フクイチの固体廃棄物保管量~2024年3月末~
フクイチの固体廃棄物の大半は、リスクの高い屋外保管 フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)の、表題に関するグラフを更新しました。 フクイチの放射性固体廃棄物は大半が屋外保管で、環境中へ漏洩するリスクが高止まりしています。 私が最も懸念しているのは、火災です。 フクイチでの火災とその類似事象は、私が調べた限り、2011~23年度で43件です(下にスクロールして「資料7」を参照)。 固体廃棄物が屋外保管されているフクイチで大火災が発生したら、どうなるでしょう。働いている人の安全は確保できるのか、敷地外へ放射性物質が拡散した際の影響はどのようになるのか。疑問と不安は尽きません。 東京電力は「2028年度末までに、再利用分を除いて廃棄物の屋外保管を解消する」という大きな目標を立て、それに沿って各種対策を進めています。 廃棄物の屋外保管は、一刻も早く解消して欲しいものです。 今回は、詳細な数字を紹介する前に、大きく2点、お伝えします。1.稼働が再開した既設焼却設備 フクイチ構内には、既設焼却炉(正式名称は「雑固体廃棄物焼却設備」。2016年3月運用開始)と、増設焼却炉(正式名称は「増設雑固体廃棄物焼却設備」。2022年5月運用開始)の、2つの焼却炉が有ります。 前者の既設焼却炉は、主に、使用済み保護衣を焼却処理する用途で使われています。 既設焼却炉は、2023年の1月以降の15ヶ月間、事実上停止していました(※を参照)。 東電の公表資料を基に稼働日数を計算したところ、既設焼却炉A系は15ヶ月間(455日)で70日強でした。稼働率にすると約15%です。 同じくB系は80日強でした。稼働率にすると約18%です。 24年3月下旬にA系・B系とも運転を再開して以降は、順調に稼働しているようです。既設焼却炉の次回の計画停止は6月とのこと。 グラフ2で分かりますが、使用済み保護衣の保管量は2023年は微増です。減っていません。計画外停止があると、稼働率が低下し、廃棄物の減容・減量が遅延します。 設備はスペックよりも稼動率ですね。稼働しなければ、目的に向かって前進できません。(※ 既設炉は23年1月末前後から、A・Bの2系統とも年次点検を開始し、この最中、2月に腐食が、7月に冷却水循環ポンプの故障が確認された。(リンク)●雑固体廃棄物焼却設備排ガスフィルタケーシング腐食事象の対応状況について(23年4月27日)●【雑固体廃棄物焼却設備の冷却水循環ポンプ(A)の地絡警報発生について】(7月19日会議の資料) ポンプの調達に期間を要し、冷却水循環ポンプの交換が終了したのは2023年11月14日。(リンク)●放射性廃棄物処理・処分スケジュール(11月30日/「雑固体廃棄物焼却設備」の備考欄に詳細記載。以下、同じ) A系はバーナーの着火不良が確認され、運転再開は12月13日。 B系は11月15日の運転再開後、11月27日に排ガス分析装置酸素濃度計の指示不良が確認され、翌28日に運転を停止。12月5日に運転再開。 年末年始の運転停止期間を経てA・B系とも運転を再開後、B系は焼却灰の漏出が確認されて24年1月9日に運転を停止。灰搬送コンベアの外観点検と補修を行い、1月26日に運転を再開。 A系は1月25日から灰搬送コンベアの外観点検を実施し、2月2日に運転を再開。(リンク)●放射性廃棄物処理・処分 スケジュール(24年1月25日資料)●放射性廃棄物処理・処分 スケジュール(24年2月29日資料) 2月3日に両系統共通の設備である空気圧縮機に問題が確認され、この調査と3月の年次点検の間は両系統とも停止。 A系は3月22日、B系は3月21日に運転を再開(リンク)●放射性廃棄物処理・処分 スケジュール(24年3月28日)●放射性廃棄物処理・処分 スケジュール(24年4月25日) 経緯は、以上)2.長期停止が確実な増設焼却設備 続いて、増設焼却炉(雑固体廃棄物焼却設備)です。 