フロレス軍の激烈な火砲にも怯まず、正々堂々と正面から、アパサ軍の盾となるがごとくに戦線に突入してきたアンドレス軍を前にして、フロレスは、苦い笑みを浮かべた。
(アンドレス、そなたと直接に対峙するのは、そなたが当副王領に来たばかりの頃…――あのプノ戦以来、二度目になる。
まさか、そなたが、ソラータを落とすまでの指揮官になろうとは)
ブロンドがかった肩ほどの長髪に、吸い込まれるような蒼い瞳を持つ優美な風貌のフロレスは、スペイン人というより、むしろ、イギリス人かフランス人のように見える。
銃よりもサーベルを好んで手にし、艶やかな白馬に凛然と跨るその姿は、相変わらず、中世の騎士さながらであった。
(アンドレス、そなたが仮にこのまま首尾よくラ・パスまでをも奪還した暁には、いよいよペルー副王領へと舞い戻る算段であろう。
そして、トゥパク・アマルと合流か……。
トゥパク・アマル――アレッチェ殿の内々の通告によれば、クスコの牢を脱して、未だ行方知れずのままだとか。
一時は処刑寸前とまで言われたあの者が、再び民衆の前に姿を現すことともなれば、インカ軍の士気は一気に高まることとなろう。
この反乱の行方、いよいよ分からなくなってきたか…――)
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≪トゥパク・アマル≫
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アンドレス≫
トゥパク・アマル(インカ皇帝末裔で反乱軍総指揮官)の甥で、インカ皇族の青年(18歳)。
若くして剣術の達人であり、2万の軍勢を率いるインカ軍最年少の連隊将。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
現在は、ペルー副王領の隣国ラ・プラタ副王領に遠征している。
≪フロレス≫
ラ・プラタ副王領のスペイン軍総指揮官として、当地の反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
副王の信任も篤く、かつては最高司法院の議長まで務めた有能、且つ、武勇に秀でた麗人。
植民地生まれであるためか、他のスペイン人高官とは異なり、偏見を持たぬ公明正大な人物。
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