♪ ひさかたの雨に静まるあじさいの葵重ねに水したたらせ
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紫陽花の学名・ハイドランジアは、ギリシア語のハイドロ(水)とアンジェイオン(容器)からなり、「水の器」「水がめ」という意味なのだとか。
どうりで雨が良く似合う。
ちょっと薄暗い場所や梅雨空の下にたたずむ姿は、優雅でありながらちょっと寂しげで、平安時代の宮廷社会を思い起こさせる。
当時の宮廷の公家・貴女たちは、薄衣を何枚も重ねて着る十二単や、きものの表と裏のとりあわせなど、きものを重ねて着た場合の色の組み合わせを重要視し、「かさねの色目」としてより美しく装うための美的表現を追求していた。
その「かさねの色目」には3種類の意味がある。
1.「重色目」表裏のかさね色目
袿(うちき)の一枚・一着(領)の表地と裏地の混色名。
2.「襲色目」重ね着のかさね色目
十二単の様に薄い絹を何枚重ね、ずらして見せる重ね着の色目。
3.「織り色目」織物のかさね色目
経糸緯糸に違う色を使うことで複雑な色合いを作り出す。
各々の升目の左の色は、絹裏地色 右の色は絹表地色。
表地の絹素材は裏絹素材に対して、基本的には、織り及び厚みを薄くして裏絹素材色を見える様にしてある。各々の升目のセンター部分が「重色目」。
旧暦の「春」カラーは、梅重から早蕨(さわらび)まで。旧暦の「夏」カラーは、若楓(わかかえで)から夏萩まで。旧暦の「秋・冬」カラーは、櫨紅葉(はぜもみじ)から椿まで。
この「重色目」中にある「葵かさね」は、資料によって多少異なるものの、紫陽花の咲いている雰囲気によく似ている。実際は、立葵を表したものだという。
当時は今と違い、下記のような天然染料という限られたものを使ってこれだけの色を出し、自然と同化するように美を追求していたのには驚かされる。
赤系 赤色(茜染)、紅(黄味赤)、赤花(赤紫)、蘇芳(青味赤)、紅梅(青味薄赤)
黄系 朽葉(黄赤)、山吹(支子染)、香色(丁子染)、黄(黄檗 ・刈安染)
緑系 、青(緑)、萌黄(黄味緑)
青系 縹(藍色)
紫系 花色(青紫)、二藍(青味紫)紫
これらを染める時には、媒洗剤として藁や椿の灰で作る灰汁(あく)を使う。一部には、燻製にした梅の実を水に浸して得たクエン酸や明礬も使ったようだ。
平安時代の宮中の年中行事や制度などが記されている書『延喜式』には染色についても記されているが、あまり詳しくは書いてないらしい。
草木染めは材料の鮮度がいいほど良い色に染まる。枯れたものを幾ら煮ても色素は抽出できないし、乾燥したものは生のモノに比べると格段に落ちてしまう。
植物を煎じて得た染料と媒洗剤に何度も何度も交互に漬けることで、漸く濃い美しい色彩が生まれる。気の遠くなるような作業の賜物なのだ。
随分前に「襲色目」からヒントを得て、「襲染め(かさねぞめ)」というネーミングの「綿帯シリーズ」を制作したのを思い出した。帯用の厚くて硬い綿布に、苦労して重ね染めをしたことが懐かしい。
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◆2006年5月8日よりスタートした「日歌」が千首を超えたのを機に、「游歌」とタイトルを変えて、2009年2月中旬より再スタートしました。◆2011年1月2日からは、楽歌「TNK31」と改題してスタートすることにしました。
★ 「ジグソーパズル」 自作短歌百選(2006年5月~2009年2月)
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プロフィール
sunkyu
日本の四季と日本語の美しさ、面白さ、不可思議さ、多様性はとても奥が深い。日々感じたことを「風におよぎ 水にあそぶ」の心持ちで短歌と共に綴っています。 本業は染色作家
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