碁法の谷の庵にて

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• テンプレート懲戒請求者に厳しい判断です（追記あり）

  　　碁を打っているとき、石を攻めているときの方が怖いと言うことがあります。むしろ、強い人ほど攻めるのを恐れ、攻められるのを喜ぶかもしれません。別にマゾヒストなのではなく、相手を攻めていれば調子がいいように見えて気分も高揚してきますが、攻め損なえば利得はないばかりかかえって強烈な逆襲を受けるということが少なくないためです。　懲戒請求も、攻めている間は威勢が良かったかもしれませんが、攻め損ないということになったときに受ける反撃は考えておくべきことです。　いよいよ懲戒請求に対して、東京弁護士会の綱紀委員会から通知が届きました。攻め損ないの結果が明らかになってきたと言うわけです。　弁護団に目をつけられる危険を冒して日弁連に異議を申し立てる信念の人（？）がいるかどうかはわかりません。しかし、決定文を見る限り、懲戒請求者に弁護士会が向けた言葉は、相当に厳しいものと言わざるを得ません。　議決書は、まず懲戒請求者がなんと言ったかを明らかにし、次いで請求された弁護士の言い分を記載しています。まあこれはなんてこともありません。　決定文はここからどうぞ。　しかし、その後の理由は厳しいです。一部を抜粋しますと、「懲戒請求者は、弁護団の主張が科学的にも常識的にも理解できないものであると主張するが、弁護人は上記の職責からして、被告人の主張や弁解が仮に一見不可解なものであったとしても、被告人がその主張を維持する限り、それを無視したり、あるいは奇怪であるなどと非難したりすることは許されないし、被告人が殺意を争っている場合においては、弁護人が被告人の意見に反する弁論をおこなうことは、弁護士の職責･倫理に反するものであり、厳に慎まなければならないのである。弁護団が、被告人の弁明を誠実に受け止めて、これを法的主張としておこなうことは弁護人の正当な弁護活動であり、これによって、仮に関係者の感情が傷つけられ、精神的苦痛を与えられたとしても、ことさら、その結果を企図したものでない限り、その正当性が否定されるものではない。以上のことは、憲法と刑事訴訟法にもとづく刑事裁判制度から必然的に導かれるものであって、懲戒請求者の主張はこの点についての理解の不足によるものと言うほかない。」「懲戒請求者の主張によっても、本件に関する裁判経過に照らせば、弁護団がいたずらに裁判を遅延させるような活動をおこなった事実は認められない。」　　はっきりいって、ズタボロです。テンプレート懲戒請求者の言い分は「何一つ」認められていません。しかも、多くの弁護士たちがネット上で語っていたのとほとんど同じ理屈です。　弁護士会は、「懲戒請求者の主張は理解の不足によるものと言うほかない」というのです。きちんと理解していればこんなことにはならなかったと言うわけです。仮に「この判断が正当である事を前提に」裁判所に判断させるなら、平成19年4月24日最高裁判決の「懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く」に該当することは避けられないでしょう。「控訴審での遅延活動」は事実上の根拠を欠き、「苦痛を受けたのを問題視する」のは法律上の根拠を欠きます。　そうすると調査検討義務が十分果たされていたかが問題になりますが、「必然的に導かれるもの」についてこう言われているようでは、ろくな調査検討を行っていなかったとみなされる可能性は相当に高く、不法行為の成立にぐぐっと近づいてしまったと考えざるを得ません。懲戒請求をするのになんの調べ物もしなかったんですよなんて、通用するはずがありません。　テンプレートを用いていることも、一つの重大な間接事実でしょう。テンプレートを用いた人はネットが使える可能性大でしょう（誰かからもらったと言うのでなければ）が、ネット上で多数の弁護士がずばりと批判していたことや今枝弁護士がブログを開設し、折に触れて説明していることもあります。　もちろん、これはあくまでも東京弁護士会綱紀委員会の判断。一応懲戒委員会に回している弁護士会の方がむしろ多いようです。　日弁連に異議を申し立てればひっくり返ると信じるのならそれは自由です。　裁判所が「弁護士を懲戒せよ」と弁護士会や日弁連に判決を下すことは許されないと言うのが全く動きそうにない判例ですが、不法行為訴訟なら懲戒相当を前提に判断してくれると信じるのも自由でしょう。　綱紀委員会の弁護士に対して懲戒請求という大技をする人たちもたまにいるようです。（私の民事訴訟法の師匠への懲戒請求をはねた弁護士はそれをやられたらしいです）　ただしこれらを実行するのは当てにしないに越したことはない無理攻めでしょう。不法行為となった場合に更に損害を増大させ、これまで我慢してきた弁護団を怒らせる可能性が上がるというのは、おそらく法律家たちの多数見解であろうと思われます。　そういえば、橋下氏は、何千何万と懲戒請求が集まれば懲戒しないわけにいかない、と言い放ちましたが、ものの見事にそれは打ち砕かれました。　番組で何千何万と、と言ったから個人に対して百単位では無理などと言うような狂弁を飛ばしてくるとも思えません。　少なくとも弁護士会などではこのことは相当な話題になっているようで法律事務所に研修に行かせていただいた際までこのことは話題になっていました。（ちなみに、私がここの主であることやどんな意見を持っているかは述べておりません）懲戒制度を巡って悲痛なことを言う弁護士の先生もおり、（これは後日別個に記事にします）一大問題になっているようです。　　もちろん、控訴審の弁護側最終弁論で結審するのはこの後ですから、3年の除斥期間内は辛抱強く待って懲戒理由となるだけの証拠を別個に探し出し懲戒請求する、という人もいるかもしれません。と言うか私は懲戒請求したいならとりあえずそうします。　また、他の懲戒理由を書いた人がいるのだとすれば、彼らにどのような対処が行くのかも興味があります。もしかしたら革命的なすごい論理で懲戒委員会を説き伏せて攻めを成功させてしまう人もいるかもしれません。　他の弁護士会の判断も待たれます。　しかし、攻めそこなったとなれば懲戒請求への包囲網がじわじわと完成していくであろうことは避けられないと思われます　弁護団が包囲網の中にいる懲戒請求者を攻撃すると言う手は現段階では取る意思はないようですが、懲戒請求の社会的影響から一般人提訴もやむなしと言う見解さえ指摘されています。私もぎりぎりまで避けたい手段だとは思いつつも、仮に橋下氏が勝訴するようなことになれば一般懲戒請求者を提訴してどこかに責任を求めると言うことを考えざるを得ません。因果関係がないとか言う認定ならまだしも、全面的に適法と言うようなことになれば本当に刑事弁護や弁護士の職務全体に計り知れない影響を及ぼします。　もしそうなった場合。自分のやったことの自己責任といってしまえばそれまでかもしれません。こうした動きに一斉に警鐘を鳴らした多数の法律家がいたし、その中には丸山和也弁護士のような有名弁護士もいたのに、それには耳を貸さず、橋下氏や自分の言い分だけ使ったわけです。　自分の権利が害されたわけではないのだから、両者の比較検討以前にこの問題におよそ首を突っ込まない、あるいは分からないので口を出さないという選択肢だってあったわけです。そして、橋下氏の言うことが本当かどうか、検討をする機会も検討のきっかけとなる見解も提示されていた（508人のアピールなど）にもかかわらず橋下氏や自分の見解を信じると決めたわけです。　この点に関しては、しっかり責任を取っていただかなければなりません。こんなこと信じ込ませるなんて･･･と怒るのは自由ですが、それは自分と橋下氏との間で解決すべきこと。第三者の知ったことではありません。　しかし、こうやって責任を問うことに意義はあるとしても、何の生産性があるのか？と考えると、賽の河原にも似た虚しさです。　獅子と虎が争ったまま崖の底に転がり落ちていくのを見るようです。　懲戒請求をした人は、この事件に関して何をしたかったのでしょうね？　仮に懲戒請求をしてそれが判断されて懲戒相当ということで業務停止やら退会命令やら除名やらということになれば、弁護団は全員辞任することになってまた新たな弁護人をつけることになります。もちろん、弁護人を交代すれば弁護人にけっこう長い準備期間を与えざるを得なくなり、事件の解決が遅れます。　それでも、懲戒したかったのでしょうか。※※※※※※※※追記※※※※※※※※東京弁護士会のHPに、懲戒しない旨の決定文が掲示されました。弁護士会HPを毎度見ているわけではありませんが、懲戒しない旨の決定をわざわざ掲示するとは正直思われませんから、この掲示には、かなり大きな意味があるものと思います。また、対象の弁護士の承諾も一応取ったのではないでしょうか。　おそらく、東京弁護士会の上のほうは、それなりに力を入れてこの問題に対処することを決めたのではないでしょうか。懲戒請求者に向けられた厳しい言葉は、請求者に限らず広く世間に向けられたものでもあるということだと思われます。　もともと、東京弁護士会は光市事件での弁護人への脅迫などの行為にも抗議の会長声明を発表しています。本格的に今後何か始まるかもしれません。　東京弁護士会は記者会見を開いては、という説もありましたが、他の弁護士会にも係属中なのでそれはやれないと考えたかもしれません。しかし、今後他の弁護士会の判断が揃い、うまく足並みが揃えば、一斉に何らかのアクションを起こすかもしれません。むしろ、起こしてもらいたいと考えます。　もちろん、弁護士会にできることは高が知れていますが。

  2007年11月28日

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• 今枝弁護士の陳述書を読みました

  こちらです。　陳述書、と言うのは法律にこれといった規定があるわけではないのですが、民事訴訟実務ではよく使われるそうです。院の教材ではなく、実物の陳述書のコピーを見たこともあります。　証人は本来は法廷で宣誓し、偽証罪の脅しの上で尋問に対して証言しなければいけないし、当事者も偽証罪には問われないものの本来尋問を受けるのですが、それ以前に喋ろうと思っていたことを証拠として出す、陳述書が実務ではよく使われます。　もちろん陳述書に書いてあることが全てと言う訳ではなく、書きたい放題かかれている危険も十分ある（このため、ルール化すべきという見解も有力）のですが、陳述書を出すことで相手や裁判所としても争いのない部分を絞ってどの辺を追及すべきなのかが理解でき、争いのない事項や本筋にあんまり関係のない質問がだらだらと続くような事態は防止できます。　さて、訴訟に関する今枝弁護士の陳述書、暗澹たる思いです。　むろん、この内容を無批判に全て真実であるなどと言うことはできません。　もっとも、第三者ならまだしも当事者の今枝弁護士が陳述書に真っ赤な嘘を書いたと分かれば、心証がた落ちは必定ですし下手すればそっちが原因で懲戒処分されるかもしれませんから、そんなことはなかなかできないような気はしますが、「真実」とは退いて考えるに越したことはないでしょう。後は裁判所にお任せです。　懲戒請求は弁護士会の内規ではなく、国会の定めた法律で定められた公的な制度ですから、弁護士会内部の勝手な運用で軽く捨ててしまうと言うことは相当な度胸がいります。懲戒請求自体に伴う法的効果（弁護士会移転禁止）などを考えると、それ自体かなりのことと法が考えていると私は思います。　ひまわり公設事務所の就任ができない、と言う点も、真実かどうか知りませんがありえないこととは思いません。　全く知らない弁護士で、懲戒請求された弁護士とされない弁護士が並んでいたら、やっぱり懲戒請求されていない弁護士にお願いしたいと思います。例え処分されないで、悪事をやっていなくとも、依頼者とうまくいってないかもしれないな、と考えてしまいます。　　知り合いの弁護士と言う場合でなければ、一般の人たちはどの弁護士が信頼できどの弁護士が信頼できないかなど全く分からず、外形的情報を用いるしかありません。また、法律家にとっては日常茶飯事でも、一般の人たちが法律関係の紛争に巻き込まれるのは人生そう何度もあるわけではなく一大事です。ことに裁判嫌いな日本人ではなおのことです。　そこで慎重に法律家を選びたいと考える心情は人間としてあまりにも自然なことでしょう。　今枝弁護士は、ブログ解説初期にチラッと語っていましたが、法科大学院の実務家教員となる予定が頓挫してしまったそうです。実際問題ここまでことが大きくなってしまうと、踏み切れないと言うのは分からないではありません。現実に懲戒処分される危険があるとなれば、そんな人間を責任ある法曹を養成する法科大学院の教授にできるかと言うのは分かりきったことです。　ちなみに、私の民事訴訟法の師匠の弁護士も、2度ばかり懲戒請求されたことがあるらしいですが、処分はされなかったもののかなり堪えたそうです。（1回は言いがかり、もう1回は仲間の弁護士が結果的にとはいえ金銭持逃げに加担した形でとばっちりを食ったらしく、請求者に同情的なそぶりも見せていた）　多数の懲戒請求、全部同じ文面なら同じ文面で反論すればいいかもしれませんが、全部同じ文面であるかどうか確認する作業も一苦労でしょう。なまじ説明責任などと争点が拡散されたために、なおのこと読み込まなければならない可能性大です。　そして懲戒請求に限らないそのほかの被害。　近所の小学生に後ろ指指されて鬼畜とか懲戒弁護士とまで言われてしまったそうです。　娘までに悪いことをしたのかとつっこまれてしまった上、学校でいじめのような事実さえ疑われる状態だそうです。「今枝」と言う苗字は比較的珍しい（日本人の苗字1950位）し、住んでいる所も大まかなところはばれているので、例え隠していても家族だとばれる可能性は大でしょう。日本人の苗字上位200に入っていて、プロ棋士にも芸能人にも学者にも同姓がいる自分に安堵してしまいます。　もちろん、小学生から呼ばれたというのが聞き間違い・考えすぎなのか真実なのか、また真実だとして例の発言と因果関係があるのか、この陳述書だけでは知るよしもありませんが。　陳述書の記載内容以外でも、彼が仕事関係で銃弾が打ち込まれたことがあるらしいですが、にもかかわらず日弁連のほうとはいえ銃弾つきの脅迫状が届けられたと言います。銃弾が撃ち込まれたことを送った人間が知っていたかはともかく、ニュースを聞いた今枝弁護士の恐怖はいかばかりだったでしょうか。またネットで事務所などを公開した人間の存在がその恐怖を増大させたことも想像に難くありません。　また、もし仮に橋下氏が敗訴し、さらに懲戒処分されたとすれば、移り気な世間はたちまち彼らに牙をむく可能性だってなしとはしません。橋下氏支持で最後まで行こうという人たちがいるか、いるとして橋下氏の助けになる人数が保たれるのか。　隣人訴訟事件で、隣人の善意の行為を訴えるとは何事とばかりに原告を家族まで含めて散々バッシングした連中は、原告がバッシングに耐えかねて500万を越える額が認容された一部勝訴判決をかなぐり捨てて訴えを取り下げると、今度は被告まで叩きました。これは２０年以上前、私が生まれた年のことです。　そうなれば、橋下氏の生まれたばかりのお子さんをはじめ、7人のお子さんの行く末が気がかりです。日本人の苗字1万3000位の橋下では、確実に彼の子どもだとばれてしまいます。今までは困りはしなかったかもしれませんが。インターネットと言う媒体で日本が極端に狭くなり、公人と言う立場になった彼らには、もっと凄惨なことがまっているかもしれません。　そして、原告がこの裁判に勝ったとしても、得られる金額がどれほどでしょうか。原告側は300万円は一部請求と考えているようですが、たとえ最終的に一人1000万取れたとして、彼らは「心の底から」満足するでしょうか。別に弁護団の欲の皮が突っ張っているから・・・と言うのではありません。欲の皮が突っ張っているならそもそもこんな事件の弁護なんかしないでしょう。（ちなみに一部請求なんて脅しに使うことが多いといっていたのは先述の民事訴訟法の師匠）　金銭ではたぶん何も解決しないだろうな･･･と言う話です。もちろん、金銭賠償を求めるしか方法がないからこそ、そうした対応なのでしょうが。　もちろん、私はこの裁判に意義はあると思っています。裁判所の判示によっては刑事弁護に対する裁判所の公的見解が聞けるかもしれません。弁護士懲戒制度についても同様。法社会学的にも、貴重な事例史料になるのではないかと思います。少なからぬ刑事系弁護士は、この裁判の行方を見守っています。将来の刑事被告人や遺族にとっても、重要な意義を持つ裁判となる可能性があるのではないかと思います。　国民の重要な権利がかかっている事件であり、場合によっては一般の懲戒請求者を訴えることも必要になると考えています。　でも、この裁判に誰が勝ったところで、誰が救われるのだろう？　そう思うとあまりにも空しいものを感じてしまうのです。　人のことがいえた義理ではありませんが、粘着的に事件に関してステージを変えてしつこく抗戦し続けているような人も見かけています。空しいです。　事件とは全く関係なく、欲しかったものを手に入れたのに、非常な空しさが残った土曜の午後、モーツァルトのレクイエムより「lacrimosa」を聴きながらついそんなことを考えました。

  2007年11月10日

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• 光市事件・検察側最終弁論を受けて

  　死刑求刑、とのこと。検察の立場としては当然でありましょう。　さて、検察はこの最終弁論を起案するのに1ヶ月かけました。弁論前最後の公判期日から1ヶ月、もちろん全精力をこの件だけに傾けていたわけではないでしょうが、被告人に死刑が妥当であると主張するために、これまでの主張や証拠調べの結果を洗いなおしてきたはずです。　起こったことがことなので弁護側の動きにばかり着目してきましたが、検察だって散々苦労していることは疑いの余地がありません。実際問題、私はこれまで検察を非難したことはありません。仮定法的な非難はありますが、あくまでも仮定ですし、そんなに強力な仮定でもありません。弁護側の法医鑑定を崩すために別の法医学者に鑑定もさせました。ただ結果だけを観察して非常識だと言い募るだけのネット論客とは比べるのも憚られます。　もちろん、主張のレベルは弁論全体が伝わっていないことや証拠関係を見ていない以上なんとも言い難いものがありますし、その程度によっては撤回しなければならないかもしれませんが、現段階ではその苦労に対しては敬意を表したいと思います。　　検察は、当然人一人処刑台に送り込むために、散々な苦労をし、疑わしきは罰することができない厳しい挙証責任の壁に耐えます。安田弁護士を始め優秀な弁護人、狡猾な被告人（検察ストーリーに乗ればの話ですが）の苛烈な批判や言い訳に耐え、それを迎撃しようと理屈を作ってきたはずです。　人を処罰するというのがどれだけ大変なことか。ましてや処刑台に送るというのがどれほどのことか。そうしようとすればどれほどの反撃が被告人側から飛んでくるか。それがわかっているからこそ、検察は1ヶ月もの準備期間をおいて弁論を構成していったはずです。最高裁の上告の時には上告趣意書の提出自体を待ってもらったという話もあります。　　　それなのに、懲戒請求した方々は求釈明が来た位でおたおたして、はっきりいって「みっともない」以外の何者でもありません。　求釈明になど答えないというのが選択肢としてありえないとは言いません。懲戒請求を通すなら弁護士会相手に答えれば十分、相手方に答えてくれてやる理由などない、と考えるならそれもよいでしょう。　また、求釈明といっても、答えなければお前を殺すとか家族に危害を加えてやるとでも書いてあるなら問題外です。　しかし、文面はせいぜいこれで固定ですね？という確認と行為の重大性の確認。虚偽告訴も行為を濫用した場合に反射的に伴う責任で、基本的な調査や検討をしていれば全く当たらないものばかり。それを脅迫だ何だと騒ぎ出すのは、決意不足の証拠です。第一、借金を返せ、返さないと法的手段に出るぞと内容証明が送られてきたらそれを全て脅迫だと主張するのでしょうか。日本中の弁護士はおろか、取立担当者の手が軒並み後ろに回ってしまうでしょう。　私の好きな囲碁に例えてみます。　囲碁をやっていると必ずいるのが、何もかも相手をつぶそうとする人。相手に1目の地も与えたくない、1目も捨てたくない。だから全てを何とかしようとして、結局全てを台無しにしてしまうヤキモチ焼き。一人で碁を打っているならいいし、彼我の実力差によっては、そんなヤキモチ焼きが無法だと気づくことなく勝ちにつながってしまうことだってあるかもしれません。　しかし、基本的に相手だって勝とうと必死なのです。「自分だけ」が得をしようとすれば無理が生じ、相手に反撃を与えてしまいます。その反撃をつぶし、本当に自分だけが得をできる場合は逃しませんが、得をしようとすればするほど、相手が強ければ強いほど、譲るところは譲り、その中でいかに自分に有利な言い分を通すかを考えます。相手をぶっ潰すのを狙うのは、うまくいく見込みが立っている場合か、ぶっ潰しをしなければならないような事情がある場合に、反撃覚悟でやるものです。　そして、一度「真剣勝負」を始めれば、普通はどんなに弱い人が相手でも手は抜きません。手を抜けば負けます。キリストではないので、自分が悪くないと思っているのに私が悪うございましたなどとは言えません。　法の世界でも、強い相手に厳しいことをやろうとすればするほど、そのしっぺ返しも強烈なものになってくるのは、当然のことです。　刑罰がもっとも厳しいから、もっとも強烈なしっぺ返しができるように弁護人依頼権などというものが与えられているのです。　民事裁判という手に乗り出せば、当然そこでも強烈な答弁や挙証責任の壁に耐え抜いてやっと勝訴を手にすることができます。懲戒請求という真剣勝負に乗り出した以上、当然それなりの覚悟があるということで応対するのは当然のことです。　懲戒請求は弁護士が何年もかけて作ってきた仕事の信頼はおろか資格さえ奪い去ってしまうような重大なことです。当然かなりのしっぺ返しを覚悟しなければなりません。そのしっぺ返しが、厳しい調査検討義務であり、それを超えると考えることができる人たちが、懲戒請求することができます。　最高裁判例曰く、懲戒請求を認めるということは、決して懲戒請求をした人たちを広く免責するような性質のものではないのです。　検察官や本村氏の苦心や戦いと、求釈明さえ脅迫などといって騒ぎ立てる彼らの行動は、比べることさえ失礼に属するものとしか考えられません。　なお、橋下氏は弁護士会に職権行使を求める手続だなどと主張していますが、実際にはこれらは懲戒制度における当事者の地位を軽視した解釈で失当でしょう。弁護士会ではねられた場合の日弁連への異議申し立てや、懲戒請求を「された」だけで不利益をこうむるなど、懲戒請求それ自体に効果があるという点を全く無視したものです。確かに職権性はありますが、当事者は言ったら終了というような立場ではありません。　単に懲戒請求が懲戒のきっかけを与えるだけで当事者は言い逃げできるような制度なら、最高裁が懲戒請求者に厳しい調査義務を認めたのはなぜでしょう。まして、ここで最高裁にケンカを売るような解釈を主張するなど、とどのつまりこれまでオレ様理論だけ語ってきましたと白状するようなもの。誰かがやってしまったのを尻拭い的に弁護しているのならともかく、実務家として判例の見解にケンカを売るような行為を勧めるようなことはやってはならないことでしょう。　他方、今枝弁護士はすったもんだの末に解任ということになりました。　初期は今枝ブログを必見と書きましたし、その評価を変更する気は今なおありません。光市事件で弁護団を評論するのにあれさえ読まないのは怠惰か無能の証拠です。　しかし、語る弁護人として注目されていましたが、やっぱり内輪もめをばらしてしまうというのはまずすぎだろうと言う印象がぬぐえません。弁護団との内紛も、ちょっとしょうがない気がします。もめる直前には、弁護団を支持する立場の人からも今枝弁護士をたしなめる声も多かったのです。というか、今枝弁護士のブログ記事とか報道を大量に差し入れていたようですが、それさえ、よかったのかどうかという疑念なしとはしません。　他の20人の弁護人の方針が妥当なのか今枝弁護士の方針が妥当なのかは証拠関係が分からないのでなんとも言えませんが、内輪もめをすれば被告人との間関係もぎくしゃくしましょう。被告人が公判で暴走してしまいかねないようにも思います。　たかじん委員会に出ると言い出したり、モトケン先生と事件自体の論争を始めようとしたり、正直気持ちが分からないというわけではないだけに複雑ですが、無策だったのではないかという気もします。初期はもうちょっと策があると思っていたのですが、策がないままにかえって余計な弁護団不信を招いてしまったと思います。　被告人はやってほしいといっていたとしても、18のときから収監されている被告人、弁護人が後見的な役割をする必要がある場合も出てくるでしょう。「楕円の論理」です。信頼関係を維持しつつ、被告人の利益を守りきるというのが大変なことも出てくるでしょう。　とはいえ、報酬もなく懲戒請求にさらされながら弁護をしようとしたことは紛れもない事実であり、その一点だけでも賞賛に値することであるとは考えています。懲戒請求訴訟に関していえば、私は支持しています。　今後の活躍を祈ります。

  2007年10月18日

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• Great Battle is going to break out, in Law-abiding Nation　（There is a postscript）

  英語は適当です。　今枝弁護士によると、懲戒請求が最近になって次々と取り下げられ、橋下氏への懲戒請求が続々届いているらしいです。何でそんな情報を知っているのか怪しい部分もあるので、本当かどうかは眉に唾をしたほうがよい気もするのですが。　本当は取り下げたって懲戒請求がゼロになるわけではなく、下級審とはいえ取り下げた懲戒請求が不法行為になった裁判例もある（東京地判平成7年12月25日）のですが、取り下げると実際上手続はさっさと終わってしまうようですし、弁護団とて他にも訴える人がいる中わざわざ訴えようとはしなくなるでしょうし、それでも訴えてきた場合も損害の額の点で低く見てもらえる可能性があります。後から自信がなくなったのなら最善の方策ではないでしょうか。もちろん、今なお自分が行った調査検討に自信がある、あるいは最初自信がなかったが今になって自信があるというような方は全面戦争でしょう。　さて、懲戒請求をした人たちに今枝弁護士のほうから釈明要求が来ているようです。今枝弁護士が個人的に行ったものらしいですが、釈明といったって悪事をした言い訳をしろというのではなく、これはどういうことですか、この点についてあなたはどう考えているのですかと聞いているものです。橋下氏が民事訴訟答弁書のラストで原告弁護団に求めていた釈明と似たようなものです。　これについては、橋下氏の言うとおり無視をしたからといって違法というわけではないでしょう。民事裁判の釈明だって応じないといったって違法扱いされることはありません。基本的には、せっかく自分が有利になるチャンスを逃したり、場合によっては不利益な心証を取られるだけの話、平たく言えば自己責任です。懲戒請求は刑事告訴に近い性質を持っていますが、請求者がいきなり公人としての地位を得るというわけでもないと思います。　あえて言えば、今枝弁護士の求釈明書は、もうちょっと優しく書いてあげてもよかったと思います。橋下氏の説明もこうなってるよ・・・というのも、なんだか真綿で首を絞めているような感じがしたというのもホンネです。虚偽告訴罪で訴えるといっているわけではないにせよ、ちらつかせるのは違法とは言えないにしてもやりすぎな感じがします。　もっとも、調査検討の内容を教えろというのは、とどのつまり懲戒請求をした人が持っている、懲戒委員会を説得するだけの材料を教えなさいということですから、それ自体は覚悟を持って懲戒請求した人たちにとっては大した手間とは思いません。後になっていきなり虚偽告訴・業務妨害などの犯罪として告訴したり不法行為で訴えるとかに比べればぜんぜん優しい対応かもしれません。あの程度の文章で脅迫といったら、「契約を速やかに履行してください、履行しないと法的手段を考えます」などと内容証明を送っている日本中の取立担当者や弁護士はどうなることやら。私も院でそんな感じの内容証明を起案しましたが。　懲戒請求に際して、誰がどんな文章で請求を送ったのかわかりませんが、仮に一番多かったといわれるあのテンプレートならツッコミどころが多すぎ、もっと具体的にどういうことが言いたいのか、請求された側が知りたくなるのは当然のことでしょう。本来通用しない懲戒請求であったとしても、各人が内容を補充することによって通りうる懲戒請求になる可能性が出てくるのです。本村氏が欠席について懲戒請求したときだって、ちゃんとその辺のことは弁護士会で説明していました。　当然、本気で懲戒請求をした人たちには、こうした言い分に対してしっかりと釈明をすることが懲戒請求が認められる近道といえるでしょう。今枝弁護士個人のそれには応じないとしても、弁護士会からなされたものに応じないとなれば近道ではないどころか請求を投げるようなものです。（弁護士会は釈明の必要なく文面で判断できると考えているとは今枝弁護士談）　私は現段階では懲戒相当であるとは考えていないし、テンプレートの請求はトンデモ論法であんなのをそのまま出す人間の請求は役に立たないと思っている一方、思いもかけない事実の存在や理論構成の存在の可能性を期待している意味もあり（一度たりとも「一切懲戒請求はするな」という趣旨のことは申しておりません）、その意味で釈明にどのように応じるか、テンプレート以外にどのような請求文があるのか、興味津々でもあります。　他方、懲戒請求という、相手に正面から切りかかるようなけんかを売っておいて、今更自分は素人だから･･･というような言い分が通用すると思っているとすればそれは甘えであるか、あるいは自分が何をやったかさえ分かっていないことの証拠でしょう。そんなことでは弁解の余地はありません。橋下氏に責任の一端があるとしても、全責任を転嫁することもできません。最終的に決定したのはお前だということになります。橋下徹という弁護士を信用したんだといったって、光市事件の弁護団21人が訴訟上行ったことは全く信用せずに懲戒請求をしておいて、橋下氏が公的な場所以外で言ったことは全部信用したから責任なしというのは、身勝手極まりないダブルスタンダードです。　また、弁護士会の懲戒委員会は懲戒請求が不法行為であるかどうか判断する場所ではなく、あくまで該当弁護士が懲戒相当であるかどうか、相当としてその程度を判断する場所に過ぎません。不法行為は成立しないという言い訳を書き連ねるならば、どう考えてもピントがずれていることも付言しておきます。　民事訴訟について、不法行為について立証責任は原告弁護団にあるという主張がありましたが、誤った理由で懲戒請求をしたということが立証できたのであれば（これは懲戒請求の文面や釈明を見ることによって判断できる可能性が高いです。弁護士会の判断を待たないとという可能性もありますが）、それ以上、原告弁護団に立証責任があるとは私は考えません。　実際、どんな調査検討をしたかなんて、相手方の弁護人に分かるはずがないですし、むしろきちんと調査検討をしたならば被告側は容易にそれを立証できるはずですから、この点については挙証責任がひっくり返るでしょう。名誉毀損（罪）における真実性の証明による違法阻却についても、そんな感じの理由で挙証責任は被告（人）にあると考えられており、パラレルに考えてよいものと考えます。　最後に、橋下氏は以前自分の理由を追加してくださいと言っていましたが、今更自分の懲戒請求書に橋下氏の理由を追加すれば、こいつ自分で考えたんじゃなくて、こいつは橋下氏につられたなと一発で推測されてしまいます。特に、「理解したくもない」と書いてあるあのテンプレを出しておきながら、説明責任を追加したりしたら、つられただけだとみなされる可能性大と思われます。　まあ、橋下氏の理由で懲戒請求が通れば大丈夫でしょうが、通らなかった場合は目も当てられないことになる可能性が出てこざるを得ません。　あの理由付けで懲戒理由となると考えている法律家は少なくとも私の知る限りのブログ界にはいないということ、場合によっては橋下氏が責任を問われるか懲戒請求者が責任を問われるかというのるかそるかの関係になりかねないこと（こちら参照）を踏まえた上で、そこまでの信頼を橋下氏におきます、一蓮托生でいい、それで不利益になっても橋下氏をうらまないという方々だけがやることを勧めます。もちろん橋下氏に頼らず、それまでの自分が使っていた理屈で全面戦争を挑むのもありでしょう。　いずれにせよ、責任ある懲戒請求をしたという自信がある方々は、逃げないでしょう。　取り下げたり、求釈明に沈黙を守って「逃げた」人間は法的責任からは免れられるかもしれませんが、自分が何をやったのか分かっていなかった、社会人（学生？それ未満？）としてあまりにも迂闊であったと非難されても仕方ありません。そんな懲戒請求ばっかりだったという前歴ができれば、懲戒請求も制限してしまおうか、もっと淡白に審査して淡白にはねる運用にしてしまおうかというような運用論や立法論が出てこないとも限りません。「応援」をするつもりはありませんが、覚悟の程は見届けたいと思います。　他方、今枝弁護士は弁護人を辞任するようです。一部の人がつまらない憶測で騒ぎ出すのが見えるようです（私自身、口には出しませんがつまらない憶測をめぐらせています）が、実際問題、ブログでの情報公開については内部で不協和音もかなりあったようですし、当初ブログを紹介した身としては変節と思われるかもしれませんが、本村氏の発言を受けて止めてしまうなど、ちょっと今枝弁護士にも策がなさ過ぎたような気がします。　法律家がほとんど誰も支持していない橋下氏の説明責任論に乗ったから、橋下氏が調子に乗り始めたのだという感想も正直あります。「そこまで言って委員会」に出ると言い出すなど、正直マジかよと言いたくなるようなこともありました。　私はどうして橋下氏の土俵に乗って話そうとするのか、感情的な面はともかくとして、理詰めでは理解しかねる部分があります。　　とはいえ、今枝弁護士の今後の活動はしっかり見守っていきたいと考えています。　もうすぐ検察の最終弁論。そのすぐ後に民事訴訟の弁論準備。年の瀬には弁護側最終弁論で判決は年明けとなるでしょう。※※※※※※※※※追記※※※※※※※※※　今枝弁護士は辞任撤回だそうです。被告人との信頼関係がちゃんとしているのはいいですが、辞めないというのならなおのこと弁護団内部の内情ばらしをしてしまっていいんでしょうか？　安田弁護士は、彼のやった行為を愚直に徹底的に洗い出すらしいですから、ある意味では被告人との折り合いが悪くなる余地もあります。内部に外の報道やなんかを差し入れているとなればなおのことそういうこともありえます。今枝弁護士のように一般情状を攻めるようなやり方とは、なかなかあいにくいのかもしれません。　ここに来て今枝弁護士のやっていることはどうなんだろう？？と考えることが増えました。　テレビでも、内側では北朝鮮みたいだとかばかげた推測をしている人たちがいます。民主主義的な契機と自由主義的な契機は衝突するもんだということがわかっていない人たちが多すぎるのではないでしょうか。ちなみに一人はたかじんのそこまで行って委員会の言説を批判されている勝谷氏でした。「弁護団」はおかしいとか相変わらずの言いたい放題。ここまで来るとむしろ微笑ましいくらいです。　もちろん彼らの推測は取るに足りませんが、そんな攻撃材料を与えてしまったのは誰なんだ、という気がして仕方ありません。　もっとも、橋下氏などとは比べるべくもないのですが。

  2007年10月14日

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• 橋下氏の発言ミス

  　昨日の「たかじんのそこまで言って委員会」テキスト起こしで見ましたが・・・はっきりいってげんなりです。今枝弁護士はこの番組に出ようかと考えながらやめろと言われまくって（私もやめろといった人間の一人）ていたらしいですが、出ないで正解だったとしか思えません。　なお、このテキスト起こしの内容が誤りであるということなら、どんどん指摘をお願いします。　橋下徹氏談：だから、再審請求出せば死刑が止まるけれども、実際にね、裁判所が一生懸命吟味して再審開始決定が出て、開始決定がでてさらに無罪になるかどうかは別ですよね、開始決定が出るすら1%しかない、じゃあのこり99%は弁護士がね、無能な弁護士が余計な手続きをやってるってことじゃないですか。　またまたまた橋下氏の登場です。しかもまたしてもご丁寧に嘘を言っているのか誤解を招くことを・・・。花田紀凱氏も間違えていってますが、橋下氏は弁護士でしょうに、どうしてこんなことも調べないで発言するんでしょうか。あるいは、あれほど説明責任を主張しながら誤解を招くことを言うのでしょうかね。　というのも、再審請求を出したって死刑は「止めることはできません」。　再審という手続きは、「もう一度裁判を始めてください」という請求をした上で、では始めましょうという裁判所の決定をもらってもう一度裁判を始めるという、言わば２段構えになっています。　そして、では始めましょうという決定が取れるという第一段階を突破できるどうかが開かずの門とさえ呼ばれた再審の関門です。その率が少ないかどうかは難しいところです。　さて、刑事訴訟法４４２条は、再審請求をしただけでは、刑の執行停止の効力を認めていません。死刑も除外していませんから当然同様です。１９９９年には、再審請求の４日後に死刑が執行された例もあり、死刑制度にかなり強硬に反対している社民党の福島現党首らが法務委員会でこの点を追及していますが、それ自体が直ちに不適法だと追及されているわけではありません。　死刑の執行を指揮する法務大臣の署名は６ヶ月以内という刑事訴訟法４７５条では、6ヶ月の期間が再審請求の間は伸ばしてよいと規定していますが、別に６ヶ月待たなければいけないという規定でもありませんから、再審請求の最中に死刑の執行をすることは全然違法ではないことになるのです。　再審請求をして、再審を受け付けます、もう一度裁判しましょうという決定（開かずの門がやっと開いた状態）が出てもまだダメで、さらに裁判所から執行停止の決定をもらって（実際には再審開始の決定と同時に刑の執行停止の決定を出すようですが）、やっと死刑の執行は裁判が終わるまではされない保証が出るのです。あるいは、所轄の検察庁の検察官から自主的に刑の執行を止めるといってもらわなければなりません。　こうしてみれば分かるとおり、再審をしているから死刑の執行ができないというのは、別に弁護士が法を逆手にとっているわけではありません。請求中の死刑を避けるというような実務が定着しているとしても、それは行政が勝手に気を回しているだけに過ぎません。つまりは行政の責任であり、国民が法務大臣の任命責任を議院内閣制の元で追及することで解決しなければならない事柄なのです。　それとも、橋下氏はそんな役にもたたない請求を持ち込んで、裁判所のキャパを埋めるんじゃない、とでも言いたいのでしょうか。これ自体ものすごい善解だと思いますが、私の知る限りそういう観点を持っている人は過去に一人もいませんし、再審請求など全体から見れば微々たる物です。　ついでに、・・・無能な弁護士が余計な手続きというのは、またしても弁護人の仕事を理解しているのかどうか疑わしい発言と言うべきでしょう。再審請求者から依頼を受けた弁護士は、被告人に最大限有利な見地から再審事由を探して主張していくのが当然と言えるでしょう。彼が有能で、再審理由なんかないから自分は再審請求しないよ、さようならなんていったら確実に債務不履行になるでしょう。再審請求の場合といえど、弁護をする立場になったならば当然立たされる立場は同じというべきでしょう。　ついでにもう一つ、別のところにツッコミを入れておきましょう。今なお懲戒請求テンプレートを適用しているサイトです。　彼の論理展開はこうです。ところで、 「弁護士に懲戒請求をすると、損害賠償をしなければいけなくなるぞ」 という威しが、ネット上で、チラホラ見受けられますが、 本当でしょうか？その根拠として挙げられている判例を、きちんと 読んでみましょう。 良く見かける最高裁の判例は： http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070424155439.pdfで、この中から、他方、懲戒請求を受けた弁護士は、根拠のない請求により名誉、信用等を不当に侵害されるおそれがあり、 また、その弁明を余儀なくされる負担を負うことになる。 そして、同項が、請求者に対し恣意的な請求を許容したり、広く免責を与えたりする趣旨の規定でないことは明らかであるから、 同項に基づく請求をする者は、懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように、 対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査、検討をすべき義務を負うものというべきである。 そうすると、同項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、 請求者が、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、 あえて懲戒を請求するなど、 懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、 違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。 という部分が恣意的に抜き出されて引用されていますが、 この判例は、単に 訴訟に負けた弁護士が悔し紛れに相手弁護士に対して 嫌がらせを目的として懲戒請求をかけたというもので、 今回のこの話とは、状況が異なります。 では、普通の懲戒請求の場合はどうなのか、というと、 この前に、以下のようなことが述べられています。弁護士の懲戒請求は、請求者において懲戒事由が存在しないことを認識し、 あるいは容易に認識することができたにもかかわらず、当該弁護士の名誉を毀損したり、 その業務を妨害する意図に基づいてされたものであるなど、当該懲戒請求に、 弁護士の懲戒請求制度の趣旨を逸脱し、懲戒請求権の濫用と認められるなどの 特段の事情が認められる限りにおいて、違法性を帯び、不法行為を構成する場合があり得るが、 上記のような特段の事情が認められない限り、不法行為を構成するとはいえないと解するのが相当である。 というわけで、・懲戒事由がちゃんとあると考えている・業務妨害とか名誉毀損等を意図してないのであれば、懲戒請求しても 不法行為を構成するとはいえないのです。　おそらく彼は判決文を十分に読まなかったのでしょう。判決文で何か自分に有利に拾えるところはないか・・・と思ってみていたらここに飛びついて、全体の流れを把握していなかったのでしょうね。　最高裁の判決文の流れはこうです。一、事実はこうでした二、この事実に基づいて、高裁はこういう判断基準を立ててこういう結論にしました三、でもこの判断は間違っています四、最高裁の判断基準はこうで、それによると結論はこうなります　もうお分かりでしょう。彼が自説の根拠としているのは二の部分、つまり最高裁が使い物にならないとした高裁判決なのです。　四の部分、つまり実質的な最高裁の判示はすでにこちらで展開したとおりです。　判決文はきちんと読まないと、大変なことになります。　

