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近代日本文学史メジャーのマイナー

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2023.08.13
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『森』野上弥生子(新潮文庫)

 さて、『森』であります。
 そのご高名は以前よりつくづくと伺っておりました。
 何のご高名かとは、申すまでもないのかも知れませんが、筆者野上氏の、99才の作であること。数日後に100才を控えながら、亡くなる三日前まで執筆を続けられていたこと。その作品『森』は本人の生前の話から、後数十枚で完結するだろうという地点にありながら、未完に終わったこと。

 その他付け加えるならば、書き出したのは筆者87才からで、13年間こつこつと書き続けられて、この度私が読んだ新潮文庫で580ページもの長さであること、等々……。

 さて野上弥生子といえば、漱石の直弟子(どうも漱石の「木曜会」の常連参加ではなくて、手紙のやりとりや添削などを受けていらっしゃったようですね)であります。
 以前にもわたくし考えたことがあるのですが、漱石山脈などという言葉もあり、多くの新進作家を世に送り出した漱石でありますが、「出藍の誉れ」とまでは行かなくても(だって、現在に至るまで漱石以上の作家と目されている人は多分いないのですから)、とりあえず文学史上でそれなりの評価を下されている作家を思いだしてみると、実は、あまりいません、よね。

 一番に挙がるのは芥川龍之介でしょうか、晩年の弟子であることは間違いないでしょうし、高校の教科書の小説の定番に『羅生門』が入っていることから、まー、高校進学をした人ならほぼ全員が作品を読んだ作家ではあるでしょうね。
 でも、これもすでに指摘があるように、小説の質としては、ほぼ短編小説しか書いていないことからも、漱石筋の作家と考えるには、現実としてはかなり無理がある、むしろ敢えて言うなら、鴎外筋ではないかと。

 芥川の後、誰が挙がるかと考えますと、内田百けん、中勘助あたりでしょうか。
 もちろんそれなりに優れた作家であり、マニアのようなファンもいらっしゃるようですが、でも、でも漱石には及びますまい、ねえ。

 というところで、改めて私の認識の中に登場してきたのが、この度の野上氏であり、『森』でありました。
 この方の文学史的評価というものはどうなっているのでしょうかねえ、いろんな事を知らないわたくし故でもありましょうが、よく分かりません。

 寡作であるからでしょうかね。私が知っている作品で言いますと、『真知子』『迷路』『秀吉と利休』の長編と後いくつかの短編小説くらいでしょうか。(ちょっと調べましたら亡くなられてから全集が編まれ、23巻になるそうであります。寡作じゃあ、ない、ですか。)

 こんな時に便利な本としてわたくし、手元にある山田風太郎の『人間臨終図巻』をちょっと調べてみました。やはりありました。息子野上素一の文章として「母の執筆のノルマは、一日に原稿用紙二枚というわずかなものであるが、それを死ぬまで続ける決心をしている。」とあります。

 本書を読めばひしひしと理解されるのですが、この作品は柔らかくも極めて強靱と言えるような文体で書かれています。縦糸と横糸がびっしり編みあわされたような文章で、隙間やほつれ目がありません。仮に急ぎ読みをしようとしても、それを許さず押し返してくるような力があります。
 それが、毎日毎日原稿用紙二枚ずつ書かれていた……、十三年間……。

 わたくし、上記にこの作家の文学史的評価はどうなんだろうかということを書きましたが、八十七才から十三年間毎日原稿用紙二枚の筆者の日々を、リアリティを持って頭の中に描き出すと、なんか、そんなこともうどうでもいい、という気になります。
 この筆者を位置づけるなど、そんな畏れ多いことなどしてはならないといった気持ちになります。

 さて、そんな『森』をこの度読了しました。
 冒頭から、いかにも長編小説らしい、心地よいたゆたった表現とストーリーが続きます。十代の女学生が主人公の、筆者の自伝的作品のように滑り出しました。

 ところがしばらくすると、三人称小説でありながら主人公の女学生に寄り添って描かれていたストーリーが、大きくはみ出し始めます。
 私は、構成が崩れだしているのかなと思いました。
 しかし、さらに読み進めていって、どんどん主人公から離れていく展開に、はっと気がついて、一瞬鳥肌が立つような思いになりました。

 この小説は、脇役のいない小説なのだ、と。

 詳しいことはよく知らないのですが、アニメや漫画にスピンオフ作品というものがありますね。別に最近に始まったのではなく、古い映画などでも「外伝」などの作品がありそうです。

 ただ、本小説は、一人の作家が一つの物語の中にそれを展開しようとしています。『森』とは、いかにもよく付けたタイトルであります。
 例えば、主人公の女子生徒が、何かを買おうとしてある店に行ってそこのおかみさんに会う。するとそこからそのおかみさんの生き方過去人物関係などの物語が描かれ始めます。それも本作特有の強靱なみっちりした文章で。……。

 このように書かれた六百ページ弱の物語です。読者はそんな不思議な感覚に揺られながら、そしてこの構造に思い及ぶと、やはり一種の戦慄を覚えるように思います。

 そんな作品です。あるいはひょっとしたら、評価などしようがないのかも知れません。
 上述の『人間臨終図巻』の野上弥生子の項の最後はこう書かれています。

 「満でいえば五月六日の誕生日まで、百歳にあと三十七日であった。
 最後の長編『森』は、おそらくあと数十枚を残して、未完の作品となったが、一豪の老いも感じさせぬみずみずしさで、その年の文学ベストワンにあげる批評家が少なくなかった。」

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Last updated  2023.08.13 08:37:49
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