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天空の蜂・東野圭吾 ・講談社文庫 ・1998年1月15日 第1刷、2009年12月15日 第43刷(498頁) ・1995年11月 単行本、1997年11月 ノベルズとして刊行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 海上自衛隊に納入予定の、超大型特殊ヘリコプター(ビックB)が領収飛行(*1)当日、錦重工業小牧工場から盗まれた。 午前8時:何者かに細工され、コントロールされた ビックBは、操縦士を乗せず飛び立った。デモンストレーション飛行を見学するために来て偶然乗り込んでいた男の子を乗せたまま・・・。 8年30分頃:ビックBは敦賀半島上空に到着、高速増殖原型炉「新陽」の千数百メートル上空でホバリングを始めた。 8時38分:新陽発電所管理棟のファックスが、犯人からのメッセージを受信。 『関係者各位』と書かれたメッセージの、凡その内容は、 「我々は自衛隊ヘリ『ビックB』を奪った。現在、高速増殖原型炉「新陽」の上空800mの位置でホバリングを行っているはずである。ヘリの操縦は完全に我々の手の中にあり、他の何者も今の位置から動かすことが出来ないし、自分たちは動かす予定はない。ただ、そのまま時間が経てば、当然のことながら燃料はゼロになり、ヘリは墜落することとになるだろう。ヘリには大量の爆発物が積み込まれており、墜落すれば「新陽」も無事ではすまないだろう。回避する方法はただ一つ、次にあげる要求をのみ、大至急実行に移していただきたい。要求が通ったことを確認した後、ヘリを安全なところに移動する」というものであった。 犯人があげた要求は、凡そ下記の内容だった。 1.現在稼働中、点検整備中の原発を全て使用不能にすること。 2.建設中の原発は、全て建設を中止せよ。 3.上記作業を全国ネットでテレビ中継せよ。 ただし「新陽」だけは停止させてはならない。もし停止すれば、その瞬間にヘリを墜落させる。満タンの燃料でヘリは午後2時頃まで飛行可能なはずである。 ・・・と。 何もしなければ、搭載する燃料がゼロになったビックBは、やがて原子炉の真上に墜落するであろう。犯人の指示に従い「政府」は、ホバリング中のビックBからの、子供の救出を自衛隊に命じる。刻々とタイムリミットが迫る中、果たして「政府」は、全国民を人質にした犯人の脅迫をのむのか・・・。 間も無く犯人は単独犯ではなく共犯者がいることが判明する。 作者は読者に、早い段階で犯人の一人が新陽に派遣されている錦重工業の社員 三島幸一であることを明かしている。もう一人の犯人は、かつて、ビックBの機密を熟知している防衛庁の元開発官だったらしいことも判明する。 面識が無かった二人を結びつけ、犯行に至らせた動機は何だったのか・・・。逃げ果せるとはとうてい考えていなかったらしい犯人たちの目的は、一体何だったのか・・・。 反原発運動のメンバーを聞き込み中の捜査員が、犯人が潜伏先に残したコントローラーを発見した。だが原子炉が稼働している間はビックBの自動操縦は解除されず、コントローラーは役に立たない。 ビックBを移動するには、原子炉停止を検知したビックBから墜落信号が出されるまでの僅かな時間にかけるしかない。錦重工業Bシステムプロジェクトリーダー湯原は、原子炉停止からビックBの墜落信号が出されるまでの何秒間かは余裕があるだろうという考えていた。だが変化は急激に訪れた。ローターの回転数が変わったと思った次の瞬間には、その巨大な機体が急激に降下を始めた。湯原は即座に、だが慎重にコントローラーのレバーを動かした。ビックBの機体が、真下ではなく湯原の操作により、ある角度を持って彼らの方に向かって降りてくるように見えた直後、激しい衝撃音が聞こえ、機体は煙を上げながら「新陽」から数十メートル離れた海面に落下、激しい爆発を繰り返しつつ沈んで行った。 犯人の一人雑賀勲は、刑事が見守るなか、新陽が見える岬に立ちビックBの最後を見届けた。 もう一人の犯人三島幸一は、美浜町にある自分の部屋で、ビックBからパソコンに送られてくるデータを確認し続けていた。データの送信が途絶えたあと、パソコンに予め用意されていた文書が呼び出され、指定された幾つかの場所へファックスされた。 『関係者各位』て始まる、その文書には、(要約) 「我々の希望が聞いてもらえず残念だ。その結果としてビックBが高速増殖原型炉「新陽」に落ちたこと確認した。また新陽が無事であることも自分たちは確信している。今回用意した爆発物は、ダイナマイトたった10本であり、原発の各種安全装置は確実に機能し、今頃は原子炉は安全な状態で冷やされていることだろう。今回の試みは、沈黙する群衆への忠告である。原子炉が自分たちのすぐそばにあることをいつも意識し、そのことの意味を考え、自ら道を選ばねばならない。 自分たちが稼働して間もない「新陽」を狙ったのは、それが最も危機感を与える効果があると同時に、世界最大のヘリが千数百メートル上空から落下した場合でも、「新陽」は、使用済み核燃料を大量に抱えている他の原発と違い、放射能漏れの恐れがないからだ。自分たちが恐れたのは、ヘリが使用済み核燃料プールに墜落、例え10本であってもダイナマイトが爆発し、プルトニウムを大量に含んだ使用済み核燃料が水に混じり、拡散し、やがてその粒子が人の肺に入り定着し、放射能を発し続けるかもしれないことだ。その危険性が一番少ないのが、稼働して間もない「新陽」だけだった」 そして、手紙の最後には 「自分たちの周りに存在する原子炉が、良い面を見せるだけでなく、牙を剥くこともある・・・・・・。子供は刺されて初めて「蜂」の恐ろしさを知る。ダイナマイトはいつも10本とは限らないのだ。 天空の蜂」 と書かれていた。 「新陽」の入り口前で、ビックBの最後を見た三島には、失敗した悔しさや無念さはなく、ただ虚しかった。そして、彼を護送しようと待つ福井県警の警備部長の前で 「「新陽』に落ちた方が良かった。そのことにいずれみんな気がつくだろう」と呟き、護送されていった。 (*1 )領収飛行 防衛庁関係者の前で飛行し、不備がないことをチェックしてもらう最終手続きのこと 早朝の5時〜午後3時頃までの、10時間余りの間の話 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2016.02.03 16:34:46
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