  2007年10月08日

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• 品性のない光市事件評論（追記あり）

  　橋下氏提訴報道から１月ほど経って、アクセス急騰もようやく落ち着きました（もっとも落ち着いたといっても従前に比べてかなり増えていますが）。正直言ってほっとしています。もっとも10月中旬に予定されている検察の最終弁論の後で何が起こるかはわかりませんけど。　このアクセス急騰で目標としていた大型ブログをいくつか追い抜いてしまいました。普通はアクセスが増えるのは喜びますが、はっきりいってこの事件でアクセスが増えても嬉しくありません。そもそも罪もない人が２名死んだ事件をタネにアクセスを増やして喜ぶ人間がいるとすれば、風上に置けない人物だと思います。　さて、光市事件に関しては、論争をする方々に品のない人がいるのが目立ちます。　いわれるまでもなく、この事件はいろいろな意味で重大事件であり、本村氏が極刑を望むのは当然ありうる心情です。私も、本村氏の弁護制度に対する理解などを批判したことはあってもその極刑を求める心情を批判したことはありませんし、死刑判決に反対したこともありません。　そして、さらに一人の命を奪うかもしれないというのですから、相応に襟を正して論じるのが当然といえるでしょう。ことこの件に関しては、私はいつもなら書いている、つまらないギャグや冗談は排除して書いてきたつもりです。　ところが、論争方法の中に、その品のなさには絶句せざるを得ないものがいくつかあります。　このブログでも某氏は下世話な用語まで、それもこの事件を直接論評するため、あるいは論争のために例示などで用いるのではなく（例示としてなら、警告の上反転しないと見えない形式で私も出したことがあります）、ただ私への侮蔑として用いていました。被害者が性的にも辱めを受けている事件であるにもかかわらず、平気でこういう発言を持ち出す人たちは何様のつもりでしょうか。　全く事件についても制度についても勉強する気がないのに、人を侮辱するのだけは一人前と言う人も多いです。質問や意見であれば最大限応対しますし、私は比較的反対説へのキャパシティが広い部類で、立法論のレベルにしてもそれもひとつの考え方と認めることが多い（散々批判しているし支持していない説明責任に関する橋下説も「問題提起としてはあり」と考えています）のですし、専門家ではない以上私の理解が間違っていると言う可能性も認めますが、侮辱が先に来る人間を相手にそこまで応対しようと言うほど優しくはありません。　しかも、そういう人に限って、専門家に対して「上から目線だ」だの、「国民をバカにしている」だのと言い募っています。私みたいな専門家の域に遠く及ばない人間相手ならいざしらず、現役弁護士に対しても多いです。　ごく一部の天才を除けばその分野に関してきちんと勉強した人間の方が論理も知識も優れていると言う、世の中の当然の条理にさえ噛み付くというのでしょうか。　もう見ないよ、なんて捨て台詞を残して去っていく人も。たかがブログを見たくないなら見ないのをとやかくは言う権利は私にはありませんが、何で捨て台詞を残すのでしょうか。　少年法61条を無視して被告人の実名をコメントに書いた人も。問答無用で削除と致しました。少年法61条違反は刑法230条名誉毀損罪の見地からも問題があります。そもそも他人が犯罪者であると報道するのは名誉毀損であり、公共の利害に関する事実で公益目的で真実の場合のみ処罰されないと言うことになっているのですが、公表の禁止されている事実は公共の利害に関する事実ではないと考えれば、結果的に刑事処罰の可能性は十分ありえます（この解釈をめぐる論争はかなり分かれておりこの解釈が必ず正しいとはいえませんが）。　ちょっとネットをめぐればすぐに分かってしまう被告人の実名ですが、その公表に手を貸すつもりはありません。　他のブログでも、弁護団擁護派と目された人たちへのブログへの攻撃的コメントは品性のないものが所々に見られます。　また、「弁護団の素晴らしき主張」などという情報がネットに流れまくっていましたが、あれは嘘が入っていることが明らかとなっています。ｗｉｋｉｐｅｄｉａにも記載があります。あれをコピペして、ブログその他に貼ってこんなのを主張するのは侮辱だ冒涜だ失笑だと言っていながら、それが嘘だと未だに気づかないのか気づいているのに訂正記事も記事削除もなく知らんぷりする人たちもいます。　人間生きていくには一つの事件にかかりきりとなることができないのは分かりますから、一度事件について書いたらどこまでも事件を追い回す必要があるとは思いませんが、間違いの入った情報を流し、しかもその内容が被害者を傷つけるとか言って人を非難しておきながら、放置と言う姿勢は低劣と言わざるを得ないでしょう。　そして、止めというべきが「あの」橋下氏の出席報告に関するブログ記事。被害者が性的辱めを受けている事件でどうして必然性のない侮蔑的下ネタ発言を何回もできるのか、私には理解不能です。　人間、厳粛な場でも不謹慎な発言が口をついて出てしまうのは仕方のない面もあるとは思いますし、私のこれまでの記事だっておよそ無謬とは思いませんが、それを多数回繰り返すのは品性を疑われても仕方ありません。　説明義務とか、世間の目で懲戒事由を判断すべきと言うような、橋下氏の主張の正当性を言動の品性で計るつもりはありませんが、それにしたってこの重大な件で、弁護団は人間じゃない品性がないと言い募る人たちの中に、このような人たちがいる（全員がそうだというつもりは全くありません）というのは、情けないことです。　２ちゃんねるとかを見るとお互い様の部分も見られるのですが、ブログ界では品のない論争をしているのはどう考えても弁護団攻撃派という傾向が顕著に見られます。　弁護士法１条で社会正義がどうだ、と言っている人たちは（本当は職務を通じての社会正義なのですが）、弁護士法２条を読まれたことがあるでしょうか。　弁護士は、常に、深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律事務に精通しなければならない。 　とあります。弁護士に社会正義や品性を求めるのに、自分たちは教養や法令はともかくとして、品性さえなくていいと言うのでしょうか。　どのような立場をとろうとかまいませんが、品のある論争を望みます。※※※※※※※※※※追記※※※※※※※※※※　福岡で3人が危険運転致死傷で死亡した事件で、またしても弁護人叩きが発生しています。　弁護人が被害者の父親の居眠り運転を主張したためで、よく被害者に向かってそんなことがいえるな、と言う論調です。　むろん、証拠関係が分からないので、主張の真偽自体は私にはなんとも言いようがありません。　ただ、おそらく被告人が主張したものではないでしょう。よほどのことがない限り、後ろ側の車に乗っていた人が前の車の運転手の居眠り云々なんてまず見えるはずはないためで、実際、弁護人は被害車両の速度・内容の食い違いなど客観的なきちんとした証拠関係から主張しているようです。　これが弁護としてそんなにいけないと言うのでしょうか。　実際問題、被害者に落ち度があったために損害が拡大する、と言うのはままあることです。仮に刑法上の因果関係が否定されるものではないとしても（判例は多いのですが、被害者のおかしな挙動のために損害が拡大した場合でも因果関係は否定された判例は私の記憶の限りありません）、そのような事情の存在が量刑面に及ぼす影響も見逃すことはできません。　例えば子どもが医者の手術を受けた後死んでしまった、医療過誤だということで起訴された場合、医者としては「医療にミスはなかった、親があれほどやった術後の指示に従わないで子供を大切にしなかったことまで面倒は見られない」あるいは、「確かに医療にミスはあったかもしれないが、それだって親がきちんと看護していれば死ぬようなことはなかった」と言うような主張をすることだってあるでしょう。　外国刑法がどうか知りませんが、日本の刑法は結果発生と行為の因果関係が必要です（「よって」っていろんな条文に書いてあります）から、酒を飲んで運転したら言い訳するな！というのは、とどのつまり日本の刑法がいけないと言っているようなもので、法廷に持ち込まれても困る価値観です。　それをいけないと言うのは、とどのつまり一方的に刑を言い渡されるだけのお白洲法廷がよい、と言っているのと同然ではないでしょうか。

  2007年10月03日

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• 秀逸な記事の紹介

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｓｏｋの日記というところです。　実は、かなり前から、ここの存在自体は知っていました。自分のブログについて検索をしてみたところ、紹介をいただいており検索してさまよいこんだことがあったからです。　ここは、必ずしも法律系・法学系ブログ、と言うわけではないのですが、光市の事件をめぐるの問題については以前から論考を書かれており、私自身も学ぶべきことが多くありました。　何よりも、この記事は秀逸です。はてなで80以上のブックマークをもらっていました（私がもらったブックマークをすべて足してもそこに達しません）が、それに値する記事であります。いくつもの弁護士ブログを見てきましたが、どこよりも秀逸に思えます。　私がいくつもの記事を用い、十万字以上かけて書いていることを、さらりと読みやすい文章で、書き上げました。長い文章には長い文章のよさはあるし、思考を基本的に省略せず描いていくと言うコンセプトは一つの作戦だと信じていますが、それでもすばらしい文章だと思います。　私と彼の一番の違いは、私が悲観派に属し、分からないものは仕方がない、とにかくこうなっているんだ、というのを押し立てるしかないと考えていること。　彼が楽観派（悲観派との対比で非難のニュアンスではありません）に属し、話していけば効果はあると言う発想をしていることです。　もっとも、必死になってタテマエを押し立てているだけの私でも、ある程度でも理解しようとする人たちはそれで理解してくれていますし（法律家系ブログでは、ブログ界全体の割合からすれば断然理解している人が多いです）、対話路線でも理解しようとしない人はしないので、実際上の差はそんなでもないようにも思います。　　私はこれまでかなりここに記事を書いてきました。全体を見ようと思うと、かなりの手間です。あまりの多さに理解を放棄している人もいるでしょう。　それなら、ぜひこちらを見ていただきたいと思っています。先述したような理解の相違はあるにしても、ここの記事を理解できる人たちとなら、話が通じるであろうと私は考えています。　なお、この記事は向こうにＴＢさせていただきます。　もうひとつ、江川紹子氏の記事も紹介しておきます。　藤井誠二氏といい、櫻井よしこ氏といい、この辺をちゃんと理解しているとは思えないことを平気で言っていますし、宮崎哲弥氏など売れっ子評論家としては事態の尻馬に乗っているとしか思えない言説を平気で吐いていますが、この件に関する江川氏の論考は信用に値すると思います。若干言わせてもらえば、手弁当で集まった原因を死刑制度論と結びつけているのに問題はあるような気はしますが、それでもでっち上げ説には厳しい見解を向けており、虚心に読めば、ネットに氾濫する罵詈雑言の嵐を鎮めるには十分すぎるほどです。　お前の言うことなんか信用しない、と思っている皆さん、これらのご意見を読まれてはどうでしょうか。　もちろんこれらの方々の意見とお前の意見は違う、お前の意見はこういう点で間違いだと言われてもけっこうです。　ぜひお読みください。

  2007年09月29日

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• 橋下氏に哀れみを覚え始めました（追記あり）

  　別に裁判で負けるから、ということではありません。というより、判決予想を前提にした文章はここには書きません。判決がどっちに転ぼうと、私は今の橋下氏にある種の哀れみを覚えてしまうのです。　私が橋下氏に対してきつい批判をしてきたことは、多言を要しないところでしょう。もちろん、これまでの批判を撤回する気もありません。しかし、橋下氏は今、後ろに下がることはできず、前に進むしかない状態だ、ということを否応なく感じるのです。　私が弁護団で、勝訴の見込みが立ったとしましょう。　そうしたら、私は橋下氏に和解の手を差し伸べることを考えるかもしれません。金銭による被害回復以上に、この裁判の最大の目的は刑事弁護というのはこういうもんなんだというのを知らしめることにあると考えるからです。その目的のために、賠償額を下げるから、橋下氏のテレビの顔を使って刑事弁護を啓発するような活動をしてほしいと、手を差し伸べることを考えると思います。（弁護団が実際に受けた損害がどれほどかわからないので、そんなこと考えない、せめて金で回復してほしいという原告の方もいらっしゃるかもしれませんし、それを否定することはできません）　　橋下氏は、弁護士という存在をライトで親しみやすい存在にしたという意味では、この件で「彼の発言は軽い」と指摘した丸山和也弁護士と並んで日本トップクラスの功労者だと思います。裁判で金を得るよりも、橋下氏を転向させて活動に協力させる方が、弁護のタテマエも知らしめることができるし、おとなしく頭を下げれば、橋下氏自身に対する懲戒請求もいい方向に向くでしょうし、当事者の間では一番丸く収まる結末であると思います。では、私と同じ発想する弁護士の方がいらっしゃったとして、橋下氏が和解に乗ってくるでしょうか。　残念ながらその可能性は限りなく低いように思います。橋下氏がその気を起こすかどうかも問題ですが、私が橋下氏なら「怖くて」できません。直接・間接いずれにせよ、橋下氏の発言の影響で懲戒請求をした人が日本中に延べ4000人いるわけですし、実際に請求しなかった人でも、そうだそうだいいぞ橋下といっている人はたくさんいるわけです。（懲戒請求の実人数は1000以下だと思いますが）　ここで和解して変節をすることは、彼らをトカゲの尻尾のように切ってしまうということにほかなりません。たとえそれが橋下氏の法的責任という意味では一番楽であっても、そうすれば橋下氏がどれほどの社会的非難を浴びるか、想像もつきません。弁護士としての懲戒処分よりも辛い事になるかもしれません。　私がそれを如実に感じたのは、橋下氏がブログにアップした準備書面や答弁書です。確かに原告の主張などに対する応戦という領域があったのはそうですが、弁護士会の制度疲弊や、世間が事件と関係なく不満に思っているところの羅列に過ぎない、余事記載というべきところが大変多いのです。弁論準備手続でも橋下さんは何が言いたいのですかと裁判官に突っ込まれ、これは関係ないでしょと検討の俎上に上るのはあの答弁書の半分にもならないのが目に見えるようです。　橋下氏だって、まさかああいうことを言えば裁判に勝てると本気で思っているとは考えられません。（本気でそう考えているなら別の意味で哀れみを覚えます）裁判にとにかく勝ちに行くなら、例えば懲戒請求をした連中が勝手にやったことだ、自分のせいではないといったりするのがもっとも可能性がありそうなところです。というか、ネット上で橋下氏を支持する人たちの少なからずはそういっています。　でも、それは実際に懲戒請求した人を切り捨てる論理であり、橋下氏のこれまでの論理からすれば到底取れないものです。　つまり、橋下氏はもう後には引けないのです。是が非でも、少なくとも自分の語った懲戒理由の正当性を主張することによってこの民事裁判に勝ち、さらにおそらくなされるであろう彼自身への懲戒請求を全面的に迎撃するしか生き残る方法はないのです。　弁護団は、全面敗訴ということになれば、判決理由にもよりますが、まず間違いなく上訴するでしょう。橋下氏は、下手な訴訟進行をすれば例え勝っても一般の懲戒請求者を身代わりにしただけになったうえ、傍論判決のおかげで上訴もできませんということにだってなりかねないですから、うかつなことはできません。　モトケン先生など、足立・安田両弁護士以外の弁護団に対して欠席以外の理由で懲戒理由ありという一審判断が出たら自分も代理人に名前を連ねる、史上最大の大弁護団結成の可能性もあるとまでいっています。史上最大の弁護団といえば安田好弘弁護士が強制執行妨害で起訴された件の2100人、日本の弁護士の10人に一人ですが、これをも上回るというわけです。　そして、橋下氏が民事訴訟で正当性を徹底的に争えば争うほど、こと控訴上告などをすれば、今度はそちらの懲戒請求で無反省でますます傷口に塩を塗ったということで処分が重くなるということだって十分に考えられることです。橋下氏が民事訴訟で勝ったからといって直ちに懲戒から逃れられるとは限りませんし、負けようものなら裁判所までがその「違法性」を認定するということになります。それこそ、懲戒しないことはほぼ不可能になるのではないでしょうか。　そして、現実に処分されては弁護士という資格でテレビ番組に出続けることも不可能になるでしょう。いくらテレビ番組が弁護人たたきを放送したかと思えば次の口で冤罪は許さんなどというような厚顔無恥な番組作りをしているからといって、弁護士会の正式な決定に逆らってまで橋下氏を使い続けるとは私には思えません。　つまり、彼は「世間」をなまじ味方につけたばかりに、とにかく前に進むしかなくなってしまったと思います。「絶対に訴えてやる！！」というのは恐ろしいことだと以前ここに書きましたが、それを地でいく状態になってしまったのです。　もちろん、いいか悪いかどうかの判断を別に、全て自分のやったことが原因です。お前らのせいだなどということはあれほど空気読め発言をしておきながらむちゃくちゃでしょう。　しかし、彼だって最初はちょっとだけ語ったつもりだと思うのです。ここまでことが大きくなるとは考えていなかったような気もするのです。そう思うと、なんとなく彼にも哀れみのようなものを感じてしまうのです。　追記　今度はうってかわって激しい文章です。　橋下氏のブログでの自己陶酔ぶりには呆れ返りました。　必死になって記者会見を開き・・・って、記者会見なんて、橋下氏がしゃしゃり出てくる前だって散々していたことです。公判とかの度にいちいち記者会見を開いていたではないですか。主張に変化があったってことは最高裁から言っていたではないですか。マスコミは全然そういうのを報道してこず、かえって捻じ曲げて伝えていました。しかも、その報道の尻馬に乗って、「安田って弁護士が考えたとしか考えられない」とかなんとか言い放って誤解を促進していたのは誰あろう橋下氏です。　記者会見なんてしない方がいい、と言う説もありました。私は記者会見をこれと言って問題視していませんが、説明責任を肯定する見解よりは被告人の利益にならないから記者会見はやめたほうがよかったと言う見解の方にシンパシーがあります。　また、情報発信の重要性といいますが、これまでのそれによって「誰が何を得たか」。少し考えてほしいものです。　被告人が何か得をしたでしょうか。更新意見書は突っ込み所満載と指摘する人たちだっていました。そして、方針変更については、被告人質問で聞かれることだから予め語るわけにもいかなかったと言う事情があります。そこに被告人質問以前から説明責任論を押し立てて懲戒事由とか言ってきたのが、他ならぬ橋下氏です。橋下流説明責任の履行は、被告人の利益を守る、あるいは反しないものではなかったと思われるのです。　そして、本村氏自身が不快の念を表明し、更新意見書は削除。もちろんあれほど活動をしてきた本村氏が論争をするなというのはダブルスタンダードで、本村氏もやめろと言わず「良心に任せる」と言ったのですが、結局被害者を傷つける結果を招きました。結果論とはいえ、今枝弁護士のブログ開設は橋下説を気にしすぎた失策だったように思います。　そして、今枝弁護士のブログを見た人たちだって、弁護の基本ルールさえわかってないから、説明などまるで受け付けないような荒しまがいの人も相当多かったのです。実は私も火消し的に投稿していましたが、焼け石に水でした。第一、懲戒請求の大半はテンプレートらしく、「理解したくもない」などと言っていた人たちばかり。今から立場を変えるなど懲戒請求がろくに検討したものでなかったのを自白するようなものです。　配慮する態度が見られると言うのも、配慮ができる局面に入ったからに過ぎないと思います。弁護団は最初から差戻審の審理は迅速に進めさせていたし、欠席事件の後は安田弁護士だって記者会見で本村氏に謝っていたし、公式に欠席届だって出していたのです。それも、ちょうちょ結びやリハーサルだけを大騒ぎしたマスコミがかき消してしまいました。　残りたった１ヶ月、就任から正味２ヶ月もない期間で、主張を変えた被告人に付き合う２人きりの足立・安田両弁護士。他の仕事だって抱えているでしょう。　マスコミの言いたい放題に翻弄されながら事件と格闘している中で、どうして弁護団にそこまでの労力が費やせたと言うのでしょうか。しかもそれで弁護団が２１人になって仕事が速くできるようになり、差戻し審理を迅速に進めたのに、弁護団の人数は徒党を組んだなどと文句は出ていても、迅速さに触れようとするひとは弁護団バッシング軍団には一人としていません。　それとも、酒気帯び運転の法定刑を間違えた橋下氏にいちいち抗議した獅山向洋彦根市長のように、例えば「全員が死刑廃止論ではない」などと申し入れをしなければいけないでしょうか。その辺の誤解ばら撒きへの抗議に対して「本質で議論してほしい」とか何とか言っていたのはどこの誰だったでしょうか。　被告人は殺意はない、真実はこうなんだという本質部分を一生懸命になって主張していたではないですか。　橋下氏がそもそも弁護活動がこれまでしてきたこと自体どれほど知っているの？本当に集会に参加したのと言いたくなるほど言っていることが杜撰に思えます。まして、誤解のばら撒きに貢献した当人があのようなことを言うというのは…いや、これ以上言うのはやめましょう。この事件を論じるのに相応しくない言葉です。　　

  2007年09月27日

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• 緊急更新：「品位を失う非行」とはなにか？

  　弁護士法５６条の品位を失う非行。実は、この意義は日弁連その他が纏めた弁護士法の概説本を見ても、はっきりしないところがあります。纏めるのは難しい、と言ってしまっており、裁判例が品位を失う非行だと言ったもの（弁護士が取り消せと言って裁判所に訴えた場合）が紹介されるにとどまっているのです。　そして、その内容については橋下弁護士はこういっています。　「世間一般の基準で判断されるべきである」と。　私はこの判断基準に異議があります。　といっても、世間一般の基準という言葉自体は、間違いとは思いません。その部分だけ切り取れば正当だとも思います。　世間的に醜悪とされる行為が品位を害する非行であり懲戒事由となるという可能性を否定することは、私にはできません。それは犯罪行為を中心とした違法行為に限るともいえないように思います。　　しかし、私は、世間一般の基準を含めて、「法秩序全体の見地」から検討されるべき事項に他ならないと考えています。　つまり、世間一般の声を上回るものとして、橋下氏の「弁護士業界内の常識」というようなものではなく、「法秩序全体の見地」に従うべきであろうというのが私見です。正直言っておそらくこの見地に反対する実務家はほとんどいないし、橋下氏といえど正面切って噛み付かないのではというくらいの自信はあります。（あくまでも私の勝手な想像であり、実際そうかは存じません）　言われれば簡単なことで、日本は民主主義国ですが、同時に法治主義、法の支配を採用し、憲法を頂点とした法体系によって統治されている国であり、弁護士はその法のプロフェションとして、国家的公証を受けて認められている存在で、憲法にも弁護士の存在は規定されていますし、憲法37条その他の定める、「資格を有する弁護人」において「資格」は弁護士とされましたから、その意味でも弁護士は憲法上の存在となっています。　そして、法秩序を無視したやり方は、多数者の原理によっても認められません。日本国憲法は個人の尊厳を最高価値とし、多数者原理は劣後するものとしています。憲法前文や違憲立法審査権の存在を考えてください。　弁護士というのは法律を扱う職能集団なので、そこで常識になるのは法秩序が中心になると思われますが、「弁護士業界内のなんたらだから」ではなく、「法秩序だから」それに従うということです。　理屈的には上記のとおりですが、実際問題としても、世間一般が考えているからそれでいい、ということでは、オレ様論理が通用し放題でしょう。嫌がらせに近い懲戒請求に頭を痛めている弁護士も少なくない中、平成19年4月24日判例が出ました。光市事件の懲戒請求が話題になる1ヶ月前で、この判例が出て光市事件抜きに喜んでいた弁護士もいました。　橋下氏は否定していますが、あんなやつの弁護をするのは許せんということもありえるかもしれません。橋下氏は、世間はそのへんきちんと判断しているといいますが、その判断の当否を別にしても、世間の見地からどうだ、というのは、そういうのが起こったとしても、「世間」の名の下に認める、ということに他なりません。　世間が認めない行為であろうと法秩序全体の見地から容認できるもの、むしろされなければならないものについてはそもそも非行ではなく、懲戒しないということです。　法秩序全体の見地からすれば、被告人に対する誠実義務・守秘義務の存在やそれを前提にした日本の裁判の構造は弁護士業界が勝手に考えているものではなく、法の条文に明記されているものも少なくなく、裁判官･検察官・学者も含めた法律家の共通理解であり、それに従わないことは「違法」と考えられているものです。だから私は口を酸っぱくしてこの裁判例を提示するのです。　そして、弁護人がつくことや彼らが最大限の弁護活動を行うということは、憲法上の要請であるということも共通の理解であり、被害者のためと称して手抜きをしてはならないのも共通の理解であり、弁護人と裁判所で異なる職責があることも明らかです。憲法には依頼権の存在しか書いてありませんが、依頼権だけ書いても彼が弁護をしないのでは無意味です。　もちろんこうした法に対する理解は間違いである、というのであれば、そこに堂々と論戦を挑めばよいでしょう。しかし、ただ世論はこういってますというだけで覆せるとは私には考えられません。こと、憲法で規定された権利に関する領域では。　そして、その法秩序全体の見地に関する判断は、（偶然懲戒請求が認められた場合でなければ）調査･検討義務の中でどうだったかということになるでしょう。通らない懲戒請求をすれば直ちに違法というわけではありません（懲戒するかどうかの判断は弁護士会の専属権限）が、法律の条文や、まるで動かない通説的理解を「無視した」それに対しては検討義務を満たしたとはいえないと考えられます（神業のように論理を駆使してその通説的理解の論破を試みるのはありかもしれませんが、大博打でしょう）。　裁判所は「法律上の点」についても「相当な根拠」を要求しているので、少なくとも俺はそう思ったんだで「相当な根拠」を主張するのは相当な無茶と言えます。　答弁書をざっと見ましたが、橋下氏は、色々な判例があるがこれらは弁護士すら理解していないようなもの、一般人の感覚からすれば云々を主張しています。　しかし、「判例がどうだ」という問題ではありません。「弁護人として被告人にとって有利な主張をしていく」という基本的な視点があるかどうかの問題になるのです。裁判所において通らない主張をして遺族や被害者や世間を傷つけたからと言って懲戒請求をさせろというのでない限り、そこの視点があれば分かる領域であり、そこを突破するために、むしろ懲戒請求をする側が掘り下げることが求められる領域です。弁護活動なら憲法で要請された行為＝基本的に適法という視線があるのは中学公民レベルであり、懲戒請求をするというのは、それを覆えそうという、なかなか難儀なことなのです。　懲戒請求をするために調査をする権利がないのにというのなら、注意義務のレベルを下げるというのではなく、最初から懲戒請求をすべきではないというべきでしょう。私が橋下氏の素行を知らないけどテレビでなんか悪いことやってそうだから懲戒請求･･･なんてことが許されるというのでしょうか。　　　判例変更をかけてイチバチの弁護活動をしたりというようなこともありえます。橋下氏だって、最高裁は「不当懲戒請求で損害あり」といったにもかかわらず、「経験からして損害はない」と言い切って、最高裁に反していないと言いつつも、最高裁に正面からケンカを売っている部分もありますね。　もっと細かい検討は後日にしますが、答弁書の後ろ半分は政治的主張の展開に費やされている感じです。　懲戒請求事件の弁護団の方から、報告集会でのありさまが開示されました。一応ここに出てくるAという人の発言が橋下氏のブログでの記述とほぼ一致していますので、A氏が橋下氏であると思われます。師匠がお説教をしていたというのも2ちゃんねるに流れていた情報と一致します。　ただし、一字一句問題なく正しいことばかり書いてあるという保障は全くできませんので、注意してください。　　ただ、ちょっと気になるのが今回は懲戒請求に対する判断が示されていない状態での裁判であること。これまでの懲戒請求と不法行為に関する裁判例は、私の知る限り全て弁護士会が棄却決定を出した後のもの。　請求の当否に関する裁判を弁護士会以前に裁判所が判断してしまってよいのか･･･という疑問も。それで門前払いになるという可能性はどれほどあるでしょうか。

  2007年09月22日

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• 弁護人に被告人を更生させることはできるのか？

  　光市母子殺人事件の弁護人批判で、弁護人批判にはさまざまな方向性がありました。　被害者を押し立ててくるものであったり、死刑廃止論と混同するものであったり、国民の納得自体を要求したり、弁護人の真実発見を要求するものであったり。カウンセリングのプロらしき人物がこれでもかとカウンセリング論を押し立てていたこともありましたね。　嘘も混ざった情報を「弁護団の素晴らしき主張」などとコピペして人を批判するような品のない人間も目にしてきた。一説によると、私の2.5倍近い年月を生きていらっしゃるようだが。　私がそれらに対し現実を見ていないと批判したり、日本の法制度はそうなっていないと指摘してきた事は、ここをじっと見ていた人にはよくわかっているはずです。　さて、今日はといっても休み中に書き溜めた文章ですが、そうした弁護活動批判の一つに対して回答を出してみる事にします。これも本村氏が出したために大きくなったと思われる言説の批判です。　それは、「被告人を更生させるべきなのに、弁護人がかえって被告人を調子に乗せている」という批判です。　確かに、裁判という手続を通じて更生意欲を抱く被告人はいるようです。警察の取調は裁判の準備というのがタテマエですが、それだって、心と心で触れ合って、そこに信頼関係を築いて自白するというのが更生に一役買っているそうですし、検察の取調も同様。その見地から取調の撮影に対して反発する向きだって決して少なくないそうです。　裁判という場でも、判決が終わった後に裁判官が被告人に対して訓戒をすることができます。さだまさしの「償い」という歌の歌詞を持ち出して「この歌詞を見れば君たちの謝罪の言葉がなぜ心を打たないか分かるだろう」といったのは山室恵裁判官。ホリエモンの事件では、裁判所に届いたホリエモンのための手紙を訓戒の種にしていました。　弁護人の活動とて、更生に一役買う例があるそうです。弁護人が苦労して疎遠になっているような家族を説得して法廷で監督を誓わせたり、執行猶予判決になった場合の仕事先などを探してきたり、接見の際に話を聞いてあげたりすることによって、被告人の更生に一役買うこともあるそうです。私の体験談でないのが恐縮ですが、弁護人が被告人を叱りつけているシーンもあったそうです　そのためか、弁護士には被告人を更生させるという義務があると思っている人がいるようです。　　だがしかし、日本の刑事裁判という場所は、そうなってはいません。　普通の刑事裁判は被告人を更生させる場ではなく、あくまで検察の主張の真偽を見極め、真とするなら被告人にどのような刑罰を科すかを決定する場に過ぎません。そもそも、更生というのは、犯罪の存在が前提であるのがほとんどです。本村氏とて、検察の主張が正しいと確信を持てばこそ、あのような主張をし続けるのだと思います。万に一つ、弁護側の主張が正しいと信じていればそういうことは言わないのではないでしょうか。　更生を表に出した刑事訴訟観は、無罪推定の原則に正面から衝突するおそれが極めて高いのです。日本は事実認定手続と量刑決定手続が分離されておらず、検察官が証拠調べに入る前の冒頭陳述で、量刑の事情まで全部ばらしてしまって余計な予断を与えるのではないか、という批判がかねがねありました。職業裁判官のうちはまだしも、裁判員が絡むとこの辺は問題が大きいのです。　また、「更生」と称して、いいたいことをいえなくされてしまったらどうなるでしょうか。「自白して反省しなさい」と接見で言ったら、完全に孤立無援となった被告人が絶望して嘘の自白をしてしまう恐れだってあるのは富山の婦女暴行冤罪事件から明らかです。また、本人が無罪といわないなら手続をすっ飛ばして真実と違う可能性もある有罪判決を下していい、という制度は、残念なことに日本の刑事訴訟にはありません。　そもそも弁護士も検察官も、裁判官でさえ、カウンセラーではありません。刑罰の具体的な内容も知らない人だって、実務家になることはできます。私自身、たまたま興味があるから雑学的に知っているだけです。　もちろん、裁判官や検察官にその能力があったとすれば、彼らの裁量権は相当に広いので、起訴裁量や判決における量刑の裁量、訴訟指揮や取調、判決後の訓戒などということで生かすことはできるでしょうし、さまざまな知見が生かされることが望ましいことはいうまでもありません。ですが、弁護人は検察官の起訴を受ける立場であり、被告人に対して一定の義務を負う代理人という立場であり、その立場でできることは、あくまでも裁判において被告人側に「法律的に有利な言い分を最大限に主張していく」こと。更生させるためと称して言い分を握りつぶせば、この事件の弁護士のようになりかねません。身柄拘束を受けている被告人の心情はデリケートであるらしく、下手をすると被告人に有利な言い分を沈黙させることを強制することにもなります。　そこでできる「配慮」には、どうしても限りが生じて来ざるを得ません。　更生の配慮は実質的に裁判が終わっているようなとき（証拠上犯罪については争いがなく本人も争う気がない場合）に出番になるのだと思います。実際にはそういう事件も多いから、弁護士としても何とかして色々活動することもありますし、それらは一定の成果を挙げていると思いますが、今回がそういう件でしょうか。　また、法曹三者とも、彼らだけに関わりあっていられません。弁護士にせよ検察官にせよ扱うべき事件は何十件、裁判官だと普通に100件単位とかで抱えています。そんな中で彼らのためだけに徹底的に扱えという態勢にすれば、彼らの仕事量は何倍にもなり、当然その報酬はバカ高いものにならざるをえません。少なくとも今の安い国選弁護の報酬をそのまま使っていたら暴動間違いなしです。またそもそも人数が決定的に足りません。法科大学院卒業生全員法曹にして増やしても足りないでしょう。　私の法科大学院の先生に弁護士は何人もいますが、その1人（民事系担当）は「否認・黙秘している人間に自白を勧めることはない」とさえ言っていました。この辺は弁護士内部でも見解が分かれるのでどれが正しいとはいえないとは思うのですが。　司法関係者で、カウンセラーというべき能力の人たちもいないわけではありません。その例が、少年審判でつけられる家裁調査官。ある少年法の研究者はそのレベルは世界一だと思うとまで言っていた。その真偽はともかく、少年審判には、カウンセリング的な視点を持ち込むことができます。実際問題、そういう視点から作られた家裁調書が、今回の裁判でも何かと持ち上げられています。　だが、少年審判はタテマエ上は「保護処分」です。つまり、「少年にとって不利益なことをするわけではない」ということが大前提にあります。　相手が刑罰だと、罪刑法定主義からくる、構成要件の厳格な立証要求を始め、告知･聴聞・弁護・反対尋問権・自己負罪拒否権などといったうるさい原則が出てこざるをえません。光市事件の元少年だって、殺意立証が争点になるのも成年刑事手続だからで、少年審判ならあそこまでうるさく殺意立証を争点にするでしょうか。　少年法は「非行」で処分できますが、刑罰を科すのに『非行』などという曖昧な言葉は罪刑法定主義の柱の一つ、明確性原則に真っ向衝突。これを否定するには憲法改正さえ必要です。　もちろん、こういった枝葉の構成要件の立証などどうでもいいということにして、更生のためのカウンセリングを考えるような訴訟制度を導入するのは一つの立法政策かもしれません。むしろ、将来的な防犯という視点からすれば最善の手法ではないかとさえ思います。しかし、それはそれでお金がかかりますし、カウンセラーを育てたりするのは決して簡単ではないし、何より刑罰を科す事はできません。ましてや死刑など100％無理になってしまいます。　刑罰を科すぞという手続と、更生させるための手続はそう簡単につなげられるものではありません。事件によってつなげられる場合とつなげられないケースがあります。今回が、はたしてつなげられる場合でしょうか。　被告人に死刑を求めつつ、反省させろ更生させろというのは、希望としては分かりますが、無茶な要求ではないでしょうか。　　さて、光市事件本体を巡る諸相は、事件が事件であるだけに私も襟をただし、特に気を引き締めて論じてきたつもり（もちろん関係者の皆さんは私の何千倍も気を締めていると思います）ですし、これからもそのつもりですが、橋下氏vs弁護団の民事訴訟は場外乱闘であり、少しは気分を緩めてみようかと思います。　この裁判は、双方の主張がネット上で堂々公開される（予定）という珍しい事件でもあり、この裁判を素材にして民事訴訟法に関して解説する記事を書いてみようかと思っています。もちろん、私自身の民事訴訟法の復習という意味が強く、面白みには多少かけるとも思いますが。　もし嫌だというのであれば、通知してくだされば対処します。　　　　最後にちょっと気になるのは、なぜこの記事にコメントが殺到するかということ。書いた当時は何の反応もなかったのに、今更コメントが累積して小火みたいな感じになっているのはどういうことなんでしょう。しかもコメントも理屈のりの字もないものが大半でがっかりです。「オードリー」氏などモトケン先生のブログで今なお健在みたいですけど。