残念ながら、長期間の運転停止が確実になりました。東電の説明によると、2025年度半ば(25年9~10月頃?)の運転再開を目指すとのことです。(リンク)●増設雑固体焼却設備廃棄物貯留ピット水蒸気等の発生による火災警報発生事案への対応、原因と対策について(2024年4月25日) この経緯は、上の東電の資料を基に本文として書きます。 増設焼却炉は24年1月4日の運転再開以降、焼却灰詰まりへの対応等を挟みつつも、断続的に稼働し続けていました。 ところが、2月22日未明に火災警報が発報し、運転が停止しました。木材チップ(伐採木をチップ化したもの)を溜めている貯留ピットに水蒸気が立ち込めていた為、25日までに貯留ピットに約1200tを注水しました。この結果、ピット内の温度は低下しましたが、貯留していた木材チップのほぼ全てが水没しました。 以下は、後の東電の調査と分析による報告の概要です。 貯留ピットには凡そ800立米の焼却予定の木材チップを保管していました。これまでにも、度々、水蒸気の発生が確認されており、貯留しているチップを掻き混ぜて上下を入れ替えることで対応(水蒸気の発生が収まっていた)していたそうです。 この水蒸気は、貯留しているチップが熱を持ち、チップ中の水分が蒸発することによるものです。 伐採木は屋外保管が続いていた為、微生物の付着が避けられなかったのでしょう。その結果、好気発酵(有酸素状態で活動する微生物が有機物を分解する発酵。酸化反応による発酵熱が発生)が起き、チップが熱をもったものと推測されます。 2月20日の夜間には貯留ピットで異臭が感じられたとのことです。これは、好機発酵が継続することで貯留チップ深部で低酸素・無酸素状態となり、嫌気発酵(酸素に触れない状態で活動する微生物が有機物を分解する発酵)へ移行した結果、硫化水素が発生したものと考えられます。 好気発酵の進展と嫌気発酵の組み合わせで硫化水素混じりの水蒸気が立ち込めた結果、火災警報器がその煙を感知して22日未明に警報を発報したものと推測されます。 この結果、先に書いたように凡そ3日間をかけての約1200tの注水に繋がりました。 東電は、今回の注水に至った直接の原因は、貯留(保管)していた木材チップの蓄熱によるものと見ています。東電の報告を基に、蓄熱を回避できなかった理由を箇条書きします。▸一般産業界の焼却設備であれば、軽微な異常では焼却設備の運転を継続しつつ復旧・回復を図るが、フクイチの焼却設備は放射性物質の漏洩対策・被曝防護の観点から焼却運転を停止させて対応する必要があった▸チップを移し替える別の一時保管場所を整備していなかったので、焼却設備の運転停止期間中も貯留ピット内にチップを保管し続ける事となった。長期間の保管が発酵を継続させ、より多くの発熱を生じさせることとなった。▸2月20日頃のチップの保管量は800立米程度に達していた。過去の長期停止期間での保管量で最も多い時は700立米程度(2022年9月頃)であり、過去に比べて、チップの発酵・発熱が促進され易く、蓄熱もし易い環境であった▸これまでに最大1000立米程度を貯留したことがあるが、火災警報は発報していない。貯留期間が比較的短かった為と推測▸これまでにも水蒸気の発生は確認されていた。2022年8月以降は2日間毎に貯留チップを掻き混ぜて上下を入れ替えることで解決できていたので、その対応で問題ないと考えていた 要因は、大きく以上の通りです。 対策と、増設焼却炉の運転再開見通しについては、次のように説明しています。◆3月22日に貯留ピット内の水没したチップの回収を開始した。チップの量はそ800立米と推定。回収は7月末までを見込む◆水蒸気として蒸発した分等を除いて、貯留ピットに滞留している水は約600立米と推定。放射性液体廃棄物であり、回収後に浄化処理等が必要だが、濃度の関係で、近くに有る5・6号用の処理設備には直接送れない為、5・6号用タンクエリアの1基(1160立米容量)を使用して一時貯留する◆ピット内の水は弱酸性であることを確認。