かめくんは、自分がほんもののカメではないことを知っている。ほんものではないが、ほんもののカメに姿が似ているから、ヒトはかめくんたちのような存在をカメと呼んでいるだけなのだ。だから、カメではなく、レプリカメと呼ばれたりもする。―「木星戦争」に投入するために開発されたカメ型ヒューマノイド・レプリカメ。「どこにも所属してない」かめくんは、新しい仕事を見つけ、クラゲ荘に住むことになった。しかしかめくんはかめくんであってかめくんでしかないのだった…。異才が描く空想科学超日常小説。
北野勇作さんの「かめくん」を読みました。
今作を手に取ったのは、先日読んだ菅浩江さんの「永遠の森 博物館惑星」と同じく「SFが読みたい!」の1位に選ばれた事を覚えている時に古本屋で見掛けたからでした。
同時に日本SF大賞も受賞した作品みたいですね。
「空想科学超日常小説」の名の通りに主人公・かめくんが自宅、職場、図書館等の日常空間で出会う人々とのほのぼのした交流を淡々と描いています。
秀逸なのが視点となるかめくんで、非常に無口ながらレプリカメならではの世界観を通して様々な出来事を照らしています。
特に度々訪れる図書館でのエピソードが印象的で、本物の亀の事を調べてみたり、興味のある資料を探すという下りが面白いですね。
全体的に日常の出来事を描いているものの端々に木星で行われている戦争の話やレプリカメが作られた経緯が登場しますが、最後までかめくんを通して特別な出来事が起こらないというのが新鮮でした。
普通は何らかのアクシデント等がありそうなものを、あくまでも1体のレプリカメの日常を描く事に終始していますが、物語終盤でかめくんの日常に1つの区切りを付ける過程が非常に意味深になっていますね。
SFとしては勿論、純文学としての要素も十分に備えた作品だと思います。
単純にかめくんの日常に癒される読み方も出来ますし、どこか哀愁漂う日常としても捉えられる不思議な作品ですね。