  2007年09月22日

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• 光市事件、最後の集中審理終了

  　極めて難しい裁判ですが、大所がひとわたり終わった感じでしょうか。　調書については、検察官の誘導や強制に近いものを主張しているようです。確かに、黙秘権の告知がないとすれば違法ですね。（黙秘権の告知がないだけで任意性なしとかにはならないとされますが、黙秘権の告知がなかったことを考慮して任意性を否定した地裁判例もあります）また、傷害致死とは意味をしらなかったとも。　少なめに見積もっても、一つ「筋としてはありうる弁解」ではあるように思います。マスコミが切り取って報道していたドラえもんだか魔界転生だかに比べれば数段まともです。　確かに、法律家あるいは法学部経験者などでなければ、殺人と傷害致死で構成要件がどう違って量刑がどうだってのはなかなか分からないでしょう。ネット上で蔓延っている、殺意なんてあってもなくても死なせたんだからどっちだっていいというような言説は、如実にそれを物語っています。（今私は皮肉を言ったつもりです）　「死刑になるぞ」と言われたというのは、映画「それでもボクはやってない」なんかでは、それに近い状況を映像にしていましたね。また、何らかの弾みで死刑という言葉が出たのでその言葉が彼の脳内で一人歩きしたという可能性もあるところでしょう。　もちろん、これらの言い分は、少年が言い逃れを試みているのか、本当に体験したとおりそう語っているのか、はたまたそう言い訳しているうちに自分でもそう信じ込んでいるのか、真相は私には分かりません。　ただし、こんな弁明が今更出てくることには、検察官や当初の弁護人、一審裁判所に問題があったのではないか（もちろん被告人がもろに嘘をついている場合や記憶違いを起こしている場合は別）という指摘もモトケン先生から出ています。　弁護人としては、どうして制度的な枠組みを教えておかなかったのか。　検察官としては、被告人がどんな言い訳をしてきても叩き潰すだけのことができるだけ捜査をするというのが基本（潰せない言い分があるというのは一部でも無罪になるということに他ならない）だし、それには被告人の全ての弁解を洗いざらい吐き出させるべきだし、その過程で殺人と傷害致死の区別くらい分かりそうなものなのに、それを怠ったのか。（殺人事件の類で殺意がないという否認の可能性は基本中の基本でしょう）裁判所も検察官と同様。そんなことも分かってないなら審理不十分という弁護団の指摘は外れていないとまで。　もっとも、個人的見解としては安田弁護士が以前語っていたことと合致していないようにしか見えない被告人の応答の内容も見受けられます。裁判官は証拠提出されない限りはそういう出版物やテレビは意識的に見ないようにするとは思いますけど、私がちゃんと読んでいないのか、誰かが嘘をついたのか、誰かの記憶違いの産物なのか。　法医学者が証言台に立ったというニュースもありました。確かに、法医学者が「軒並み」殺意認定をおかしいと非難するようでは、そもそも検察や裁判所の無能が問われなければならないでしょう。もちろん、どちらの意見を採用するかは裁判官が決すべきことです。ちなみに、弁護側の法医学者の一人には大学時代に私の大学で法医学を教えていた先生もいました。私は受けなかったけど、けっこう評判だったらしいですよ。　さて、差戻審理は、かなりの速度で進んだようです。8月は裁判所も夏休み期間で法廷はあまり開かないそうですから開廷がありませんでしたが、1ヶ月ペースでしっかりと開廷していったのは、弁護団がむしろ積極的にやっていったという話も聞きます。　人数が一人とか二人でも厳しかったと思われます。尋問準備は私も模擬でやったことがありますが、きついのなんの。それが万ページの記録前提。おまけに各人それまで引き受けていた仕事もあれば、引き受けたがために懲戒請求（橋下氏に対する民事訴訟の原告弁護士にはおおむね一人300件ちょいきているようです）に対応する手間までかかっています。審理開始から4ヶ月で重大事件結審という、この速度を少しは評価してもいいような気がするのですが、私の知る限りそういった目線を持っている人はいらっしゃらないようです。和歌山砒素カレー事件は起訴から一審判決まで3年半、その後二審判決まで2年半。本件が上告されてから上告審判決まで4年近いのと比べてみてはどうでしょう。　それと、亡くなられた弥生さんの御母堂と、本村氏の意見陳述の内容は、ぜひどこかで、切り取られた形ではなく、全文を公開していただきたいものです。NAVSあたりで、どうにかならないものでしょうか。なお、意見陳述の内容は「事実認定」の資料とすることは禁止されています。　本村氏の会見で、自分の殺したときを憶えていないのに反省できるとは思えないという言葉がありました。安田好弘弁護士も、実は死刑事件だと被告人も事件から眼を背けたり、事件も思い出そうとしたがらないが、それでは反省が得られないということを公演で言っていたそうです。意外とこういうところで見出される共通項を、意識してもよいと思います。　事実、真実に徹底的に拘るという姿勢は、真似できないかもしれませんが法律家としては心の底に大切に取っておくべき言葉だと思います。　一方、今枝弁護士の主張をどこでも全く読んでいないであろう人たちから、相も変らぬ思い込み攻撃があちこちのブログその他で登場。デスノートに名前を書けとまで言い放った人間もいます。　はっきり言わせてもらいます。なんの罪もない人が二人死亡し、さらに一人を処刑台に送るかもしれないという厳粛なところで、そういうことが言えるのかと。被害者の侮辱だ、世間の目線だといってるけど、あなたは代弁してるんじゃなくて自分がむかつくのを被害者に置き換えたり、自分の意見を勝手に世間の意見だと置き換えているのではないか、と。　少なくとも、あなたのお好きな「世間」とやらはあなたを代理人にしたことはありません。　誰がどのような意見を持とうが、それに干渉する権限は誰にもありません。しかし、自分ひとりの意見をまるで第三者の意見のように語るのだけは止めてもらいたいものです。　審理も一渡り終了しました。被告人が弁護団ともども心中を図りだしたりしないかとも危惧していましたが、それもありませんでした。この期に及んで、まだ弁護団たきつけ説を唱える人たちはもう放っておきましょう。ここまで来ると、どっちが自分たちの発想に染まりきって反対意見を受け付けない＝カルトだかわからない状態だと私は感じます。一般社会ならカルトじゃない？いつあなたが一般社会とやらになったんですか？　これまでどおり、判決予想は禁句とします。　ただ、よほどの事情の変更（それこそ被告人が判決前に死亡するとか、極端な捏造が発覚するとか）がない限り、判決がどうでも上告となることはおそらく間違いないでしょう。また、判決次第によっては、懲戒請求をした人々の首筋がいっそう冷えてしまうこともそうです。だから懲戒請求は3年間は起こせるから本気で懲戒請求したいなら待ってみたら？と以前ここにも書いたのですが。　　私はこれまで、被告人を死刑にすべきでないとか、死刑を求刑した検察はおかしいとか、最高裁の差戻し判決はおかしいというようなことは一切合財言っておりません。（最高裁の訴訟指揮はどうかと言ったことがありますが）　あくまでも手続的正義の観点から、「裁判をきちんとさせるべき」だという立場を終始貫いてきました。適正手続が守られている限り、その結果としての裁判に文句をつけるだけの力量も事件知識も私にはありません。死刑だろうと無期だろうと傷害致死だろうと、私が文句を言えることではありません。ボクシングの試合で一方に石を投げつけるような不届き者への批判にとどめたつもりです。　酌むべきものが適切に酌まれた、適正な判決が下されることを望みます。　最後に、橋下氏が訴えられた！という騒動の頃、アクセスは1000超でした。　公判中のアクセスは大体５～600です。　確かに私は被告人の罪責というより弁護人のお仕事という見地から話を進めてきましたし、多くの法曹実務家もそういうスタンスを取っていますが･･･むなしいものを感じます。

  2007年09月20日

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• 今枝仁弁護士のブログが出来ました

  　弁護士・人間・今枝仁　何人かの弁護士が確認を取ったようで、本物です。　多くの人は今枝仁という弁護士の人間臭さ（失礼）に少なからぬ感銘を受けているようですね。残念ながら、私では後法律家になれたとしても、こうした面が身についているとはいえないでしょう。　ちょっと気合が入りすぎているような気もしますが、弁護士・弁護人としての活動は最大限応援します。　皆さんも是非見てください。というか、事件をまじめに追っている人は見ないわけには行かないでしょう。　ただし、くれぐれも弁護人の役割を理解しないで感情的な非難を行うのだけは慎みましょう。今枝弁護士は最大限応対しようとすると思うのですが、それでも守秘義務や何かの関係で話せないことはどうしても出てくると思っているべきです。　今枝弁護士の言っている弁論の中身が正しいかどうかを評価するのは各人各様の感覚でいいでしょう。だから裁判員制度が出来ます。それでも、自分が証拠に触れていないと言う限界は認識しておいてください。　また、今枝弁護士はじめ、光市事件の弁護団を評価するにはそれなりの審判能力が要ります。心してください。

  2007年09月15日

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• 橋下氏の説明をテキストでゲットしましたが･･･（追記：橋下氏の誤発言指摘）

  　ここね。　なお、このテキストの内容が間違いであるということを発見したなら、すぐさまコメントなりなんなりで指摘をお願いします。私は関東人なので、見られないんですね。　さて、その上で、このテキストの内容が真であるとするならで、軽めに評論します。私の見解は既にこちらで大展開してあるので、あえて再提示はしません。　さて、これがほんとうだとするなら、これは橋下氏は本気で言ってるんでしょうか？これは、法解釈論と立法論を混同した理屈に思えます。「僕はこれ、言えるのは、一般国民が自分の日常生活で得た情報に基づいて懲戒請求をやったんであればこれは、全く僕は請求者に違法性はないと。」　最高裁判所判例がわざわざ線を引いてまで強調した（下線は最高裁が引いていたものと同じです）、下の一般論はどうなっているんでしょうか。テキストの限り全く言及なしです。テレビ説明用のパネルなどを見せたような台詞もありません。ただの書き落としか、実は表示が出ていたことを祈りたいところです。　「同項に基づく請求をする者は，懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように，対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査，検討をすべき義務を負うものというべきである。そうすると、同項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において，請求者が，そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに，あえて懲戒を請求するなど，懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには，違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。」　橋下氏は今回とは事案が違うといいますが、こうした一般論が実務において強力に規範として効力を持つことは、弁護士なら分かっているはずです。第一、何から何まで同じ事案なんてまずありえませんが、それでも判例が強力なんですから。　橋下氏は事案判決、つまり最高裁判例はあの事件限定だというようなことを言いたいのかもしれませんが、もしそうなら最高裁がHPにわざわざ下線を引くでしょうか。何年も判例として実務に多大な影響を与えてきた不当訴訟の判示に近い一般論のような書き方をするでしょうか。そして、最高裁判例の言いがかり同然の事案で、広く懲戒請求の調査検討義務を認めるような判示をするでしょうか。ただ事案としてみるだけなら、強烈な調査検討義務を認める必要があったのか、私には疑問です。（高裁が責任を否定しているから、それを覆すには必要があったのかもしれませんが）　今回の場合、最高裁のそれにあてはまるには、事実上または法律上の根拠を欠く、例えば本件なら請求書に書いた事実は嘘だった、弁護というのを全く理解せず正当な弁護を懲戒請求してしまったと後で判明した場合ということになるでしょう。　調査検討義務を導いた上で、「通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得た」ということは、普通の注意を払って調査を十分行い、それを前提に「これじゃ根拠を欠いている」と分かりうるものなら不法行為になる（検討義務違反ということでしょう）ということです。そして、それに達する情報を得られない、あるいは検討して根拠ありにならないことを知り得たなら（それを得るための調査義務に他ならない）、懲戒請求をして損害を与えてはならない、平たく言えば懲戒請求するなということになります。　最高裁は、事実上または法律上の根拠を欠いている場合の判断については、「日常生活で得られた情報」云々などということではなく、どこで得られた情報によるにせよ、「根拠を欠くことを知り得た」ということを問題にしているのです。「まぐれ当たり狙い」を許容するものではないでしょう（虚偽告訴罪では、まぐれでも当たれば罪にはならないと解されていますが）から、根拠不明瞭であることを認識しえたということが問題になります。　その上で、メディア･リテラシーを弁護士との関係でどこまで国民に期待してよいかというのが判断されるはずです。報道で国民の多数が根拠を欠かないと思っていた、というのはひとつの状況証拠かもわかりませんが、それでもただの憶測じゃないか、刑事弁護のイロハも分からないのか？ということになった場合にどうなるか。メディアを信じたというのが免責されるかどうか。　本音は語りたいことが余るほどあるのですが、もっと判決予想の域に入ると思うので禁句とします。　あえてなぜ橋下氏がそういうのか、私の読みを披瀝してみます。　「もしこんなのを一般市民に、そんな大変な検討義務を課したんだったら弁護士に対しての懲戒請求なんかできなくなります。」　要するに、懲戒請求が出来なくなっちゃうからそう解釈すべきっていう価値観に基づいて読んでいるように思えます。　しかし、自分の価値観を持ち出してどうするんでしょうか。　学者的な見解として、懲戒請求をもっと広く認めるべきだという発想自体は立派なものだと思いますし、この事件で懲戒請求が問題になる前に、そういう観点から最高裁を批判していた教授もいました。　しかしそれは学者としての立場での批判に使うべき価値観です。あるいは、既にやってしまったことを弁護するためにはなんとか最高裁判例に反しないというか、判例を変更してもらうかしかないというときに持ち出す価値観です。　実務家として人にこうしたらどうかと勧めたりするのに使ってよい言説ではありません。　ちなみに、私は最高裁の判例からは、懲戒請求は抑えようというニュアンスを感じます。弁護士法の懲戒請求を認めた規定について「請求者に対し恣意的な請求を許容したり，広く免責を与えたりする趣旨の規定でないことは明らかである」　という言葉があります。懲戒請求権（？）の名の下に、弁護士は蒙る損害を受忍せよという考え方は最高裁はおよそ取らない、とは言わないまでも限定的にしか取らないのです。･･･こうしてみるとつくづく弁護士有利な解釈の気がしてきますが、何せ最高裁が言っているのですから仕方ありません。　最高裁の解釈が気に入らないなら、国民審査で罷免でもするか国会に働きかけて法改正でもしてください。　　　　　　　　　※※※※※※※※追記※※※※※※※※　You tubeでサンデーモーニングでの橋下氏の弁明を見ましたが、呆れ返りました。　モトケン先生に至っては　「橋下弁護士は、　制度としての刑事弁護の理念も　個々の事件の刑事弁護の現場における弁護技術も　いずれもほとんど理解していないことがさらに明確になった。」　とまで。ちなみに、女性司会者は必死になって橋下氏に助け舟を出そうとしていたように見えましたが、まあこういう人でも司会がつとまるんだよなあ･･･と。　橋下氏批判の急先鋒としては「情報流通促進計画」のヤメ記者弁護士や「弁護士のため息」のM.T弁護士、「Because It's there」の春霞さんなどですが、モトケン先生は安田弁護士らに対する批判的なスタンスを保っていればこそ、かえって説得力があるだろうと思って出すことが比較的多いのです。　ちなみに私はそのスタンスにほとんど反論はありません。各論に多少疑問を抱く部分はありますが、それは誰にもあることです。　　さて、橋下氏の以下の発言に気をつけてください。　「知ってやった場合には違法がある」　上の文章をもう一度読んでください。知ってやった場合は違法なのはその通りですがそれに限定されると思ったら大間違いです。橋下氏は自分の発言がどう世間に受け止められるか少しは研究したほうがよいのでは。　「そもそもそんな品位とか信用ということを懲戒事由においている弁護士会自体もね、ちょっと、あのー、見識がないというか･･･」　あまりにもレベルが低いミスといわざるを得ませんね。それを懲戒事由においているのは弁護士会ではありません。それ以前に弁護士法56条に　「弁護士及び弁護士法人は、この法律又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。 」　つまり、弁護士会や日弁連が品位や信用を害したりするようなことをして懲戒しないというのは、「国会で決めた」法律上許されていないのです。弁護士会が懲戒事由の表を事細かに作って品位や信用を害する事情を残らず拾えてこれ以外にそんな事情はないと断言できるならいざしらず、そうでもない限り品位を害するというのを懲戒理由としないことは法改正しかありません。　これは「弁護士会の見識の問題」ではありません。こんなことも知らずに、問われたわけでもないのに語って、見識がないのはどこの誰でしょうか。悪意の有無はどうか知りませんが、あれほど弁護士会にケンカを売っている橋下氏としては印象操作をしたも同然でしょう。　先日も元検察官の獅山向洋・彦根市長の発言を巡る諸問題で酒気帯び運転の法定刑を間違えるという失態をしでかしたのはどこの誰でしたっけ。

  2007年09月11日

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• 刑事弁護が理解されるにはどうしたらよいのか

  　ここをはじめ、橋下氏のスタンスに批判的なブログのいくつかに、このような質問が飛んできていました。同じ人からのものだろうと考えています。既に答えてありますが、大きく書いて見ましょう。　それは、橋下氏をテレビという土俵で戦って潰してはどうか、という見解です。　実際問題、橋下氏は今日のたかじんのそこまで言って委員会で出てこないことにいらだっていたらしいですし。　だが、テレビという土俵で戦うということは、審判を国民全体に求めるということになります。　さて、それで事態が解決するだろうか。どうもそうは思えないのです。　　刑事弁護には、その後ろにさまざまなルールがあります。　　憲法31条で保障された「適正手続なくして刑罰なし」。　日弁連の弁護士倫理や弁護士法・刑法に定められた「守秘義務」。　刑事裁判の大原則たる「疑わしきは被告人の利益に」。　違う犯罪での処罰を許さない「罪刑法定主義」。（つまり、傷害致死を殺人で裁くのは禁止）　憲法で保障された「弁護人依頼権」と、それに対応して導かれる「弁護に関する誠実義務」。　日本の裁判の基本骨格というべき「当事者主義的訴訟構造」。　このどれもは、市民に知識としてはまだしも、思考回路として根付いていないことが、ブログ世界の趨勢からすれば予想されますが、それでは審判はつとまりません。ルールが根本的に違うのです。　例えば、論争の中で被告人に不利益なことだから守秘をしようということになっても、多くの人は逃げたと受け取るでしょう。　検察的な主張に苦しいことを言えば、どちらが説得力があるかで判断されてしまう可能性が高いのです。橋下氏は、何を血迷ったのかブログでこの主張は苦しいだろと突っ込んだことを書いていますが、苦しい理屈に突っ込まれるというのと弁護人の職責には、何の関係もありません。もっと優れた理屈があるのに苦しい理屈しか出さなかったというのなら別ですが。　こういうことを考えるのは裁判官が、被告人の罪刑責を決めるときに考えることでしょう。弁護人のそれを非難するために使うものじゃありません。苦しい主張だな、何で言ったんだ？と詰め寄られたら、弁護団はなんといえばいいのでしょう？立場上いうしかないから･･･なんて、いえないんですよ。　検察官や裁判官は、立場は違えど弁護のルールもよく分かっています。だから、弁護人が荒唐無稽な主張をしていると思っても、弁護人攻撃に走ることはありません。同情しているとさえ言われますし、被告人が否認しているのに犯行を認めた弁護人に検察官がお前は何をやっているんだと噛み付いた例もありました。　しかも、テレビの前の彼らは具体的な証拠の中身を見てはいません。これは致命的です。　比較的薄い刑事事件の記録だって、けっこうな量です。また、それらはただ読めばいいのではなく、内容をつかみながら批判的に読んでいかなければなりません。私でさえ、記録を読みながらあれっと思って前の記録に立ち戻るということは何度かありました。使い物になる弁論をやっていこうと思ったら、私程度の読みはごみ同然。安田好弘弁護士はこれを同業者が音を上げるほど丹念に読み込んでいくといいます。検察系実務家にも支持者が出るはずです。　今回の場合は家裁の記録に始まって一審･二審･最高裁と読むのに必要な記録は1万頁、写真で800枚にも及ぶといいます（年報死刑廃止2006、「光市裁判」）。最高裁→差戻審でさらに読むべき記録は増えていることも予想されます。漫画を1万頁読むのだって一苦労でしょう（単行本で1万頁なら50巻以上でしょうが、そんなに続いた漫画はそうそうありません）。しかも、漫画と違って全てにストーリーがはっきりしているわけじゃないのです。下級審･最高裁・差戻審の判決文や公判調書。証拠カードや証拠の大群、捜査段階、家裁段階での供述調書に書いた記録、個々の弁護士が書いた覚書のようなものなどなど、答えがどこにあるか書いてあるわけでもなく、そもそも答えがあるという保証さえなく、読んでいくのです。　さらに理屈を立てるためには被告人の主張を裏付けるための諸証拠・立論が必要です。殺意がなかったというならそれを裏付ける法医鑑定は？傷害致死にならなかった場合でも事実認定に変化があった場合に備え、死刑が不当であるというべくこれまでの死刑事件などをがっちり調べ、分析して被告人に有利に作らなければなりません。　裁判官は証拠として出されれば1万ページ読みます。検察官はもっと（？）読んでいます。　では、テレビや新聞の前の皆さんはこれを読むでしょうか。これを全部媒体にしようと思ったらすさまじい量の紙が必要ですし、それを読むのにはすさまじい手間隙がかかりますし、事件を把握するためには各人なりに纏めなおす作業も必要です。年次有給を何日取ればよいものやら。　テレビや新聞がそんなことをさせてくれるわけがないのです。守秘義務で問題になる点だって出てくるでしょう。　結局、長期的に司法教育を受けた上でないと、分からないのは避けられないのです。　例えば、「開運なんでも鑑定団」に出てくる鑑定士と同じだと考えると分かりやすいでしょう。その分野の教育を受けた人には分かる価値も、一般の感覚ではどうにも価値が分かりません。だから彼らに鑑定を依頼するのです。　そして、今の制度はその一般の感覚では分かりにくい価値に力をおいているのです。制度論争をしたいというのならともかく、個別の弁護団の活動の当否の論争には成り立ちません。橋下氏は、制度論争をしたいのではないでしょう。　もっとも前向きで抜本的なのは市民の法教育をきちんとして、基本的な思考回路を作ることなのですが･･･。　義務教育や高校レベルでそこまで求めるのは教育現場的に無理でしょう。主要六法のうち、憲法のイロハと民法の相続、消費者系の法律くらいは公民や家庭科で教わるにしても、その他はフリーパス。　また、教育現場以外ではどうでしょうか。大の大人を法教育のためだけに拘束するわけにもいきません。法教育に限らず、市民が受けておいたほうがいい教育は少なくありません。日弁連その他がダイレクトメールを送ったところで読まずに捨てられるでしょうし、新聞に特集を組んだところで読んでくれる人はわずかです。唯一使えそうなのがテレビその他なのですがそのテレビに出てくる弁護士はというとあの体たらく。というか、あの体たらくでないとテレビでは使ってもらえないんでしょうけど。　それでも、「人情派」と名高い（まあそれはテレビ用なんだろうけど）丸山和也弁護士のほうから苦言が呈されたにもかかわらず、やっぱり丸山弁護士もかまれる始末。弁護士一人や二人が応戦に出たところでどうにもならないか。北村弁護士で一発逆転･･･はちょっと予想が甘すぎたようです。　本当に刑事弁護を理解してもらうにはどうしたらよいのでしょうか？理解してもらえないとあきらめて制度改革がなされるまでの間小さい思いをしなければならないのでしょうか？　ちなみに、橋下氏は自分では懲戒請求をしていなかったようです。以前ここで、「やってないとすれば風上にも置けないのでやったと信じる」と好意的に解釈したのに、ひどい裏切りです。もしかしたら彼が素晴らしい懲戒請求の理屈を作っているかもなどと密かに期待していたのですが。先日の放送では最高裁判例もほとんど触れてないというし、がっかりです。　まあ、彼の素行や何かを批判しても仕方がないので、この辺にとどめますが。　また、橋下氏から署名活動をやってほしいという話が出ているようですが、８年ほど前、カレー事件で黙秘をやめるように遺族が求めた署名活動を受けて法学セミナーには、「署名運動がされても中身は真剣に読まない、署名は主張を誰が支持しているかを表すものに過ぎない」という判事補の匿名投稿（みな匿名で書くコーナーだけど）があったことを付言しておきます。その判事補と今度の担当裁判官が同じ発想なのか違う発想なのかは保障しませんが、この判事補の発想は私に近いのは間違いありません。　　最後に超重要事項。　被告人弁護団の一人であり、橋下氏に対し民事訴訟を提起した一人でもある今枝仁弁護士が、ネットでの広報的な活動に乗り出し、コメントを記載するようになりました。超初級革命口座を皮切りに、弁護士のため息、元検弁護士のつぶやきなど。　これは絶対に読むべきです。弁護団批判をするのにこれを読まないというのは、聖書を読まずキリスト教を語るようなものでしょう。　ネットで出回った「弁護団の素晴らしき主張」は既にwikipediaでさえ誤りが指摘されている状態。罪のない２名が死亡した事件を論じる最低限度の姿勢として、そんなものをブログに貼り付けた人は削除すべきです。　また、以前ここの記事を紹介していただき、情報集積地の様相を呈している「弁護士のため息」にこの記事はTBさせていただきました。

  2007年09月10日

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• 焦げ臭くなってまいりました。

  いよいよこのブログにもおそろしい波がやってきた。　9月3日から5日間にかけて、1日1000をも越えるアクセスの大群。5日間で6000にも達しました。1日の最高は1600でしたが、半分の800に達した日だって五指で十分だったのに。そして、それに伴い、たくさんのコメントが寄せられた。　光市母子殺人事件を集中的に扱い、弁護団バッシングに対して批判を繰り広げてきたここに、非難コメントが殺到した。　なお、このブログ記事に個人名が書かれている方で、名前を仮名化・削除してほしいと言う方、あるいはリンクから外してほしいというご要望がありましたら、すぐにも応じます。　光市事件でコメントが殺到した原因、その契機はやはり弁護団の一部の弁護士により橋下氏の提訴という事態になったことによるのであろう。判決がどう転ぶかを予想したわけではないし、少なくとも判決前に判決予想は書かないというポリシーから、どっちの判決が正しいという気もないが、（個人的には橋下氏は嫌いであるが、それと判決がどうあるべきかは別問題）これでネット世論に火がつき、このブログが2ちゃんねるかミクシィで紹介されたのだと予想している。　まあ、そんなことはどうでもいいのだけど。　私だって、昔は反権力＆人権派を気取っていたこともあったが、司法試験の勉強をすると、不思議なほど法律家たちの通説に納まってきたように思う。むしろ厳罰主義にさえなっているようにも思うほど。昔のことを思い出すと恥ずかしくなることも多数。理由は分かりませんが、やはり法律家たちの体系がよくできているということなんだろう。　　　さて、ここで私を攻撃するコメントの多くに共通して見られることは、事実をまるで提示しないということ、そして世論や世間の風というものを絶対視というか法に優先するものであるかのようなことを言っていること。批判的なコメントでも、そうでないものもあるし、そうでないと私自身も嫌悪感がない。　事実の提示がないというのは、致命的に等しい。　「オレはあいつの不法行為の被害者なんだよ」　「不法行為とは何のことで、どういけないんですか。それを裏付ける証拠はありますか」　「オレはあいつの不法行為の被害者なんだよ」　傍から見ればただ言い張る危ない人か機械かオウム（鳥ですよ）にしか見えないし、裁判をやったら一発敗訴確定だろうが、それと同じなのである。　私は、「弁護団が死刑廃止に事件を利用しているという証拠はなく、また例え利用しているとしても、そのために不当な行動を行なわない限り非難するのはおかしい」と主張している。実際、弁護団には死刑廃止論者ではない弁護士もいるようである。　弁護団は22人（当初21人だったと記憶しているが、増えた？）もいるから、各人思惑はある程度違うかもしれない。被告人を弁護するのにかかってくる精神的なきつさを克服するための動機が死刑廃止論にあるかもしれないな、とも思っているが、それも一つの可能性だし、死刑存置論でも廃止論でも当然克服すべき領域だし、動機がどこにあろうが非難できることでもない。そんな聖人君子など、いなかろう。キリストに「まず罪のない者から石を投げろ」と言われて石を喜んで投げる人がたくさんいるわけではないと信じたい。　あえて理由をつければ、弁護団が弁論要旨掲載したのは年報死刑廃止であるというのは一つの状況証拠だろうが、そうだとしても、今のところ死刑廃止論に由来する「不当な行動」を行っているとは思えないし、最高裁の欠席事件なら、それに当てはまるのは安田・足立両弁護士だけのはず。実際問題、最高裁での遅延を理由に安田・足立両弁護士以外に懲戒請求をした人がいるとかいないとか。承継的共同正犯（刑法総論の教科書を読んでね）じゃないんだから、到底通りえないだろう。全く嘘の理由を書いたら本当に虚偽告訴になりかねない。　死刑存置論者の弁護士（世間一般で10％に達しない死刑廃止論、弁護士といえど死刑廃止論が過半数とは正直思えない）だからと言って、被告人の死刑を回避する弁護活動をしないとなったら一発で懲戒処分だろう。　しかも、当然被告人の弁護が不当であることを主張できるのかと思ったらこれがまるでできていない。まあ弁護が不当だみたいなことを言っている人はいるけど、今の裁判制度を根本から誤解していたり、それって思い込みじゃないのと突っ込まれて終了なものが多すぎる。刑事訴訟法その他の条文も、学説も判例も有権解釈（法務省の担当者など行政側法律家がなんと言っているか）もなし。　私がこの問題に首を突っ込むにあたって真っ先にしたことは「この判例」を提示することだったんだが。　そして、彼らが最後に飛びついたのは何かというと、「人間じゃない」「世間はみんなそう思っている。」　橋下氏がブログで世間の空気を分かってないとか何とか言っているが、少なくとも私は世間の空気がどんなものかは分かっている。そして、同時にその世間の空気は無理解に由来すると思っている。世間が言っているから正しいとは限らないと思っている。第一、世間は刑事弁護というものを全く知らないのである。私なら詳しいかと言われればぐっとなるが、私よりはるかに詳しい法律家がこぞって弁護団をあのように批判するのはおかしいと言う批判をしているのもまた事実である。　さらに、完全な私の独自の見解だが、今この段階で世間の空気を説き伏せるのはおそらく無理であり、今はとにもかくにも弁護に関するタテマエの土俵を死守し、世間の空気が弁護のタテマエを侵食することを防ぐのが大切だと思っている。今すぐに正面戦争を挑むことほど無茶なことはなく、建前を守って日はまた昇るということに期待するしかないと思っている。囲碁でいう我慢のときだ。我慢していて耐え切れず、例えば法改正がされたらそれまでである。元々日本は民主国家、法改正という事態に立ち至っては、いかなる法だって国民の手で改正されてしまう。憲法改正の限界論など理論面はともかく実際には無意味だ。それはそれで一つの時代の流れであろう。　ちなみに、橋下氏と同じく「行列のできる法律相談所」のレギュラー弁護士、北村晴男弁護士の動きで一発逆転があるかもしれないとわたしは勝手な予想をしている。　私は弁護団の一部が提訴をしたことは、その観点から一つ評価をしている。もちろん自己の権利の救済を求めて裁判に訴えることは権利であり非難すべきことではないが、裁判という場で弁護のタテマエが知らしめられるということになれば、タテマエの土俵は守りきることができる。例え因果関係否定とかで原告が負けても、弁護が適法たる場合はどうであるのかという判断は示されるだろう。外野は勢いづくが、弁護のタテマエの土俵は守れる。弁護の建前くらいは地裁の民事の判事だってよくわかっている。気配りの聞く判事だと、傍論を多用して理解を求めるのに協力するかもしれない。　弁護に関する有名な判例といえばこの判例だが、それが塗り変わる日が来るかもしれない。　もっとも、弁護団が懲戒相当と判断された日には一大事。日本の刑事弁護を吹っ飛ばした弁護団ということになるかもしれない。　最後に、この件がすっかり場外乱闘の観を呈し、本来の事件が忘れられやしないかというのも一つ不安である。　地裁・高裁が最高裁にぼろぼろに非難されるような量刑で判決を書かなければ、「今更」こんな主張が出てくることもなく判決が何であるにせよこんなことにはならなかったんだろうなと思えてならない。　本気で事件を追っている人たちにとっては、この騒動はひどくむなしいものにうつるのではなかろうか。私だって、アクセスが増えること自体は喜ぶが、人が2名死んでいる悲惨な光市事件でアクセスが跳ね上がったって、例え支持者ばかりでもちっとも嬉しくないのである。

  2007年09月08日

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• 橋下氏の「不法行為不成立説」は本当か？

  　＞法律オタクのお坊ちゃん弁護士が、この弁護団に対して懲戒請求をすることが、逆に違法になるなんてヌカシているけど、心配御無用。懲戒請求が違法とされた裁判例があることはありますが、その件と今回の件は全く異なる。懲戒請求が違法となるのは、明らかに懲戒事由が存在しないのに、それを分かっていながら懲戒請求をかけた場合。特に弁護士が不用意に相手弁護士に対して懲戒請求をかけた場合なんだ。今回の件は、「所属弁護士会の信用を害し、品位を失うべき非行」にあたるかどうか、評価が必要な場合なので、全く問題ありません。オタク法律家がどのように考えようとも、今回の弁護団の弁護活動によって、世間的に弁護士の信用が失墜したことは明らかなんだから（この集会に出ているカルト集団弁護士たちは、世間の空気に触れていないので、世間的に弁護士の信用が失墜しているなんて全く感じていないけど。）。一般市民の方々が、この弁護団の弁護活動によって弁護士っていうものが信頼できなくなったと感じれば、弁護士会が懲戒処分を下すかどうかは別として、懲戒請求をかけることは全く問題ありません。　これ、懲戒請求を煽ったとして問題になっている橋下徹氏が自分のブログに書いた文章。　正直言って、分析がものすごく甘いと思います。本当に不法行為になるのでは･･･という指摘もたくさんありますし、その中には最高裁判例はおろか下級審の判例まで引用して詳細に検討しているもの（こちら）もあります（橋下氏含め不法行為否定説はそこまでやってない）から、それに応戦しうる理屈を用意しなければならないところですが、これだけでどうにかなるんでしょうか？　私が弁護団に対して好意的な解釈をしているように、橋下氏に好意的に言えば、橋下氏の脳内では、十分に彼らに反駁して懲戒委員会や法廷でも対抗しうる理屈が出来ていると考えることはできるでしょう。　ただし、それを受け売りしても懲戒理由は作れません。裁判で不法行為の訴状が出されたときに、答弁書としてあのブログの内容をそのまま出して、その通りだと納得する裁判官はいないでしょう。成功している弁護士であるなら、大事なのは「自分の意見」ではなく、懲戒判断権者の心証や、弁護士が懲戒取消や不法行為で訴えてきた場合に担当裁判官の抱く心証や判断であることは分かっているはずです。いくら裁判官を批判して、それが筋が通っていても、裁判で負けては意味がありません。　懲戒を支持する人たちにとって、橋下氏のように簡単な説明をしてくれるのは心強いでしょうが、簡単なことを言っているということは、例え彼の提示しない論理に大きな飛躍があったりしても検証できないということです。簡単な説明に飛びつき小難しい説明は無視するのは、こと結論が分かれている場合には危険です。　その観点からすれば、今回の橋下氏の文章は不満としか言いようがありません。＞懲戒請求が違法となるのは、明らかに懲戒事由が存在しないのに、それを分かっていながら懲戒請求をかけた場合。　何度も出している平成19年4月24日最高裁判所判例の判示は、「同項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において，請求者が，そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに，あえて懲戒を請求するなど，懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには，違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。」　橋下氏のいう明らかに懲戒事由が存在しない場合というのは「事実上または法律上の根拠を欠く場合」に対応すると善解するとして、それを分かっていながら…なんてことはありません。むしろ「普通の注意によりその事を知りえたのに」というのは、重大な過失でなくとも不法行為になる証拠に思えます。　これまでの下級審の裁判例でも、基準の言い方は多種多様ですが、懲戒事由が存在しないのにそれを「分かっていながら」懲戒請求しないと…なんて、損害賠償否定例の裁判例だって言っていません（平成9年9月17日東京高裁など）し、また、最高裁判例が出た以上最高裁と矛盾抵触する部分は当然変更と考えるしかありません。学者的な視点から批判するのは自由ですが、実務でそれで勝負しようとするのは実務家失格でしょう。　ついでに言えば、懲戒請求を取り下げたとしても損害が無かったことにはならんという判例（東京地判平成7年12月25日）もあります。取り下げたのに不法行為が成立したのです。（最高裁判例は取下げについては言及なし）＞特に弁護士が不用意に相手弁護士に対して懲戒請求をかけた場合なんだ。　「特に」と書いていますが、弁護士でない私人の請求でも懲戒請求が不法行為となった裁判例はあります。先日の最高裁判例だって、弁護士に限らず、弁護士の依頼人たる一般人にも不法行為の成立が認められています。「お前自身は悪くないが雇われの行動に責任を取れ」というのではなく、「お前も悪い」と言われているのです。　東京地裁平成5年11月18日裁判例は弁護士により高度の注意義務を課すようなことを言っていますが、一般人免責を意味するとは読めませんし、最高裁判例は弁護士であることを考慮していますが、一般人と弁護士で一般論を区別して論じていません。　もちろん橋下氏は弁護士がやらなければ不法行為とは書いていないし、それくらい分かって書いたと考えるにしても、私人だから安心というような誤解を植えつけるような文章はどうでしょうか。＞今回の件は、「所属弁護士会の信用を害し、品位を失うべき非行」にあたるかどうか、評価が必要な場合なので、全く問題ありません。　確かに評価が必要なのは事実でしょうし、懲戒請求が不法行為となる可能性を減らす事情であると考えるのは賛成です。　しかし、評価が必要だから懲戒請求が不法行為になりえないわけではありません。　先日の最高裁判例は、「法律上当然の管轄でも濫訴と呼ぶに値するから品位を失う非行だ」と言って懲戒請求をしたら、「法律上の根拠を欠く」と断罪され、不法行為の成立が認められたわけです。「濫訴」というような評価的要素があるにしても、およそ通用しないことを言って品位を失う非行だというのは不法行為になるわけです。　今回の件は、テンプレートに関して言えば「刑事弁護で理解できない主張をし、被害者を侮辱することが品位を失う非行である」というもの。　弁護実務において、大切なのは裁判所に認定される主張をすることであり、反射的に被害者を侮辱することもやむをえないと理解されている中で、通らない主張であると理解できないことに過失が無いと判断されるのかどうか。　　弁護士だけの集会としたことに橋下氏は噛み付いていますが、元々弁護士だけで集会やら勉強会やらを開くのはよくあることだそうですし、弁護士だけで会場は埋まってしまったそうです。　弁護団は必死になって自分たちの立場を明らかにしようと記者会見や出版をやっているのに、（掲載媒体が「年報死刑廃止」であるのはどうかという気がしますが）それだけをとらえてどうしようと言うのでしょうか？　　また、信頼を害したと言えばいいわけではありません。　「証拠を偽造して無罪にしてくれると信頼してたのにしてくれなかったから懲戒請求」なんてやっていい訳がありません。弁護士としての任務から逸脱したことをする「信頼」、あるいは任務をさせないような「信頼」を害したといったって、それは外野の駄々以外の何者でもありません。　弁護士の本来的任務を観察しないと、信頼を害したという言葉も薄ら寒いのです。　どのような信頼を害したのか、その辺ははっきりさせるべきです。懲戒委員会に呼ばれる人は聞かれるかもしれませんし、下手すると一発で墓穴を掘りかねませんから、解答を用意したほうが良いかもしれませんよ。　意外にも、ネット上では橋下氏は懲戒請求という制度を教えただけだ、という主張が有力に見られます。橋下弁護士に責任を押し付けるのに比べれば、まともな反応だと思います。　もっとも、この理論構成は橋下氏としてもあいつらが勝手にやっただけだというに等しい理屈で、弁護団としてはそれならとばかりに懲戒請求者個人を訴えることもありえますから、おそらく「彼らは懲戒相当なのだから、何の問題もない」というと思われます。弁護団としても守秘義務に反せずここに反発するのにどうするか、裁判所の訴訟指揮にも注目しています。　おそらく弁護団も橋下氏が「たかじんのそこまで言って委員会」でしゃべった映像を手に入れて裁判官に見せるなどするのだと思います。懲戒請求という制度を教えただけなのか、懲戒請求しろと煽ったのかは、懲戒請求に関連する部分全体を見て、実質的に判断されると思われます。文章を一つ一つぶつ切りにして判断するようなことは、裁判所がやるとは考えられません。また、懲戒処分はただの苦情申立ではなく、弁護士としての資格･活動･名誉に多大な影響を及ぼす行為ですから、そのあたりも考慮して判決は下されることでしょう。　弁護士ブログでは先日この記事で紹介したブログも含め、去年の「たかじんのそこまで言って委員会」で橋下氏の押さえをやっていたという紀藤正樹弁護士、壇弁護士、三森弁護士、津久井弁護士、山口弁護士、JD弁護士、とっち弁護士などが既に橋下氏の行動に疑念（不法行為が成立するとまでいっているわけではありませんが）を投げかけました。弁護団に疑問を投げかけることが多いモトケン先生も、橋下氏の呼びかけるという行動は趣旨逸脱を指摘しています。　ブログ法曹界においては、橋下氏は包囲されています。　私は、市民や被害者に対する説明責任という問題提起自体を否定する気はありません（むしろ支持はしないが貴重な問題提起だという気もする）が、「懲戒請求をしてもらいたい」というのは、煽ったと評価できるできないに関係なくまずかったと思います。

