「処理水」の希釈放出(投棄)が開始され、貯留量は減少傾向
フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)の汚染水に関する数字です。
23年11月・最終木曜時点で汚染水(放射性液体廃棄物)の貯留容量は約140.8万t容量で、貯留量は約132.7万tです。貯留量の内、いわゆる「ALPS(多核種除去設備)処理水+処理途上水」は約131万tです。
下の「資料2」のグラフで一目瞭然ですが、貯留量は今年9月以降、減少に転じています。8月24日に「ALPS処理水」(※)の、海洋への希釈放出(事実上の「投棄」)が開始されたからでしょう。
私は、海洋投棄の目的は、これ(貯留量を減少させ、増加傾向に歯止めをかける事)が狙いだったのではないかと下衆の勘繰りをしています。
※「ALPS処理水」
:正確には「ALPS(多核種除去設備)で放射性核種の濃度低減処理を一度でも実施した、相対的に低濃度の放射性液体廃棄物」。簡略化の為、当ブログでは「ALPS処理水」又は「処理水」と記載。
海洋放出は8月22日の関係閣僚等会議で決定され、その決定通りに開始されました。
(リンク)
●詳細は「第6回 廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」の資料2に記載
●福島第⼀原⼦⼒発電所ALPS処理⽔の海洋放出開始について(8月24日/東京電力)
放出に際しては、「放出水量は日量最多500t」「トリチウム濃度の上限値は1500㏃/L」「年間放出量上限はトリチウムの放射能量で22兆ベクレル」という運用基準が定められています。
11月20日までに3回目の放出が終り、水量にして約2.3万tの「処理水」が希釈放出されました。
放出された核種別の放射能量や放出設備の詳細などは、別記事を立てています。
(リンク/11月21日付の拙ブログ記事)
●「処理水」放出による、放射性物質の核種別放出量・23年11月下旬
私は「核災害由来の放射性廃棄物を、意図的且つ大量に環境中に放出して処分する」ことには反対です。拙ブログや月刊「政経東北」の連載でも、その立場から情報や意見を発信してきました(私が「放出に反対する理由」は、昨年9月7日に個人として経産省に申し入れをした際の文章に凝縮されています。「当面取り得る対策」と考えるものは今年5月に別途書きました。下記リンクを御参照下さい)。
悪い意味で大きな一線を越えてしまったのは極めて残念です。
(リンク/過去記事)
●フクイチの汚染水等に関する、経産省への申し入れと回答 (22年10月17日)
●フクイチの汚染水に関する私見~増加抑制策・タンク用地確保・性状分析~(23年5月30日)
●「風評被害」ではなく、「市場構造の変化」という実害(6月2日)
●(7月20日に)岸田首相宛てに送った「放出反対」の意見(8月24日)
建屋の恒久止水に向けた検討が開始
汚染水対策(発生量の低減)に関して、年内に新たな動きがあるかも知れません。
7月下旬に、東電が1~4号建屋の恒久止水の検討を開始したことを表明しました。7月24日開催の「第108回 特定原子力施設監視・評価検討会」に資料が提出されました。
その後、第109回会合でも、続報的な資料が提出されました。
(リンク)
●汚染水対策の現況と2025年以降の見通しについて(2023年7月24日)
●汚染水対策の現況について(23年10月5日)
現在は、流入量が多いことが分かっている建屋を目標とした「局所止水」を実証していますが(5号建屋で実施中。2024年1月完了予定/下記リンク参照)、7月下旬に公表されたものは、建屋全体の止水を目標としたものです。
(リンク)
●汚染水対策スケジュール(2023年10月26日)
埋設物への対応・被曝防護・発生する廃棄物への対処等を検討し、止水壁の材質や構造等を絞り込んでいく方向のようです。具体的な議論は、経産省の汚染水処理対策委員会で行うとのこと。
23年12月日時点で、次回の汚染水処理対策委員会の開催予定は告知されていませんが、この議論・検討の行方は要注目です。
ALPSで発生するスラリーの扱いは別記事に
ALPS(多核種除去設備)で、放射性液体廃棄物(汚染水)の核種除去処理を行うと、除去された放射性核種が高濃度に圧縮された廃棄物が発生します(水処理二次廃棄物)。
ALPSによる処理が続く限りは二次廃棄物が発生し続けるので、この二次廃棄物の処理・処分は避けて通りません。
具体的には、専用のポリエチレン性容器に詰められている、スラリー(粘性の高い廃液)の処理・処分方法が課題です。
二次廃棄物の保管容量の件も含めて、この問題は込み入っているので、別記事を立てています。
(リンク)
●フクイチのHIC(ヒック)保管容量と保管基数~2023年11月末~
面倒ですが、水処理二次廃棄物(スラリー)と「処理水」放出はセットで把握しなければ、フクイチでの水処理の全体像を見誤ってしまいます。
23年11月最終木曜時点の汚染水の貯留量・滞留量
以下、貯留量・滞留量等の詳細な数字等を掲載します。
ポンチ絵はクリックすると拡大します。
当ブログのグラフ・表・ポンチ絵はB5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。無断転載・引用はご遠慮下さい。
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尚、分かり易さの観点から「放射性液体廃棄物」を「汚染水」と表記しています。
◆資料1 フクイチ敷地全体図
(1~4号用タンクエリアは右側[南側]の青色部分)

●構内配置図(予定含む)の出典(21年5月27日公表)
●
ALPSスラリー安定化処理設備設置の検討状況について(23年10月5日公表/敷地利用計画の変更は13・14頁)
福島第一原発の汚染水の貯留量・滞留量(2023年11月30日)
(リンク)元データ→ 福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について(第628報)/PDFファイル3頁右上、「RO処理水(淡水)」「処理水」「サンプル水」「処理水(再利用分)」「Sr処理水等」「濃縮塩水」の貯蔵量・貯蔵容量から計算。
▸タンク内貯留総量:約132.7万t(移送中の水・タンク底部の水は含めず/RO濃縮水は過去の処理量に基づく計算値)
▸タンク運用上限値:約140.8万t容量(撤去・解体予定のフランジ[ボルト締め]タンクは、当ブログでは運用数値に含めず)
▸建屋滞留水:約1.2万t(主として1~3号原子炉建屋+プロセス建屋+高温焼却炉建屋/水位計の計測等に基づく計算値)
◆資料2 貯留容量・貯留量 グラフ(~23年11月・第5木曜)

(リンク)数字・注記の出典
●エリア別タンク一覧(23年11月23日)