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カテゴリ:第6話 牙城クスコ
そして、二日後…――。 アンドレス、遠征出立の日である。 インカ軍本営の中央広場では、インカ軍本隊の兵が整然と見守る中、トゥパク・アマルと、そして、側近たちと別れを交わすアンドレスの姿があった。
アンドレスと共にラ・プラタ副王領へ出征する精鋭二万の軍勢は、騎兵と歩兵から成り、革と綿でできた頑強な胸甲を身に纏い、サーベルと鈍器と銃とで武装している。 その武装の様相は、トゥパク・アマルの采配により、彼自身の本隊にも引けを取らぬほどの堅固なものだった。 アンドレス配下の軍団の中には、若獅子のごとく逞しく生気溢れる若い兵たちが数多く、やはりまだ若いながらも、その腕前は既に老練の武者に等しい総指揮官アンドレスに恭順と敬意を表しながら、意気揚々たる表情で出立の時を待つ。
彼の父親にも等しき叔父のディエゴが、まさしく父親のごとくの厳しくもおおらかな眼差しで、あの岩のように逞しい手をアンドレスの肩に乗せ、一発、力強く叩いた。 「自信を持って、存分に戦ってこい!!」 アンドレスも力強い笑顔を返し、「叔父上も、存分に!!」と凛々しい眼差しで言う。
そして、トゥパク・アマルにするのと全く同じように、今、アンドレスに向かって、非常に深く恭しく頭を下げた。 アンドレスはビルカパサの傍近くまで歩み寄り、真剣な眼差しで相手の顔を見つめた。 「ビルカパサ殿、くれぐれも、トゥパク・アマル様をお願いいたします!!」 深い思いのこもったその声に、ビルカパサも、その意をしかと察して、「アンドレス様、どうかお任せください」と、非常に精悍な眼差しで力強く応える。
「フランシスコ殿…!」 誠意溢れる声で真っ直ぐに視線を送ってくるアンドレスに、フランシスコも居住まいを正してそちらに向き直る。 「フランシスコ殿、どうか、トゥパク・アマル様のこと、よろしくお願いいたします」 そう言って、アンドレスはフランシスコに深々と頭を下げた。 フランシスコは、その目に戸惑いの色を浮かべながらも、「アンドレス様、恐れ多いことでございます」と、周囲の側近たちの目を気遣いながら、アンドレスの頭を上げさせる。 そして、変わらず真摯な眼差しで己を見つめる眼前の若者に、フランシスコも「必ずや、できるだけのことはいたす」と、戸惑いの色を残しながらも、頷き返した。 アンドレスも、今一度、フランシスコに深く礼を払った。
そして、その足元に跪き、深く礼を払う。 「トゥパク・アマル様、それでは、行って参ります!!」
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