  2007年08月30日

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• ついに弁護団vs橋下徹氏で全面戦争ですか

  　どうしてこんなにアクセスが急騰するんだと思ったら、そういうことですか。　　山口県光市母子殺人事件の弁護団の一部の弁護士は、懲戒請求を扇動したとして橋下氏に対する民事訴訟の提起を決定したようです。賠償請求額は一人につき100万円とか。　懲戒請求が不法行為となった最高裁判例(最判平成19年4月24日)の事案では50万円でしたから、全国から千を越えるとも言われる懲戒請求が来たことも考えると、金額的に100万はそんなにふっかけでもない（むしろ安いという説もあるらしい）ように思います。バカと週刊誌に書かれて2000万円を請求した元検事の彦根市長よりは筋がいいように思います。（もちろん、目当てはお金ではないと考えればあながち筋が悪いばかりでもないのでしょうが）　ただし、弁護士からは、訴訟の進行具合によっては、弁護団の内情をばらさなければならず、守秘義務との挟み撃ちになるのでは･･･という指摘もあるようです。争点が懲戒の適否に及んだ場合、橋下氏は懲戒相当だった、それに対して請求を煽って何が悪いと言ってくる可能性が高いでしょう（というか、それを言わないとすれば彼に応じて懲戒請求した人への裏切りに近い）。もしそうなったとして、弁護団は守秘義務との折り合いをどうつけるのか、気になるところです。　もっとも、それを言ったら結局刑事弁護への外部からの攻撃に訴訟という迎撃は使えなくなることにもなりそうですし、裁判所の訴訟指揮や法的判断が気になります。名誉毀損を類推して、橋下氏側に挙証責任を負わせるのかどうか？あるいは、説明責任という橋下氏の主張はどのように判断されるのか？　また、橋下氏が出た番組で気炎を上げていたやしきたかじん氏、宮崎哲弥氏と言った人たちや番組を放映した読売テレビが橋下氏に補助参加してくることは考えられるか？参加を申し出たとして認められるか？万一の場合、彼らも橋下氏のあおりに協力したということで狙われる恐れもあります。訴訟の帰趨によっては彼らに訴訟告知や被告として追加されることがあるかどうか？　末端（？）で懲戒請求した人たちや今なお懲戒請求のテンプレートを保存･公開している人はどうなるか？　弁護士会などはどう動くでしょうか？多数の懲戒請求が殺到して、業務に支障をきたしたという話もあります。東京みたいなところはともかく、田舎の弁護士会だと会員は100人いないようなところもあるらしいですし。　また、懲戒請求の文面に対して文書提出命令ができるか、という問題もあるかもしれません。懲戒請求は公的な要請文ですからできるという考え方もあるでしょうが、プライバシー保護の見地からできないという考え方もあるかもしれません。私は前者に賛成ですが、審査に入る前･後という視点もありえます（公開が懲戒審査に影響する可能性がある）から、割と難しい問題であるようにも思います。　懲戒請求を煽ったという点に殊更絞らなくとも、幅広く名誉毀損や侮辱と言った点で訴えていくことも可能であるように思います。少なくとも、予備的にはそのように訴えるかもしれません。　この辺は弁護団の方が私より専門的でしょうけど、試験勉強に民事訴訟法の教科書を読みながら、ちょこまかと考えてしまいます。　もっとも、訴えの提起は弁護団の一部にとどまるようで、弁護団としての組織的な動きではどうもないようです。色々と推測をめぐらせたりもしていますが、根拠も意味もない推測を語るのはやめておきましょう。　ネット全体を見る限り、多くの弁護士は、不法行為の成否云々は別にしても橋下氏に対してかなり批判的なようです。この間紹介した10件のブログのほか、いくつかの弁護士のブログが次々と橋下氏に対する批判に回っています。　橋下氏のブログ記事だけ見て安心している方々、分かりやすいものに飛びつきたくなる誘惑に駆られるのは分かりますが、分かりやすいものにすぐ飛びつくような根性でした懲戒請求がそう簡単に通るとお思いですか？　橋下氏に対する裁判の結果がどうなるか、私個人のポリシーとして、裁判予想は禁句としますが、橋下氏が負ければ、懲戒請求をした方も首筋が冷たくなってくることは避けられません。ことに、最初のwikiの管理人や現在テンプレート集を公開している某氏の首筋は冷たくなるでしょう。（見つかればの話ではありますが）まさか末端（？）の懲戒請求者に及ぶことはないと思いますが、保障はできません。あまり考えたくはありませんが、下っ端だからというので安心している人には寝耳に水を与えようとする可能性はゼロとはいいにくいようにも思いますし、ネット上にはそういう噂も立っているようです。　また、例え裁判に橋下氏が勝っても、「橋下氏の言説と懲戒請求の間に因果関係はない」というような認定だと、懲戒請求した方の首筋はもっと寒くなるでしょう。弁護団がそれならとばかりに個人を訴えてくる可能性もあります。　懲戒請求は相手に正面から切りかかるも同じ行為、腰をすえて懲戒請求をした人は、当然弁護士会などから説明を求められても受けて立つでしょうし、仮に弁護団から訴えられても民事訴訟くらいは受けて立つ覚悟でしょうから、まあ大丈夫でしょう。　なお、橋下氏の不法行為成立を否定する言説の当否については、すでに検討をしてあります。　次の日曜日の「たかじんのそこまで言って委員会」で橋下氏が弁護団の集会について報告するらしいですが、その前に先手を打って橋下氏の文章について検討した文章を公開するつもりです。

  2007年08月28日

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• 橋下徹氏の弁護団説明責任論に異議あり

  　橋下徹氏が安田好弘弁護士らを中心とした光市母子殺人事件の弁護団について、懲戒相当云々を主張していますが、「弁護団が懲戒請求が妥当だ、という原因は説明責任を守っていないところにある」と説明しています。彼のブログからどうぞ。　これに関して、思うところを述べます。彼の言葉遣いに品がないとか、そういう非難も見受けますが、それには目を瞑ります。　確かに、今後の裁判員制度に向けて、一般の人たちにも弁護人側の行動の正当性を主張できるようになるのは必要なことです。市民に理解してもらえるようにするのも必要なことでしょう。これまででもそうでしたが、今後ますます必要性が増大します。　しかし、裁判員はきちんと証拠を閲読し、きちんとした選任手続が行われ、裁判官に分からないところは直接教えてもらい、ケースに応じて止めてもらう上で判断をしてくれる人というのが大前提です。テレビや週刊誌で見たことで判決文さえ読まず全てが分かっていると勘違いしているような、神をも恐れぬ傲慢な人たちは裁判員から追い払われる可能性大ですし、そんな相手の説明責任なんて聞いたこともありません。日本人の赤ん坊にタミル語をまくし立てるくらい意味のない行動です。　また、説明責任論、それも被害者や社会一般へのそれを強調すると、被告人に対する関係で有する「守秘義務」がぶち壊しになりかねません。守秘義務は日弁連の弁護士倫理はもちろん、弁護士法23条や刑法の秘密漏示罪という形でも規定されている厳然とした弁護士の権利であり義務です。　例えば、被告人が勝手にいうことを変えたためにこのような弁護になったんだとしても、弁護人は被告人に利益にならない限り、それをばらすことは許されません。是が非でも被告人のいうことが正しいというしかないのです。自分が弁護して無罪になった被告人を「有罪心証を持っていた」と訴訟外で言い放って懲戒された弁護士だっているのです。　そうしなければ、秘密をばらされることをおそれて弁護士を国民が安心して利用できなくなってしまうと考えられているためです。これは日本に限ったルールではありません。また、刑事訴訟上の接見交通権は秘密が保障されています。秘密の保障はある意味では真相究明の妨害になりますが、秘密にしておけば、本当に自分の身を守るのに必要な事項を弁護士に安心して語れるという意味があると思います。　法廷で語ることは、世間に向けて公開される傍聴の対象や判決の基礎になりますから守秘義務の範囲とは違うと思いますが、それ以上の内部事情をばらすことは、日本の刑事裁判の構造にも悖るというべきでしょう。　それをばらすことなく一般論的な弁明をしながら、今回の件が理解されたでしょうか。限りなく疑問です。　もちろん、大学にいく程度の脳みそのある人が、一度その気になって、何時間も缶詰になって弁護制度やそれを巡る諸相を詰め込んだ上でいろいろと説明すれば、賛否は脇に置いて一応の理解はしてもらえるようにも思います。　ですが、そんなのは土台無理です。第一、記者会見で語ったことが全部報道されていたでしょうか。弁護団は分厚いレジュメを配ったに関わらずその内容さえも報道されていないといいます。時間が経って、主張の骨子がジワジワと明らかになって、弁護団の言い分に理解を示す人も増えています。　本村洋氏が大規模にマスメディアを用いて主張を展開している中、それに抗して主張の正当性を主張するためには、マスメディアを利用するしかありません。そのマスメディアがそれを全部語ってくれないのでは、どうしようというのでしょうか。　それでも、今回の弁護団は記者会見をいちいち開いて、（専門家の中には、記者会見はむしろ世論の反発の原因になるのでやめた方がよいのではという見解もある）年報死刑廃止に弁論要旨まで出し、安田弁護士らもあちこちの媒体で一・二審の弁護・検察・裁判所の手抜き振りを批判しているところです。　はっきりいって、大きな事件でも、多くの弁護士は記者会見を、それもここまで世間に目が通る形でやることは少なく、せいぜい方針を大まかに明らかにするくらいしかしない中、破格の説明責任の履行っぷりでしょう。これで足りないとすれば、それこそ先述した神をも恐れない人たちばかりのように思えます。　橋下氏は、それとも記者会見など一切開かないような弁護士たちも含めて全部懲戒しろというのでしょうか？それならそれで筋は通りますが、これまで社会一般に対して説明をしなかったことを盾に懲戒されるという話は聞いたこともありません。　説明責任を強調しようにも、守秘義務という厳然とした権利義務に対抗するだけの理屈や裏づけは乏しいのです。　説明責任的な観点から問題があったという視点はまだしも、説明責任論で世論を喚起した方がよほどよかったでしょう。　あえて言っておけば、私と彼の間の裁判観は大きく異なるように感じます。その辺が見解の割れの原因かもしれません。　私は、こと刑事裁判に関して言えば、被告人の権利保障こそが刑事裁判の主眼であると考えています。権利保障が要らないなら民衆法廷でも警察法廷でも何でもさせておけばいい話だからです。警察権力を彼らに協力させればいいでしょう。日本の裁判構造なら、裁判の場で真犯人が明らかになることなどまずありません。適正手続に基づく裁判という形をわざわざとる原因はそこにしか私は見出しません。ただ、国民の信頼保護も大切ですから、配慮が必要な事項だろうし、解釈論においても生かしていくべきところと思っているだけです。　これに対し、橋下氏は「制度の享受者は国民」という記述があります。どうも、第一は国民のための裁きであって、そこにおいては配慮すべき事項として被告人の権利を設定しているのではないか？という感想を私は抱きました。　もう一つ見逃せない事実があります。多くの人たちが橋下氏のあおりを受けて懲戒請求した内容はなんだったか、ということです。　具体的に提出された文面を全て見たわけではありませんが、ネット上で一番広まっていたのは、「あんな弁護は許されない」という旨の懲戒テンプレートで、しかも「理解できないし理解したくもない」などと、もはや説明責任以前に説明自体拒絶するような理屈のテンプレートが一番出回っていました。　また、懲戒請求の火付け役が橋下氏であることは、いまさら疑えません。刑事訴追でもされない限り、自分に関係ないなどという態度は橋下氏自身取れないでしょうし、既に消えたかつての懲戒請求を求めるwikiのキャッシュでも橋下氏の発言に言及しています。　また、弁護団に関するネット上での論争も、弁護団を批判する側から説明責任論はほとんど出てこず、あのような弁護は醜悪だという性質のものばかりでした。　現在、当初存在した懲戒請求用のwikiの管理人はネット上から行方をくらましました。　「弁護に関する説明責任をはたしていない」と「弁護内容自体許されない行為をやった」というのは、全くと言っていいほど性質の違うものです。ちょっとやそっと理論構成が違うだけという性質のものではありません。　きっかけとなったテレビ番組「たかじんのそこまで言って委員会」での発言では、確かに説明責任の点から問題があるというようなことも言っているように見えます。　しかし、それ以前に弁護団が勝手に組み立てた、ああいう主張を許していいのかというような発言ばかりが先行して、説明責任に関することはすっかりかすんでしまっているように思えます。まして、ずばりと「説明責任不履行を理由に懲戒請求せよ」なんて一言も言っていませんし、ネットを色々と検索してみましたが、その後もフォローするような大きな言説は見られないようです。　懲戒請求かけて欲しいと言い放ってから説明責任の話がずばりと出てくるまで2ヶ月以上。テレビ以外にブログという自分の自由にできる媒体を持っているのに、フォローもなし。　毎度記者会見を開いている弁護団とどっちがましでしょうか。　多くの人たちが説明責任ではなく弁護の中身自体を問題にしているという結末（実際に懲戒請求をした人のうちどれほどが説明責任を問題にしたのかは不明瞭な部分があるにしても）を考えると、理由付けの深い部分はまだしも、理由付けそれ自体が十分に理解されていなかったといえます。だとすれば、説明責任を問題にするなら、一番問題があったのは橋下氏ではないかというのが偽らざる感想です。　橋下氏のブログ記事を見て、無邪気に橋下弁護士がんばれなどと言っている人たちもいますが、私から見れば、橋下氏は直接的にせよ間接的にせよ彼の言葉に応じて懲戒請求をした人の多くを見捨てていると思います。　もちろん、橋下氏は彼らが自分のことを曲解しただけ、あるいは彼らは自分たちなりに考えてやったことだから自分と関係ないと言いたければ言えばいいでしょうし、きちんと理屈を作って懲戒請求をしている人はこんなことでびびるとは思いませんが、そういうことをいったらどういう評価が彼に下されるものか。まして、説明責任を果たしていないといって人を懲戒しろと騒いでいるのに、間違った思い込みをさせるような説明をするのでは。　くれぐれも言っておきますが、私は懲戒請求を「するな」とは言いません。私の持っていない情報や思いもかけない理論構成が存在する可能性もあり、懲戒不相当であるという保証はしかねるからです。説明責任論に基づいて懲戒請求をした方は、ぜひ上の文章を参考にして反論を用意しておいていただきたい。というか、反論が用意できないんじゃ多分通らないでしょう。綱紀委員会に呼ばれて反論できずでは困りますからね。　　彼の文章には、他にもいくつか突っ込みたいところがありますが、それはまたの機会にでも。　

  2007年08月12日

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• 弁護士の懲戒請求というもの

  　山口県光市母子殺人事件で某茶髪弁護士があおったことで有名になった弁護士の懲戒請求。　彼は、自分で懲戒請求をやったのかが気になる。まあ、「弁護団はそういうんなら自分たちが前任の弁護人を懲戒請求すべきだ」なんてことも言っていたので、まさかやってないとすれば風上にも置けないので、やったと信じておくことにしましょう。　んで、その茶髪弁護士がこの問題を扱う集会に呼ばれて、そこでの話を盾にブログで吼えてますが、あれって本気で言ってるんですかねェ？続きがあるみたいですから、評価をするのはその後にしたいと思っていますが。　確かに、弁護士の懲戒請求は、国民誰もがなしうるものとされています。（弁護士法58条）　それを捕らえて、弁護士508人によるの中止を求める声明は、国民に認められた懲戒請求権の侵害だというような理屈を声高に主張している人たちがいますね。確かに、508人でアピールをするのが賢い手法だ、とは、私には正直言って思えません。個別ばらばらにHPなりブログなりでアピールするのでも十分に思えます（私の知る限り、ネットでブログを持っている弁護士のうち4人はこの508人に名を連ねている）。アピールの内容もあまり詳しいものが伝わっていませんし、妙な誤解を与えてしまっているおそれは強そうです。彼らが懲戒請求一般をいけないといっているなら勇み足ですが、どういう懲戒請求をいけないといっているのか、それがぜんぜんわからないのですね。　だが、それでも「懲戒請求権の侵害」を主張している人たちは、懲戒請求が認められているということをどう思っているのか、全く分かっていないのが本当のところでしょう。　国民の権利を守るのは、国民自身の権利義務関係を「直接」救済する裁判作用、もっと言えば個別具体的な権利義務関係に関する紛争を終局的に解決してもらう作用としての裁判であり、そここそが中核です。個人の権利を前提にそれの救済を求める民事裁判こそが、個人の裁判を受ける権利の対象と考えられます。　例えば、犯罪の被害者その他に起訴権が認められていない現在の制度は、裁判を受ける権利の侵害にはならないと解されています。あくまでも公共の利益の保全のための刑事処罰であるというのがタテマエである以上、それをどのように受け付けるかは、あくまでも立法の裁量の範囲内というわけです。　さて、弁護士会の懲戒請求は、民事裁判というよりは刑事裁判に近いものがあります。　まず、懲戒制度の目的は弁護士に対する社会的に正当な信頼という公益を守ることであって、懲戒を請求した人や、当該弁護士個人に被害を蒙った人の救済ではありません。　東京高裁昭57年12月23日判例の該当部分を抜粋しますが、　懲戒請求権及び異議申出権は右のとおり懲戒請求者の個人的利益の保護のために認められたものではなく、所属弁護士会又は被控訴人により相手方が懲戒されることへの期待あるいは相手方が懲戒されることによつてもたらされる満足感は、単なる事実上の期待ないし反射的利益にすぎず、その侵害に対して損害賠償を求めうる法益として法律上保護されるものではないといわなければならない。もとより、懲戒の請求を受けた弁護士会や異議申出を受けた被控訴人が公正に対応して適切な処理をすべく要請されることはいうまでもないが、一般に、かかる法令遵守義務ないし誠実義務からくる要請に対する違背は、それによつて直接自己の権利を侵害された者からの争訟手続等、当該制度について法律上予定されている是正手続によつて是正されるべきことであつて、弁護士懲戒制度において単に処分の端緒となる懲戒請求及び異議申出をする権利を認められているにとどまる国民が、適正な処理手続への期待が裏切られたとして当然に賠償を求めうることにはならない。　さて、国民全体に懲戒請求権を認めた趣旨、というとそれは真に懲戒すべき弁護士を発見するために、広く耳目を世間に開くことに意味がある（処分の端緒となる）といえます。言ってみれば、刑事裁判において、検察庁に対する告発をしたり、遺族が告訴をしたりとか、近くの交番に駆け込んでおまわりさん犯人捕まえてということが誰にも認められているのと同じような趣旨であるといえましょう。　言ってみれば、目的は「公益」なのです。従って、懲戒請求が認められないからと言って個人の権利がどうだ、というのはありえないことになります。靖国参拝違憲訴訟は、例え参拝が違憲だとしても、それはあくまでも制度に対する侵害であり、個人の権利を侵害したというものではなく、慰謝料は認められないということで蛇足判決だなんだという批判が出てくるわけです。それを考えれば、そういう領域が存在するということは一目瞭然でしょう。　従って、例えば弁護士会が不当に懲戒をしなかったというような場合でも、当事者が慰謝料の支払を求めるようなことはできません。　法律的に認められているということと、個人に権利があるというのとはぜんぜん違うのです。　今回の件を離れた一般論として言わせてもらうと、気に入らない事件だからと言って、やたらめったらと懲戒処分を起こすようなことになると、懲戒制度に対する運用や制度も変わってくるかもしれません。実際問題、裁判に負けたやっかみで懲戒請求をかけて、はねられるとはねた判断をした弁護士に懲戒請求をかけるとか、続けざまに同じ理由で懲戒請求をかけるというような、ストーカー紛いの懲戒請求者もいるようです。　しかも、全部弁護士としては相手しなければなりません。ネット上での誹謗中傷のようにバカバカしいといって無視していればいいものではないのです。　こちらのブログ主の弁護士は、懲戒請求にかかわったことがある弁護士で法科大学院で教授もしているそうですが、光市事件以前に最高裁判決の一般論に批判的な見解を打ち出していました。多くの懲戒請求は、事実上または法律上の根拠を欠くもので、一般人に対しても不法行為の成立が広がりすぎるのではないか、という指摘をしていました。（大丈夫と胸を張っていた茶髪弁護士はこの辺どう考えているのやら。テレビ常連の別の弁護士も危険を指摘していましたが）　で、代わりに簡易却下、ここで以前書きましたが、さっとはねてしまうような制度を設けるのがよいのでは･･･という指摘をしていました。　日弁連によると去年1年で懲戒請求は1367件だそうですが、多分母子殺害事件に関連する懲戒請求（弁護団21名や、批判的な声明を出した508名に対するもの）だけでこれに匹敵するかと思います。　もし仮に、重大事件に関して懲戒請求が全国から殺到して、しかもそれがおよそ通用しないものばかりというような前例ができれば、簡易却下に近い制度が設けられたり、懲戒請求に制限が加わる（例えば利害関係人一定の信頼できる職業人以外からの懲戒請求を認めないとか、担保を立てさせるとか）ということも考えられるでしょう。結局、国民自ら弁護士に対する監督の機会を放棄しかねないようなことにもなりかねません。　あるいは、逆に弁護士に自治を与えているのがそもそもの間違いだとして弁護士の自治が吹き飛んだり、とか。在野の立場から国民の権利を守るという立場から戦後、強力な自治が認められるようになった弁護士会ですが、それも弁護士法を改正されてしまってはどうしようもありません。それで刑事弁護に国民や政府が文句をつけたら通ってしまうような制度など、EUやアメリカの笑いものとなること必至ですが、日本は「国民」主権ですからね。　　　懲戒請求という制度が開店休業にならず、真に懲戒すべき弁護士が発見されるのはよいことだと思いますが、自分で自分の首を絞めるようなことをもたらさないよう、懲戒請求をする人はその辺の責任を自覚した上でやってもらいたいものです。　もちろんやめろとはいいません。　正直、ネットに出回っているテンプレートがもっとマシなもので、一読しただけでなるほど懲戒理由がありそうだと思わせられるほどのものなら、弁護士たちもああいう行動に走らなかった（それでも走ったとすれば間違いなく勇み足）ような感じがします。

  2007年08月07日

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• 光市母子殺人事件と審級制度

  　最初は囲碁マニアとしての私の論考である。そこから最後に発展させる。　例えば、囲碁で自分が劣勢になったと判断した場合はどうするか。　大きく分ければ、その時に取る態度は３パターンある。（なお、盤外の行動や反則行為は考慮に入れないものとしておく）一、もう逆転できないと見て投了する。（投了）二、それでも普通に打ち続けて、相手がミスをするのを待つ。（我慢）三、多少は無理筋であるのを承知で、一か八かの勝負に出る。（突撃）　投了はある意味では最も簡単である。しかし、そもそも勝つために碁を打っているのに、簡単に勝ちはないと投げることはできない。だからこれはあくまでも最後の手段となることが多い。　我慢は、ある程度局面が進んでいない場合、あるいは差が小さい場合には有効である。少なくともそれをやっている間は簡単には負けない。相手も人間だからミスをすることは多い。じっと我慢していればいつか日は昇る可能性はある。　突撃は、最後の手段である。じっと我慢していてはもう間に合わない（相手にミスが出そうもない、あるいは多少はミスが出たとしても逆転に至らない）、という場合。その場合には多少無理でも突撃をかけて成功か爆死か･･･という勝負に出ることもある。　二と三の選択肢は、ある意味では難しく、高度な技術的判断を要求される。自分がどれくらい劣勢なのか。自分に用意できる「突撃」の成算はどんなものか。逆転までに残された時間はどれくらいなのか。相手の力量と自分の力量はどんなものか。その辺を見極めることによって、二と三は決まる。はっきりいって、個性の問題もあるところであろう。　ただ、強い人ほど基本的には二の路線を使うように思われる。強い人の場合劣勢になってもそんなに差がついていなかったり、およそ通用しないことは控えることが一つの原因だろうが、突撃をしない度胸というのも、存在するかもしれない。　この考え方は、囲碁に限るものではあるまい。　碁や将棋のように投了が制度としては存在しない世界もある。　ラグビーも、狙いやすいところでペナルティを得れば、前半ならまずはゴールを狙う。だが、ノーサイド直前に4点差以上ついていれば、どんなに狙いやすいところで信頼できるキッカーがいてもペナルティゴールよりも回してトライを目指す。例えゴールを入れたところで3点しかもらえない。結局ラインを戻されてしまい、それから点を入れる前にノーサイドとなるのが見え見えであるためだ。ある一定以上のレベルの世界では「惜しかった」という言葉は通用しないのである。　サッカーのワールドカップなどでも、後半のロスタイムに負けているチームがコーナーキックを手に入れたりすると、ゴールキーパーが上がってくることがある。本来頭のいい行動ではないのであろうことはほとんどのチームでやっていないことから明らかだが、得失点差が問題になる場合はともかく、一発勝負の場合には一か八かでもそこでの1点に賭けるしかないのだ。　ときと場合によって、最良の戦術というのは変わってくるのである。　そして、その戦術を裏付けるに当たって極めて重要なのが形勢判断である。常に最善の方法が見えるのならば、形勢判断というのは不要だと私は思うが、必ずしもそうではない世界においては、形勢判断が必要になってくる。　形勢判断を間違うと？優勢なのに自ら局面を紛糾させて自爆したり、劣勢なのにそのまま負けにしてしまうなんてことも出てくる。　　では、光市母子殺人事件の弁護ではどうだろうか。　弁護はゲームではない！！と言われるかもしれないが、そもそも弁護人は検察の指摘を批判するのが職務である以上、そこにゲーム的な要素は避けられなくなってくる。日本は当事者が訴訟のイニシアチブを握る国だ。当事者が争点だと考えて争えば、そこが争点になってくる。（もちろん、それで裁判官を説得できるかは別の問題）おとなしく自白をして争わないなら裁判も情状中心になり、否認すれば事実認定中心に裁判は進んでいく。自白をすれば、被告人は（少なくとも否認や黙秘よりは）反省していると見なしてよい情状にしてくれるのが通例である。　そういう意味で当事者の行為に裁判の行方が左右される。　今回の場合、きちんと形勢判断（自白をしても最高裁判所で死刑判決が下る！）がされていれば、地裁･高裁と最初から事実認定を中心にすえて争われたはずだった。ところが、地裁はおろか、高裁までが無期懲役の判決を下してしまったため、形勢判断は完全に狂わされてしまった。　そもそも純粋な量刑問題で最高裁が口を出すことは珍しい現象だ。　そして、最高裁が弁論を開く→形勢判断の誤りを悟ったときには、局面はかなり進んでしまっていた。下級審の裁判官の形勢判断を信用して打っていたら、後になって間違いと分かって慄然ということになったといってもよいかもしれない。　裁判は、ラグビーやサッカーのように時間もスコアも丸分かりとはいえない。まして、下級審の審理の段階で、担当の裁判官の心証ならまだしも最高裁判所の判断まで読むこと、それも判断が逆転することまで読むことは相当に厳しい。「著しく正義に反する」でなければ、最高裁は基本的に判断を変えないということにも注意する必要がある。　投了する（死刑を呑む）・・・ことはできない。争う被告人がいるのに弁護を放棄しましたなんてことは許されない。囲碁の世界では投了は権利でも、裁判の世界で弁護人がそれをするのは反則である。　今回、弁護人にとって第一に目指すべき弁護は「被告人に対する死刑の回避」である。少なくとも、死刑判決の適正さを主張することが、被告人にとって有利な弁護であることは、現行法上はありえない。　おそらくではあるが、この事件の弁護では、被告人の反省している様や、酌むべき情状、証拠の具合によっては心神耗弱や喪失を必死になって主張するのが普通であろう。被告人の主張を握りつぶすのは許されないと一般には言われるが、弁護人としては被告人に有利な判決を目指すために、裁量があるとも言われる。少なくとも得策じゃないよくらいの説得は可能であろう。普通の方策である。　ところが、今回の弁護側は八方ふさがりである。このままだと死刑判決だよ、という最高裁判決。しかも相手はプロの検察官。じっと我慢していれば綻びる･･･というのは通用しない。しかも、これまでの主張そのままで死刑の不当性を主張することは、ほとんど成功しそうにない。曲がりなりにも新証拠・新主張といえるものをしなければ、差戻裁判所も受け付けてくれない。さらに、もし仮に情状弁護をして、被告人が独自の立場からあの主張を始めてしまったら、今度の今度こそ全ては崩壊してしまう。　そう考えると、なりふり構わない突撃、すなわち被告人の見るからに無理っぽい主張に乗っかって、最悪情状がもっと悪くなる危険（もちろん、無理っぽい主張に乗せる形で、情状的なものを織り交ぜようとするだろうが）を負担してでも、死刑より悪くなることはないと開き直って弁護することになる・・・　というのがあの弁護団の思考ではないかと私は思っている。もちろん、これはあくまでも推測に過ぎない。ただ、例えこの推測が当たっていても、外に向かってはオクビにもそんなことは出せず、いやこの主張が全く正当なんだといい続けなければならないのだが。　被告人の死刑に賛成して弁護団にも批判的な見解を持つモトケン先生が、裁判の長期化を招いたのは弁護人サイドではなく控訴審の判決にあると指摘している。去年の判決以前の段階のコメントであるので現在に至るまでこの見解が維持されているのかどうかは定かではないが、私はこの見解に賛成したい。　最高裁が著しく正義に反するとして差し戻した点、特別新証拠などが出ているわけではないからしても、高裁の判断にそもそもの問題があったのではないか、と思われる。仮に高裁で死刑判決が下されていたならば、最高裁は判決文から見れば上告棄却で終了であろう。死刑事件ではセレモニー的に弁論を開くようにしているようだが、そんなのは全体から見ればほんの僅かな現象でしかない。死刑判決に控訴するのは弁護側のみであろうし、弁護団が最高裁に入ってからあの主張を始めたとしても、その主張が受け入れられない限り、差戻も何もない。今差戻し審でやっていることは全て通常の三審の段階で終わるはずである。（まさかして再審という可能性がないとは言わないが）　日本の裁判は三審制と一般に言われる。場合によって二審で実質終了したりなどということもあるし、そもそも三審制は憲法上の保障でもないので三審制という表現が正しいのかどうかは個人的には疑問がある。が、一審制でない以上、こういう審級ごとの判断のブレも、ある程度は宿命的に起こってくる。そして、そういう所に、いわゆる「傍論判決」などの問題性も出てくることになる。　　何審制を取るかは、立法政策の問題に過ぎない。一審制だって憲法上いけないというわけではない。審級について存在する憲法上の縛りは「憲法問題の終審は最高裁」「裁判拒否＝0審制はダメ」それだけである。　もちろん、事後に裁判を検証しなおす機関が存在することは望ましいであろう。独善的な判断の修正を施すのは必要に映る。ただ、そうなってくると上と下の判断の食い違いによって厄介な現象が起こってくることもまた事実。　今回の事件は、審級制度の持つ負の側面を浮き上がらせた側面も少なくないように思う。※一審判決後のガッツポーズ云々はガセらしいという情報が入ったので、削除しました。関係者の皆さんに不快な思いを与えたことをお詫びいたします。

  2007年07月25日

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• 弁護士懲戒請求テンプレートの検証

  　2週間くらい前に作ったものですが、なんだかんだで公開が遅れました。　光市母子殺人事件について、ネットに安田好弘弁護士らに対する懲戒請求のテンプレが出回っておりますが、正直言ってこれを盾に懲戒請求が認められるとは思えないものばかりです。裁判実務で取られていないしその分野の学者の本にもない独自の見解やただの感想を「理由」として羅列してどうするんでしょうか。　懲戒請求の当否を判断する懲戒委員会のメンバーは弁護士に限られず学識経験者や検察官・裁判官などの実務家も含まれますが、それにしたって法律問題相手にこれではぜんぜん説得力がないでしょう。私なら説得力があるというつもりはありませんが、私の考えることくらいは懲戒審査をする人たちも考えていると思います。　さて、そう悪くないであろうとして紹介されていたものを見つけました。確かに比較的まともですが、まだまだと思います。　私は彼らが懲戒相当であるとは今のところ考えていませんが、今回このテンプレを検討してみます。　決して懲戒請求を推進する意図はありません。むしろ、この点に答えられない懲戒請求は何の役にも立たないのではということだけです。また、運よく？弁護士会で説明できる機会を与えられたとして、何の返答もできないようでは説得力がた落ちという意味もあります。　また、仮に私の検討に従って書いても、懲戒請求が通る保証もしないし、不法行為にならない、虚偽告訴罪にならないという保証も一切いたしません。　文面はこんな文面です。スペース足りないんで各人向こうで読んでください。　これから出す批判は特にこれから懲戒請求をしようという方は素直に受け止めていただきたいです。一、被告人が拘置所で書いたとされる手紙との整合性云々ですが、拘置所で書いた手紙とどこがどう整合しないのでしょうか。具体的に書くべきですし、また説得力を持たせるには、拘置所で書いた手紙の全体文脈くらいは最低限掲げる必要があるでしょう。適当なところだけをつまみ上げて書くなんて、もっとも説得力のないやり方です。また、直接体験した情報ではないでしょうから、情報ソースも明示していくべきでしょう。テレビ、ネット、週刊誌、新聞、書籍など。　そして、弁護人には被告人に有利に観察判断して主張を組み立てる権利義務がありますから、整合しないというのがただ単に裁判所がそう認定するだろうというだけでなく、その権利義務をもってしても正当化できないという事情をはっきりさせなければなりません。弁護活動であることは明らかですから、常に正当化根拠として弁護の権利・弁護の義務が出てきます。常にそこを意識しないと、説得力は限りなく低いでしょう。二、一般常識に照らして荒唐無稽とも思えるというのはただの感想です。裁判の事実認定において大切なのは証拠と「論理則」「経験則」であり、一般常識そのものとは異なります。一般常識とは異なる経験則や一般常識以外のところにある経験則も考えられますから、一般常識と異なるのがいけないというのはまず通りません。　また、仮に経験則・論理則と置き換えて考えるにしても、どのような経験則・論理則があり、それとどう食い違うのか明示した上で、先述した弁護人の権利義務をもってしても正当化できないという事情をはっきりさせるべきです。三、裁判所法4条論は土本武司教授も裁判所批判として産経新聞の「正論」とかで主張していますが、いくつかの批判に耐えなければいけません。土本教授個人は耐えられる理屈を持っているのでしょうが、あの僅かな文章の受け売りで、しかも懲戒理由にするとなると耐えられないでしょう。土本教授も、懲戒関連には口を出さず、裁判所の訴訟指揮の問題として論及しています。　まずは八海事件判例（最判昭和43･10･15）は、「破棄判決の拘束力は、破棄の直接の理由、すなわち原判決に対する消極的否定的判断についてのみ生ずるものであり、その消極的否定的判断を裏付ける積極的肯定的事由についての判断は、破棄の理由に対しては縁由的な関係に立つにとどまりなんらの拘束力を生ずるものではない」としています。学説も、判例支持が多数説です。　本件なら、高裁判決「破棄の直接の理由」は、「無期懲役選択は不当」ということと考えられます。その裏づけである弁護側主張の否定については、実際上はともかく法律的に拘束力はないと解釈される可能性があるかと考えます。　また、直接の理由に当たると考えたとしても、「再審事由」の可能性もあります。明文はありませんが、仮に最高裁判決が示した内容で拘束力を持つものといえど、再審事由に当たればひっくり返してよいと解されるでしょう。再審は最高裁判決でもひっくり返すものですし、差戻審で再審事由が登場した場合に、わざわざ有罪判決を待って再審を請求する理由はないためです。仮に新証拠で殺意がないと立証できるなら、当然殺人では無罪であり、再審事由になりえる点に注意しなければなりません。　最後に、高裁自身が曲がりなりにもその主張をすること自体受け入れ、被告人質問などを採用して検討する態勢に入っているようであること。高裁が受け入れたのに、弁護人の主張は弁護の権利義務逸脱というのは相当な無理を伴います。　破棄判決の効力については、それでも事実関係が固まった、拘束力があるという見解も実務家に有力なようです。上記判例への反論なり射程が違うなりというはっきりした理由付けは見ないですが、今回の件はその辺は足がかりがあるかもしれません。実際問題、よほどの事情が出てこなければ広島高裁もひっくり返さないでしょう。　ただし、その上で弁護人の前述の権利義務をもってしても正当化できないほどだ、というのはよほどの論証を必要とします。死刑違憲論（昭和23年の合憲判決以降採用される気配なし）を上告趣意書に書いたら、弁護士は懲戒されなければならないという話は聞いたことがありません。　ちなみに、上告理由が憲法違反と判例違反に限られているのに形だけ判例違反で実質量刑不当による職権破棄を求める上告をしたのは紛れもなく本件の検察官。土本教授は世論の後押しにしか触れてませんが、本当は適法な上告理由に当たらない（最高裁もそう認めている）のです。もちろん、それをもって検察官を非難するつもりは毛頭ないのですけども。四、裁判の進行を遅延させる、遺族を侮辱する、二重の苦しみを与える、弁護士全体に対する社会的信頼を損なうというのは全てこの主張が三との関係で正当化できないことを前提にしなければなりません。被告人の正当な利益に奉仕する正当な弁護活動であるなら、遅延や侮辱・信頼というのは無関係です。遅延・侮辱だけを理由にして、弁護活動を否定するような立論は法律家は誰もとらないでしょう。信頼が勝ち取れる弁護は理想ですが、そんなことを言っていては弁護ができなくなります。訴追者は民主国家の公権力であり、国民の意思を代弁する存在ですが、弁護する側はそうではないのですから。　まあ、非行にあたるとなれば、その非行の重さについてはこうした側面が色々考慮されるかと思いますから、記載してはいけないとも思いませんが。五、被告（正確には被告人）自身の主張全体の信用性を損なって、被告人に不利な判決が出される可能性があるといいますが、被告人自身が曲がりなりにも被告人質問で彼らの記者会見に沿った主張内容を語っている現在、それをもって主張全体の信用性を損なうというのはどういうことなのか、意味不明です。主張を封殺しろというつもりでないのなら、最低限、どういう主張を被告人がしていて、どう不利になるのか詳しく論述すべきでしょう。　　また、被告人に不利になる恐れがあるとしても、本件では死刑が強く予想される事件の差戻審ですから、その特異な事情に注意を払わなければいけません。個人的には、適当な代替案を示すくらいのことをしないとなかなか通らないのではないでしょうか。　六、ラストの弁護活動そのもの云々は懲戒請求それ自体について何の意味もありません。（作者はそのことを百も承知でしょうが）　仮に、懲戒するには内容が不明瞭なものばかりなら、既に出してしまった人の中から、誰かが呼び出されて懲戒相当である理由の説明を求められる可能性もあります。色々な批判に耐えられるだけのことが語れるのでしょうか。懲戒請求をしておきながら説明を求められて逃げるような卑怯者は論外ですが、自分で事実関係・法的側面とも調査検討せずにテンプレートを引き写すようでは、懲戒委員を説得することは不可能でしょう。下手をすれば、せっかくまともな懲戒請求があっても埋もれる結末を招いてしまいます。　最低限、基本的な刑事裁判に関する本を読んで理論武装し、自分の書いた懲戒請求の情報ソースくらいは用意して説明できるようにしておくべきでしょう。一手間だと思いますが、懲戒請求というのはそれくらいのことですから仕方ありません。　懲戒請求に際しては、必ずしも懲戒請求者が出した論理に拘束されるわけではありません。懲戒請求の時点では何を言ってるのか分からない嫌がらせに見えるものでも、調べてみると懲戒が妥当だったから懲戒というような例もあるようです。　しかし、そのような第三者の善意をあてにして弁護士の懲戒請求という、その懐に深く切り込むような行為は危険ですし、それ以前に第三者がしゃしゃり出てきて、個々の弁護士にかなりの負担を強いることについて第三者を当てにするようでは倫理を問われるでしょう。また、各弁護士会に多数懲戒請求がある中でその辺に答えたものが全くないなら、逆に懲戒請求の無根拠ぶりの暴露と取られかねません。　利害関係者として懲戒を請求するならまだしも、第三者として懲戒を請求するなら、それ相応に心構えが必要でしょう。紀藤正樹弁護士など、コメント欄ではありますが「第三者が懲戒請求するのは原則として実態を踏まえない請求であり、実態を調査し知っている人が請求するのは適法かもしれないがテレビで聞きかじった程度では基本的に違法」とまでいっています。　私も正直それは踏み込みすぎと感じていますが、あんまり懲戒請求があちこちから乱発されるようになると抑止のために最高裁の判例の規範が広くなり、結果的に国民自ら弁護士に対する監督の可能性を塞ぐおそれも出てきます。　懲戒請求は、刑事告訴にも近い、本当に大変なことなのです。各人が色々な情報を持っているでしょうから、懲戒請求をするなという気はありませんが、署名運動のつもりでテンプレートで懲戒請求をするなら、やめることをおススメします。　また、懲戒請求は非行事由から3年間は起こせますから、もう少し事態を冷静に見極める必要もあるかと思います。高裁での公判はそんなに長くならないでしょうから、最後まで見極めて請求するのでも遅くはないはずです。