貯留ピットは水を溜める仕様ではなく、又、酸によるコンクリート劣化の可能性もある。回収後に、必要に応じて点検・補修を実施◆今後は、運用手順書に「木材チップを、一定期間・一定量以上は、貯留ピット内に保管しない」ことを明記◆今後は、焼却運転が停止した場合には、伐採木のチップ化を中止する◆今後は、貯留ピット内のチップを一時保管する場所や施設を検討する◆今後は、新規設備の建設や大規模改造の際は、計画の初期段階で社外の専門家に意見を聞く仕組みを構築する。又、それらの意見が運用手順書に反映されているかどうかを確認する◆チップの一時保管場所の整備・貯留ピットの健全性確認・運用手順書の改善等を行った後に、増設焼却設備の運転を再開する。2025年度半ばを目標とする◆今後は、水蒸気発生など、現場の変化を感知した場合には「コンデイションレポート」を作成し、社内で共有して気付きに努める 今後も含めた対策は以上です。東電は、思い込みで物事を進めているのか 増設焼却炉の停止の件は、4月26日に開催された「第112回特定原子力施設監視・評価検討会」でも議論されました。 長くなるので、この場では割愛します。 今回の問題点は、私の見たところ「掻き混ぜる対応で問題ないと考えていた」に集約されるでしょう。 東電の言う「考えていた」に、どんな科学的根拠があったのでしょうか? ハッキリ言って、思い込みではないでしょうか? 「これまでに問題が生じなかったから」で済ませる発想は、津波対策に取り組まなかった理由に通じるものが有ります。「過去に問題が起きなかったから、これからも起きない」とは限りません。 東電の社員は、特にマネージャー層は、フクイチ核災害から何を学んでいるのでしょうか? しかも今回は、「木材チップを長期間・大量に保管する」ことのリスクや注意点です。放射性物質のことではありません。知見を持っている人は大勢いるでしょう。 原子力関係ではなく一般的な注意事項すら明確な科学的根拠を確認せず、訊こうと思えばいつでも訊けることなのに、思い込みで物事を進めるとは、余りにも怠慢でしょう。 しかも、その結果、増設焼却炉が年単位で停止する事が確実になったのです。放射性固体廃棄物の減容・減量が遅延し、屋外保管の解消という大きな目標にも影響を及ぼしかねません。 東電は、放射性固体廃棄物が屋外保管されているリスクを、認識していないのでしょうか? マネージャー層は、何の為に焼却炉を増設したのか、分かっているのでしょうか?「言われたから、作りました」「言われたから、運用しました」のような、一種の惰性と言うか、悪い意味で「仕事ですから、やりました」感を感じます。真剣みが希薄なように思えるのは錯覚でしょうか。 下記資料で示したように、増設焼却設備の稼働率は酷いものです。 何度も同じことを書きますが、スペックが素晴らしくても、稼動しなければ意味が有りません。資料1 増設焼却炉の運転開始遅延と、運転開始後の停止回数 因みに、増設焼却炉の元請けは日本ガイシです。 増設焼却炉については、月刊「政経東北」の連載記事にも書きました。(リンク)●東京電力福島第一原子力発電所向け「増設雑固体廃棄物焼却設備」を受注(2017年7月13日)●連載・第33回(22年12月号):増設焼却炉から見る東電のマネジメント「ゴミの減容・減量」すら、滞りがちなフクイチ 現場を批判する意図はありませんが、東電は「ゴミ(放射性廃棄物)の減容・減量」すらモタモタしているのですね。 固体廃棄物第10棟・第11棟、大型廃棄物保管庫(◆)も、2021年2月の地震を受けて耐震設計を見直した関係で遅延しています(第10棟-A建屋は23年3月末に着工済。24年6月に竣工予定)。◆大型廃棄物保管庫:汚染水の濃度低減処理を行う「水処理設備」で発生する二次廃棄物(使用済み吸着塔、HIC[ヒック]など)を保管予定。(リンク)●固体廃棄物貯蔵庫第10棟における安全機能喪失時の放出放射能の考え方について(23年2月1日)●固体廃棄物貯蔵庫第10棟の⼯事開始について(3月28日) 私は、「放射性固体廃棄物の屋外保管」には黄色信号が灯ったと思っています。