うつ症状を経験した人々は、アルツハイマー病を 2 倍以上発症しやすい傾向があるようです。特に、 60 歳以前の若いときのうつ病の経験は、アルツハイマー病のリスクを約 4 倍と大きく増加させるようです。
以前の研究が、アルツハイマー病か、その前駆状態の軽度認知障害の人々で、うつ症状が高くなる傾向を発見しています。
2 つの新しい研究が、アルツハイマー病の人でうつ症状が増加するのではなく、むしろうつ病がアルツハイマー病のリスク要素のようだと報告しています。
うつ病は、認知症を発症しやすいように、脳を変化させることに関連しているようだと研究者はいいます。
1 つはオランダのエラスムス大学メディカルセンターのモニーク・ブレテラー (Monique M.B. Breteler MD PhD) 氏らが、 Neurology 誌に発表しました。
研究は、 60 ~ 90 歳の認知症ではない 486 人を対象に行われました。 134 人は、 1 回以上、医師の診察を受けるように促されたうつ症状を経験していました。
研究の参加者では、 88 人が 60 歳以前にうつ病を経験していて、46 人は以後に発症しています。研究は平均 6 年間の追跡調査をしました。この間に 33 人がアルツハイマー病を発症しました。うつ病を経験した人々は、アルツハイマー病の発症リスクが、うつ病を経験していない人々より 2. 34 倍増加しました。
60 歳以前にうつ病を経験した人々は、アルツハイマー病のリスクがさらに高くなりました。うつ病を経験していない人々より、アルツハイマー病を 3. 76 倍多く発症しそうでした。うつ病と認知症との関係を理解するために、より多くの研究が必要だろうといいます。
一つの仮説は、うつ病が、脳の 2 つの領域 -- 海馬とへん桃核 -- の細胞の喪失につながるというものです。
しかし、今回の研究の参加者では、 3 次元 MRI による検査で、うつ病の人々とうつ病を経験したことのない人々の間にこの 2 つの領域の大きさに違いを発見しませんでした。
もう 1 つの研究は、米国のラッシュ大学のロバート・ウィルソン ( Robert S. Wilson PhD ) 氏らが、Archives of General Psychiatry 誌に発表しました。
うつ病の人々はアルツハイマー病をより多く発症しそうですが、うつ病の症状は、アルツハイマー病の診断前の数年間に増加することはないようです、と研究者はいいます。
これは、うつ病がアルツハイマー病の発症の結果として現れたものではなく、代わりに認知症のリスク因子であるようだと示唆しているといいます。
研究は、 917 人のカトリック教徒の聖職者グループを、最長 13 年間の追跡調査したものです。この間に 190 人がアルツハイマー病を発症しました。
研究の開始時にうつ病の兆候が多かった人々は、アルツハイマー病をより発症する傾向がみられました。しかし、研究開始時に記憶力の低下などの認知障害のない人々の中で、その後にアルツハイマー病の前駆状態である、軽度認知障害が発症した人々で、うつ病の症状の増加はみられませんでした。
アルツハイマー病の診断の後でも、うつ病のどんな一般的な増加もありませんでした。
うつ病の症状は、脳の認知症に対する抵抗力を減少させる変化に関連しているようだと、研究者はいいます。 研究結果は、うつ病が、アルツハイマー病の基礎的な病理の微妙な早めのサインというより、むしろアルツハイマー病ののリスク要素であると示唆していると述べています。
うつ病の症状は、神経の余裕量をいくらか低下さる、脳における特有の変化に関連しているようだとウィルソン氏はいいます。それは、アルツハイマー病に関連の病理を許容する脳の性能だといいます。うつ病の症状が認知症の発症につながるメカニズムを理解することは、認知症の発症を遅らせるための新しいアプローチを示唆するかもしれないと述べています。
認知症とうつ病との関係をはっきりさせて、うつ病が脳の認知症を発症させる変化を引き起こすかどうか決定するためには、より多くの研究が必要です。
コメント:
先日、アルツハイマー病の講演会で、某精神科のサナトリウムに勤務しておられる先生のご講演で、この内容に近いお話を聞く機会がありました。
確かに、うつ病はアルツハイマー病の発症の危険因子ではあるかもしれませんが、双極性鬱病が、アルツハイマー病と鏡像を示すという内容は初めて拝聴しました。
疫学的な研究のため、本当に相関があるかは、これからメカニズムを含めた研究が必要かと思われます。