1月は行く。2月は逃げる。3月は去る。もうひな祭りの季節です。
では、泉鏡花の雛まつりの作品の冒頭をご紹介しませう♪なんのことはない、青空文庫さんのコピペです。泉鏡花は金沢の人らしいので、ちょっと懐かしい気がする。
雛がたり
泉鏡花
雛――
女夫雛は言うもさらなり。
桜雛、
柳雛、
花菜の雛、桃の
花雛、白と
緋と、
紫の色の
菫雛。
鄙には、つくし、
鼓草の雛。
相合傘の
春雨雛。
小波軽く
袖で
漕ぐ
浅妻船の
調の雛。
五人囃子、
官女たち。ただあの
狆ひきというのだけは形も
品もなくもがな。
紙雛、
島の雛、
豆雛、いちもん
雛と数うるさえ、しおらしく
可懐い。
黒棚、
御廚子、
三棚の
堆きは、われら
町家の
雛壇には
些と
打上り過ぎるであろう。
箪笥、
長持、
挟箱、
金高蒔絵、
銀金具。小指ぐらいな
抽斗を開けると、中が
紅いのも美しい。
一双の
屏風の絵は、むら消えの雪の小松に
丹頂の鶴、
雛鶴。一つは
曲水の
群青に桃の
盃、
絵雪洞、桃のような
灯を
点す。……ちょっと
風情に
舞扇。
白酒入れたは、ぎやまんに、柳さくらの
透模様。さて、お
肴には何よけん、あわび、さだえか、かせよけん、と
栄螺蛤が唄になり、皿の縁に浮いて出る。
白魚よし、
小鯛よし、
緋の
毛氈に
肖つかわしいのは
柳鰈というのがある。
業平蜆、
小町蝦、
飯鮹も憎からず。どれも小さなほど愛らしく、
器もいずれ
可愛いのほど
風情があって、その
鯛、
鰈の並んだ
処は、雛壇の奥さながら、竜宮を
視るおもい。
(もしもし
何処で見た雛なんですえ。)
いや、実際
六、
七歳ぐらいの時に覚えている。母親の雛を思うと、遥かに竜宮の、幻のような気がしてならぬ。
ふる
郷も、山の
彼方に遠い。
いずれ、
金目のものではあるまいけれども、
紅糸で底を
結えた
手遊の
猪口や、
金米糖の
壷一つも、馬で
抱き、
駕籠で
抱えて、長い旅路を江戸から持って行ったと思えば、
千代紙の小箱に入った
南京砂も、雛の前では
紅玉である、
緑珠である、
皆敷妙の
玉である。
北の国の三月は、まだ雪が消えないから、節句は四月にしたらしい。
冬籠の窓が
開いて、
軒、
廂の雪がこいが
除れると、北風に
轟々と
鳴通した荒海の浪の
響も、春風の音にかわって、梅、桜、
椿、
山吹、桃も
李も
一斉に開いて、女たちの
眉、唇、
裾八口の色も
皆花のように、はらりと咲く。
羽子も
手鞠もこの頃から。で、
追羽子の音、手鞠の音、唄の
声々。
……ついて落いて、裁形、袖形、御手に、蝶や……花。……
かかる折から、柳、桜、
緋桃の
小路を、
麗かな日に
徐と通る、と
霞を
彩る
日光の
裡に、
何処ともなく雛の影、人形の影が
う、……
朧夜には
裳の
紅、
袖の
萌黄が、色に出て遊ぶであろう。
――もうお雛様がお急ぎ。(以下略)
☆雪深い北陸の、春を待つ思い。