この問題は、引き続き、追いかけます。 前置きが長くなりました。 以下、2024年3月末までの固体廃棄物の保管量推移等をグラフ等で掲示します。 拙ブログのグラフ・ポンチ絵の無断転載・利用は御遠慮下さい。 グラフ・ポンチ絵は、B5サイズ以上のタブレット・PCで閲覧する事を前提に作成していることをお断りしておきます。 クリックすると拡大しますが、それでも見難い場合は、ワード・ペイントにコピペしてご覧ください(Windowsの場合) 固体廃棄物の保管管理計画は、2023年11月に改訂されたものが最新版です(全体計画のまとめは、下にスクロールして「資料5」をご参照下さい)。屋外保管の解消時期は、その計画に記載されています。2024年3月末の放射性固体廃棄物の保管量 瓦礫類(金属・コンクリート・土壌等):39万9500立米 伐採木(樹木・根等):7万9600立米 使用済み保護衣等:2万0800立米 焼却灰等:3万8300立米(リンク)●元データ→ 瓦礫類・伐採木・使用済保護衣等の管理状況(24年3月末時点)資料2 グラフ資料3-1 雑固体廃棄物焼却設備の概要2016年2月24日の「廃炉に関する安全監視協議会」(福島県)へ東電が提出した資料よりキャプチャhttps://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/153165.pdf資料3-2 増設雑固体廃棄物焼却設備の概要経産省のWebサイトに掲載の資料よりキャプチャhttps://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2022/03/3-4-2.pdf資料4-1 敷地全体図1↑ 東電が24年4月5日付で原子力規制庁に提出した資料よりキャプチャhttps://www.da.nra.go.jp/view/NRA100001027?contents=NRA100001027-002-002#pdf=NRA100001027-002-002資料4-2 敷地全体図2資料5 固体廃棄物の保管・処理方針と検討事項(主な出典・リンク)●構内専用車両の運用変更について(PDFの22~30頁)●福島第一原子力発電所の固体廃棄物の保管管理計画(2023年11月)●福島第一原子力発電所 固体廃棄物の保管管理計画~2023年度改訂について~(2023年11月30日)●3号機 使用済燃料プール内の制御棒等高線量機器取り出しについて(22年10月27日)●固体廃棄物貯蔵庫第10棟の設置に係る実施計画の変更について(23年1月12日)●大型廃棄物保管庫に係る実施計画の変更について(23年1月16日)●放射性廃棄物処理・処分スケジュール(24年4月25日)資料6 フクイチの放射性固体廃棄物に関する主な防火対策資料7 フクイチ敷地内での火災と類似事象(2011~23年度)参考:「本来の(=事故前の)廃棄物の保管・廃棄方法」※「東京電力株式会社福島第一原子力発電所原子炉施設の保安及び特定核燃料物質の防護に関する規則」中の保管に関する記載は以下の通り。●固体状の放射性廃棄物は、次に掲げるいずれかの方法により廃棄する - 障害防止の効果を持った焼却設備において焼却すること - 容器に封入し、又は容器と一体的に固型化して障害防止の効果を持った保管廃棄施設に保管廃棄すること●容器には、放射性廃棄物を示す標識を付ける●封入の都度、以下の項目について記録を作成する - 廃棄施設に廃棄した放射性廃棄物の種類 - 当該放射性廃棄物に含まれる放射性物質の数量 -当該放射性廃棄物を容器に封入した場合には当該容器の数量及び比重並びにその廃棄又は投棄の日、場所及び方法 - 放射性廃棄物を容器に封入した場合には、その方法●上記の記録と照合できるような整理番号を容器に表示春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)