもユニークな短編小説集です。例えばAさんの家のことが中心の話に、隣家のBさんの家庭も出てきて、今度別のBさんの家の話にAさんが顔を出す、という類のお話です。この作品なんかは、わたくし的にはクラシック音楽の「交響詩」という感じなんですがねぇ。)

 ということで、「連作」と銘打たれた短編小説集とは、さほど強くない有機的繋がりを持つ短編小説の集まりである、という、まー、よく考えてみれば当たり前的結論が導かれました。
 やはり冒頭に書いたとおり、モノにはなりそうもない結論であります。(ただ、一つだけポイントがあるとすれば、連作は、有機的繋がりが強すぎてはいけないというところでありますね。)

 さて冒頭の連作小説集ですが、16編の田舎話(大体昭和40年代の東北地方)から成り立っています。
 今読めば、そのころのノスタルジー(まだまだ貧しかった日本)がぐっと前面に出てくるのですが、書かれた当時で言えば、この田舎の「貧しさ」はリアルタイムな背景であるわけで、今と読後感がだいぶ違うように思います。

 一方「田舎話」という以外の共通するものとしては、「性的なものの存在」があります。もう一歩つっこんで表現すれば、女性性のほの暗い側面の存在であります。

 富十さんは、膝小僧を抱いて躯をゆらゆらさせていたが、
「どっちみち、生臭い話になっちまうなあ。でも、仕様がないか。女って、どだい生臭い生きものなんだからな。ありていに申し上げるより仕様がないな。それじゃ、いっそ、その生臭いところからはじめようかね。」
 そんな前置きをしてから、実はあの酒屋の奥さん、きょうがちょうど生理日なのだといった。(『合歓の町』)


 そのイメージをさりげなく、かつ具体的に説明した個所を挙げれば、こんな感じの話なんですね。

 ただ、この「ほの暗い女性性」(『罰』という話はかなりこれが強調された苦い話です)は、作品のトーンを少し別なものに変えれば、とたんに自然の豊穣さになったり(『泉』や『金色の朝』という話はこれです)、死の話にもなったり(『軍鶏』がそうですか)、そして、「哄笑」にもなります(『寒雀』『ひとさらい』などはこの系列)。

 これはきわめて豊穣なフィールドであり、私は、これだけではもったいないような連作テーマであると思いました。しかし、筆者のあとがきにこんな一文がありました。

 この『野』が、自分の著作のなかで、心をひどく痛めずに読み返すことのできる少数の作品の一つであり、好き嫌いでいえば最も好きな作品であることを、ここに告白しておきます。

 自らの「家族の血」について剔るように書いていく(私はさほどたくさん読んではいませんが)筆者にとって、なるほど本作は、「戦士の休日」のような連作テーマであったのだなと、私はふと感じるのでありました。


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Last updated  2012.08.23 07:41:37
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