♪ 圧倒と破格の出会いアマゾンの画文に浸る炬燵に入りて
「ピラルクー」という孫が気になっている淡水魚最大の魚。開高健の「オーパ!」という本が手元にあるので、切り取ってあげると言ってあった。1978年出版で、「PLAYBOY日本版」連載当時から大きな反響を呼び、発売後には社会現象にもなったものだ。3年後には18刷までされれ、2021年1月には完全復刻眼が出ているぐらいのものだから、その人気たるやまったく衰えを知らない不朽の本だ。
そんな本を安易にページを切り取ってやるというのは、ファンからしたら鼻つまみ者だろうなぁ。
オーパ! 何事であれ、ブラジル人は驚いたり感嘆したりするとき、「オーパ!」という。
本の内容を書いていくととんでもなく長いものになりそうなで、写真だけにしておきます。順不同で、ランダムに載せますが、どのページも男があこがれる刺激的な内容にあふれていて、復刻版ができる理由も分かります。自分が出来ないことへの憧れと嫉妬が、逆惚れという形になっているのでしょう。
本文のあとの「蛇足」で、『この時点で「今から20年前にはサンパウロ周辺の川にも魚がたくさんいて、たとえばアカリなどは川底がまっ黒に見えるぐらい棲んでいた。しかし、汚染ですっかり姿を消してしまった。」という話が出てくる。こういう、魚が小さくなった、少なくなった、姿が見えなくなったという話を地球の裏側まで出かけていって聞かされると、親しさ(?)と同時に底知れぬ恐怖や憂鬱をおぼえさせられる。いよいよ地球もおしまいかと、考えさせられるよりさきに、痛覚として感じさせられるのである。』とあって、なんとも不自然な存在の人間が自然と織りなす悲喜こもごもを、痛く考えさせられて、後を引く。
今では、相当な奥にまで行かないと見られない貴重な魚となっていたり、不法伐採などが横行してアマゾンの木が、森が失われているという。また、砂金を取るため水銀を使い川に捨てるために、貝や魚に水銀が蓄積され、アマゾン川の水銀汚染問題が深刻になっているという。
1964年11月、朝日新聞社臨時特派員として戦時下のベトナムへ行き、最前線に出た際に反政府ゲリラの機銃掃射に遭う。総勢200名のうち生き残ったのは17名で、一時は「行方不明」とも報道されるも辛くも生還している。この時のルポタージュ、『ベトナム戦記』を発表、その後3年をかけて凄烈な体験をもとに小説『輝ける闇』を執筆。『夏の闇』『花終わる闇(未完)』とともに3部作。
帰国(1965年2月24日)後は小田実らのベ平連に加入して反戦運動をおこなうも、ベ平連内の反米左派勢力に強く反発し脱退。過激化する左派とは距離を置くようになる。
釣りキチとして日本はもちろんブラジルのアマゾン川など世界中に釣行し、その名を高らしめたのがこの「オーパ!」や「フィッシュ・オン」だ。食通でもあり、この本の中にもそういう話が八章の「愉しみと日々」に出てくる。
最後のページがいかにも開高健らしい。
「飲むだけ飲み、食べるだけ食べ、人びとは眉をひらきにひらいて微笑して手をふり、東西南北へ散っていった。空と地平線にそそりたっていた、塔のような、帆船のような、大爆発のような積乱雲は輝かしい白皙を失い、たれこめる雨雲に犯されて,夕陽があちらこちらに傷のように輝いている。私はナイフの刃についた脂と血を新聞紙でぬぐって革鞘に納める。
暗くなりかけた木立のなかをゆっくりと歩く。土が匂い、葉が匂う。これからさき、前途には、故国があるだけである。知りぬいたものが待っているだけである。口をひらこうとして思わず知らず閉じてしまいたくなる暮らしがあるだけである。膨張、展開、奇異、驚愕の、傷もなければ黴もない日々はすでに過ぎ去ってしまった。手錠つきの脱走は終わった。羊群声なく牧舎に帰る。
河。森。未明。黄昏。
魚。鰐。花。
チャオ!・・・」
太く短く生きた開高健に、「オーパ!」と声を上げて盃をかがけることにする。
孫にはピラルクーの画像をネットで検索して、ケント紙にコピーしてあげようと思う。
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