  2007年07月21日

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• 新版：死刑囚に慰謝料を支払わされた弁護士

  　去年の4月19日、光市母子殺人事件の弁護バッシングを受けて書いた「死刑囚に慰謝料を支払わされた弁護士」。何箇所かでこの記事は紹介されるに至っています。判例百選にも載っている、割合有名な判例なんですけどね。　今回、より詳細な解説や部分の訂正も加え、新版とします。量が膨大ですし、旧版の方が分かりやすいので、残しておきますが。　さて、今日扱う判例は東京地判昭和38年11月28日の民事裁判例。（旧版は「29日」と書きましたが28日です）　この裁判例、当時からかなりセンセーショナルに扱われたようです。なにせ、世間を揺るがせた事件の死刑囚が弁護士を訴えて勝訴したのですから。　この死刑囚、殺害した人数は4人。以下は彼に死刑判決を下した第一審判決から抜粋。　被告人は出生前に実父母が離別して、母親の養母＆夫の長男として戸籍に載り、その後不遇に育ち、住居侵入やら強盗やらで服役。その後仮釈放され前科を隠して結婚もしたのだが、戸籍上の父親は家計を顧みぬ大酒飲み、また父母は嫁に辛く当たってきたようだ。やがて親の要求に屈して横領を働き、それ以降どんどん横領をするようになった。　やがて、養親夫婦を殺害して自分も死ぬ他に途はないと思うようになり、被告人が修理用に使っていた青酸ナトリウムをオレンジジュースに混ぜて飲ませ、二人とも死亡させてしまったのだ。　本人は後追い自殺をするつもりだったようだが追死できず、結局逃亡。偽名を使って暮らしていたが、酔って軽微ながら傷害をしでかし、ばれるのを恐れたので、屋台店の売り子の男と知り合って、職を斡旋すると称して戸籍抄本や転出証明書を手に入れて、その上青酸ナトリウムを飲ませて毒殺、遺体はガソリンをかけて燃やしてしまった。　そのあと、被害者になり済まして一応まじめに暮らしていたようだが、窃盗容疑者として検挙されたときに写真を撮影されたり指紋を取られたりしたので、今度は日雇いの男と知り合い、戸籍謄本や転出証明書を買い受けて、なりすましがばれないようその男を絞め殺してしまった。その上（以下おぞましすぎるので18歳以上のみ反転して読んでください）遺体からは着衣を剥ぎ取り、ナイフで鼻・指・ペニスを切り、顔には切り傷30、両手のひらに切創、しまいには体中に濃硫酸500グラムを浴びせたのである。　最初の2名の段階なら酌量の余地はあったと思うが、逃げるために他の2名を、しかも別の機会に殺すというのは凄い事で、やり口も衝撃的である。実際、第一審・控訴審・最高裁とも死刑判決は維持した。私も、死刑制度がある限り死刑判決は不当とは思えない。　　さて、刑事弁護士は一審二審と裁判の審級が変わるごとに選任しなおす。今回は、彼が控訴するということで、控訴審から国選弁護人がつけられた。　控訴趣意書の書き方がわからないから教えてくれと被告人に頼まれた弁護人は、こっちで出すからこれ以上聞かなくていいよ、といった。そして、この国選弁護人は、事件の記録9冊を7回読んだ（弁護人談）上で控訴趣意書を提出した。　判例検索に控訴趣意書の文面があったのでコピペ（人名はABC）すると、右の者（被告人B）に対する殺人死体遺棄及び死体損壊被告事件に付控訴趣意書提出最終日を昭和三十五年三月三十一日と定められたので次のとおり控訴の趣意を明らかにいたします。　控訴の理由なし（一）　量刑の当不当，法令適用の正誤死刑は犯罪人の生命を奪いその社会的存在を永久に抹殺することを目的とするものであり極刑である。社会的に考えるときは惨虐であるが本件罪状を鑑みるとき死刑は止むを得ない。本件犯罪はC、D、E、Fを殺害しEの死体を損壊しFの死体を損壊遺棄したる罪の併合罪であつてその行為は実に戦慄を覚ゆるが故に刑法第百九十九条及び同第四十六条同第十条三項を適用したのは当然と思料せらる。（二）　事実誤認の有無本件犯罪は犯罪事実を証明する記録第一冊下関関係同二冊三浦関係同第三、四冊佐藤関係同第五冊被告人調書同第六冊領置調書等の証拠に基き慎重なる審理に依り犯罪事実を認定したもので事実の誤認はない。（三）　訴訟手続違反の有無違反なし（四）　刑法第三七七条同第三八三条同第三八七条関係右に該当する控訴理由なし。　つまり、一審の判決は全くごもっとも、訴訟手続も適正、被告人の犯行は全くその通り、行為態様は戦慄を覚えるもので量刑として死刑も全く適正で、控訴の理由はない、というのである。　もちろん被告人に了解など一切取っていない。それどころか公判のときまで「その趣意書の通りであります」としゃべったのである。　もちろん控訴は退けられ、死刑判決は維持された。実質的控訴権の放棄に等しい、と東京地裁は後に評している。　どうやったか被告人自身も量刑不当で控訴趣意書を提出して、控訴審では一応判断されたようだが最終的に控訴は退けられ、判決のコピーを受け取った被告人は、その後で国選弁護人が自分の控訴趣意書の中身を知ることになったのだ。（ちなみに、光市母子殺人事件でも被告人は自分がどう裁かれてきたか知らなかったとは安田好弘弁護士談）そして、刑事の終審である最高裁判所は、そのような控訴趣意書でも、曲がりなりにも調べて控訴理由なしと判断したのであるからそれにのっとって刑事訴訟を進めること自体は適法であると判断した。（最判昭和36.3.30）　だが、被告人は、その国選弁護人を債務不履行ないし不法行為で訴え、慰謝料100万円を請求した。　その弁護人も黙ってはいなかった。今の刑事訴訟において、控訴審は第一審を審査するのが基本なんだから一審記録を読んで綿密に調査したけど見つからなかったし、理由が見つからないのにいい加減な趣意書を作る事は良心が許さないからそれしかなかったんだ。弁護は被告人の権利利益に対する侵害を排除して守るんだから、不当な権利侵害なんかないだろ、と応戦に出た。　この主張のうち、東京地裁が認めたのは死刑囚の言い分の方だったのだ。僅か3万円、この判決から2年たたずに死刑は執行されて使い道もなかったと思われるとはいえ、確かに勝ったのは死刑囚である。　この裁判所の基本的な判断は以下の通りである。　一、弁護人は国選弁護人で、直接被告人と契約関係には立たないが、弁護を懈怠すれば被告人に対して義務違反であるのは変わらない。弁護人の報酬は低廉だが弁護士の公共的な性格についてくる義務であって被告人に対する義務まで変わるものではない。二、弁護人は一審の記録を読むのが基本だが、それだけでは不十分。例外的とはいえ二審になってから証拠も出せるし、量刑判断は一審判決の後の事情も考慮できるのだから、裁判記録でおかしい点が見つけられなくても、もっと調査すべきだ。三、記録を読んだり、調査をして控訴理由の有無を判断するときは、自分の主観的見解を避けて、被告人に最も有利な観点から観察･判断すべきだ。（刑事訴訟法の大家・故田宮裕教授はこれで控訴理由が出てこないことは考えられないと指摘）四、それでも控訴理由がないなら、被告人のそのことを告げていい分を聴取し、たとえそれでどうにもならないなら技術的援助はして、それ以上は被告人の善処を求めるべきだ。これ以上の行動を求めるのは弁護士としての良心と公共的責務に反する事を要求する事になるが、他方で被告人としては主観的恣意的な主張でも自分に有利な弁護活動がなされるのを期待するのは当然で、意に反して不服を主張する機会を失わせてしまう。五、刑事訴訟法が被告人に控訴権を認めた趣旨は不当判決救済に限らず、判決を不当と考える被告人に自分の見解が正当か判断を受ける機会を与えて被告人に利益保護のための手段を尽くす機会を与えるという手続的正義の要求に基づき、客観的にはいかに理由なき不服でもなお裁判所に提出して理由の有無について判断を受ける主観的利益を法によって保障されているから、それは慰謝料の対象になり、不法行為や債務不履行が成立する。六、原告が執行待ち死刑囚であることや何を主張しようとしていたかは不明な事、死刑囚自身金額はどうでもいいといっていること、一応弁護士もそれなりに調査をしたことなどを考慮して3万円である。つまり、刑事訴訟では認められる控訴趣意でも、民事法という見地からはやはり不法行為として義務違反足りうるということである。実際問題、多くの刑事訴訟の教科書や実務テキストにおいて、弁護人の任務という見地からは刑事訴訟上適法とする最高裁判決より、民事法上違法とする地裁判決の方が参考にされている。　ちなみに、平成11年1月26日の東京地裁の裁判例は、控訴審で被告人（3人殺人、2人殺人未遂で一審死刑）の意思に反して精神鑑定を求めなかった弁護人に対して慰謝料の請求を認めなかった。ただし、全体として被告人に有利な事を言っている事や、最初は被告人自身も精神鑑定にこだわる意思がなかったことが原因として上がっていることには注意しなければならない。　最判平成17.11.29は被告人の供述が変遷、最後は否認した場合に弁護人が最終弁論で有罪を前提に陳述した（被告人は異議を述べなかったようだが）場合を適法と判断している。上田豊三裁判官の補足意見は被告人の主張より不利な主張をすることが訴訟の違法をもたらすことがありうると指摘しているが、何を持って被告人に有利というべきかは微妙なので第一義的には弁護人の判断に委ねられるとしている。　実務では、被告人の無罪方向の意思に反する弁護活動は弁護人としてかなりリスキーであることは全く疑われておらず、多くの弁護士は握りつぶしたら懲戒になると考えている（田宮先生もこの裁判の具体的解決として民事慰謝料より弁護士会の懲戒に委ねるのが妥当ではないかと指摘している）し、検察官の方から「被告人が殺意を否認しているのに弁護人が殺意を認めていいのか」という非難が飛んできた例もある（参考にこちら）。　田宮先生の言葉を借りてくるに、（カッコ内もそのまま引用です）「弁護人は被告人の訴訟の代理人であり、その利益の正当な保護者であるから、被告人の意に反しての不利益な行為は、当然許されないのである。ここにこそ、裁判官や検察官と違った（彼らにも実質的弁護の義務はある）弁護人としての訴訟上の役割がある。これをみずからなげすててかえりみないのでは、刑事訴訟で弁護人の制度を設営したそもそもの趣旨が滅却されてしまう。」　弁護人がそれでもどうにもならないなら、辞任するしかないというのは日弁連の統一見解である。もっとも、誰も弁護しないで裁判が進まないでは困るし、国選弁護人は裁判所の許可を取らないとやめられないし、やめて不利益を与えれば懲戒理由となりうるし、また辞めさせてくれというに際して被告人との内情を詳細に裁判所にばらすのは守秘義務違反となる恐れがあるので実際的な妥当解決はなお難しいのであるが。

  2007年07月01日

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• 弁護士ブログにおける光市事件への反応

  　さて、予告していた通り、いくつかの弁護士の開いているブログで、差戻以降の弁護人叩き事件に関する反応をまとめました。前回８といいましたが増えています。　私も全部の弁護士ブログを知っているわけではないですし、コメント欄なども全部見ているわけではないので全てではないのですが、各人各様のスタンスを持っています。もちろん、あの手のバッシングにそのまま加担するような言論を主張している人は私の見た限りではいませんでしたが。　意見紹介が目的ですので、私の文章を鵜呑みに彼らに文句をつけにいくような行動は絶対に慎んでください。最低限向こうにいって彼らの主張を一渡り読んでから。　順番は公平を期するために５０音順。英語は日本読みに直して決めてあります。　田舎弁護士の訟廷日誌　愛媛の弁護士。PINE先生とスタンスはかなり近いでしょうか。　ホンネとして弁護人の主張に怒りを感じたとまでいい、また欠席に問題を感じているようですが、やはり弁護団に対する攻撃には問題を感じているようです。「不自然なことを言っても、説得はするけど納得してくれないならやはり法律構成してあげます」と言い、弁護士の仕事に対する理解を求めていますね。微妙に私が紹介した判例についても言及しています。　ホンネとタテマエの葛藤が比較的見えやすい文章で、ある意味では最も法律家の思考をよく現しているかと思ってみたり。　情報流通促進計画　論調は私よりはるかに過激で正直ついていけない部分も少なからずあり。　ただし、懲戒請求を煽った茶髪弁護士に対してはこれでもかとばかりに批判を浴びせています。弁護士の口車に乗せられた懲戒請求は取り下げろ、とか、「弁護士会に巣食う病巣」とまで。　少なくとも過激さだけは茶髪弁護士にも劣らない発言（？）のせいか、案の定燃え上がっています。　なるしす日記　　広島の弁護士らしく、弁護団から声がかかったり（断ったそうです）、欠席事件であの2名が代わりに行った集まり（死刑事件の弁護の弁護技術が題だったらしい）に衛星中継をつないでもらう形で参加したりしていたらしいです。仮に引き受けてそれがばれたら確実にあのブログは燃え上がっていただろうなと思うことしきり。　死刑廃止を訴えている弁護士が弁護団に参加するのは当然の流れ、さらにこの事件を素材にして死刑のあり方について世に問うということを弁護団が考えてもそれを非難するのは筋違いという指摘が。やや私と考え方が違うかな？　懲戒請求運動についても、「断片的な情報を元に懲戒請求を乱発するのは運動論として適切ではない」と指摘しています。　PINE‘ｓ　page　彼は欠席事件についての目線は極めて厳しく、今なお弁護士会できちっと調査して厳しく懲戒すべきと思うと発言しています。　他方で、差し戻し審での弁護団の弁護方針については疑問的なことも言いつつも、情報量の少なさを考慮したのか、最後は「でもそれしかないんだろうな」的な考え方のよう。懲戒請求は重大だし、信念を持ってやったんだろうから最後までしっかりやるべきというスタンス（特に批判的というわけではなさそう）も持っています。５０８人の抗議声明はちょっと情けないというのが感触らしい。　また、荒唐無稽な主張をしてくる被告人の弁護を受任したときの話もリンク先に書いてあり、かなりためになると思われますので読まれた方がよろしいかと。　日々是好日　作者は検察官出身。後述の元検弁護士のつぶやきと比べると筆致を抑えていません。受け入れられる可能性は極めて低いどころか逆効果になるのでは・・・という指摘も。元検弁護士のつぶやきでも似たような事はいっているのですが。冒涜・・・という表現はちょっと私と感性が違うのか、とも思ったり。（「一種の」とついているので微妙な部分はあるけども）　私の知る限りでは最も弁護団に厳しいと感じる見解。ただし文章が短いのでどのようなニュアンスかはつかみかねる部分も。弁護士のため息　　母子殺人事件の差し戻し審理が始まってアクセスが3倍近くに跳ね上がったようです。その主張の骨子は　一、手元の情報は少ない　二、被告人がその主張にこだわるならそれに従わざるを得ない　という点でしょうか。特に例の茶髪子だくさん弁護士をはじめとするこの問題を論じた知識人系の人々に対しては激しい批判も。茶髪弁護士は否認などの「戦闘的弁護」をやったことがないのではないかという指摘もありました。モトケン先生のところでは弁護役の視点から色々語っています。　こんなんで裁判員制度ができるはずがない、という厳しいご意見も。愚民扱いだと反発する向きは多いようですが。　また、左側のバーには刑事弁護の倫理に関しては珠玉の特集記事あり。刑事訴訟の初心者が刑事弁護人の倫理を語りたいなら、最低限これは読むべきです。というか、懲戒請求した人たちも一度はこれを読んで欲しかったかな・・・と結ぼうと思ってみていたら、なんとすっかり燃え上がっていました。対応にさじを投げる寸前のようです。　弁護士Barl-karthによる人格形成責任論　日記　ここでもたびたび援用させてもらった刑事畑弁護士。しかし刑事畑の割りに人権派色を私は感じない。死刑事件の弁護の内実や被害者と刑事司法について、貴重な論考があります。　「自分は死刑廃止論者ではない」といってますが、懲戒請求サイトからかかってきたお誘いの内実と弁護士５０８人による抗議声明の内実をもろバレしてくれています。ちなみにこの先生も５０８人に名を連ねた１人。今後どんな記事を書くのか私が最も気にしています。　（その他、声明に賛同している弁護士のブログとしてこちら）　元検弁護士のつぶやき　作者は検察官出身の弁護士のモトケン先生。法科大学院でも教えています。私が一番見ている法律家ブログで、医療と法の問題に関しても人が集まっています。大型なので特集ページにリンクを張りました。　弁護団に関して批判的なことをいうことも少なくなく、弁護としての有効性に疑問を投げかけ、さらには弁護人抜き法案のような制度論的な側面からの批判もしています。また、判決的には死刑支持で、裁判遅延の原因として高裁の無期判決を掲げていました。５０８人の弁護士の批判も燃料投下じゃないかと感じているようです。　一方、ほとんどが技術的な批判であると言っていて、懲戒請求の動きに誘いがかかったようですが自分の情報量の不十分さを理由にそれには乗らなかったそう。バッシングには否定的で「死刑廃止論利用説」を非論理的とも言っています。　ある意味では最も分かりやすく刑罰の妥当性と訴訟手続の点でコントラストが出ているかと思います。また、多数の弁護士の先生やその他の人たちが集まっていますが、その人たちの意見も目を通してみるとよいでしょう。中には安田弁護士らの殺意なし主張を色々と検証しているものもあります。（主張は無理があるのではないかというのが基本的な所感のようです）　La_causette　ネット上の諸問題では進んだ人のようながら、あんまり他の法律家の先生方と折り合いがいい感じのしない先生ではあります。　この事件に関して、一つの現実的な可能性をずばりと指摘しています。また、そもそも最高裁はどうして審理の延期に応じなかったのかという批判もあり。こんなに長引いている裁判でどうして3ヶ月すら許さないの？と。　また、去年の欠席事件の段階で、裁判所の設定した準備できる期間が短すぎる場合に、「期間に間に合わせて手抜き弁護をする」vs「すっぽかし（本件では一応は欠席届を出したけど）てでもきちんと準備して弁護をする」という究極の選択も提示（彼は後者を支持）しています。弁護団に最大限有利な解釈をした場合かもしれません（モトケン先生談）が、実際弁護団の方からそういう主張もなされているので、あながち外れ言論とも思っていません。　なかなか強烈な皮肉の効いたことも言ってます。不謹慎にも笑ってしまいました。　ろーやーずくらぶ　私とはちょっと思想の方向が違うかな。508人の弁護士の声明に名前を連ねているそうである。　こちらはずばりと「いわれのないバッシング」と断罪。弁護の存在意義の否定である、法治国家とは呼べないなど。文章自体は短いですがこの辺は私が使う攻撃材料そのままですね。そもそも最高裁の訴訟指揮に問題があったのではという見解も。　コメント殺到で炎上したので現在コメントは受け付けていません。

  2007年06月28日

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• 公判のニュースを聞いて（追記メイン？）

  　　山口県光市母子殺人事件、被告人質問の状況が耳に入ってきました。　感想をいうなら９０％のがっかりと１０％の安堵というところでしょうか。　弁論の中身にはものすごくがっかりしました。被告人が本気で言っているのか、嘘をついているのか、私には知る由もないですが、聞いた限りではその答えの中身には救いが感じられないからです。法的にどうすべきだ、というのではなく人間的にね。　それでも予想していたといえばいたんだけど。　安堵の原因、それはとりあえず弁護団がたきつけたとか何とかという主張が一つ根拠を失った事でしょう。　正直言って、弁護団が捏造的な行為をしていないか、あるいは少年が拘禁反応とかで揺れて弁護団を巻き添えに心中を図ったりしないかとか、内心では不安でした。そうなれば、いよいよ弁護の危機は避けられません。　既に福岡の危険運転致死傷で３人を死亡させたとして起訴されている事件で、業務上過失を主張している弁護人が「安田好弘弁護士と同列にされて」叩かれているのを見ています。　一渡り質問を終えてマスコミがその辺を根拠をつけて騒いでいる気配は今のところないですから、その辺は大丈夫だと思われます。　この期に及んであいも変わらず弁護団が焚きつけた、懲戒請求だとか何とか言ってる皆さん、もうほどほどにしませんか。　可能性としてありえないわけじゃないかもしれませんが、根拠らしい根拠も示さないままではどうしようもないでしょうに。　※※※※※追記※※※※※　本村氏の記者会見のさまを知りました。　初期の本村氏が感情発散中心であったのに対し、最近の本村氏ははっきり言ってテレビ越しにでさえ凄みを感じます。　はっきり言えば私でさえ、あの被告人は救いようがないと思います。心神喪失なり心神耗弱が認められるならともかく、そうでない限り。例えあのドラえもんやら魔界転生やらという言い分が真実であると仮定しても。　判決はこうしろというのだけは慎みますが。　　ただ、やはり本村氏の弁護団の言動は、弁護に対する理解が十分でない印象を受けました。　被告人を調子に乗らせたのは弁護団ではないか、といいますが、例えそうだとして、被告人が調子に乗った救いようのない人間だとしても、弁護団はそれを封殺するような真似は許されていません。さもないと、自分は冤罪なのに信じてもらえないから認めて軽い処罰で済ませてもらおう…という、日本の刑事裁判の根本理念に反する事になります。司法取引制度を認めるのならまだしも、今の日本は司法取引は許されていません。　「それでもボクはやってない」で被告人に最初に面会に行った当番弁護士がうかつに「否認してもいいことないよ…」といったために彼は言いたいことが言えなくなって弁護が遅れてしまったのを、映画を見た人であれば知らないとは言わせません。　いうことを言わせないようなことをやったら、例えそれが最終的な判決として適正なものであっても不法行為だ、というのが今の日本の弁護に対する考え方の基本です。　　ワイドショーの評論家やネットでそれっぽい事をいう人たちは「真実発見こそ裁判の原点、弁護士もそれをすべき」とか何とか言っていますが、日本において、裁判は残念ながら真実を究明する場ではありません。　「検察の主張が本当かどうか検証する場所」ということになって、検察と弁護（被告人）が戦う場所となっています。検察の主張が真実と認められれば真実は発見されるかもしれませんが、必ずしもそうは限りません。被告人には黙秘権もあるので、事件を知る被告人にしゃべらせることは不可能なのです。　裁判に関する真相究明の幻想は、取り払ってもらわなければなりません。もちろんそうした制度を批判するのは自由ですが、それは制度に対する批判であってその制度に従って職務をしている人たちを批判できるものではないでしょう。　ちなみに、そうした制度を取らず、真相究明に向けて被告人や裁判所まで含めて一斉に殺到する職権主義国、ドイツ・フランス…みんな死刑廃止国（ことにドイツフランスは死刑が違憲）です。ドイツだって、被告人に供述義務などはないとされています。　本村氏の主張を受け売りしたりするだけでは、そう簡単に力のある理屈にはなりません。　「熱き心を、冷たい論理で武装せよ」私の大学時代のゼミの師匠（被害者問題にも造詣が深い先生ですよ）の言葉です。　どんなに世論の多数を支持しても、かわいそうな被害者や遺族を持ち出しても、正義になんてそう簡単に届くものではありません。例えその正義が人類の夢であっても。　第三者が言い散らすのは気持ちがいいだけで何の益にもならないことは、声を大にして指摘しておきたいところです。　　　　トピックですが、先日、奈良でいったん死刑判決を受容したかに見えた小林薫死刑囚が、弁護人が独自に行っていた控訴を自らとりさげたのに、その取下げは無効だったと主張してきたようです。　死刑事件なら弁護人が独自に控訴をしておいて、被告人が控訴は嫌というのなら被告人自身に取り下げさせるくらいの便法はやるんじゃないかと思いますが、それにもかかわらず主張してきたわけです。実は、この手の主張は死刑事件だとままあるようで、実際拘禁反応による被告人の死刑取り下げを無効とした最高裁判所の裁判例もあります。　死刑判決を食らいそうになった人間が突然主張を変える事など、別におかしなことでもないということの一つの事例証拠だと思います。　

  2007年06月27日

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• コメント欄回答記事

  　この記事に多数のコメントが寄せられていますが、コメントは字数制限やタグの使用が不便であるなどの事情がありますので記事の形で返答したいと考えます。　自分のを記事にするなという方はメッセージで送ってください。　hidewさん＞最初からこれを淡々と説明すればいいんです。　私は、プロ同士でない限り代案を問うやり方は逆ギレに堕するおそれが小さくないので好きではありません。また、弁護団の内側も外部に分からないので、問おうにも問いようがない部分もあります。　正論ではあると思ってますが、すぐ飛びつくのは頭が悪いと思っています。殺し文句で敵は殺せませんから。　それでも、私自身去年の上告審公判の「弁論」が噛まれたときは批判以前に「死刑囚に慰謝料を支払わされた弁護士」を書きました（弁護士の先生に記事を紹介して頂いたりもしました）し、弁護活動としてどうなの？と思っている弁護士でさえ、主張されたら争わなければいけない、死刑の自認なんてことはできないし、被告人のために最大限働かなければならないというのはみんな書いてます。＞認識が断絶したまま「法のシロートがふざけたことをしてんじゃねぇ」という論調で反論すれば、（中略）火に油を注ぐだけです。　この事件に関しては、国民の持っているホンネの土俵で説き伏せるのは無理です。冤罪防止論や適正手続論をいかに説こうと、どれほど彼らを論破しようと、薄ら寒く聞こえるばかりでしょう。早い話、彼らの土俵に立ったらどうしようもないのです。　今できる事は、刑事弁護というタテマエが厳然たる不動如山であることを国民に知らしめることです。それにはタテマエの土俵を確実に抑えなければなりません。そして、タテマエの土俵に目を向けてくれる人を最大限迎え入れる他はないでしょう。それには、「歪んだタテマエ」は立ち退いていただく必要があります。　私も、単に弁護士がキライだというだけならこんな批判はしません。変な理由付けで殊更に非難をするから批判するのです。A.K.I. さん＞もしあなたの言うとおりであれば裁判は法のプロだけが密室でやればよろしい。　「裁判の公正を担保する」ために裁判の公開は憲法上の保障となっています。公正とは、手続や法適用が正しく行われているか、ということですね。場合によっては、法改正の契機にするというようなこともあるでしょうが。　いずれにせよ、法など無視した怒号を言わせるための公開ではありません。＞記者会見まで開いて、最高裁で差し戻されるまで一度も報道されなかった、唾棄すべき「新主張」を披露したことに対し何ら正当性を感じない、というのが一般的な感覚だからこそこれだけ大きな動きになっているのですから。　　本村氏が検察的な主張を記者会見・出版その他で大規模に開陳するのはOKで、弁護側の主張を同様にするのは許さないというのなら不公平と評さざるを得ません。私は本村氏の言論活動をそれ自体としては問題視していませんが、弁護団の主張が問題だというのなら、自動的に本村氏の主張はなんだということになるでしょう。本村氏の言論活動も問題視するなら筋は通りますが。　また、弁護側の主張と裁判所の判断は区別すべきだというのはこれまで散々語ってきたところですから、それすらお読みになっていない、あるいは理解できないのであれば話すことはありません。「唾棄すべき」かどうかも、裁判所が決める事です。　ちなみに、アメリカ･イギリスなど陪審制の国だったら、無罪推定・陪審員の予断排除の見地から報道その他は陪審員に予断や偏見を与えないために厳しく制限され、下手をすれば法廷侮辱罪などということになりえます。陪審員は報道との接触も制限されます。　　そもそも弁護士は法の枠内の活動をしなければならないわけですから、法廷ドラマとは全く違いますし、大規模冤罪事件で無罪判決を勝ち取るような華々しい事件をやる弁護士なんて一握りです。こと刑事の弁護士は決してかっこいい仕事ではありません。　そんなかっこいい仕事が弁護士という幻想から醒めてくれるのなら、それもよいかと思います。nobuさん　hidewさんは実は個人的な囲碁関連の知り合いでもありまして（人違いやなりすましでなければ・・・）、割と冷静な論調に好感が持てる人ではあります。手続の重要性を人並みよりは理解しているとも思います。　ただ、各論になってくると？マークをつけざるを得ない事も少なくないのですが。　そういう論調を感じないといっていただいたことはありがたいですが、本心では素人だからと開き直ってしかも論戦を挑んでくるような人にはかなりの苛立ちやむかつきを覚えているタイプだと思います。つい出てしまう可能性も否定はできません。　あと、二重投稿と判断しましたので、先に投稿した記事を削除させていただきました。なにわっちさん　単に好き嫌いや嫌悪感ということなら、あの弁護団は嫌いだ、というのはよく理解できるところです。　・・・まあ、個人的にそこまで嫌悪感がないのは、ゼミで真っ先に弁護人論を担当したという私の立場、さらに安田弁護士の弁護に関する名声ゆえの事かもしれませんが。安田弁護士の刑事弁護は愚直なまでに事実・証拠に拘り、サリン事件の遺族の一部や検察実務にも支持者がいたそうですが、あまりの作業の多さに他の弁護士は音を上げると聞いています。　そんなわけで、懲戒処分とかが下されなければ、なんだかんだで安田弁護士が社会的に抹殺される事はないと思います。他の弁護士も、案外被告人が死刑になったら忘れてもらえるかもしれません。仮に、弁論が功を奏して（！）傷害致死とか無期懲役とかになったら文字通り抹殺されやしないかという不安はありますが。＞ただ、今回の事件に限れば安田氏および被告人は国民感情のとんでもないスイッチを押してしまったのではないか、と。　同感です。その意味で何とかならなかったか・・・とも思っています。また、あんなに苦しい弁護しかできないなら記者会見だけでも止めた方が･･･という見解も弁護士の先生から出されており、一理あると思います（もっとも、検察的情報が流れまくっているのに弁護的情報を流さないのはどうか、とも思いますが）。さらに、弁護人なしで審理を進められる弁護人抜き法案などという事態になりかねないぞという説もありました。可能な限りで国民感情に配慮するのはすべきだと思います。　ただ、国民感情怖さに弁護を手抜いたら「死刑廃止のためなら何でもやる弁護」と同質になってしまいますから、それもできません。弁護は手抜かず、国民の納得を得るというのは正直かなり厳しかった事でしょう。こそこそ隅っこで動くのが関の山だと思います。　　もちろん今回の弁護に関しても検討すべき事はあるかもしれませんが、最終的には「憲法改正でもなんでもすれば？」というような、ある種の開き直りというか悪態のような丸投げに近いことを考えています。DSTさん＞私は何かが違うと思います。光市の事件でも被告人を精神異常者にすることが、『被告人の利益』とはとても思えないのです。　各人各様の感覚があるところです。以下の回答もあくまでも法律論として受け止めてください。　日本では「刑法に従った」処罰が求められます。そして、それは被告人が飲んだからいいという性質のものではありません。　実際、弁護人が心神喪失の類を主張すると怒り狂う被告人はいるようですが、「心神喪失で無罪になるくらいなら有罪になりたい」というような主張は裁判所の判決とは関係ありません。　そして、弁護人は被告人の無罪や減刑といった「客観的利益」に奉仕するのが基本的義務です。更生を目指したりする事は、その中で可能な範囲で行うべき事です。例えば、無実で起訴された不良に対し、「こいつはこの件は無実だがいったん服役したほうが長い目で見ればこいつのためだから犯罪を認める」とか、家のない人が冬は寒いので刑務所に入りたいから無罪心証があるのに有罪判決を求めるなんてことは、例えそれが彼や第三者の今後の人生のために客観的に正しい手法であったとしても不可能なのです。　なお、紹介記事は読みましたが、心神喪失はあくまでも犯行時点がどうだったかの問題であって（だから飲酒や覚せい剤で心神喪失になるのです）、いつまでも心神喪失のふりをし続けなければならないということはありません。

  2007年06月22日

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• 緊急更新：懲戒請求の作法について（2度の追記あり）

  　ちなみに今日はあの差戻判決からちょうど1年目ですね。　この記事は、本当は第2回公判が始まってから別記事とまとめて公開する予定だったものですが、私の知っている弁護士のブログが炎上するという事態を見かねたので今日一部分を切り離し、別部分を加えた形で公開します。　なお、公判が始まったら私の知る8つの弁護士ブログ（炎上したブログもその一つ）での安田好弘弁護士らの弁護やそのバッシングに対する反応を記事にする予定です。このうち２つは検察官出身の人たちのブログですし、「俗にいう」人権派系の人もいますし、バラエティにはそこそこ富んでいると思います。　もちろん、全弁護士ブログを見ているわけではありませんし、コメント欄などを全て押さえているわけでもありませんけどね。　また、関西の「たかじんのそこまで言って委員会」の該当部分を見ることに成功。なんというか、仮にも知識人といわれている人たちが、あんな事をよく臆面もなく語れるな、と。弁護団の言い分はあの記者会見の文章以外は、東京新聞特報も年報死刑廃止も全く見ていないのがバレバレのことばかり言っていて、はっきりいって、「言ってはならん」といってやりたいところです。去年はまだ紀藤正樹弁護士が押さえをやっていたらしい（それさえ茶髪弁護士や他のパネラーがつるし上げたという）が、今年はそれもなく言いたい放題になったようです。放送法はメディアの政治的中立性を要求してましたけどねえ。　他にも、弁護団の主張を「すばらしき主張」とか言ってまるまる写す人。主張が被害者を傷つけるとかバッシングしている人たちがどうして多数の目に触れるところで主張をわざわざ開陳するわけですかね？相手を批判するためにどうしても必要ならつまらない皮肉は慎むべきでしょうに。これだけでもお里が知れるというものです。　さて、弁護士が508人で懲戒請求に抗議するという手に打って出たみたいです。　でも、文面が十分に伝わってきませんが「懲戒請求自体いけない」といっているならちょっと勇み足では？どこぞの茶髪弁護士の見解が弁護士として当然の見解だというような一人歩きを防止するにはいいと思うけど、焼け石に水どころか火に油を注ぎかねないのでは・・・という気もしますが。　もう懲戒請求が出てしまっている現在、主張が不当なら日弁連や弁護士会が迅速に判断して（だらだらしていると国民も醒めたり忘れたりしてしまい判断に全く感銘力がなくなってしまうかもしれないので、この件は早期に判断すべきだと思う）ピシャリとはねて、ついでに会長声明とか談話とか、場合によっては要望やら勧告でも出せばよいような。　ただ一つだけ可能性を述べるなら、裁判員制度を前に放ってはおけないという発想があったのかもしれませんね。　確かに裁判員が弁護・検察の役割や立場を理解しないとなれば、裁判員裁判は憲法さえ打ち壊すような、恐怖の暗黒法廷になりかねないし、裁判員教育をするといったって、長い時間は取りようがないでしょう。　裁判官がその辺を何とかしようとする（裁判官と裁判員が決裂したり、思想信条で選別したり）のでは、裁判員制度の自殺になる可能性も低くはありません。ちなみに3年前、ゼミで裁判員制度を論題にしてゼミ見学者に見せたとき、「私は無実だというとき裁判官と裁判員どっちに裁いて欲しいか」と見学者の学部生に問うた所大多数は裁判官と答えました。　さて、私は、以前懲戒請求が不法行為になる判例（判決文はこれ）を掲げましたけど、あくまで熟考を求める趣旨、無責任にしていい物ではない事を伝える趣旨のもので、熟考・調査した上でなお請求するのを否定はしません。弁護団のやり方がよくないものであるというのも、可能性として否定できないため、懲戒請求自体を一切いけないとはいうことは私には不可能です。（ちなみに、本件懲戒請求を離れて言えば、最高裁も懲戒請求者に厳しい事をいうなあという感想を抱いた実務家もいるようです）　もちろん、今のところ私の手元の諸々の資料では、懲戒に該当する事由は見当たらないと思っていますが。　ただ、個人的に言わせてもらえば、この件に関する懲戒請求サイト（リンクを引く気は起こらないので各人で検索してください）の用意した文面ははっきり言ってどうかと思います。　死者の尊厳を傷つけた・理解できないというような抽象的で法律の根拠を欠く独自の見解や、裁判遅延狙いというような推測を「非行」という抽象的な言葉に当てはめるような懲戒請求は、かえって自分の請求に法律的な根拠がないと自白するにも等しい事。弁護が「法律的におかしい」というのを具体的にはっきりさせるように書くべきでしょう。　懲戒請求者としては、基本的にその懲戒請求書がからぶったら後は相手の言い分に反発できるとは限りません。一応懲戒委員会の審査に際して補足で資料や説明をする機会が与えられる可能性があるようです（本村氏も出てました）が、確実ではありません。また、丸写し懲戒請求では、せっかく機会が与えられても資料や説明をちゃんと出せる人はいないんじゃないですか？　そして、仮にそれができないというのならば、懲戒請求は止めた方がよいでしょう。　法律的に正しい管轄に訴えたことに対する依頼人の感情的不満に対して、「品位を損ねる非行だ」と主張して弁護士が懲戒請求したら、法律の素人の依頼人（事業活動はやっていたようですが）も含め不法行為になったのが、この記事で紹介した判例です。根拠は欠くけど感情的な不満を抱いたのは事実だろうから請求を認めないといった高裁の判決は是認できないものとしているわけです。　確かにこの事件は特殊かもしれませんが、一般論の部分は他の事件に使われる可能性が高い（ご丁寧に最高裁自身が線まで引いている）ですし、また法律に詳しい、懲戒請求した弁護士に限定されず、素人の依頼人も含めて不法行為になっていますから、私は法律なんか知らない、というような言い分は、考慮材料にくらいはなるかもしれませんが決定的なものにならないと考えられます。しかも、弁護士が依頼人に教えた可能性が高いですから、それでも簡単な調査を怠った依頼人は免責されないという考え方もあるかも分かりません。（これは想像ですが）　弁護人依頼権があることは中学高校までで習う事ですし、被告人に不利益な弁護を行ってはならずむしろその利益のために最善の活動が求められるというのは刑事訴訟法や法曹倫理の教科書に普通に書いてあります。裁判例・実務その他が採用していない独自の見解を主張したところで、それを盾に自分は正当な根拠があると思ったという言い分が通用する保証はできません。　正直、感情的に納得できないという理由や推測だけを並べ立てて「非行」を主張するようでは、不法行為にならない保証はできかねます。　なお、勝手な憶測を書き連ねたりすると、最悪の場合虚偽告訴罪になる可能性があります。弁護士会の懲戒請求も虚偽告訴になりえますし、もしかしたら違うかも・・・くらいの認識でも虚偽告訴罪は成立するという判例もあります。（学説の批判は有力ですが）　そもそも、具体的に法律的根拠が全く上がらない、感情的不満や一方的推測を並べ立てただけの懲戒請求は不法行為だなんだ以前に説得力からしてゼロです。懲戒請求にとって何の役にも立たない自己満足に堕するでしょう。　それどころか、せっかくまともな懲戒請求があっても、それを覆い隠してしまうおそれだってあるのです。きちんとした懲戒請求1通の方が、いい加減な懲戒請求50通より効果があるでしょう。1通でも50通でも弁護士会は調査するのですから。　きちんと本腰をすえて理屈を作り、懲戒請求をしようという人たちはこんなことは当然やった上で理由ありと考えて懲戒請求しているか、あるいは理由がないと考えて懲戒請求を諦めているはずでしょうから、不法行為だの虚偽告訴罪だのに脅える事もないでしょう。　　　　そして、もし今後懲戒請求をなさるなら、ただ抽象的な推測・感情的不満を並べ立てるだけでなくきちんと彼らの弁護活動が「法律的」にどこがいけなかったのか説得的に論証する事を目指す事をおススメします。そのためには、法曹倫理や刑事訴訟法の知識も多少は必要になってくるかと思います。もしそれもする気がないなら、懲戒請求などしないことです。責任を問われたり、本当に大切な懲戒請求が埋もれるかもしれませんよ。　※※※※※※※※追記※※※※※※※※　ネット上で弁護団の508人アピールに対する非難が高まっていますね。はっきり言えば私も勇み足の臭いを感じていますし、賢い手法ではないと思います。　懲戒請求を弁護士会か日弁連がはねて、会長声明や談話が出るかもしれませんからそれに乗る形で、あるいは独自に主張していけばよいかと思います。　ただし、「被告の弁護を受ける権利を否定する言動だ」というのは大多数においてその通りであるように思います。　彼らは口をそろえて「弁護人がつくことを否定してはいない、論点ずらしだ」と言っていますが、では被告人があれに近いことを主張してきた場合、あるいは証拠上あれが疑われる場合にどう弁護すればいいのかという点について全く示していません。　どう弁護するのか、「使い物になる」代案を示せている人がいないのです。多くの弁護士があまり強力に批判に踏み切れないのも、あれが有効な可能性もあることやほかに方法がないのでは…という視点も少なくありません。　形だけ弁護人をつければいいというのでは何のための弁護制度か分かりません。もし仮に弁護団が「被告人は死刑相当」なんていったら不法行為成立＆懲戒処分でしょう。　そんなことをすれば裁判所があの弁護団とは別の国選弁護人をつけると予想されます。準備のためにあと何ヶ月遅れるか分かったものではありません。本件の上告審での弁護人変更は私的都合によるものだし一応前任弁護人が活動していたから伸ばさないということも可能だったかもしれませんが、別の国選弁護人選任でそれをやることは不可能でしょう。　彼らは自分の頭では弁護手法を批判しているつもりなんでしょうが、実は弁護そのものを封殺してしまっているのに気づいていないのではないでしょうか。　※※※※※※※※第2次追記※※※※※※※※　例の懲戒請求サイトが消えました。弁護団から損害賠償請求がくるのを慮ったという説がまことしやかに囁かれています。　懲戒請求が国民一般に認められているのは、「懲戒すべき人を発見するための手段」であって、「権利」とは性質が違います。だからこそ、通常の民事訴訟より懲戒請求は不法行為成立の余地が広いのです。　一部の弁護士からも、今後弁護が不当とされる事情（捏造的誘導等）が発覚して懲戒処分が下されるようでないと、本当に不法行為になりかねないという説が出ています。　　懲戒請求は一度出したら取下げられません。　責任ある請求をしたいなら、数日後の公判くらい待ってみてはどうでしょうか。　　なお、懲戒請求と不法行為の成否の詳しい検討としてこちら

