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2024.05.05
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  『御社のチャラ男』絲山秋子(講談社)

 本書を読み始めて4章めくらいまで行った時、ふとこんなことを思いました。

 ……で、チャラ男は、誰なんだろう?

 そして続けて私が思いついたことは、実に陳腐ながらこんなことでした。

 結局チャラ男とは、作者だ。

 ……うーん、フローベルの昔から、真理として言われ続けていることですからねー。
 そんなんそういう言い方をするんやったらそうに決まってるやん、と、まあ、関西弁なら一人ツッコミをするところであります。

 それに、チャラ男とは作者であるとしたところで、作品がより深く理解できそうでもありませんし…。
 というところで、また気持ちを入れ替えて私は読書を続けました。

 さて、本小説はこの単行本の帯にもその言葉のある「会社員小説」であります。
 一時期、芥川賞受賞作なんかでも「会社員小説」ってはやったように思う(今でもそうなんでしょうか)のですが、女性作家に多かったような気がします。

 それは、私としては、人間不在の現代の労働環境の中で、何より女性が第一にその矛盾の塊をひっかぶり、そして、まず声を挙げたからではないかと愚考するのですが、あわせて、かなり鋭い感性を駆使して描いた作品が多かったようにも覚えています。

 ただ、私としては、繊細さや鋭さを持つ感性で描かれた「会社員小説」では、なかなか構造的な社会の矛盾に対する切込みが、やや乏しくなってはいないかとも、ちらりと愚考しました。

 実は本書も、そんな女性作家会社員小説を長編小説として集めたものではないのかと、さらに読み進めていきながら、私は思ったんですね。章ごとに語り手を変えて、主人公「チャラ男」を背景から描いていく、その章ごとの文体の変化はやはり小説家としての筆者の力技であり、文学的力量であると感心もしました。
 しかし感性的文章を数集めて構造的社会を広く描けるものであろうかという気も、やはり少ししました。

 なにより、読んでいて、何か、引っかかるんですね。
 この少しのイライラ感はなんだろうか、と。

 私が、現在の第一線の企業現場について、ほぼ何の知識もないのももちろんそのせいではありましょうが、はっと気が付いたのは、登場人物全員が分析をするからじゃないかということでした。

 これはある意味、多くの一人称小説に言えることでありましょうが、結局のところ、一人称小説の描写や文体とは分析にほかなりません。
 その分析を、「生き馬の目を抜く」ような企業の第一線で活動する登場人物が行えば、そこに描かれるものは、言ってみればこざかしい批評家の講演会みたいになってしまいかねません。分析という名の悪意か無関心。これが読んでいて、私などには少しツライ。

 後半さらに物語は、一人称が様々な自分語りの様相を強め、背景から描いていた主人公の姿を拡散させながら進んで行きます。
 そして、カタストロフィが来ます。
 私は決して出来のよくないカタストロフィとは思いませんでしたが、同時に感じたのは、現代小説において話を終わらせるということは難しいものだなあということでした。

 それは、いわゆる古き良き時代の大団円が、もうすでに賞味期限切れに近くなっているからでしょうか。小説家も大変だなあ、などと思い、そしてちらりと、あれっと感じました。何かがつながった感じがしました。

 それはまず、最終盤の一つ手前のエピソードに出てきたセリフでした。
 その章の語り手は、そのセリフを「パワーワード」と描き、かなりエポックメイキングな言葉として説明しています。展開としては、そう読むことは十分可能なのですが、読んだ私は、ピンときませんでした。
 それは、(この言葉に至るディティールは、すみません、省略しますが)「それはどうした」というセリフです。そして、語り手によってこんな分析がなされています。

​ 「それがどうした」はすべてをぶちこわす言葉だった。パンクだった。理不尽なクレームにも、無理な要求にも上下関係にも、ルールやマナーの押しつけにも有効だった。​

 しかし最終盤を読んで、小説家も大変だなあと気軽に思った私があれっと思ったこの言葉の理解は、文脈としては無理やりの誤読でした。
 つまり、「それがどうした」なんて言葉は、それを書いた者にも突き付けられないはずはない、という。

 私は単なる小説の一読者ですが、小説家とは、「それがどうした」という剣先に、絶えずのど元を突かれようとしている方々ではないのか。「それがどうした」はむしろ、本書の各章各章で語られた一人称会社員小説に対してつぶやかれたものではないのか、と。
 作者がぶちこわそうとしたのは、この小説そのものではなかったのか、と。

 ……と、思ったとき、私は、もうここまで行くと妄想だとも感じながら、もう一つつながったと思いました。
 それは、フローベル。
 やはり「チャラ男」は作者であるのじゃないか、と。
 つまり、この小説は「メタ小説」、小説とは何かを描く小説、ではないか、と。
 いえ、無理は承知ながら。……。

 (ただ、そう思って読むと、最終盤の「こども食堂」の話は、また何か深い味わいのあるたたずまいを見せるように私は感じたのでありました。)


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Last updated  2024.05.08 08:51:09
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