174081 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

朝吹龍一朗の目・眼・芽

朝吹龍一朗の目・眼・芽

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Category

Freepage List

Profile

tonobon

tonobon

Archives

2024.05
2024.04
2024.03
2024.02
2024.01
2023.12
2023.11
2023.10
2023.09
2023.08

Comments

tonobon@ Re:尾瀬(07/28) ★さすけさん >緑が気持ち良さそうですね…
★さすけ@ 尾瀬 どうもはじめまして。 緑が気持ち良さそ…
tonobon@ 居庸関長城 *Izumi*さん コメントありがとうございま…

Calendar

Favorite Blog

ちょっと本を作って… 秦野の隠居さん

Keyword Search

▼キーワード検索

Headline News

2006.11.27
XML
カテゴリ:女の不思議男の謎

 哲郎が取り出したのは、器用にラミネートパウチされたネックレスだった。ただ、どう見ても上等な品物には見えない。ペンダントヘッドはダイヤのようだが、きらめきも今ひとつである。男の顔とネックレスを交互に見ながら、私は次の言葉が出てこない。

「いや安物だよ、ぜんぜん大したもんじゃない」 哲郎はさばさばと言った。

 ガールフレンド(恋人ではない、友人でもない)を初めて誘った映画館の出口に、夜店にすればあらも見えないだろうが昼間ではどうしようもなく貧相な、屋台然とした店が出ていたそうだ。

「くじ、引いてください。ただです。当たったらこのネックレス、無料!」

「で、当たりだったんだけどさ」
「そりゃそうだろう、話には誰でもわかる展開ってもんがある」
「それがさ、その当たりのネックレス、ちゃちくてさ、こんなのもらっても彼女絶対喜ばないと思ったんだけどね、店のおじさんが突然言うんだ。

『プラス5千円でプチダイヤ付きにグレードアップ!』ってね。
一瞬財布の中身が頭をよぎり、まあ、一晩よけいに道路工事やればいいかと考えて、じゃあ買った、ってんで彼女に渡したんだ」

「『バカね、そんな安物身につけてやらないからね』ってさ。一応もらってはくれたんだけど」

 二人は紆余曲折はあったものの、結局哲郎のほうから別れを言い出すことになり、そのまま疎遠になってしまったのだが、くだんの映画デートから3年ほどして私と哲郎は彼女の葬式にでる羽目になった。交通事故だった。

 百か日に哲郎が霊前にお参りしたとき、母上は泣きはらした眼で

「とっても大事にしてたんです。哲郎さんからいただいた宝物だって」

 手許に残して涙の素(もと)になるのも辛いばかりだと言って、贈り主に戻してくれたそうだ。

「で、形見さ」哲郎は下を向いてぼそりと言った。
「そう、たしか宇宙戦艦ヤマトの映画だったような気がする」

 30年近く哲郎の札入れの奥に大事にしまわれていたわけだ。男も女も、どっちもどっちという気もする。一番幸せなのは、その安物ネックレスかもしれない。

 もちろん、哲郎の奥さんにはナイショの話である。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2006.11.27 21:42:04
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.