  2007年06月20日

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• 今度は脅迫状？（7月9日追記）

  　懲戒請求をネットを使ってまで呼びかける人たちがでたと思ったら今度は日弁連に模造銃弾つきの脅迫状ですか。　下旬の公判審理まではこの件について触れないようにしようかと思っていたんですがね。　もちろん、脅迫状を出すような輩は弁護団を非難している人たちの中でも極端な過激派分子であり、大多数の弁護団バッシングの中でも、このような行為を支持している人はほとんど見当たらないようだ。（あまり非難する気にならないという人は多かったが、それくらいは好みの問題の範疇であろう）殊更一般化して非難するとすれば、それは筋が違うだろう。　文面を聞く限り、せっかく高裁までの無期懲役を破棄した最高裁に怒りをぶつけるなど支離滅裂ではある（ちなみに、弁護士に送りつけるとスルーされるのを恐れたのではという説が出ています）が、裁判を「暴力で」へし曲げようなどとしているなら、それはテロリズムに等しい。絶対に許されない行為である。　こんなことでは、将来「裁判員」が脅迫されるおそれも出てこよう。そうすると、裁判員制度が崩壊する（応じる人が少なくなったり、世論を恐れた評決を下してしまう）恐れも。もともと裁判員制度なんてうまくいくとも思ってはいないけど。　抗議電話とかのうちはまだしも（それだって裁判員には重大な脅威である）、こんな行動は断固取り締まってもらわなければいけない。　それにしても、弁護団その他応援団の自作自演説は何を考えているんですかね？　まあ確かに、陰謀論的に考えれば、自作自演というのも可能性的にはありえなくもないんだろうけど、「状況証拠」といえるようなものすら出ていない訳で。そんなに弁護団をけなしたいんですか？本気で弁護団を批判したいなら、批判のためなら手段を選ばないような理論構成は慎んでもらわないと。　お仕事で批判しなければならない、ってわけじゃないんだから。　常識的に考えれば、変な意味ではなくあんな弁護をするあの弁護団が「好きだ」、という人は日本中探してもなかなかいないと思われる。あれほど弁護団バッシングを攻撃した私でさえ、もっといい弁護はなかったのか？？と思わずにはいられないし、「もっといい弁護の方法があったのではないか？」「なぜ上告審ｏｒ差戻審から主張を出すの？」というような、法技術的な視点に留まる弁護士非難には、私も非難は向けていない。　ちょっと読みすぎじゃないの？と思うことはあるけど、私が専門家に関して性善説過ぎるのかもしれないとも思うので、それくらいは見解の相違で済まされると思っている。　また、私は本件で死刑求刑した検察を批判した事も、最高裁の死刑判決色を色濃く出した差戻判決を批判した事もない。　あくまでも私の主張は「裁判をきちんとやれ」ということであり、「最終的に被告人を死刑にするな」というものではないのである。　そんな主張をしたために、少なからず失ったものもある。親しげにここにＴＢやコメントをしてくれた人が、途端にあちこちにＴＢをかけ、私の攻撃に回るという事態にも遭遇した。別に後悔はしていないが、ひどく虚しくなる。　いずれにせよ、どっちの陣営からも、私のスタンスに関してこの点を誤解している人が多いようなので、この点は声を大にして語っておきたい。死刑廃止論に私を引き込もうとしてもムダですし、被告人への死刑の妥当性を説こうとする人は文章をちゃんと読め、と。　最高裁まででほとんど詰んでいるとさえ思える中、おそらくは頭に金を打つまで審理しろ、整地をとりあえずしろという趣旨で差し戻されたこの事件。その趣旨は私自身はその通り正しいものだと思う。　でも、囲碁や将棋ならもう勝てないと思えば投了できるし、検察官も今回に関して言えば（タテマエ上は）投了できるだろうけど、本件は弁護人はおろか被告人でさえ投了できないし。（本来は被告人は控訴や上告を取り下げられるのだが、今回被告人側は一度たりとも「控訴」「上告」はしていないのだ・・・）　次回の集中して開かれる公判で、今度はどんな状態になるのだろう。　※※※※※追記※※※※※　7月8日、今度は朝日新聞に安田弁護士らを名指しした、銃弾入りの脅迫状が来たとか。朝日新聞は俗に左翼系と言われていますから、ああいう弁護と一緒くたに見る人は多いのかもしれませんね。　私は、朝日も産経もこの手の問題に関しては同じ穴の狢だと思っていますが。（まあカレー事件のときは、産経の方が露骨だったとも思いますけど）　前回の脅迫事件の犯人がつかまったと言う話が出てないので、同種事件を誘発した、と言う見方も出来るかもしれません。弁護活動の正当性についてどのような立場をとるに関わらず、裁判に対し、犯罪行為による外圧をかけるような行為は許されるべきではありません。警察は断固取り締まるべきであると思います。　と言うか、本村氏だって、自分の発言がこういう事態を招いたとすれば申し訳ないと言っていたという話もあります。（あんまり信憑性は高くないのですが）　あのような行動に出たのが一部のはねっかえりであることは理解しているつもりですが、あのネットバッシングがその後押しをしたのではないかという疑念はぬぐえません。　ネット上では弁護人たちの実名や事務所を含め情報が流れまくっているので、弁護士たちの事務所にはもっと強烈な攻撃が来ているのではないか、弁護団の個々人はサイレントキルを決め込んで被害届も出さないから表には出ていない…というのは、野暮な推測でしょうか。少なくとも抗議電話と言うか脅迫電話の類は確実にかかってきていると思います。　　今後裁判員になったときに、世間と合わない判断を下した裁判員がどういう目にあうか、それが不安です。いや、例え裁判員が具体的にひどい目にあわなくとも、そういう不安を抱かせてしまうこと自体が、裁判員裁判の機能不全をもたらす恐れが高いというべきでしょう。まして、つかまらないままでは…。　今回の同種事件の発覚は、ある意味では1回目の脅迫状以上に重大な影響を及ぼしていると言ってもいいかもしれません。　

  2007年06月06日

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• ネットで見かけた弁護団批判に答えてみよう

  　これまで語ってきましたが、そのほか、いくつかネットその他で見つけた批判その他に回答をしてみましょう。　最初に余談ですが、ネットを巡っていて、「善意の藪医者より欲得まみれの名医の方がプロとして評価に値する」という言葉を見つけました。いい言葉だと思います。日本人の心性には合わないかもしれないし、それが世論と私の違いの根本かもしれないけど。　それにしても、およそ手に入らないならいざ知らず、出版さえされている弁護団の上告審の要旨なども全く読まないで弁護に関して口汚く評論するような人が知識人としてテレビやら雑誌やらに語っているのなら、本当に日本のメディアは救いようがない。　重ね重ね言いますが、法律的な根拠を欠くのが明らかな懲戒請求は不法行為となるという最高裁判例が出たばかりですので、ただ憤りを感じたから懲戒請求をする、というのは止めといた方がいいですよ。本気で「法律的に」彼らのやったことがおかしいと自信を持てる方のみどうぞ。（１）真実を捻じ曲げている　日本では、裁判において真実を認定する手段は法廷に出された「証拠」である。　弁護人側の出した「主張」はあくまでも被告人にとって最大限有利に観察判断した結果を言っているにすぎない。観察すべき証拠が曲がっていない限り、弁護団がいくら主張したところで、それだけで法廷に現れる真実が捻じ曲がったりする事はない。　実際、弁護士が刑事弁護で被告人のいうことは荒唐無稽と分かっていながら、被告が主張を曲げようとしないので仕方なくその通り主張をした（ただ、情状に関する事項を織り交ぜて、何とか有利に持っていこうとしたようです）こともあるという話をゲットした。　真実を捻じ曲げる、という評価がなされるとすれば、それは法廷に提出される証拠を偽造・隠滅したり、殊更嘘を証人や被告人や鑑定人に言わせたりするような場合に限定されるであろう。これらが違法であることは、実務家や学者においてもほぼ共通理解となっている。（もっとも、証人尋問すれば偽証が予想される証人尋問請求はどうか、というような微妙な問題はある）　その意味では、仮に今後予定されている被告人質問で被告人が「言わされた」などと言ったら最悪のパターンで、日弁連とかまで一発で安田弁護士らの総攻撃にかからざるをえなくなって、弁護の危機にトドメになるかもしれない。（被告人がうまくしゃべれない事を弁護団が誘導したというのならまだ分かるが・・・）　併せて、被害者を侮辱している、という説について。少なくとも私の知る限り本件について、被害が起こったのは被害者に落ち度があるとか、被害者は保護されない人間だとか、そんなことは、年報死刑廃止に記された上告審の弁護側の主張や差戻審の主張では言われているように見えないのである。（仮にこの部分がそうだ、というのなら遠慮なく指摘してください）　今回の争点は死亡の結果が故意か過失かであり、故意で殺されたのを過失で殺されたといったとたんに侮辱だ、というのはよくわからない理屈である。被害者に落ち度があるならまだしも、（落ち度があるなら生命の価値が下がるという発想は支持しないが）故意で死んだか過失で死んだかで人の生命の価値や尊厳が変わるというのだろうか？　言われて憤りを覚えるということ（それは理解できる）と、侮辱というのは違うことではないかな？（この辺は感性の問題があるのかもしれないが･･･）（２）法廷をゲームにしている、という説　度肝を抜かれるかもしれないが、日本の刑事裁判はゲームに近い要素が多い。ゲームを通じて真実を明らかにするというのが日本の裁判の建前であるから、ゲームにしているという批判はそもそも日本の刑事裁判制度そのものにいちゃもんをつけていることになる。もちろんそれも自由だが、弁護団だけを取り上げて批判するとすれば、ちょっとそれはどうなのといわざるをえない。　日本の裁判は、検察が主張してきた「訴因」を裁判所が進行を仕切りつつ、真実かどうか、弁護側の批判とつき合わせて判断していくという構造である。まっさらな状態で歴史的に見た真実がどうか、というのは人間の力量で理解できるはずがないので、審判の対象を検察の主張に絞っているのである。そういう意味で、「裁かれるのは検察だ」と言ってもよい。　そして、証拠をどのように出すか、どのように主張するかも当事者にゆだねられている部分が少なくない。　言ってみれば、当事者の力量によって勝敗が変わってくる部分が少なくないのである。もちろん、弁護側の力量不足で無実の人間を処罰しましたということにならないよう、弁護人を依頼する権利を保障し、裁判所も適度に立証を促す事が要請され（これは処罰する方向にもいえることだが）、最悪の場合に備えて合理的な疑いの余地がない証明が必要原理まであるが、検察の主張の綻びや不十分な点を咎めることは、例えそれが歴史的に見た真実から遠ざかるものであったとしても否定される理由はないのである。　それが嫌だ、というのならもう日本の訴訟制度自体を否定してください。　なお、最高裁の判示にのっとって弁論していくべきだ、という某学者の主張は一面では正しいとも思われるが、他方でそれを言い出すと、上告した検察官の「上告理由」は、「実質量刑不当の主張、適法な上告理由に当たらない」と最高裁もいっているわけである。つまり、無期懲役判決を不当として上告をした検察官の問題までが、クローズアップされる事になろう。私は、検察官のそれを殊更問題とも思っていないが。　また、最高裁が差し戻しで検討すべき事項として判示した「酌量すべき事情」には、事実認定についても含めるという解釈は私は不可能だとは思わないのだが。（３）遺族の本村洋氏は孤独に戦っている中弁護団は21人で徒党を組んで詭弁を弄すのが社会正義なのか　これは朝日新聞の主婦の方の投書。もしかしたら、編集が入って、その意味で内容が変わっているかもしれないが。　しかし、本村氏は孤独だ、というけれど、この刑事裁判では、被告人の極刑を求め、本来上告理由がない（最高裁はそういっている）のに上告し、職権破棄を導いた検察官（私は今回の件で検察を批判した事はない）。彼の犯罪を立証すべく努力した警察官。さらに、本村氏を支持する多数のマスメディア、市民団体等。ネットをみれば個人で本村氏を支持している人も山ほどいる。弁護団叩きに血眼を上げて被害者の味方を気取る連中はともかく、真に本村氏の立場を心配し、死刑を支持している人も相当数いるように思う。　本村氏の意図したところではないかもしれないし、遺族の苦しみを真に理解しているのは本村氏当人だけであろうから、その意味では確かに本村氏は孤独かもしれないが、それでも弁護団が２１人ついて本村氏が一人、というような対置の仕方はあんまりと言わざるを得ないだろう。それをいうなら、弁護団サイドからしてみれば今度の論争は２１vs何千万人の様相を呈している。　また、こと刑事事件においては、弁護士の従うべき社会正義は、「手続的正義」である。これについては、去年書いたこの記事を参照して頂くとしよう。世間一般の人が単純に考える「社会正義」と、弁護士などが奉仕する「社会正義」はかなり違うのである。（４）本件において冤罪は関係ない　確かに、冤罪と言えば無実の罪である。自分は何もやっていないのに痴漢にされた・・・というのを冤罪の典型例として思い浮かべる人は多いだろう。確かに間違いではない。　だが、冤罪というのは真っ白な人が真っ黒にされることに限定されるものではない。法の世界における冤罪というのは、「本来裁かれるべき罪より重い罪で裁く」ということを含むのである。泥棒は自分だけど殺したのは自分じゃない、連続放火魔は自分だけどあの家につけたのは自分じゃない、殺したのは自分だけど殺意はないというのも紛れも無い冤罪であり、間違った判決は大問題である。　少なくとも日本では、類似事件や疑わしい事件を別事件の犯人に押しつけたり、傷害致死を殺人で裁くことは許されていない。（後者については刑法207条など立法によりそれを実現している例もあるが）それは罪刑法定主義に悖るといわざるをえないだろう。　そして、本件では、弁護団から説得力を別にして一応の主張がなされている。それをおよそ事実認定の基礎、すなわち証拠から検討すらすることなく瞬時に切って捨てるのは、これまで冤罪を産んできた、被疑者の言い分を聞かない自白偏重の取調などと同じ構造を持っている。まして、それを公判に持ち込まれたら日本の刑事裁判は終わる。　検討してそんなのはダメだ、合理的な疑いを発生させるものではないと思ったら、裁判所がそれをはねつけてその上で有罪と判断すればよいし、それが日本の裁判である。あまりにも説得力がなさ過ぎたら検討の時間が短くなるだけの話である。　最後に、弁護団に苦言をちょっとだけ呈する。　確かに、今回の弁護は大変に厳しいものであることは容易に予想されるし、弁護団内部の状況が分からない中で、外部者がとやかく言うのは最大限避けるべき事でもあろうと思われる。　ただし、このままいけば確実に刑事弁護そのものが危ない。　今、ブログでは、担当の弁護人たちに組織的に懲戒請求を送りつける動きがでている（原因はあの茶髪子だくさん弁護士である）。ネット上という限られた領域の内部とはいえ、国民がここまで本気で怒っているということになると、懲戒請求をはねれば（殊更虚偽を言っているのでない限りはねる可能性は高い）、弁護士会の独立がなくなったり、弁護人抜き法案、最悪の場合憲法改正で弁護を取り上げという事態の発生が考えられる。（最後はオーバー？）法理論的に正しい弁護に横槍が入りかねない。　もちろん、弁護はそれしかないんだ、というのなら仕方ない。正直言って弁護団がそう考えている可能性は高いと思うし、弁護人抜きを回避するために弁護を手抜くのが許されないのは当然である。（それこそ、彼らのいう「死刑廃止論のための不当弁護」と同レベル）　だが、事態がここまでに至ってしまった事を考えると、弁護団ができうる範囲で最大限の配慮をなす事は、もうちょっと考えたほうが良いのではなかろうか。　もっとも、今から何をやっても今更ムダかもしれないが・・・

  2007年06月01日

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• タテマエホンネ思考で弁護士非難を紐解いてみよう（前編）

  　本当はもっと書きたいこともあるような状態だが、視点を変える事も大事な事だ。また、この問題にからんでコメントの受付を止めたり、廃止が決定されたブログもあった。ここはまだまだ大丈夫であるが。　安田好弘弁護士らを懲戒請求しようという声が一部にあるようですが、とりあえずこの記事と判例を読んだ上で、それでも大丈夫だと自信がある場合にのみ懲戒請求をすることをおススメします。　さて、今日は誰かを批判するようなことを極力排除した、別の視点から記事を書いてみよう。 　　この事件は、私が大学で刑事弁護人論を扱いだして（私自身がゼミで初めて扱った論題が弁護人の真実義務だった）初めて起こった大規模な世論vs弁護の激突事件。　精神鑑定などを巡っては、心神喪失という概念への抵抗からか小規模な衝突も起こっている。だが、誰もが手軽に意見表明できるインターネットというメディア媒体を得たためか、ここまで大規模なものは史上最大クラスかもしれない。　法社会学的には、このような現象は極めて貴重な検討材料である。だから、私の大学卒業直前の欠席事件に端を発したこの事件を巡る諸相はかなり追った。　この問題に関する私のスタンスはこれまで書いてきたとおりであるが、もう一つ、この手の現象を法社会学的に事実として観察する事も重要であると思っている。弁護人依頼権が動かせない大前提だとすれば、何が原因でこんな不協和音が起こるのか、それを解決するにはどうすればという発想が不可欠である。　さて、私の愛読書が柴田光蔵教授（ローマ法）の『タテマエの法　ホンネの法』であることは、このブログで何度か触れた。法社会学を大学でとったことはないが、私にとっては、一つの法社会学のテキストである。（実際テキストにしている大学もあるらしい）　今日は、タテマエホンネの観点からこの事件の弁護士と世論の関係論を紐解いて見よう。事実的な観察として書いていく。　と言っても、法と市民感覚のズレの検証をするためには、さらりとでも刑事弁護人論を書くことになるけども。いってみれば、「タテマエ」の確認である。　まず、刑事裁判で被告人の弁護人依頼権は、憲法・刑事訴訟法に定められている。少なくとも公判段階におけるそれは完璧な権利として設定されており、その歴史的由来や原理的正当性に疑問を投げかける余地はないといってもよい。　日本は教育が行き届いているから、弁護人依頼権と聞いても「何のことか分からない」ということはほとんどないと思われる。死刑判決を言い渡された人が再審で無罪判決を勝ち取る例など、中学校の教科書にも書いてあったりするし、弁護士の活躍を扱うドラマも多い。逆転裁判なんてゲームもヒットしている。（その実態との整合性には疑問があるが）　だから、多くの人も、弁護人がつくというタテマエには一応の敬意を払っていると思われる。およそ弁護するな、みたいな見解は、今回の騒動においても少数だったように思われる。（もっとも、安田好弘弁護士の事務所にかかってきた電話はそうではなかったと安田弁護士は証言しているが）　さて、その弁護に際して、弁護人はどのようにしていかなければならないか。弁護人依頼権という権利は教わっても、その「細かい内容」までは、法学部などに行かないと教わらないのではないか、と思う。　「弁護人を依頼する権利」は当然「弁護を受ける権利」まで保障するものである。そして、弁護人にはそれに対応して「弁護をする義務」が出てくる。その「弁護をする義務」の内容に関しては、被告人の利益を守るべく諸々の活動をし、その中で被告人にとって有利な観点から観察判断して、被告人に最大限有利になるように主張していくべきだ、ということになるであろう。刑事裁判は疑わしきは罰せずなので、ことさら無実だ、軽く処罰されるべきだという証明をしなくとも、「疑わしき」に持ち込めば被告人は無罪、軽罰となるのである。　裁判例として、東京地裁昭和38年11月28日の裁判例がある。この事件の弁護人は、被告人に死刑判決が出されたときに、「死刑が相当だ」という控訴趣意書を提出したのだが、裁判所は控訴理由の発見についてこのフレーズを採用。結論的には弁護人の弁護をする義務違反を認め、弁護人は被告人に対して慰謝料の支払を命じられた。（参考までにこちらをどうぞ）　さて、この考え方を前提にすると、弁護人は証拠等を最大限被告人に有利に判断して、被告人に最大限有利な主張をしていく義務がある。被告人が「自分がやった、争わない」といっても、弁護人の「被告人に不利益な心証」は関係ない（どんなに強固な心証でも）。証拠不十分や心神喪失･正当防衛などを主張して無罪を主張することは許されるし、むしろそれが裁判所に採用される可能性があると予想されるなら、していくべきだとされている。（このあたりは、さじ加減の問題や弁護人の個性も多少あるかもしれないが・・・）　また、被告人の代理人としての性格がある以上、被告人の主張する事実については主張していく必要がある。被告人の無実主張と相容れない、弁護人がした訴訟活動が無効になった裁判例もあるし、その弁護人は一発で懲戒処分される。被告人と打ち合わせる過程で更生を目指したり、利益にならないよということで説得する事は許されるが、頑として応じられなければそれまでだ。　例えそうして出された主張が間違いであったとしても、それは裁判所が検察の主張と突き合わせ、判決を下す事で是正される事となる。　ここまでは法律家に共通理解があるところ。弁護士・裁判官･検察官など、法律家でこの点を否定する見解はない。　要するに、ここまでが日本の弁護に関する「タテマエ」である。　そして、今回の弁護団の弁護も、基本的にはこのタテマエにのっとったものだと考えられよう。法律家の中にも今回の弁護に批判的な見解はあるが、このようなタテマエの見地を前提に、その先の技術面として問題がある、という法技術的な視点にとどまっている。　この点については、被告人と弁護人の内部関係は守秘義務や立会人のない接見交通などによって外部の目線から保護されているので、踏み込みきれない部分も少なくないというのも影響していよう。　　ところが、マスメディアも含めて、世論の大半は明らかに弁護団を「敵視」している。ただ単に「検察の主張を支持して、結果的に弁護団の主張を否定している」というのとはレベルが違い、人格攻撃に至るものがザラにある。　弁護人依頼権自体を知らない、または弁護人依頼権自体を否定する発想というわけではどうもなく、多くの見解は、被告人に弁護を受ける権利があるというのは一応理解しているように思えるので、その現象は一見すると奇異に思える。（この話続く）

  2007年05月30日

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• タテマエホンネ思考で弁護士非難を紐解いてみよう（後編）

  　さて、この「奇異な現象」の由来は何か。　柴田教授の黙秘をタネにした推測であるが、新聞の投稿欄などでは、最初はホンネを包み隠さず率直に語り、それに対してタテマエ論で抑え込もうとする。両者の勝負はなかなかつかず、人は両極端の立場を二方向で見て安心するという。おそらく、ブログなどをはじめとするニューメディアでもそれは同じだと思う。　ホンネは火薬庫の中の火薬、タテマエは爆発を抑え込むだけの強靭な火薬庫、というような分析ができるかもしれない。火薬を抑えきれなくなれば、場合によっては火薬庫のつくりを変え、窓を作ってエネルギーを逃がす口を作ったりする。つまり、法改正である。　私は今回の場合、ホンネとタテマエのパワーバランスが崩れたのではないか、と密かに思っている。　タテマエ論に存在する問題とホンネ論に存在する問題から、そのパワーバランスの崩壊の原因を探ってみよう。　まず、タテマエ論といっても、先述したような域まで十分に完成されていない。弁護に関する弁護人の権利と義務、こと誠実義務と真実義務に関する学部生レベルの見識を一般の人々に求めるのは無理だろう。タテマエの基本的なところは何とか判ったとしても、個別の事件になってくると、ホンネにタテマエがどんどん修正・侵食され、「歪んだタテマエ」が出来上がってきてしまう、という可能性を認めざるを得ない。　去年この問題を扱ったとき、日本人は抽象的な概念を解するのが苦手、という指摘をいただいた。日本という国は、おそらく個別具体的になあなあでやれていた社会ではあるが、法規範というのは一般的に「こういう場合はこう」と定めておくものだから、ある意味ではそれと対極に位置する。特に民事法と異なり、刑事法においては裁量の範囲が狭く、なあなあで進めることが許されない領域として振舞ってきた。裁量的な加減を重視するという日本人独特の心性と刑事法は、とても合わないのである。せっかく作った火薬庫それ自体が、中の火薬を燻らせているといってもいいかもしれない。　さらに痛いのは、彼らに「タテマエ違反」の意識がないことであると思う。　タテマエに反している、となればそのタテマエが基本的には学校で教育されている事もあって、少しは引き気味になってくれる領域は少なくないと思われる。　例えば、和歌山カレー事件で黙秘をしないよう遺族が1万人分の署名を提出した事があった。遺族も黙秘権があるのは分かっていたので、文面にもおずおずとしたものが感じられた。　また、オウム真理教の信者の転入拒否についても、居住移転の自由があることや行政上の裁量権の不存在は分かっていたので、その立論も正当性主張というよりは「せざるをえない」という泣きつきに等しいようなものが少なくなかったように思う。（けっこう前の話なので記憶が不正確な部分はあろうが）　だがしかし、一旦タテマエに反していないと思われてしまってはタテマエの力はゼロに等しくなる。近時の被害者の地位の復権（？）によって、弁護団にも配慮する義務があるとか、弁護人は真相を解明すべきだとか、一見するともっともらしい言説（確かに、一面においてはその通りであると思う）がタテマエとして大きな顔をはじめたのが大きく影響している。　つまり、弁護という厳然としたタテマエは、日本人にとってはまだまだ弱いタテマエだ、ということである。あるいは、強いタテマエとなっている部分と強くない部分が混在しているといったほうが正確かもしれない。　さらに、ホンネ的な側面に検討を移すと、多くの人たちは、弁護というものを華々しく、その役目を無実の人を救ったりする事にあると思っているのではなかろうか。法廷ドラマはもちろん、中学高校の教科書レベルでも、そういうのが弁護活動の主眼にあると考えられるような記述が見られると感じる。確かに、弁護士になって、そんな事件を一度でも担当して無実を勝ち取るなんてことになれば、弁護士冥利に尽きるであろう。　だが、日本の事件の99％くらいは、必ずしも有力な弁護人がついて大論陣を張ってなどという華々しいものではない。日本の刑事裁判は検察官が弁護的な観点も含めて起訴を絞り込む精密司法。おかげで有罪率は99％超であり、また事件も大半は自白事件である。弁護士さえ、否認事件より自白事件のほうを喜ぶという。　そうすると、現実に市民の前、それも重大･凶悪犯罪と無縁で過ごしている市民の前に出てくるのは、憎むべき犯罪者をかばう弁護士、凶悪犯とつるむ弁護士という構図が出てくる。例外は冤罪を主張して再審請求しているような事件くらいだろう。　こうした、犯罪を許さないという日本人に限らず世界の人の心の深くにある考え方。ダイナマイトをも越える強力な火薬である。これを抑えるだけの火薬庫を作るのは、並大抵の事ではない。　加えて、今回の事件は相当に特殊であった。爆発の条件が整ってしまったのである。　犯行当時18歳をちょっと出ただけという年齢も衝撃的で少年法にも影響があったとされるし、死亡者が二人で一人はまだ赤ちゃんである。犯行後に性行為をするというおぞましき行動。さらには、遺族の本村洋氏が思い切り正面に出てきて近代刑法学の死角を衝くような強力な哲学を開陳するという、これ以上ないほど社会の耳目を集め、被告人に対する厳罰が強く求められた事件であった。　近年弁護活動が叩かれた事件といえば和歌山のカレー事件であるが、あれも不特定多数が食べるカレーに猛毒の亜ヒ酸を入れて死者4人の外にも被害者はたくさん、動機は不明瞭、完全黙秘で証拠的にも決定的とは言えず、事後には類似した犯行まで多発するなど、社会の耳目が集まった事件である。　こうした大規模な事件になってくると、ホンネはいよいよ強く現れてくる。近代刑事訴訟が何十年何百年とかけてもたらした立派なタテマエ＝火薬庫をもってしても、激発する世論＝暴走火薬を抑えきれなくなってくる。そんなところに、一片のほだ木を投げ込めば、たちまちのうちにそれは爆発するだろう。　そして今回トドメとなるほだ木が思わぬ搦め手から現れた。、どこからともなく（？？？）、弁護団の弁護をするというタテマエそれ自体の前提が否定され、全く別の議論―死刑存廃論争―が引っ張ってこられたのである。この論理を持ってすれば、弁護団の弁護の正当化根拠自体が失われてしまう。　かくしてぼろぼろになったタテマエ＝火薬庫は、あえなく吹っ飛ぶことになったのである。　普通の事件なら、例え何らかの思想に基づく党派的な弁護活動だと主張されたところで、社会一般には問題にならない事態であろう（もちろん、それに基づいて不当な弁護活動を行えば、懲戒されるだろうが）が、この事件で燻る火薬を爆発させ、火薬庫をも吹っ飛ばすには十分であった。　死刑存廃論は、昔からディベート大会の定番ネタである難しい問題であるが、世論として死刑存置論が圧勝状態であるのは明らかである。だが、それでも死刑廃止論も見解としては有力で廃止すべきという見解が脈々と受け継がれ、存置論としては目の上のたんこぶだったという議論の状態がある。　存置論と廃止論の対立をここに持ち込んで、死刑存置論という援軍を連れ込み、逆に弁護側の正当化根拠が失われた。　かくして、弁護人依頼権という火薬庫を吹っ飛ばして、類例を見ないほどの大規模バッシングが展開されたと私は分析している。　この事態を解決するのは至難といわざるを得ない。　批判に立ち向かって論戦を挑み、言い負かすのは、有効な場合もあろうが（特にテレビなどマスメディア関係者を相手にする場合）そんなことで何千年と培われた心性を変える事はできない。言い負かしても一時的に燃え上がっていた炎が鎮火したように見えるだけで、心の奥底の不満感はくすぶり続ける。そんなくすぶりが爆発すれば、最悪の場合憲法改正というような事態さえ起こってこよう。つまり、火薬庫の大切なところまで取っ払いを食う恐れがある。　また、言い負かそうにも守秘義務との関係で見えないブラックボックス部分がある。そこがどうにかならなければ、特にホンネ論にとっては議論が空虚なものとして振舞ってしまう恐れがある。　また、お上の啓発活動にも限界がある。ゆとり教育がどうにかなったところで、学部生の教わることを中学高校で教えるのは相当な無理を伴う。　いっそニヒリズムっぽく、勝手にしろといっておくしかないのかもしれない。　もちろん、法改正がなされるまでは、粛々と法のとおりに勧めていれば、いつか何かの形で復権の原因となる事件があるかもしれない。　刑事弁護にとっては、冬の時代が来たのかもしれない。　ありとあらゆる方向から風が吹きつけ、夏もやってこない大いなる冬がやってきて、多くの人々が冥界に召されたとき、３つの世界においてニワトリが啼く、それは最終戦争の幕開け･･･　北欧の神話です。

  2007年05月30日

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• いつまで続く弁護団バッシング（追記あり）

  　あっちこっち、ブログめぐりをしましたが、正直言って想像以上でした。アクセス数も急騰しています。去年の大学選手権のときほどではないにせよ。　弁護団の弁護内容が「想像以上」な部分があったのも原因だったかもしれないので、そういう意味では想定の範囲内と言っていえなくもないのかな？もちろん、全国民を敵に回しても弁護をするのが弁護人の義務である。もともと検察は行政庁、民主国家の公権力なのだから、弁護はある意味で国民に敵対する行為だ、といったって間違いとは思えない。　それでも必要だから、わざわざ弁護人依頼権が憲法にまで書いてあるのである。　いい年した大人が、裁判をきちんと行うという法治国家・法の支配の大原則を吹っ飛ばして、死刑相当の心証を勝手にあっという間に作ってさっさと殺してしまえというのは、時代劇の大岡越前やら遠山の金さんが言っている分にはかっこいいセリフかもしれないが、立憲民主主義国家としては戦慄すべき事態である。まるで勉強する気もないのに人命に関する問題を軽々に論じたがる人たちも同じだ。本村洋氏はかなり勉強しているぞ。　そんなに悪辣な犯人が弁護されることが嫌なら、憲法改正して弁護制度を外すか、特別裁判所禁止規定を改正して弁護人の要らない民衆法廷でも認めれば？という悪態の一つもつきたくなるところ。　もちろん、悪態をつくばかりではスカッとはするかもしれないが何の生産性もないので、ほどほどにしておくが。　法廷は、決して被害者に優しいところなどではない。制度改革が進んだとはいえ、訴訟という性質に伴う限界がある。　本件のように真実と見た感じ違うことを主張されるどころか、被害者自身が非難されたり、プライバシーを害されたりするようなことだって（少なくとも、本件の上告審の弁護に関する記録を読む限り、死亡した二人は「非難」まではされていなかったと思う）弁護のために必要になることだってある。近時は「被害者と共に泣く」と標榜している検察官だって、適切な刑事責任の見極めのためには被害者を追及することもありうる。　例えば、強制わいせつ事件や強姦事件で、被告人の男性の方から「確かに性行為はしたが、あれは合意だった」という主張がされることがある。男性と被害者の女性とが不仲になって、女性側が虚偽告訴をしたり、あるいは客観的に見れば合意があったのに記憶が自分の都合のよいように捻じ曲がったりして同意していなかったと言い張ったりという可能性があり、実際その疑いありということで無罪判決が下る例もある。その点何らかの形で立証しなければ疑わしきは罰せずとなる。　性行為をする前に書面とかで合意を残す人間は普通いないので、否認する被告人に対し真相を確かめるためには、運よく目撃者でもいない限り被害者を法廷に呼び出して本当なのかどうか尋問するしかない。被害者を法廷に呼ばず、検察官等に供述した書面が使われる場合もあるが、反対尋問も受けないし、取調の際に警察や検察がそうそう苛烈な尋問をするとは思えず、その場合は証明力は限定的なので証拠不十分で無罪にされるおそれが高くなる。　その尋問の内容はどうしても苛烈になるという。刑事畑の弁護士（こちら）によると、（以降は性的な上に生々しいので18歳以上の方のみ反転してお読みください）「性行為の際の体位」・「被害者の性器が湿潤していたか」・「被害者の抵抗の具合は」・「下着の色」・「被害者の性交体験はどれほどか」・「被害者は行きずりの男とすぐ寝る軽い女なのか」･「被告人の陰茎のサイズは」などというような、被害者としては思い出したくもないであろうし、場合によっては名誉感情を相当に害されることをばしばし聞かなければならない。　恋愛遍歴のように、普通プライバシーに該当する事も調べ上げられ、公開法廷でその辺が暴露されかねない事になる。（遮へい物を用いた尋問などをする事はできるが・・・）。だからこの手の犯罪は罪が重いのに被害者の告訴なくして起訴できないのである。　それに耐えられず、例えば答えたくないといって沈黙をすればどうなるか。もちろん検察官の方で法廷に出たくないといえばその辺多少は配慮してくれるだろうが、どうしても法廷に出たくないとなれば真犯人かどうかに関わらず被告人は無罪となる可能性がぐぐっとあがってしまう。また、もし嘘をつこうものなら被害者といえど偽証罪で３月～１０年の懲役である。　そこで「もし真犯人だったら・・・」などと考えだして心証を動かしたりするようでは「無実の人を罰してはならない」というのがもっとも大切である日本の刑事裁判官（裁判員も同じ！）として失格である。映画「それでもボクはやってない」を「きちんと見た」人は当初の担当判事が司法修習生に説いた言葉を思い出して納得していただける事であろう。ま、私に見てこいとせっついた人ですらそんなのすっかり忘れているとしか思えない言説を吐いているのが情けないが。　自白でもしてくれない限り、事案を究明するというのは、決して簡単な事ではないのである。それが被害者を傷つけることになったとしても、罪に当たらない事、間違った事実で処罰をしてはならないという要請の前には引き下がる他ない、引き下がらせるなら無罪あるいは軽い罪になっても仕方ないというのが大前提である。　6年前ながら被害者の会の幹事を辞任した人の記事もぜひ読んでもらいたいが、今検討進行中の犯罪被害者の刑事訴訟参加は、被害者たちからの要請は大きいものの、お上としては被害者に見舞金を出すより安上がりで刑事政策を済ますのが目的だという説も出ている。　今の日本では既に犯罪被害者基本計画ができ、ある程度は被害者にやさしい刑事司法その他が構築されつつある。　確かに、これまで法実務は被害者を蚊帳の外においてきたから、被害者が必死になって声をあげ、法実務を意識させることにより、割合すっと制度の導入が進んだ。意識が向いたということそれ自体の効果である。　だが、基本計画ができて、それでも導入されない仕組みもある。　それすなわち、検討すべき課題や問題点が多くて走り出せないということである。つまり、そのあたりを何とかしようと思ったら検討すべき課題や問題点を何とかしようという理論武装が必要なのである。　そうなっているときに、十分な検討を経ず感情に任せて物事を語ることは、慎重・否定的意見を増大させるだけでなんら得るものがないであろう。法廷が復讐の場になる、無罪推定なのに被害者は有罪推定で来る、審理がうまく進まなくなる、と言って被害者が救済されるともいえない･･･日弁連どころか検察系実務家にも懸念が根強く、世論の支持さえ微妙であるが、本村氏はそれを求めている。上告審判決当日の報道ステーションで語っていたのを今でも憶えている。　訴訟は、弁護と検察が対立する場であるが、双方が当事者として一定の立場を持っているところである。被害者や遺族が弁護の立場を理解してくれないと、訴訟が紛糾してしまうのではないか？そんな議論だって、起こりかねないというか現実にあるのである。　大学時代、その辺の問題はゼミで議論したからよく憶えている。　確かに、弁護団の主張に無理を感じるのは私も同じ。よほどの証拠が出てこない限り通らないであろう立論だと思う。これでは被告人の利益にもならないのでは？という法律家の指摘もあった。確かにそうかもしれない。　だが、じゃあ弁護団はどういえばいいのだろう？　この件の弁護士みたいに「被告人の犯行は戦慄を覚えるものでは死刑が相当だと思う」とでも言っていればいいというのだろうか？　実際そう主張すれば拍手喝采しそうな連中はいるが、そんな主張は、裁判所だって認めるとは思えない。裁判所はまたちゃんと弁護をする弁護人を新しく選任して、その準備のために期日がかかる･･･なんて、自爆同然の事態になる可能性さえありうる。それをすれば今度こそ私も遅延狙いと評価するであろう。どうがんばって解釈したって被告人に利益な訴訟活動ではないからである。　仮に被告人が殺意がなかったといっているなら、あるいは被告人自身が言っていなくとも証拠上それが疑われる状態なら、それを主張しない事は実際上誠実義務違反を問われよう。特に前者の場合、それこそ懲戒処分を食らっても文句は言えない。　確かに、弁護団の弁護方針は、上告審のそれも含めて、「何を今更」という感が強いものであった。　控訴審にいたるまで傷害致死の主張をしていなかった。本来最高裁は事実誤認を審理するところではないので、最高裁から出すということは、それだけで異常である。　上告審に至って、弁護人が変わって、欠席して準備というアクロバットをやって主張したのがはねられた。　で差し戻し審に入ってさらに今度は性行為が儀式という主張。　　二転三転の変遷を訝られるのは仕方あるまい。　どこに原因があったのか、被告人がいうことをころころ変えて振り回しているのか、前任の弁護士が怠慢でちっとも主張しなかったのか、安田弁護士らが捏造的なことをしているのか。推測の域は出られない。私は専門家を基本的に信頼している（弁護士や検察官の陰謀論を信用する事はまずない）が、どこかに何かおかしい部分があった可能性は否定できないと思われる。　ただ、その内部関係を漏らすことは守秘義務違反で許されない。永遠の謎となる事もまた受け入れてもらわざるを得ない現実の一つである。　「それでもボクはやってない」の弁護士も、今回の弁護士も、法廷の外から虚心に観察すれば、被害者がいるのに、被告人の利益のために動いて、同じように見える。映画の中で、中まで入ってみて信頼したから彼のいうことは正しいんだなんて発想をお持ちなら、現実を見据えようよ、ということになる。　　最後に。　今回、弁護団を叩く連中の中で、「厳罰化論以外の被害者問題」で「私と現実的な話」ができる人間がどれくらいいるのか、聞いてみたいものである。　※※※※※※※※追記※※※※※※※※　審理の遅延云々を語る声が出たので、一言言っておこう。名指しされたわけでもないのに自覚があるようですが。迅速な裁判を受ける権利は「被告人の権利」なんだけどね。　事件から足掛け8年。その半分近い時間は何に費やされただろうか？　もちろん審理もされたが。　答えは裁判所による放置プレイである。　控訴審の無期懲役判決は事件から３年で出されている。この種の事件としてはけっこう速い。　なのに、最高裁が公判期日を指定するまで４０ヶ月、公判を開始するまで５０ヶ月以上。大学院で最高裁判例を見たが、高裁→最高裁の判決期日がこれだけ空くのは珍しい。　そして差し戻した後も、公判までは１１カ月の間。　上告審の弁護団の欠席遅延などわずかに１ヶ月、請求されていたのも３ヶ月である。　　この裁判が遅延した原因は弁護団以上に裁判所にある、と私は思っている。高裁と最高裁の判断のずれ、長期の放置プレイ。　

