「老後は安泰」のはずだったのに!
後藤篤子は悩んでいた。
娘の派手婚、舅の葬式、姑の生活費・・・
しっかり蓄えた老後資金はみるみる激減し、
夫婦そろって失職。
家族の金難に振り回されつつ、やりくりする
篤子の奮闘は報われるのか?
ふりかかる金難もなんのその、生活の不安に
勇気とヒントをあたえる家計応援小説。
老 後 の 資 金 が あ り ま せ ん
なんて見事だろう。
これほど華やかな花を、ほかに知らない。
後藤篤子(あつこ)は食卓に肘をついて芍薬に見とれていた。
赤いベネチアングラスの花瓶が、こんなにエキゾチックな
雰囲気を醸し出すとは嬉しい誤算だった。
「おい、篤子、聞いてんのか。一生に一度のことなんだぞ」
怒りを含んだ夫の声で、篤子は我に返った。
夫は楊枝をくわえたままこちらを睨んでいる。
「一生に一度? そんなことわかってるてば。 だけどね。
結婚式に六百万円もかけるなんて、やっぱりどうかと思うよ。
結婚する当人たちが出すっていうんならともかく、親が出さ
なきゃならないなんて変だよ」
この会話、いったい何度目だろう。
娘の結婚式のことで、ここのところ毎晩この調子だ。
「おまえはさやかがかわいそうだと思わないのか。
向こうは金持ちのお坊ちゃんなんだぞ。
肩身の狭い思いをさせる気か?
釣り合いが取れてなくて、ただでさえ引け目を
感じてるだろうに」
「だって六百万だよ。六百万。芸能人じゃあるまいし」
そう言いながら篤子はテーブルの食器を片づけだした。
以 下 省 略
著者: 垣 谷 美 雨( かきや みう )
1959年 兵庫県生まれ。
ソフトウェア会社勤務を経て2005年
「竜巻ガール」で小説推理新人賞を受賞し、デビュー。
テレビドラマ化された「リセット」「夫のカノジョ」の他に、
「ニュータウンは黄昏れて」「あなたの人生片づけます」
「子育てはもう卒業します」「農ガール、農ライフ」
「あなたのゼイ肉落とします」「嫁をやめる日」「後悔病棟」
「定年オヤジ改造計画」「四十歳、未婚出産」など著作多数。
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最終更新日
2021年10月28日 09時27分43秒
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