418067 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Category

Favorite Blog

透明ぬいぐるみキー… New! 千菊丸2151さん

"悪者"のいない、さ… yhannaさん

そんな、一日。 -☆丸-さん
なまけいぬの、お茶… なまけいぬさん
おれ兵隊だから 天の字さん

Free Space

PVアクセスランキング にほんブログ村

Keyword Search

▼キーワード検索

2017/06/04
XML

*hannaさんにリクエストをいただいた、ティアナ視点でのアルブレヒト・スピンオフをアップいたします。
ティアナ=アルブレヒトの庇護を受ける、騎士見習いの少女。
ユベールのオーストリア行きに同行して、ドイツ・イタリアの対仏戦線でもずっと一緒にいた、あの子です。


番外編.レゾンデートル

記憶をたどると、行きつくのはいつも、あの雨の日。
使用人に手を引かれ門の前に立つ私を、外套を着こんだ背の高い人が迎えに来た。
灰色の景色に溶け込んで、あいまいな――今も覚えているのは、その人の銀色の髪、襟元を飾る徽章の光。
そして、穏やかな声。
「――行こう、ティアナ。お前の新しい家へ。」

***


「例の、祭りの子ですよ。」
「もう四つだって?もっと前に、修道院に送ってくれていれば――」
「相手は庭師か、馬丁かという噂だよ。」
「奥方様が、よくご承知になったものだわ。アルブレヒト様には、何の関わりもないことなのに。」

ティアナ・エーベルヴァイン。
彼女の名は、半分は偽物だ。
自分の出自が決して誇れるものでないことを、幼いころから彼女は感じ取っていた。
父はなく、赤子の頃から母とも引き離され、彼女は屋敷の別邸で乳母と使用人に囲まれ暮らしてきた。
執事夫婦が親代わりになって、彼女を育んだ。
やわらかな金色の髪。淡いブルーグレーの瞳・・・
「まるで天使のよう。目元はお母様に、そっくりね。」
そういって執事の妻は慈しんだが、4歳の誕生日にティアナは家を出されることになった。
貴族の私生児は、娘であれば修道女になるのがお決まりのコースだ。
だが詳しい事情は理解できぬまま、直前になってティアナはブランシュ伯爵家に預けられることになったのだ。

伯爵家で、彼女は初めて貴族の子女らしい教育を受けた。
この家には同じ年頃の娘たちもいて、時々は言葉も交わした。
ただ大抵は、彼女たちに近づくと屋敷の奥方や使用人が戸惑いの混ざった表情をするので、ティアナは気が引けてしまう。
そんな時ティアナは窓越しに、中庭で兵士たちが訓練する風景を眺めるのが好きだった。

ブランシュ伯家は人の出入りが多く、賑いのある館だが、時折いっそう活気に満ちる日がある。
屋敷の主人も奥方も上機嫌で、使用人たちがいそいそと仕事に励む。
そんな時は、この家の嫡男アルブレヒトが帰宅しているのだ。
彼は王女の騎士であり王宮に移り住んでいるため、滅多に屋敷には顔を見せない。
それでもたまの休みに、両親の機嫌うかがいに足を運ぶことがあった。
彼の友人たちも参集して、剣の稽古にいそしむ事もある。
その日も、アルブレヒトは中庭で手合せをしていた。

「踏み込みが甘いぞ、フォルクマール!」
合わさる刃が、ギリギリと軋みをあげる。
「・・・その余裕、崩してみたいですね、アルブレヒト。」
涼しげな目元をした、色素の薄い青年は口角を上げ、足を使って間合いを取った。
仕切り直しから、先に動いたフォルクマールの剣先はしなやかな弧を描くように、下から突き上げアルブレヒトの上半身を狙う。
それを弾き返し、続く二撃も統制された動きでアルブレヒトは受け止める。
彼らの周囲には、ブランシュ家の私兵たちも集まって見物の輪ができていた。
さらに打ち合いが続くが、攻めに転じたアルブレヒトのほぼ垂直の斬りをかわしたフォルクマールは、返す刀で打ちこまれてしまった。
「あっ・・・!」
フォルクマールが声を上げたのは、弾き飛ばされた剣が、人々の輪にいた幼い少女の足元に刺さったからだった。

「すまない、怪我はないか。」
近寄ったアルブレヒトが、ティアナの顔を覗き込む。
こわばった表情で頷くと、大きな手が彼女の肩に置かれた。
陽光に煌めく銀色の髪、淡い灰色の瞳――
黒衣の上着に、騎士の徽章が光る。
彼女が無事だと確認すると、アルブレヒトの表情がやわらいだ。
「ずいぶん熱心に見ていたようだが、剣に興味があるのかな。」
「まさか、おおかた君に見惚れていたのでしょう。ねぇ、お嬢さん。」
フォルクマールの明るい笑い声が響く。
自分の肩に当てられたアルブレヒトの、手の力強さ。
彼のまなざしがじっと注がれて、彼女は胸の奥が痺れた。
「そういえば――ティアナが来て、もう一年だな。この屋敷には慣れたか。」
「・・・は、はい、アルブレヒト様。」
「そうか。じき誕生日だ。その時は皆で祝おう。」
ほんの数言の会話だが、ティアナは彼の意識が自分に向けられていることに舞い上がり、頬を真っ赤に染めたまま、少しも動けないのだった。

手合せを終えて引き上げたアルブレヒトは、靴の泥を落としながら言う。
「貴殿が腕を上げたから、つい力が入ってしまった。」
「おや、珍しくお褒めにあずかれましたね。あなたが姫君のお世話で多忙な間、こちらも追いつこうと必死なのですよ。」
王が代替わりすれば、アルブレヒトに加え7名の騎士が新たに選出される。
野心ある若者たちは、「その日」に向けた熾烈な競争を水面下で続けているのだ。
「“女王陛下”の御代が、近い――そうなのでしょう、アルブレヒト。」
アルブレヒトは黙したまま、黒衣の裾を払い邸内に戻った。

つづく

~~~~~~
この時、ティアナが(もうすぐ)5歳、アルブレヒトは25歳、レティシアは14歳です。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2017/06/04 02:56:36 AM
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.