  2007年05月26日

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• 緊急更新：弁護活動を批判するにはもっと現実を見据えよ

  　山口県光市の母子殺人事件の裁判がいよいよ大詰めに近くなってきた。　まあ、おそらく判決がどちらに転んだとしても最高裁に上告がなされるのは目に見えているが、最高裁がひっくり返すのはよほど例外的なことであるのは事実（その意味でも最高裁判決は珍しかった）であるとだけ言っておこう。判決予想は禁句にしておく。　さて、光市裁判が安田好弘弁護士を中心とした弁護活動を巡って日本中を巻き込んだ大論争になったのは記憶に新しい。　さて、法廷で全く死刑制度の当否を語っていないのに「死刑廃止目当て」などというような弁護団に関する批判の大半が的外れである事は、これまで散々に語ってきたところである。　仮に「弁護の動機」が死刑廃止論にあるとしても、「実際の弁護がどうであるか」によって弁護の評価が決められるべきであろう。法廷活動に全く出ていない動機を捕らえて口汚く物事を非難できるような超越者など日本に数えるほどしかいないはずである。　少なくとも、最高裁に入って以降弁護団が法廷で死刑廃止論をぶったなどという話は聞いたことがない。今日の差し戻し初公判でもそれに類する事を行ったという情報は流れていない。　それどころか、最高裁審理の際には主任の安田弁護士自身が、法廷で死刑廃止を考えるのは弁護士失格と言明している（昨年5月8日の東京新聞特報欄）のであるし、そうでなければ著名事件で無期懲役への減刑判決を勝ち取るなどということはできっこない。また、年報死刑廃止2006年に書かれた、安田弁護士が最高裁に提出した書面や弁論要旨にも、死刑制度廃止云々など一言も書いていない。（他の事件と比べて死刑は不均衡という主張はあったが）　法廷に全く出ていない死刑廃止論と弁護団を結びつけて、ことさらに死刑存廃論に議論を誘導するような言説をはき続ける人たちは多いが、遺族の本村洋氏も含め、少しは現実を見据えるべきではないか。安田弁護士らの弁護の方がまだ「証拠」という現実を見据えた議論をしていると私は思っている。　・・・もっとも、差し戻し審の「儀式だった」云々の主張は私でも引いたが。被告人がそれに近い事を言い出したとしか思えないが、もうちょっと言葉遣いを選べなかったかという気はしないではない。被告人に振り回されているのだとすれば、本当に弁護団は大変である。まさか弁護団がそう言えと言った訳でもあるまい。そんなことを言ったって、それなりの証拠がなければ到底裁判所には信じてもらえないだろう。　　おりしも先日、「日本の黒い夏」の監督である熊井啓監督がなくなった。私も映画を見たが、映画の中では、弁護士らが現場をはっきり見て神部（モデルは松本サリン事件の犯人と疑われた河野義行さん）の無実を確信する光景があった。そして、現場を見ずに鵜呑みにして冤罪を産んだのは、マスコミであった。今の「弁護士は死刑廃止論のために動く」という一方的決めつけをしている状況は、まさしく日本の黒い夏と通じるものがある。　ちなみに、弁護団が面倒を見るなら更生云々の主張もいい･･･と言っていたのは本村氏であるが、そもそも冤罪事件で警察･検察が疑った人間の面倒を見ているのかどうか、場合によっては間違って有罪判決を出した裁判所がそうしているのか、仮釈放の決定をする地方更生保護委員会が期間中の再犯の場合その手の責任を取っているのか、冤罪事件を検察審査会に持ち込んだ被害者や遺族、検察審査会や保護司らが責任を取っているのか、捜査に不手際があった警察が責任を取っているのかなどなど、犯罪者を検挙・訴追する立場や、犯罪者の面倒を見る権限や義務を持つ人たちがどうしているのか、考えてみるとよい。　責任などほとんど取っていないのである。無罪判決の場合はまだ刑事補償という手があるがそれも部分的金銭的救済に留まる上にその他の救済は不十分である。その他はフリーパスである。　そういうのをすっ飛ばして、処罰の具体的内容について特別公的な立場や職権があるわけでもない弁護団にばかりそんなのを求めることがいかにめちゃくちゃであるか、一目瞭然というものである。あるいは、「更生を主張すること自体おかしい」という意味の逆説的主張なのかもしれないが、それは弁護の自殺だろう。採用できるはずもない。　弁護士が21人ついたと騒ぐ声もあるが、本件の主任である安田好弘弁護士が強制執行妨害で逮捕されたとき弁護人に名を連ねた弁護士は21どころか2100人、日本の弁護士の10人に一人にも及び、ついには中坊公平前日弁連会長が弁護士の資格を実質返上する事態になった。（安田弁護士の立場的なものもさることながら、起訴された事実が弁護士が通常やっている事なので危機感を感じた弁護士が多かったようだ）。　社会に耳目を集める冤罪事件や公害事件の類でも多くの弁護士がつくことはある。例えば甲山事件は239人である。最高裁でかなりの主張が退けられている現在、弁護団としても相当に主張を絞らなければならない。ある程度人数が必要だというのも必ずしも理解できないものではない。　もとより、最高裁から弁護人をしてきた安田好弘弁護士は自分が強制執行妨害で起訴され高裁に係属中（一審は無罪判決だが）の身の上、さらに足立･安田両弁護士は本村氏が懲戒請求中。　ほかにも、死刑事件はプレッシャーが大きく、経済的に追い詰められたり、体を壊す弁護士もいると聞いている。（ここ参照）それなら、弁護団が多い方がむしろ遅延の言い訳が聞かなくなるという意味もあるのだが。名前を連ねただけというわけではなくかなりの弁護士が法廷に座っていたし。　　本村氏は、今は死刑があるのを前提に判断されるべきだといっているという。私も全く賛成である。まあ憲法という前提もなくもないが、死刑違憲判決の可能性は現状では限りなくゼロに近いのが実際だ。　だとすれば、検察ｖｓ弁護の対立構造の中で行われる日本の刑事訴訟も大前提として受け入れてもらわなければならない。都合のよい制度だけピックアップするわけにはいかないのである。　　イギリスの司法は日本からすればほいほいと起訴・ほいほいと判決を出し、黙秘権に制限があり検察の立証責任もゆるいというラフな司法だが、結果として冤罪者死刑執行が発覚してしまって、そのため死刑はほぼないのだ。日本の割とがっちりした司法が揺らいでしまえば、死刑制度の存続に冤罪論からケチがつくことも考えざるを得ない。刑法についてはそれこそ近代刑法の根幹を覆さんばかりの強烈な哲学を持つ本村氏であるが、それがその刑法の適用の前提となるべき訴訟の基礎の領域に「そのまま」出てきてしまったのは、いろいろな意味で不幸な事であるというべきかも知れない。　確かに、この事件に関していえば、特に冤罪事件を意識するということはないのかもしれない。最高裁で安田弁護士の主張だって、最高裁ははねつけている。だが、ここで争っているにもかかわらず、簡単にはい冤罪じゃありませんねということがどれほどに人権にとって脅威であるか、また脅威として振舞ってきたかを改めてかみ締める必要があろう。　本村氏は、既に一遺族の立場を超えてしまっている。　犯罪被害者の会で理事をし、彼の一言一言が世論を大いに動かす。そういう立場に出てきて、彼は発言している。　だとすれば、その発言の実現やその発言自体がどういうことをもたらすのか、一度でいいから本村氏には考えて欲しい。だから、今回あえて本村氏の理解への批判を中心に文章を立てた。

  2007年05月24日

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• 広島弁護士会の足立修一弁護士懲戒なし決定を支持する

  　山口母子殺人事件の弁護人で、正当な理由のない公判への不出頭を理由に遺族の本村洋氏に懲戒請求をされていた安田好弘・足立修一両弁護士のうち、広島弁護士会でなされていた足立弁護士に関する判断は、不処分ということになったという。安田弁護士の方は、第二東京弁護士会で判断されるようであるが、結果はまだ伝わっていない。　はっきりいって、広島弁護士会の判断は基本的には当然の決断であるものと思う。　弁護士の仕事は第一義的には「被告人の弁護」であって、それを通じての社会正義の実現が求められているのである。遺族に配慮したので弁護が出来ませんなどというのでは、弁護の自殺以外の何者でもない。　もちろん、欠席を無意味になす事が許されないのはいうまでもない。裁判の迅速は公益的要請である。　だが、安田弁護士らはあちこちで、今回の審理は地裁・高裁と、弁護人服務法曹三者が手抜きでやってきた、そのために準備が更に必要になったとズバッと批判している。最高裁判所がなんと言おうとも、被告人と直接会っているわけでもなく、もっとも弁護の必要性を「理解しうる」立場にあるのは弁護人である。最高裁が正当な理由がないと言い放ったのも、その職権を越えて口がすべった感じがする（ちなみに、安田弁護士がいろいろと主張を展開したのは欠席事件の後、最高裁弁論の直前）ほどだ。　ましてや、弁護士会が最高裁の言い分にべったり引っ付く理由などない。弁護士を懲戒する最終権限が弁護士会の自治組織である弁護士会や日弁連にあるのは、在野法曹としての弁護士の独立を守るためである。　そうである限り、審理の途中で資料不十分でさえある最高裁の判断に依存しない、独自の判断が妥当であるといえよう。　そして、両弁護士を懲戒しようというのなら、安田弁護士らがあちこちでしている弁明（例えば「年報死刑廃止」2006年の特集とか）が単に真実でないというだけでなく、不出頭を正当化すること自体を目的にする、悪意ある真っ赤な嘘であるということでなければならないだろう。それなら、両弁護士を厳しく懲戒する事はむしろ当然といえる。　逆に、そうでもなければ懲戒は不相当であるといわざるを得まい。被告人に有利な訴訟活動を目指す、しかも有効な弁護を受けるという権利に奉仕する弁護人としては、どうしても間に合わないということであれば不出廷ということもケースによって考えざるを得ない（ただし、それを考えざるを得ないケースはよほど例外的であるのは間違いないが）と思われるし、そうであったという弁護団からの主張はなされている。　ただ裁判のベルトコンベアを動かすためだけのおざなりな弁論を出して結審させるということは、もっともやってはいけない事であろう。　最高裁が日程をどう決めた、裁判の迅速だなんてことはそういった裁判のルールの前には後退すべき要請でしかない。最高裁も、もしかしたらそうなのかも・・・と思ったから、欠席事件の後次回の弁論期日を指定したのではないかという説もある。　本村氏の懲戒請求は、遺族感情に基づくものではあろうが、それでもよほどのことがない限りは勇み足であるといわざるを得ない。　本村氏は準備期間が必要であるという両弁護士側の言い分に対し、「弁護人を交代し続ければ裁判をいつまでも出来ない」というようなことを主張しているが、弁護人が体を壊したとか、よほどのことがない限り、弁護人を交代「し続ける」などという所業は、そもそも訴訟上の権利濫用であって、例え一回の弁護人交代を認めたところで、そこまで認められるわけはない。また、弁護士交代がたった1回の今回が「代え続ける」などという行為に該当しないのは明らかであるといえる。　公判の延期をもくろんだというのはそうかもしれないが、延期をもくろむのが必ずしもいけないことといえるのかどうか、というのが今回の問題なのだ。審理の迅速は大切であるが、それは手抜き裁判を許容するようなものではありえない。　本村氏は、被害者遺族として独自の刑法哲学を持っているし、それは傾聴に値するのだが、その哲学の使用局面に入るための手続については、やはり認識が十分ではないというのが偽らざる所感である。　また、「法廷で死刑廃止運動をするな」と安田弁護士らを糾弾したために、二人は法廷で死刑廃止運動をしていると、弁論で死刑は廃止すべきなどといったという情報は全くないにもかかわらず考えられ、袋叩きにあってしまった。もともと安田弁護士の「事実」に徹底的にこだわる弁護姿勢・能力については、検察サイドでも支持者がいると聞いている。　本村氏の発言も、批判的に見ないととんでもない事になりうる。　ほかにも、「弁護士会は犯罪被害者の敵だ！！」と騒いでいる人もいるが、そもそも犯罪被害者が犯罪者の処罰、しかもより重い処罰を求める立場であるのが普通である（少なくとも本村氏はそうである）以上、弁護士との衝突は宿命というべきもの。　それをダメだというのはそもそも弁護活動それ自体を否定する事になる。立派に憲法37条違反と言ってもよいし、被害者が守られる権利はあるといっても良いとおもうが、弁護活動を踏み潰してまで守られる権利というのは、日本では認められない。　彼らが被害者の敵だといいたいのなら、単に被害者の神経を逆撫でしたという点をわめくのではなく、弁護人の本来的任務を理解した上で、そこから両弁護士が外れているというのを論証した上で、批判を強めるために使うべきだろう。　弁護士が守るべき基本的人権は多数者がその威勢をもってしても絶対に不可侵である領域。無論弁護を受ける権利は凶悪な被告人にもあるといわざるを得ない。適正な手続を受ける権利は判決云々から独立して保護に値するというのはこの話を参照してほしいが、そうでなくとも、遺族が口を極めて罵った被告人が無罪だった、汲むべき事情があったということは戦後史を紐解いてもいくらでもある。「それでもボクはやってない」を見た人なら、それは当然に理解しているだろう。痴漢と殺人は別だというようでは落第である。　ましてや、今回は一審・二審で無期懲役判決がいったん出るような、死刑と無期の境界という意味でも微妙な事案。より一層慎重な弁護が求められるのは当然の理でしかない。　さて、差戻し審理の開始は5月下旬。　整理手続とかを使って一気にやるという話を耳にしている。最高裁でした主張を高裁でしていれば・・・という説も一部にはあったが、今の今まで出さなかった主張をいきなり出すのは認められないのではないか？　また、新たな弁護材料として精神鑑定なども弁護団は求めるようだ。まあ、最高裁でかなり封じられているので今まで以上に苦しい弁護をするしかあるまい。　被告人にどのような裁きが妥当かは、私には分からない。最高裁が語ったのは、あくまで最高裁に挙がってきた証拠では死刑だというということだけ。それ以上の証拠関係を確認していない私が、想像でこれが妥当だというのは関係者への侮辱行為だろう。　だが、少なくともいかなる凶悪犯でも、いかに遺族が活動しても弁護人がついてきっちり弁護を受ける権利は保障される。それがあればこそ、先日鹿児島の冤罪事件をはじめ、幾多の冤罪事件が無罪判決で最悪の事態は免れられた。場合によっては、徹底抗戦ということも考えざるを得ないし、被害者の神経を逆なでする事も弁護の遂行に当たってありうる。　・・・などといっても、そんな理由付けを理解し、あるいは支持しない人は日本中に山ほど出てこよう。それはもう仕方ない。心の奥底に眠る不満感は、実務の片手間の啓蒙活動でどうにかなるものではない。気長にお付き合いするしかないのである。　だが、それでも弁護に関する日本の法のタテマエが、例え被告人が同情の余地のない人間であれ、遺族が涙を流して訴える事件であれ、厳然たる不動如山であることを今回の事件を通して日本の法曹界はがっちり知らしめなければなるまい。　最後にトピックス。去年の上告審差戻し判決は今年4月に出版されたジュリスト別冊「平成18年度重要判例解説」に掲載され、評釈が書かれている。書いているのは有名な死刑廃止論者の平川宗信教授で、死刑廃止論を演説している訳ではないものの、正直後ろ側にある廃止論に強く影響されているような気がするし、正直個人的に支持はしていないのだが、この事件について真剣に考える気のある人には、批判するにせよ支持するにせよ、読んで無駄にはならないはずである。　法律家や司法試験受験生向けではあるが、この問題をまじめに考える気があるなら、わずか2ページの評釈は気合で読みほぐしてほしいもの。読んで分からない用語を聞くのなら答えます。

  2007年04月20日

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• 昨日は祝勝会でおました。

  昨日は早稲田大学の全国制覇の祝勝会をOBの皆様方がやってくださいました。（微妙に私もOBなんだけど、私のほかに二人くらいOBなのに半ば現役状態でただ飯を食っていた方々がいたようだ）　場所は早稲田大学の近く。院に行った後も高田馬場には用事があっていったことが何度かあったが、大学近辺まで行ったのは今年初というより10ヶ月ぶりくらい。さすがに疎遠になったなあ。　まあ今日の記事も別に書かんでもいいかと思ったのだが、某選手に頼まれましたからね。ませっかくだし。　さて、祝勝会にあわせてというつもりではないが、囲碁会の皆様方にプレゼント。　学部時代、ネットオークションで1年分1000円くらいで競り落としただいたい1988～1999までの「棋道」。揃いが完全ではなく、全部で68冊だったと思う。私自身は当分碁も打たない（つもり）し、死蔵していても仕方あるまい。これで勉強していろんな方々が意味で強くなってもらいたいもの。棋道は廃刊してから存在を知ったようなものだったが、さすがに囲碁雑誌としてはなかなか一流であったと思う。　さすがに重かったけど、気合で向こうまで運びました。おかげでいまだに肩が痛くてたまらん。もともと体力があったタイプではないが、それにしても私も年をとったものだ。　向こうで、年を越してから始めて選手の皆さんとお会いする。（三将はそうでもなかったが）全国大会版の特別の部誌を学生会館においてきた上に案に相違して学生会館が閉館中とかで非常にやばい状態に。　なんとか入れてもらって事なきを得たらしい。　ところが、配布されたこの部誌、表紙に普段よりはるかにいい紙を使っているのに、その内容のイタさになんと当の選手たちからも悪評が・・・うーん、しまったなあ。いや私は一枚も噛んでいないが、いけずなことを言わずにこの私が一肌脱ぐべきであった。　さて、祝勝会は一応立食パーティー形式である、さすがにOBの皆様、昼食ながらなかなかよいものを用意してくださって実にうまい。正直学生十傑より3段階くらいおいしかったぞ。精神的なものが原因ではあそこまでの差はつかないような気がするんだよなあ。　立食では連盟の担当者で法学部の後輩でそろそろ就活かロースクールか進路が気になるEくんなどと話す。ロースクール希望らしいがはっきり引き止めた。今ならまだ間に合うぞ、やめた方がいいとかなり強烈に引き止めた。ライバルを消す意図もあったというのはどうやらばれなかったようだが、それでも冗談抜きでロースクールより普通に就職したほうがいいよ。試験に受かる率も高くないし、受からないと終わるし、受かっても茨の道だし。　さて、ひとつのイベント。立命戦の棋譜をみなで見ようというものである。　早稲田のOBと言えば村上文祥先生なき現在、その筆頭といえば三浦浩先生であるが、その三浦先生が御講評…といっても選手たちと三浦先生でそんなに差があるような気もしないのだが（失礼）、まあ棋譜を上映して御講評。先に五将から。　五将戦はなんと開始11手目から既に黒（立命・野口くん）の方針がおかしいらしい。そ、そうだったのか！？一部の人たちがあまり賛成しないようなことをぶつぶついってたような気がしますが、終始細かそうな碁を1目半ヨセ切ったのはお見事。今だから言いますが整地するまで勝ってると思っていませんでした。小ヨセに入って最後に形勢判断したときも計算ミスしていたらしく半目とか1目半位負けると思ってました。すんまそん。四将戦は研究の多さではぴか一の寺山くん。5手目から早くも「気合がいい」らしい。ここ一番で彼はけっこうこの布石を用いている気がする。10手目は呉清源先生推奨の手ですが11手目は中国で研究されてい反撃手。中央をポン抜かせたのは作戦と思いつつもいまいちとの評。もっとも50，51の交換が堅いところから手を出した上に薄いところを固めてちょっと問題あったようで攻められた下辺も見事脱出し勝利。三将戦は太田くんの独壇場。22手目まではプロの碁とかでもよく見る形。相手の棋風からほとんど予想済みだったらしい。24のコスミも正しいそうだ。（寺山くんはプレーオフではさんで打って早稲田勢ただ一人の敗戦を喫していた）そして中央の51ハネがおかしく気合一番5分くらい（本人談）読みを入れて56のケイマがすごい。もともと白いい感じなのでケイマは怖い手ではあるが、読みきれば最強手。見事中央をもいでオワ。後は検討の俎上にすら上りませんでした。てか太田くん評判がよすぎです。碁をもうやめて若手の金づると化しているそうですが早いところ復活を望む。副将戦も糸山くんが序盤から優勢。高津くんは学生ならずともその実力が知られていたのだが、上辺はさすがにいいと評判。そんで空き隅に回ってさすがに足が早い。41の伸びこみは打ってみたくなる手には違いないがびっくり仰天。59までと2子抜いて悪い形勢ではないのだが気合だろうか？三浦先生はＣ2に当ててから取るもんだといっていた。そういえばそんな実戦例があったような気もする。なんかその後一番知りたいところがすっ飛んでいたような気がしたがものの見事に勝ち。来年早稲田の個人戦優勝候補の筆頭である。主将戦はギャラリー軍団が生きた心地がしなかったのと裏腹に下坂さんが終始悪くなかったようだ。やっぱ47の覗きはいかんでしょ。あれは生で見ていたところで、「当然下坂さんでぎってくるよな・・・捨てても模様になるわけでもなし、武田くんここから戦いを起こすのかな？」と思っていたら途端に捨てたのはびっくりでむこうでも悪評紛々。もっともその後の攻めがやはり強烈・・・と見ていたのは無責任なギャラリーだけだったようです。なんだ、結局どの碁も普通に勝っていたらしいです。　その後知りましたが、選手たちはとんでもない碁クレ（碁に関してクレイジーなほど打ち込んでいる）であるようです。T沢王座の指導の下、全国大会でさえ対局が終わると研究会。最終日ならいざ知らず、翌日も打つというのに、よく体力が持ちますね。まったくこの人たちは・・・　気合を入れて打ち込むのはいいことだと思いますが、単位は大丈夫ですか？と余計なことを心配してしまう微妙な現実主義者の私であった。プロにでもなるというのなら別ですが、やたら留年することがいいことだとは思いませんので、ちゃんと勉強もしてくださいな。一部のアンチ推薦入試どもを黙らせることも肝要かと。　終わったらしばらく時間を置いてまたまた囲碁会御用達の居酒屋で飲み会。といってもOB会で散々飲み食いしたせいか一人頭1000円くらいの出費で2時間くらい過ごしてしまいました。相変わらず碁の話で盛り上がってます。　○○を選手にしてはならんとか、春合宿全参加命令が下ったりとか。理工は一部に残れるでしょうか？一般の選手になるには試験碁が必要になったりとか。全国制覇選手である某くんも、最初は理工行きの話が出ていたと初めて知る。　そろそろ新歓の季節が押し迫っていますが、大丈夫でしょうか？私の年は新入わずかに4人、しかも新歓で集まった人数が実質ゼロ人の惨状で、早稲田凋落の直接のきっかけになりました。あの年が人的不良債権の代名詞と呼ばれる所以である。　来年以降の早稲田の隆盛を祈りつつ、また判例集とにらめっこするとしよう。

  2007年02月05日

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• 今日の記事は

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ちゃんと書くから明日まで待ってな。今日はさすがに疲れてしまった。　現役時代は今日みたいな帰り方をしても平気で長文記事を書いていたもんだが、衰えたものだ。

  2007年02月04日

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• 早稲田、立命館に奇跡の完封勝ち！！全国制覇！！！（後編）

  　さて午後は九大戦である。立命館は東北大と。早稲田は２勝すれば…と戦っている最中は思ってましたがどうやら今年から勝ち点も勝ち数も並んだ場合は直接対決で決めることにしたようなので１勝でよかったようです。　注目は主将戦下坂さん－渡辺くん（学生十傑2回戦と同じ組み合わせ）と四将戦の寺山くん－一柳くん…と思ったらなんと四将戦が会場の全対局中一番に終わる。打つ隅打つ隅でポイントを挙げてぼこっちゃったらしい。ほどなく副将糸山くんも叩き潰して、対局開始からわずか１時間で早稲田の優勝が決まってしまった。少々拍子抜け。　続いて五将清島くんも圧勝。チームの勝ちまで決まる。　残り下坂さん、太田くんは全勝のかかる対決。　下坂さんは渡辺くんの広げた大風呂敷を巧みに切り崩してリード、振り切る気配ですが太田くんがなぜか序盤から相手に大きな地をまとめさせて普通に負けそうです。天罰が下るようなことは彼はしていないと思うのだが、何か大きな力が働いたか。　やがて下坂さんは中押し勝ち。白番でしたが盤面でも勝ちです。　そして太田くん大きな力をも克服。底力に物を言わせて追い込み、ついに逆転、投了に追い込む。　早稲田、最後の戦いを5－0でかざることが出来た。　立命－東北は東北の太田くんは山田紘平くんに爆撃を仕掛けたが地対空ミサイルに当たって撃墜。太田くん、午前も九大の渡辺くんに半目負けを食らっていたせいか精彩を欠いたか。　さらに仕事人中村さんも午前で力尽きたのか軽快に攻めていながら最後は大差をつけられての敗退。全勝はお預けとなった。　だが、最後の最後で全勝の東北・桑野くんが立命の四将・堀内くんを最後まで残る熱戦の末9目半勝ちを収め、東北が意地を見せた。　愛媛大－名城大は愛媛大が3-2で初白星。主将戦は際どい1目半であった。　北海道大－金沢大は金沢大がなんと主将戦を除いて全取りに成功。北海道大を6位に引きずりおろした。田沢くんは早稲田・立命以外全部勝ったのですが後ろが今ひとつか。　　というわけで、早稲田は四将と五将が東北戦で1敗しただけで３３勝２敗と言う凄まじい成績での優勝となりました。　事実上一強時代とかならいざ知らず、立命館という強敵を下してのこの成績に素晴らしい以外の評価を与えることはもはや不可能であろう。　全勝賞を獲得したのは早稲田主将下坂美織さん、早稲田副将糸山剛志くん、早稲田三将太田匡彦くん、東北四将桑野信くん。　連盟賞（全勝者以外にも賞がある）を受賞したのは立命を破った九大一柳くんと女流奮闘者で全勝でないという事で九大の溝上さんが選ばれた。　全勝でなければ下坂さんがもらっていたのだろうね。あるいは早稲田を破った非全勝者で東北大の中村さんが最有力候補のはずだったのだが、去年笹子さんを破って同じ賞をもらってしまったために涙を呑んだ。　ちなみに、表彰式では中央大・村上深くんが学生本因坊としてアマ本因坊を制覇し、学生の力量を知らしめたということで表彰されていました。一発こっきりの表彰らしい。　しかし、村上くんが強いのは疑わないがタイトルの類が一極集中するのは全体のレベルが低い証拠でもある。村上くんを倒す人間（今のところ学生公式戦では武田淳・白川雄一郎・谷口洋平・糸山剛志・大久保渉太が達成。なお卒業者としては中村庸太郎・吉沢文伸も）がたくさん出てきてこそ学生碁界のレベルは高くなるのである。（決して村上くんを腐す意図はないし、むしろ壁として奮闘することを希望する）　　主将下坂さん、女流の主将はかつて見たことがありますが、全国大会全勝なんてかつてあったのだろうか？しかも学内リーグで選手全員を叩き潰し、今年１年関東リーグもプレーオフも負けなし。宇根川さんだって全勝したときは四将だったんだけど…最強説浮上もむべなるかなである。あ、もともと女流最強だったっけ。プロ試験がんばってね。　糸山くんは凄まじいスピードと手のしなりで快調。一年なのに信頼が違う。個人戦で優勝したいそうです。早いところ個人戦優勝を取ってね。少なくとも村上くんの十傑優勝・グランドスラム達成を阻止しておくように。　太田くん全国大会１４連勝おめでとう。私の知る限り、最近早稲田でそれを達成したのは滝沢さんだけである。彼自身、学生囲碁連盟の激務の中であったが、棋士と棋院理事の二足のわらじをはいて殉職となった加藤正夫先生の扇子を持って対局する彼の姿はこれ以上ないほど絵になる姿であった。もう思い残すことはないそうだ。　寺山くんあのポカさえなければ全勝だったのであるが…（ちなみに寺山くんは関東でもポカみたいな負け方で全勝を逃している）。まあそんなところをぐちぐち言っても仕方あるまい。位置的によく見えなかったけど、ただ検討では一人で図を作ってるシーンが多かったのははっきり記憶している。彼の披露する読みその他には正直私ではついていけない。　清島くんはよく見えなかったけど立命戦で勝って一部の「十傑入賞くじ運説」は吹っ飛ばしたといってよいでしょう。いよいよ本領発揮の感がある。私が愛用布石に持ち込んだにもかかわらず勝てないのも当然であろう。　さあ皆さんお疲れさま。　早稲田の気合が他とは違っていたという第三者の証言もありました。まあ基本的に精神論は好きではないのですが、精神で勝てたかどうかはおいておいても気合の入り方が尋常でなかったことだけははっきり言えると思います。　そしてみんな強かったです。　　　しかし、大丈夫だとは思いますが優勝したからと言って気を抜いてはいけません。６年前、早稲田は全国で優勝してからおかしくなりました。　今回は立命館を制したとはいえ、来年から立命館がいきなり弱くなるわけではありません。下馬評は立命が有利だったのはほぼ事実です。関東でだって慶応や東大がいつ巻き返してくるか分かりません。　今回は出てこなかった立命の大将格の一人小野くんは来年リベンジするとはっきり言っていたし、追われる立場こそが最も大変なのです。　勝って兜の緒を締めて、来年も全国制覇を目指してください。もちろんその前に慶応や東大を倒さなければなりません。　選手たちは、研鑽している某Ｔ研の主にきちんとお礼を言いにいっていました。優勝して万歳だけでなく、自分を鍛えてくれた人にきちんとお礼をわざわざ言いにいく。　これこそまさしく「王者」の姿であろうし、来年も立命館をはじめライバル校を制する原動力となることを信じて疑わない。最後に、みんなありがとう！！！みんなおめでとう！！！

  2006年12月27日

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• 早稲田、立命館に奇跡の完封勝ち！！全国制覇！！！（前編）

  　えいやっと書いていったらなんと字数が13000にもなってしまったので二部構成です。タグでかなり増えているけどね。　第50回大学囲碁選手権もいよいよフィナーレである。でも50回と言うことは意外と強調されてなかったな。　さて、結果はもう皆さんご存知だろうが、誰がこの結末を予想したであろうか。立命館が早稲田を完封することはあっても、早稲田が立命館を完封することはないと思われていたはずだった。　「運命は早稲田に勝てといってるいのかもしれない」とは戦前の立命OBひよこ雛形先生の言である。まさか本当にそうなるとは。　私とdasさんが連続してひよこ先生を倒したのが効いたか。（無理矢理現役選手たちの手柄に割って入る）　ギャラリーの自分はもちろん、選手たちも信じられない感じだったし、正直言って速報してもネタと思われるんじゃないか不安でしたが100％事実である。　私の知る全国大会の中で、史上最大の名勝負でしょう。結果こそ５‐０でしたが、立命軍団も王者として主将から五将まで凄まじい立ちはだかり方をしていました。この戦いに比べればゴジラvsキングギドラなどカマキリとスズメバチで戦ってるようなもんです。　えーちなみに午前中他の試合は全くと言っていいほど見ていません。速報記事は今回は移植せず残しておきますが、それだけでご勘弁。立命館大学vs早稲田大学速報した通り組み合わせは上から △武田淳vs下坂美織高津昌昭vs糸山剛志△△山田紘平vs太田匡彦堀内信吾vs寺山文哉△△野口正樹vs清島萌永である。ちなみに△は黒番ね。　副将・三将でいよいよ実現しました、去年と４年前の高校選手権の決勝の再現。たぶん両カードとも大学に入ってから公式戦では打っていないはずです。　当然のように両者とも全勝で勝ち上がってきている中、どちらが先に音を上げるでしょうか。　武田くんは元院生トップ、野口くんは大阪府代表で小西和子八段を撃破するという暴れぶり。堀内君も去年早稲田主将・全勝経験者笹子さんを撃破している。うーむ、早稲田の選手連で耐えられるかどうか。ニギリは早稲田の副将と四将が黒番である。　　主将戦は序盤から武田くんが打ち込んで白石を左右に分断して一気に戦機をつかむ。しのぐだけならともかく効果的にポイントを挙げられ主将は敗れるのでは・・・というのが初期の大方の予想。　副将戦は黒番の糸山くんが序盤やや白番・高津くんをアマした感じ。効果くらいはとった感じだと思いましたが相手は高校3連覇の猛者。油断などすれば一発で宇宙の彼方まで放り出されてしまう。　三将戦は細かくなりそうな戦い。序盤の最初のうちは黒番の山田くん乗りだったが、別に形勢が悪いわけなどではない。　四将戦は黒番の寺山くんが一応主導権を握っている。私の同期で現大学院生、かつての理工エースの1人の中野は「ポン抜かせては黒悪い」と言っていた。確かに部分ではよくないかもしれないが配置から見ればそういうことはないと思う。　五将戦は・・・序盤について通説は黒番の野口くんがいい感じ。白は別段悪いわけではないのだが、雰囲気的になぜか盤10負けそうな感じがしている。　そうこうしている間に三将戦で黒の中央のスーパー種石がなぜか取られています。あれっ？別に黒が何か代わりの利得を得た気配はない。これなら一発で白厚くて優勢になったはずだ。　副将戦は死闘。黒が取りかけをかますのかと思いきや逆に白がぶち抜いたり、お返しとばかりに薄みを全部黒がもぎ取ったり。ムードも形勢判断もちっとも一箇所に固まらないスーパー難戦である。私ならよしんばそこまで同じように打っていたとしても途中で脳卒中を起こしそうです。　四将戦もポン抜いた石の厚みが大したことなく、うまく消せている。・・・とここで白が攻撃開始。消した石を飲み込まれたりすると一発で負けが決まるのでここからが勝負どころだ。　主将戦も食い下がってはいるが厚く、やはり盤10は負ける気配が漂う。五将戦もなぜか知らないが負ける気配が漂っている。本人はずっといいと思っていたようだし実際勝っているのだけどね。　だいたい中央3枚を取るのが早稲田の勝算と言うのが途中の早稲田ギャラリー軍団の見解である。　どこもかしこもいつまでたっても終わりません。2時間経過しても当然のように１局も終わりません。しかも2時間経過しても趨勢がよくわからない碁が多数あります。秋のプレーオフは2時間たっても終わってはいなかったけど形勢はほとんど定まっていたよ。　この頃になって、主将がなぜか辺の石をもいで形勢を相当に持ち直している。ヨセ勝負か？実はこの時点で厚かったとは光永くん（順天堂大、早稲田の選手クラス相手に全く引けを取らない強豪）の証言である。　五将戦は黒に中央権を奪い取られてああダメだ、殴りこんで中押し負けかななどと真剣に話していたのですが、壁の石によりついて中央をたくみに消してしまいました。さすがに清島くん、まぐれや偶然で私に勝ってはいない。　四将戦も寺山くんが巧みに石を脱出して地合は優勢。脱出した石に寄り付く他は白に利得を得る方法がない状態である。　さて、また三将戦に異変が。白優勢だが思ったほどの差でもない感じで、山田くんがどう追い込んでくるか注目している頃、なんと黒石が盛大にもげているではないか！！こうなってはもう負ける要素はどこにもありません。ほどなく山田くんが投了し早稲田が初勝利。太田くん高校時代の屈辱（団体で半目・個人決勝で12目半彼に敗れている）を大学囲碁もほぼ終わる頃になって晴らす。　次いで副将戦が終了。白模様が大規模にまとまっていたが黒も中央に特大の地をまとめている。朴道純学生永世名人が「数える気しない」と言う中、ついに高津くん投了。早稲田の高校準優勝コンビのリベンジ攻勢（ちなみに敗れたときとは二人とも手番が逆）で早稲田が先に２勝を上げた。　さて次に終わった＝早稲田に勝利の福音を鳴らしたのは五将。途中見たら盤面8目負けくらいかなと思っていましたが結末は盤面5目負け（黒地33、白地28）で１目半白勝ち。見事すぎる切り崩し。勝ちが決まって清島くん涙を流していました。嬉しいのは分かるけどまだ九州大学倒さないといけないんだよね。　数分と経たず今度は四将寺山が勝ち名乗りを挙げた。黒地29、白地14だったと思う。中央を無事にしのいでからは白に勝機はなかったはずです。昨日の東北戦みたいな大ポカさえ出なければという感じ（昨日電車の中で調子は落ちていないと頼もしい台詞（負け惜しみ？）を吐いていた）であったが、見事盤面で15目を余し、なんと4勝目である。　最後に残るは主将戦と言うのはこの大会ではお決まりパターン。改めて数えるとやはりコミにかかる感じ。整地して黒５３、白５１が確認され、誰も予想していなかったに違いない早稲田の完封勝ちが決まった。

  2006年12月27日

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• 順位の訂正

  訂正北海道大学と金沢大学は直接対決の結果で金沢が5位です。言い訳として直接対決で決めるのは今年からだとか

  2006年12月26日

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• 第50回全日本大学囲碁選手権最終結果

  立命館大学vs東北大学主将戦○―×副将戦○―×三将戦○―×四将戦×―○五将戦○―×早稲田大学vs九州大学主将戦○―×副将戦○―×三将戦○―×四将戦○―×五将戦○―×北海道大学vs金沢大学主将戦○―×副将戦×―○三将戦×―○四将戦×―○五将戦×―○名城大学vs愛媛大学主将戦×―○副将戦×―○三将戦○―×四将戦○―×五将戦×―○ 全勝者主将 下坂美織副将 糸山剛志三将 太田匡彦四将 桑野信最終順位第一位早稲田大学（勝ち点7勝ち数33）第二位立命館大学（勝ち点6勝ち数28）第三位東北大学（勝ち点5勝ち数24）第四位九州大学（勝ち点3勝ち数15）第五位北海道大学（勝ち点3勝ち数12）第六位金沢大学（勝ち点3勝ち数12）第七位愛媛大学（勝ち点1勝ち数8）第八位名城大学（勝ち点0勝ち数8）

