モビールの方へ
アラバマ州の都市モビールで起きた猟奇殺人。蝋燭と花で飾られた尼僧の惨殺死体。30年前、裁判所で謎の女に射殺されたカルト殺人鬼ヘクスキャンプと、彼の創作した絵画のコレクター。これらを結びつける糸を辿って、刑事カーソン・ライダーと相棒のハリー・ノーチラスは怪事件の闇に潜む犯人に迫る。やがて白日の元に曝された衝撃の真相とは。----------”海外優秀本格ミステリ顕彰・最優秀作”(2000年1月1日から2009年12月31日の間に刊行された海外ミステリの中から選ばれたベスト1)とのことで読んで見た。カーソンの一人称で語られる捜査の模様は、青春もの刑事ドラマのようでもあり、チャールズ・マンソンがモデルらしいシリアルキラーと、彼のアートの愛好家は、日本人である私には某カルト宗教の教祖と信者の関係を思い起こさせる。カーソンの兄は、天才的頭脳のこれもシリアルキラーで収監中、とまあ、興味深いネタてんこ盛りで展開するサイコサスペンス。おっと、ネタでなくてギミックでした。思いがけない犯人、意外すぎる動機、本格ミステリーとしての必要条件も満たしているので、謎解きの面白さは充分。カーソンとハリーの二人だけの特殊捜査班という設定は、某TVドラマに慣れ親しんだ日本の読者の関心をよりひくものになっている気がする。ただしギミックに既に新しさがなくなった要素が多く感じられた。カルトの教祖はリアルな事件の衝撃が強すぎてもはや不感症、天才シリアルキラーはレクター博士で食傷気味な当方としては、異常な性格の登場人物に既視感があり過ぎたゆえ。ヘクスキャンプ射殺事件のトリックも、人物入れ替えトリックなのはすぐに解りそうなもの。などと、トリックは解っても真犯人は簡単には判りそうもないので、これくらいのネタバレはいいでしょう。あとは読んでのお楽しみ。他人様にはシリーズ1から順序正しく読むことをおすすめしておく。良い子は私のマネはしないでね。