  2006年12月26日

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• 大学選手権最終日午前の結果

  立命館大学vs早稲田大学主将戦武田淳vs下坂美織早稲田下坂美織白番4目半勝ち副将戦高津昌昭vs糸山剛志早稲田糸山剛志黒番中押し勝ち三将戦山田紘平vs太田匡彦早稲田太田匡彦白番中押し勝ち四将戦堀内信吾vs寺山文哉早稲田寺山文哉黒番8目半勝ち五将戦野口正樹vs清島萌永早稲田清島萌永白番1目半勝ち東北大学vs九州大学主将戦×―○副将戦○―×三将戦×―○四将戦○―×五将戦○―×北海道大学vs愛媛大学主将戦○―×副将戦×―○三将戦○―×四将戦○―×五将戦○―×金沢大学vs名城大学主将戦×―○副将戦○―×三将戦○―×四将戦×―○五将戦○―×

  2006年12月26日

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• 大学選手権3日目、いよいよ早稲田vs立命の決勝へ

  　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　もう3日目。早いもんですね。今日は平日なので来られない人も少なからず。　空き時間に海賊くんと打ったら大敗。彼は最強を名乗る資格を得ました（笑）。私のほうはポンポン打ったのも確かにあるけど、十傑戦で基本的に力は使い果たした模様。　アクセス数の高騰がめちゃくちゃです。19時現在で660ってなんやねん。記録699（4月20日ころ、「ますますうんざりの弁護士非難」で山口県光市母子殺人事件の弁護士非難を手ひどく非難したとき）なんだけど。（異常アクセスのときは854ってのがあったがそれも抜きそう）　それにしても、大規模に書いて太字にしようとちょっといじったら勝手にリセットしやがって。おかげで半分近い作業やり直しじゃないか。この欠陥ブログめ。午前立命館大学vs北海道大学主将戦：○―×副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：○―×東北大学vs金沢大学主将戦：○―×副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：○―×早稲田大学vs名城大学主将戦：○―×副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：○―×九州大学vs愛媛大学主将戦：○―×副将戦：×―○三将戦：×―○四将戦：○―×五将戦：○―×午後立命館大学vs九州大学主将戦：○―×副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：×―○五将戦：○―×東北大学vs早稲田大学主将戦：×―○副将戦：×―○三将戦：×―○四将戦：○―×五将戦：○―×北海道大学vs名城大学主将戦：○―×副将戦：○―×三将戦：×―○四将戦：×―○五将戦：○―×金沢大学vs愛媛大学主将戦：×―○副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：×―○五将戦：○―×立命館大学vs北海道大学　主将戦は本因坊戦4位田沢和也vs王座戦2位の武田淳で3日目午前最大の目玉カード。さすがに3日目ともなると、いかな立命といえども簡単には終わらない。しかし、いかな北海道大といえども、立命の破壊的な層の厚さが相手では一発入れるのも容易ではない。学生碁界ｽﾚで「某大の主将じゃ立命の補欠にも勝てないと思われ」なんて激しくイタイ事が言われていたが、正直その通りだと思った。　副将佐藤－高津戦は大規模な競り合いだったが結局高津が抜け出し、主将戦は田澤くんが黒の三連星で食らいつこうとしたが快調にサバかれてあえなく投了。武田くんはさすがに元院生トップの1人である。東北大学vs金沢大学　太田尚吾くんのピンポイント爆撃は三将の十傑10位、森に向けられた。よく見えなかったけど、最後は黒番9目半勝ち。こっちに来てから割合危なげなく勝っているようです。彼が扇子を持って対局している写真を見たことがあるのですが、様になってますな。　主将戦は白（金沢大）がマネ碁を仕掛けた？大斜にかけてワリコミにあてられたときに延々と考えているので何やってんだと思ったらマネ碁回避を考えていたようですね。マネ碁と言ってももう一つの隅は星と小目で完全マネ碁ではないのだけど。結局中終盤にはいってからずだっと差を広げて東北大快勝。東北の主将・地味に初日を出しました。　他も全部東北が抑えてシャットアウト。　早稲田大学vs名城大学　名城の主力はたぶん三将の山崎くん（去年主将）と四将の林くん（去年三将、清島に黒番4目半勝ち）と言ったところか。　最初に勝ち名乗りを上げたのは四将。定石はずれ？を打たれて悩んだものの後はだいたい快勝したらしい。終わって初めて彼は去年清島くんを破った相手だと知ったらしい。予め教えておかなくて正解だったかもしれない。　主将戦は割合あっという間にリードを奪い、しかも全ての石がつながって、弱い石を攻めるだけになって快勝。副将戦は糸山くんがあんまり快調に打っているように見えなかったが、そうはいっても地力の差が序盤から普通に出ていて地合に大差をつけて押し切る。三・五はよく見えなかったけど普通に中押しでした。早稲田は三将から五将までがこれまでオール中押し勝ちです。九州大学vs愛媛大学　主将戦はそれなりに見ていましたが、地味な碁形からかなり細かいものの黒の愛媛大学・土岐川くんが少し厚くないか？と思ってみていましたが私が形勢判断をミスしたのかヨセでひっくり返したのか白の九州大学・渡辺くんが1目半コミにかけました。主将戦が割と早めに終わり、三将戦を残して3－1になっていましたが三将戦は愛媛大の隅田くんが黒番2目半勝ち。愛媛大初日ならず。実は際どかった主将勝負でした。　立命館大学vs九州大学　前回4位の九州大学が立命館に襲い掛かる。立命館は四将堀内くんに代わって補欠一位の堀井くんを投入。脈絡なく補欠を出すのは経験を積ませるためなのだろうか。去年もやっていましたね。　主将渡辺はかなりの実力者だが武田に落ち着いて処理されて所々薄くなりあえなく討死。伊達にプロ一歩手前まで行っていない。ところが、ここで九州大が巻き返す。これまで全勝の九大四将一柳くんが五の五－辺の星と言う布石作戦から大利を挙げ、ついに立命に初めての土をつけた。一柳くんは去年も出ていたが立命・東北・早稲田などと敗れてめぼしいことはできていなかったが、元々知られている人である。　さあこれで後が続けば・・・って天下の立命館相手にそんな都合のいい話があるわけはないですな。後は全部立命館が取ってしまいました。　東北大学vs早稲田大学　いよいよ早稲田がこれまでの第3列から第2列に移って激闘開始。相手は去年まさかまさかの敗北を喫した東北大。　メンバーは変則オーダー・・・と思っていたらなんか普通に並べているらしいです。太田尚吾くん以外は。　かつて選手権2位の太田尚吾くんを補欠登録してピンポイント爆撃を食わせる予定。んまあ早稲田も主将から三将まで選手権2位経験者が並んでいるわけですが（笑）さてどこを狙ってくるか。早稲田の選手たちは主将下坂さんにあててくる（小学生だか中学生高の頃に下坂に勝ったらしい）と予想し、私は三将太田匡彦くんと太田対決をやってくると思った。（ウケ狙いではなく、正選手の主将も実力者なので・・・）この手の予想は得意なんですわはっは。結局太田対決が実現となりました。　上から我妻－下坂、志藤－糸山、太田尚吾－太田匡彦（以降下の名前だけで書きます）、桑野－寺山、清島－中村である。早稲田奇数黒番。　下坂さんは序盤から悪くはないように見えるのだが差もついておらず長期戦模様。糸山くんは序盤相手の奇策にちょっとふらついた感じもしたがちゃんと形にしている、てか普通に優勢です。三将はよくは見えないが匡彦くんが地を取り尚吾くんが中央っぽい展開。四・五はちっとも見えません。　･･･としばらくして、五将戦を敷居の隙間からのぞき見ると細かくなりそうだが、ちょっと黒（清島くん）に不安材料が多そうな。　この早稲田－東北戦は進行がどれも遅かった。一番早く終わったのは副将戦で糸山白番中押勝だが、副将戦が終わる頃には早稲田－東北以外の15局中14局は終わっていました（残り1局は金沢－愛媛の五将戦、2－2で最後の１局でした）。神経がすり減ります。　とここで清島が薄くしてしまったらしくついに投了。関東無敗の男も全国では土が。中村さんなかなかの仕事人です。　他はと見ると、主将が厚いながら不確定要素が多くて難しく、三将は匡彦の稼いだ地が多くて振り切りモード。四将も寺山が優勢。白番ですが逆コミが出るかでないかくらいだったでしょうか。　・・・それなのに、寺山まさかの大ポカ。負けるにはここしかないというダメを自ら詰めて自爆、投了したそうです。王座戦の負けもこのパターンだったらしいし、もう笑うしかありませんね。　さてこれで１－２になった。だが三将戦はよさそうだし、主将戦は大石を切断して花見コウに追い込み、結局白が無コウを飛ばして終了。三将戦が匡彦の１６目半勝で終わるのを待ってほどなく主将戦も我妻くんの投了となりました。　ふう危ない。神さま仏さま下坂さま太田匡彦さまである。と言うかもうちょっと年寄りの心臓をいたわってくれよ。北海道大学vs名城大学はっきり言ってほとんど見てません。副将･五将を北大が、三将･四将を名城大が取り最後に残った主将戦、中央でド派手なフリカワリが演じられましたが多分これで黒（北大主将田澤くん）の優勢が決まったのでしょう。押し切りました。金沢大学vs名城大学同前ながら最後まで打っていたのは五将戦。金沢大の某くんが自分をチョンボにしないでくれと祈っていましたが結果は白番の金沢大が盤面でも勝ってました。チョンボから免れてよかったね。　さあ、なんだかんだで両校全勝で明日の午前、いよいよ早稲田と立命館で決戦です。見たい人は午前中から来ないといけません。横着者は見られませんよ。午後の最終局でない原因は、そう去年東北に食らった敗北のせいですね。今期もあわやでしたが辛うじて振り切りました。　明日は午前９時開始（今日までより３０分早い）なので選手の皆さんは時間に気をつけるように。　さて、今日はのだめカンタービレの最終回でも見て寝るとするか。

  2006年12月25日

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• 2日目、上位は順調、しかし・・・？

  はい、2日目です。速報は下に移植ね。午前の結果立命館大学vs名城大学主将戦：○―×副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：○―×東北大学vs愛媛大学主将戦：○―×副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：○―×早稲田大学vs北海道大学主将戦：○―×副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：○―×九州大学vs金沢大学主将戦：○―×副将戦：×―○三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：×―○午後の結果立命館大学vs金沢大学主将戦:○―×副将戦:○―×三将戦:○―×四将戦:○―×五将戦:○―×東北大学vs北海道大学主将戦×―○副将戦○―×三将戦○―×四将戦○―×五将戦○―×早稲田大学vs愛媛大学主将戦○―×副将戦○―×三将戦○―×四将戦○―×五将戦○―×九州大学vs名城大学主将戦○―×副将戦○―×三将戦×―○四将戦○―×五将戦○―×　今日になって対局空間近辺に立ち入り禁止がかかった。おかげでステージの上から見える対局と敷居の合間から覗ける対局以外はほぼ見えん。日本棋院の２階ホール、ステージから主将・副将・・・と並んでいるのだが見えるのはせいぜい三将まで。四将以降は見えません。敷居の間から覗けるのも五将戦が精々。　ギャラリーのホンネとしてはちとフラストレーションのたまるところであるがタテマエ上は選手が最優先なので仕方ないか。午前立命館の相手は名城大。　まあどこか名城大が一発入れるかどうかが関心事項。立命の三将山田紘平くんが白を持って山崎真幸くんに多少苦戦していたようでしたが、最後はばっちり盤面ジゴでフィニッシュ。ムダに高校チャンピオンにはなっていない。　他はどこもボコ勝ちしてました。高津くん相変わらず終わるのが早いです。　東北大は愛媛大学との対決。　注目のエース太田尚吾くんは昨日敗れた主将を選手から引き摺り下ろして主将で打つことに。序盤早々に手割りにならない形を作って最後は攻めあい勝ちでケリをつけていました。個人でぱっとしない彼ですが、こっちに来てからは快調です。　他も東北大が次々と勝ち星を挙げ、なんと完封を食らわせました。三将戦は最後まで残る激闘でしたが結局愛媛大が足りずに投了。ひゃうん。早稲田と戦うのは北海道大。　主将戦早稲田・下坂美織―北大・田澤和也は午前の目玉カードです。　最初に終わるのを目指していたといったのは副将糸山くんでしたが実際は三将太田くんが全局で一番に潰していました。序盤早々にでかく切れてたのでまあそうなるかな。糸山くんも隅の石を叩き殺して早々勝ち名乗りを挙げたのだが、数分遅かった模様。糸山くんが終わるのと高津くんが終わるのがほとんど同じだったと記憶しています。　敷居の間からのぞき見た清島くんは今年私が十傑戦の予選で打たれて大苦戦に陥った手を採用して攻勢に立っています。どうやらそのまま押し切ったらしい。寺山くん、ゴメン全く見えませんでした。え、何書かれない方がいい？えー、それは、そのー・・・　さて目玉カード主将戦は序盤は白の田沢くんが打ちやすそうだった（糸山くんは黒いいと言っていたがどちらを信用するかは皆さん次第で）が、下坂さん得意のぎちぎちした戦いになってきたところで田沢くんに痛恨の一手パスが登場。コウを起こしていっぺんに大もうけ。その後ヨセはなんかお互いミスを出しまくっていたような気がしましたが逆転した瞬間はなかっただろう。下坂さんが盤面で１２目を余しました。　いまから１０年前、早稲田－北大は優勝決定戦にも等しい凄まじい死闘。　下4枚は２－２で最後に残った主将戦。早稲田大学主将坂本修作vs北海道大学主将桧沢仁宏という激闘を坂本さんが際どく白番半目余し、早稲田の優勝に一大貢献・・・なんてことがあったそうです。九州大vs金沢大。　学生十傑10位の森大樹くんvs元高校ベスト8の甲斐原将くんという注目カードが組まれていましたがここは甲斐原くんが抑えました。主将戦も渡辺くんががっちりアマリ型に導きました。九州大は主将・三将・四将が主力モードでその3人が勝って初日を出した形。他方で、九大の五将溝上奈々さんは今日から登場でしたが大きくまとめられて敗れほろ苦いデビューとなりました。午後立命館vs金沢大　立命館対局が終わるのが早すぎます。三将戦を除けば本当にあっという間にカタをつけてしまっていました。三将は十傑入賞の森くんで山田紘平くん相手にかなり頑強に抵抗していて他4局と比べて終局がかなり遅かったがそれも5目半差をつけて押し切り。　まだ立命には一つも土がついていません。というか、土どころか立命が劣勢になった対局を見た記憶がありません。東北大vs北海道大　東北大はエース太田尚吾くんを副将に配置。北海道の大将田澤くんとの戦いをかわした。　結果は北海道大学が序盤から快調に飛ばしまくっていた田澤の勝ち星だけに終わり東北大の勝利。大沢御大と熊谷さんの卒業により層の厚さと言う点で難点ありと見られていた東北大であるが、なんだかんだでまだ主将しか負けていない。　早稲田としては去年の悪夢の再現は絶対に避けたいところであるが・・・早稲田大vs愛媛大　当然早稲田の圧勝でしょう…と思っていたらこれがなかなかどうして。　下2枚は見えなかったけどすいすいと押し切り、副将は投了には追い込めなかったものの終始優勢のまま快調に勝ち星を奪い、チームの勝ち自体は早々と決まったのですが…。　主将戦で下坂が序盤の趣向失敗から変調をきたし明らかにリードされています。薄くて地も大したことなし。更に三将戦も太田が明らかに盤十悪い（太田白番）と言う評判が漂い、2chでの祭説が一部で協力に主張されるしまつ。　結局太田は相手の大ポカに救われ勝ち星を拾い、下坂は終盤に入ってから得意技のヨリツキを連発して事なきを得る。あぶないあぶない。　局後主将戦に検討が集中していました。九州大vs名城大主将戦以外はよく見えなかった。主将戦は九大の渡辺くんがなんだか1人で相撲を取っているような碁だったように見えたがまずは快調に勝利。下4枚も順調に九大が奪うと思いきや三将戦で名城の山崎くんが甲斐原くん相手に見事コミにかけ、名城も完封だけは免れた。　ふむ。早稲田・立命は順調には違いないが微妙に立命の危なげなさと比べて早稲田は微妙にぐらりときている感じでしょうか。　東北大も不気味な力を秘めており油断はできず。明日の午後、いよいよ早稲田ー東北の対決が待っています。

  2006年12月24日

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• 大学選手権初日、上位は順調な滑り出し

  　はい、全国大会ですな。　速報は多少各人の漢字その他が違っているようですが連盟が間違えたのが原因ですので気にしないように。　結果速報はこちらに移植して速報記事は消します。立命館大学vs愛媛大学主将戦：○―×副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：○―×東北大学vs名城大学主将戦：×―○副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：○―×早稲田大学vs金沢大学主将戦：○―×副将戦：○―×三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：○―×九州大学vs北海道大学主将戦：×―○副将戦：×―○三将戦：○―×四将戦：○―×五将戦：×―○　選手宣誓は立命館の副将高津昌昭くん。・・・ごめん中身はよく聞こえなかったわ。　オーダーは下を見ていただければよいでしょう。　早稲田と立命館はたぶん普通に上から５人並べてきました。早稲田が変則オーダーという説が一部でまことしやかに流れていますが普通に学内リーグの結果がこうなっただけだそうです。別に不思議だとも思わないし。早稲田と立命の副将・三将戦は学生碁界スレのラブコールに応えて？？糸山vs高津、太田vs山田となりそうですね。　東北は実績からすればエース格の太田尚吾くん(前山形県代表・選手権２位)を補欠登録。四将・五将を軸にもう一つそれで取りに来るようです。なかなか策士ですなあ。　午後２時対局開始。　立命館の相手は愛媛大。愛媛大の出場はなんと２１年ぶりだって。私が生まれた後ではあるが現役の中にはその後に生まれた人もけっこういるだろうねえ。　一番最初に終わっていたのは立命－愛媛の副将戦でした。案の定高津くんがボコって終了。強いねえ。立命－愛媛戦はほぼ大体立命のオール完勝と言ってよいでしょう。　東北－名城大。　東北大がエース太田尚くんを三将に配備。名城の三将は学生十傑の２回戦で私と打った山崎くんですが、比較的短手数で太田尚くんがケリをつけていました。　副将から五将までを全部奪った東北大だが、主将戦は最後まで残る大熱戦の末名城の主将森脇くんが１目半残し、名城大が意地を見せた。序盤から石をもぎ取って大幅リードをするがふらついて猛追を許したが、山下敬吾棋聖王座も見守る中（王座戦記念対局どうもありがとうございます）きわどく振り切りました。　早稲田の相手は金沢大。　副将糸山くんはあいも変らぬ手のしなりで快調。ボコってました。　太田くんの相手は学生十傑で入賞を果たした金沢大の森くん。中盤ちょっと薄くない？と言うときもあったが、高い戦闘能力を発揮して一気にリードを奪って投了に追い込む。　寺山くんも一気に切断から相手の石を取ってケリをつけ、清島くんは序盤ちょっと悪そうに見えたがそんなに長い時間でもなく、地をどんどん奪ってかたをつけました。　なんと学内リーグで選手全員を叩き伏せて主将に座った下坂さん、終盤に入って一気に差を広げ８目半勝ち。ここで全勝してプロ試験に弾みをつけてほしいもの。　北海道－九州は一つのメインカード。　　主将戦は前中学名人田沢和也vs九州の学生王座予選で坂口を撃破した渡辺祐介とかなりの注目カード。私もちょくちょく見に行ってました。田沢くんの黒番で、ちょっと黒模様がまとまりにくそうで白打ちやすいのかなと思ってみていたのだが田沢くんが力で模様をまとめあげ最後は大差がつけて勝利していた。そして下４人が２勝２敗で実質勝負はこの主将戦だった感じです。おお。　去年は期待されていたわりに全くの啼かず飛ばずだった田沢くんだが、今回はどうなるでしょうか。　　　今日は山下棋聖の他、ナゾさんも見えていたし、なかなか注目を集めていますね。　明日以降どうなるでしょうか？早稲田－北大などなかなか面白いカードもあります。　お楽しみに！！

  2006年12月23日

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• 各大学のオーダー

  北海道大学主将・田澤和也副将・佐藤翔三将・堀米顕久四将・河口洋平五将・渡部道大補欠・福尾悠平・石川智浩東北大学主将・我妻慈副将・志藤光介三将・三浦直晃四将・桑野信五将・中村一朗補欠・太田尚吾・飯島郷司早稲田大学主将・下坂美織副将・糸山剛志三将・太田匡彦四将・寺山文哉五将・清島萌永補欠・浅川有理・大江茂広金沢大学主将・大原一毅副将・室賀翔太三将・森大樹四将・大石啓也五将・上田裕也補欠・蔵重宏章・田中郁子名城大学主将・森脇健人副将・伊藤大司三将・山崎真幸四将・林幸徳五将・長江勇太朗補欠・立命館大学主将・武田淳副将・高津昌昭三将・山田紘平四将・堀内信吾五将・野口正樹補欠・堀井健二・岩崎大祐愛媛大学主将・土岐川光生副将・関家祐平三将・隅田清高四将・林翔太五将・永石英嗣補欠・兼田多希児九州大学主将・渡辺祐介副将・大富英輔三将・甲斐原将四将・一柳洋一郎五将・溝上奈々補欠・渡部洋己・拓殖貴文

  2006年12月23日

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• 【立命軍団】早稲田、慶応を撃破して全国大会へ！！【お覚悟を】

  　いやあ、完勝だったんじゃないかな。　既報の通り、早稲田は慶応大とのプレーオフを４－１で制し、見事関東代表の座を勝ち取りました。　いやあ、早稲田が勝つとは思っていたけど、正直気が気じゃなかったなあ。早稲田の選手４人は金土日と京都に赴いていて、少なくとも私は疲労がまだ取れていない状態、全快状態の慶応との対峙はどうなるものか…とも思っていましたが、見事杞憂に終わりました。よかったよかった。若い人は回復が早いねえ。　主将戦：糸山剛志vs吉成知晃　ついに糸山くん主将に上り詰める。さてこのカードは秋の副将戦と同カード。秋リーグは吉成くんが見事なヨリツキでとっていますが、今度は勝ってくれると信じることにしましょう。「どの碁も手合違い」とはいわれないように･･･　副将戦：太田匡彦vs山本智裕　多分５つのカードの中では熱さナンバー１。双方実績的にも申し分なく、お互いに意識している相手だと思われる。かつての選手権の３位決定戦をはじめ過去何度か渡り合っていて手の内はお互いに理解している･･･はず。　三将戦：下坂美織vs荒川英樹　下坂さんの実力は言わずもがな。1年にして1部春秋14連勝は私の知る限り2000年以降いません。他方荒川くんは去年秋リーグとプレーオフで連勝し早稲田を震え上がらせた。秋の五将戦が同一カード、下坂さんがほぼ完勝していたし、さすがに早稲田厚いと予想していますが、今度はどうでしょうか。　四将戦：清島萌永vs近藤良太　学生十傑で私を破って早稲田最高位に食い込み、関東リーグも今年14戦負けなしで最強説が浮上した清島くんの相手は近藤くん。彼も実力者ですが、経験などを考えれば清島くん有利と見るのが一応妥当な線か。　五将戦：寺山文哉vs古賀圭　早稲田の選手でただ一人十傑お留守番になってしまった寺山くん。秋リーグも必勝の碁をひっくり返され絶体絶命。実力は誰もが認めるところなのだが。これに対し、秋に天敵太田くんを破って波に乗る古賀くんがもう一人の天敵（？）寺山くんに挑む（？）図式。と言うかなぜ古賀くんが五将に座っているのか理解しかねる。　握りははずれ。早稲田の副将と四将が黒番である。　主将戦は･･･またしても糸山くん快調に飛ばしています。どうも黒の吉成くんにあの恐ろしいまでのキレが見られないような感じがするが秋リーグのこともあり、油断は出来ませんぞ。　副将戦、黒の実利、白の大模様と言うお互いの持ち味が出たコントラストになっていますが･･･黒が中央を飛び出すのに成功して白の方が先が思いやられる展開に。　三将戦は一番厚いと思われていたにもかかわらずなかなかの難戦に。布石はむしろ慶応乗りとすら思っていたが。　四将戦はじっくりじっくり。細かくなる気配ですが、一応黒の方が地が多い気配だろうか。長引きそうだな。　五将戦が悪そう。実利は黒の多い布石なので中央権を掌握しなければいけないはずなのだが、逆に中央権を奪い取られているような。あんまり勝負どころもない感じの碁になっているが、どうするんでしょうか？　勤労感謝の日だというのに出てきた社会人で私の同期のOくんは、中盤辺りでは五将以外は悪くないと言う見解。どれくらいのリードかと言う点については差異があったもののおおむね同意。　さて、後半戦に入ると一番厚いと踏んでいた三将戦がなぜかもたついている。そんなに悪いわけではないのだが、厚みが少なからず消されていて勝つのにけっこう苦心しそう。　他方五将戦に多少持ち直しの気配が見える。薄い石を処理できれば、何とかなるのではと言う説が出てきた。　主将と副将は勝勢。主将は黒地をうまく削り取っている一方で、黒が代償をほとんど取っていない。さらに副将戦は黒地をごっそり抉り取ってしまった上白模様になるはずのところで黒模様（！）を作ってしまっています。傍目に見ても大差ですね。　四将も地は多いはず。中央に変に白地がつかなければ・・・まだまだ悩ましいかな？と見ているとうまく打ちまわして白地どころか逆に黒っぽくしてしまった。　さすがにプレーオフ。どの碁も進行が遅い。開始から2時間、持ち時間の総和が尽きるはずなのにまだどの碁も終わらないが、三将戦以外はほとんど趨勢が定まっていた。　最初にほとんど同時に２局が終わった。主将戦と四将戦である。　主将戦は白がほとんど地合いで圧倒してました。一番奥まったところで打ってたので内容はよく分からなかったけど、最後は大差だったはず。いやあ手合違いですね。　四将戦はまだそれでも難しそうだったが、白の二線ハサミツケが一線に下がって受けられて何もなしと言う悲劇発生。ただで５目くらい損している。さらに中央をごちゃごちゃやっているうちに切断両にらみが飛んできて白万事休す。団体戦なので投げるわけにも行かず最後は２６目半と言う大差がついていた。勝ちを見定めたのはかなり後のほうだったが、悪くなったんじゃないか？と言うことは一度もなかったと思われる。　それにしても年間15勝はすばらしいですねェ。私なんか大学4年間でその3分の1だよ。　さて後一つと言うところで次に終わったのは副将戦。前回も太田くんが勝って決まったんだったなあ。　中央に手のひらが入りそうな特大の黒地発生。その上隅までいじめています。これは負ける要素ないやろ。結局２２目半というど大差がついてケリがつきました。　太田くん早慶戦９勝１敗。すごい勝率である。東大戦は実は負け越しなんだけどね。１局だけ打って勝って１０割なんて人を除けば（私の学部の先輩のMさんとか）多分史上最高ではなかろうか。T沢御大でさえ７勝１敗でしかないし。しかも彼はちゃんと４年でこうなっているのがすごいところ。やっぱり碁に没頭するに限らず４年で卒業できなくてはね。　　他方五将戦は、薄い石に見事によりつかれて中央に大きな黒地が。そのまま寄せ合いに入ったもののちょっと差が大きく、８目半差で敗れてしまった。春に早稲田理工にキックを食らった上に秋は慶応に大逆転負け、その上ここでも負け。これで立命に負けたりすると大間のクロマグロどころか遠洋漁船に乗ってミナミマグロでも取ってきますか？と言う話になるので立命戦は絶対勝つように。　三将戦は３時間越えの熱戦になり、途中中央が黒っぽくなって負けるのではという感触も抱いたが、中央をほとんどゼロゼロにして、無事に４目半コミにかけることに成功。　そういえば、5年前のプレーオフも、最後まで残っていた1局は唯一の女流宇根川さんvs桜井さん（東大、一昨年学生十傑3位）で、宇根川さんがやばそうな碁を4目半コミにかけたんだっけ。んで、その俊早稲田は苦しみつつも全国制覇をしたんだったなあ。　とにかく今回の戦いは早稲田のほぼ完勝と言ってよい内容だと思います。　立命戦は厳しいとすでに話題になっていますが、（以下反転）糸山くんはすでに高津くんを倒す気満々らしいし、やってくれると信じましょう。　立命の皆さん、全日本大学最強を名乗りたければ、早稲田を倒してからにしてもらいましょうか。

  2006年11月23日

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• 15日の日記

  慶応大、電気通信大学をも下して優勝！！！春の覇者早稲田とのプレーオフは11月上旬の予定らしい。順位は上から慶応、早稲田、東大、筑波、中央、東京工業、電気通信、横浜国立。一部昇格は駒沢と早稲田理工。一部の全勝は慶応の副将と早稲田の四将五将が獲得。女子部は東大Aに栄冠。何が悲しくて敗戦を速報しなければならんのか・・・

  2006年10月15日

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• 繰り返した歴史～慶応、早稲田を再び倒す！！

  　もう題名はこれしかないね。　今日の午前は事実上の優勝決定戦の早慶戦。早稲田が勝てば、勝ち数と前回順位の関係で午後に東大に０－５で負けても早稲田の優勝が決まる。慶応は勝ち星を多少落としているので完全決まりと言うわけではないが、午後の相手の電通大は戦力が減少していて慶応に対抗できる状態ではない。というわけでまあほぼ決まる。　当然最後にとりを飾る・・・と思っていたら前期に慶応が東大に蹴っ飛ばされてしまうという大失態をやってくれたため午前から。　早稲田は主将が４年のほかは１年２年で構成された若手主体チーム。他方慶応は現在大学院生の私と同年齢の人が３人くらいいるベテラン主体チームである。念のため言っておけば私は飛び級とかはしていない。主将戦：早稲田主将Ｏくんは今年３棋戦枠抜け。慶応の主将Ｋくんも２棋戦枠抜け。まさしく主将戦に相応しい決戦。　早稲田主将は過去慶応戦８戦全勝（注：彼は留年等していない４年生ですがプレーオフを打ったので８戦です）。個人でも相性は早稲田主将によい（何度か打っているのを見たことがあるが慶応の主将が勝ったのを見たことはない）みたいだし、最後の年に気合もすごいようなので勝ち星を期待しているが、慶応の主将もプロだってやっつけてしまう凄腕なので、安心することはとてもできない。副将戦：同じく今年３棋戦枠抜け、関東王座にもなった早稲田のＩくんと本因坊戦を抜けた慶応のベテランの副将Ｙくんの激突。　慶応の副将は高校生にして学生十傑３位、学生王座で準優勝と学生棋戦で大いに暴れているのであるが今年は唯一抜けた本因坊戦も２回戦で熊本県立大のＳ口君に敗れるなど、どうもぱっとしない。他方Ｉくんは学生本因坊と言い関東王座戦と言い最近乗りに乗っているというか乗りすぎな勢い。調子を考えれば早稲田に分があるとは思うが、やっぱり慶応の凄腕っぷりを忘れるわけにはいかない。三将戦：早稲田から今年２棋戦枠抜けしたＴくんと春は引っ込んでいたが今期復活した元中学名人Ｙくんの戦い。　去年個人戦で当たったときはＹくんに軍配が上がっている。実績面もＹくんが上回ると見ている。だが、Ｙくんは十傑で知得くんに敗れるなどして（おかげで私が抜けるという事態になった）今年個人戦枠抜け。どうも今期不調気味。Ｔくんは腕を上げてきており予想は難しい。四将戦：早稲田の十傑枠抜け者Ｋくんと慶応の選手常連Ｓくんの対決。Ｓくんはなぜか枠抜け経験が一度もないのだが、爆発的に強さを発揮したりもする実力者。その強さに多少波があり下位校にも取りこぼしているが好調時だとすればＫくんと言えども大変そう。過去に個人戦で対戦経験がありSくんに軍配が上がっている。Ｋくんは初期は団体戦に不慣れな印象を受けたがだんだんと克服し春はついに全勝。予想はもはや無意味であろう。五将戦：早稲田の王座一次枠抜けＳさんと慶応の選手常連Ａくんの対戦。Ｓさんはアマ碁界に詳しい人なら一度は名前を聞いたことがあるはずの強豪なのに、学内リーグで敗れまくり、五将に入るにもプレーオフを打って勝って滑り込んだ。Ａくんのほうは去年秋に彗星のごとく現れ早稲田の五将で現在ＯＢのＯくん（本日も応援に来ました）に完勝して早稲田をプレーオフに引きずり出し、プレーオフでもギリギリまで手のあるところを手抜いて半目勝を収め、その時点で０－２として早稲田応援団を凍りつかせた男である。比較的早稲田優位の予想が堅い所であるが、去年秋もそういう予想をしていたらギャフンと言わされたんだよなあ。　三将･四将で１－１or２‐０に持っていければ早稲田が優勢、中央３枚で２－１ならほぼ勝ち、中央３枚１－２でほぼ五分くらいに予想。早い話が中央３枚で１．５勝、主･五２枚で１．５勝の目論見。　開始のニギリははずれ。今になって思うと、それが勝負を分けたような気もする。特に三将戦あたりで。　優勝決定戦は序盤からどの碁も慎重な立ち上がり・・・と言うのは過去のことらしい。開始早々三将戦で慶応の仕掛けた三連星に入っていって大攻めあい。。本来慶応が潰すコースだったようだが手順ミスで早稲田が超大儲け。こういうのを「オワ」という。　さて主将戦、早稲田の白番は例によって先行。ただし例によって薄い。最初に現れた定石は私自身も何度か早稲田主将と打った時に現れた形だが散々だったなあ。まあ慶応の主将はそんなことで揺らぐほど脆くはない。黒は厚い碁形だし、技も飛びそうな形。追い込んできそう。　副将戦は黒番早稲田快調に打ち回す。本当に快調。翻弄と言った感じ。これは勝てそうかな。　四将は謎の競り合い。わかりません。　五将は慶応がぶった切りを発動。大丈夫か？と思ってみていたが無事に形にした。しかしちょっと慶応厚いような・・・・・・としばらく一巡りして戻ってみると・・・三将戦で異変が。　慶応のヤケクソの（？）猛攻に早稲田が受け方を誤り、強烈な返しで大損を食ってしまい最初に奪った大もうけが全部吹っ飛んだどころか明らかにおつりを請求されています。ああ攻めなければいけない石で模様が出来上がっている・・・大丈夫なのかおい？「オワ」は「オワリ」ではないのでこういうことが起こるんだよね。　五将戦は慶応のその後のうち方がまずく早稲田がずいずいとリードを奪って勝利街道一直線ですが主将戦は慶応の追及をもてあまし気味。副将戦の方は早稲田は中盤過ぎまで相変わらず快調です。　最初に終わったのは四将戦。慶応の四将がダメヅマリを読み損じて早稲田が大規模に石をもぎ取り勝負あり。よし偉い。　他方ついで終わった副将戦は早稲田快調だったのに異変が。慶応の副将が中央をズバズバとよりついてきて中央に白地が想定外についている！！黒地は増えそうになかった形のため激痛。これが慶応副将の恐ろしさ。安定感の点で多少難を感じる彼だが、強いときの強さはすげえ。と言うわけで慶応の白番5目半勝ち。早稲田副将春夏通じて関東リーグ初敗北を喫する。全勝した慶応の副将は「どの碁も手合違い」とか言い放ってました（念のため書くことを事前に言っておいたんだけど）。調子に乗りおってといいたいのは山々だがこの結末では何も言い返せない。　五将戦は奪ったリードをがっちり守りきり押し切るものの残り2枚が怪しい。三将戦は追い込んではいるがちょっとコミ6目半では届きそうにない。と言うわけで勝負は難しい碁の主将戦にもつれ込んだ。地はまだ多そうだが追い込まれそう、半目勝負の予感もしていた・・・。　三将戦が早稲田の白番3目半負けで終わり、いよいよ主将勝負となった頃になって主将戦に異変が。元々気色悪い形のところで慶応の追及に受けを誤り巨大な黒の花見コウに。黒の厚い碁形にコウ材なんかあるはずもなく超損失。団体戦なので投げることもできず29目半負けは悲惨の一語に尽きる。　今日は神田川に人が浮いていることだろう。また、マグロ漁船行きも何人かでそうだな。　早稲田理工は緒戦に駒沢に敗れたもののあとは奇跡的なチームワークで全勝、しかもほとんどを３－２勝ちで乗り切り、2位で一部昇格を決めた。しかし、来年主力3人抜けるようで、一部に行って即落ちしないまでのレベルアップはかなり大変だぞ。　あと、会場が代わったため道が狭いのはわかるにしても、主将戦の机に当たって机を動かしまくっていた人たち、ちょっとは反省するように。机を動かさなければ入れないなら入るな。あの世界は対局者優先が絶対である。ふと思った。去年との共通点が多い。一、春は５－０だったのに秋は２－３でプレーオフ二、最初に四将がぶっ潰して終わる三、最後に主将戦が残ってしかも負ける四、早稲田奇数白番五、下馬評は明らかに早稲田有利六、私の予想の０．５勝が全部慶応有利に働く　おいおいおいおい。なんなんだこれは。　とりあえずプレーオフは０．５勝予想をしないでこのくだらんジンクスを回避するとするか。　プレーオフは11月上旬のはずだったのに選手連中の予定がつかず、日程は11月23日まで延びた。しかも午前からだって。十傑（11月17～19日）の後か。十傑は早稲田の選手が4人も出る（私もね）。十傑はうつ状態で打たねばならなそうだな。

  2006年10月15日

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• osamabnrdn vs nipparat　棋譜速報

  夜が明けたら一限から授業なので今日はもう棋譜だけで寝ます。夜が明けたら名人戦第４局とともに感想その他を。結果はnipparatさんの白番勝ちです。(;GM[1]FF[1]SZ[19]PB[osamabnrdn,八段格,,]PW[nipparat,九段格,,]GN[パンダネット杯準決勝]DT[2006/10/11]PC[パンダネット]RE[W+11.5]KM[6.5];B[pd];W[dc];B[pp];W[dp];B[df];W[fd];B[jd];W[qf];B[cc];W[cd];B[dd];W[bc];B[cb];W[de];B[ed];W[ee];B[ec];W[ce];B[fe];W[gd];B[eb];W[ef];B[ff];W[ie];B[je];W[fg];B[gf];W[gg];B[hf];W[if];B[hg];W[id];B[kg];W[jc];B[kc];W[kb];B[lc];W[jf];B[kf];W[ke];B[kd];W[hh];B[ig];W[jg];B[ih];W[jh];B[hi];W[le];B[md];W[fi];B[ji];W[kh];B[lg];W[ib];B[gb];W[hb];B[gc];W[hc];B[bb];W[mg];B[lh];W[ki];B[jj];W[me];B[ng];W[mc];B[nc];W[mb];B[nd];W[ld];B[ne];W[mh];B[mf];W[lb];B[mi];W[of];B[pg];W[qh];B[pf];W[qe];B[qg];W[rg];B[rf];W[ri];B[sg];W[rh];B[pe];W[re];B[qd];W[qm];B[pl];W[ql];B[dj];W[dh];B[cn];W[fk];B[jq];W[fq];B[bp];W[cl];B[dl];W[dm];B[cm];W[dk];B[ck];W[el];B[bl];W[dl];B[cj];W[jl];B[kk];W[kl];B[gh];W[fh];B[lk];W[lq];B[gq];W[gr];B[fp];W[hq];B[gp];W[eq];B[hp];W[iq];B[ip];W[jp];B[kp];W[jo];B[kq];W[dn];B[cq];W[ir];B[hl];W[hk];B[ik];W[il];B[gk];W[hm];B[hj];W[gm];B[ko];W[jn];B[nq];W[co];B[bo];W[bk];B[bm];W[bh];B[bi];W[rp];B[qq];W[qo];B[rq];W[sf];B[pj];W[pi];B[oi];W[qj];B[pk];W[mo];B[kn];W[ll];B[mn];W[nn];B[no];W[ln];B[mm];W[lm];B[lo];W[mp];B[mq];W[nl];B[nm];W[om];B[on];W[ml];B[nn];W[jr];B[kr];W[ks];B[js];W[is];B[lr];W[rc];B[rd];W[sd];B[rb];W[dr];B[bg];W[ah];B[ch];W[cg];B[di];W[ci];B[jm];W[km];B[ch];W[bf];B[dg];W[ci];B[in];W[im];B[ch];W[cf];B[eh];W[bd];B[rn];W[pm];B[ro];W[po];B[qp];W[oo];B[op];W[oj];B[ok];W[nj];B[nk];W[ni];B[mj];W[oh];B[nh];W[oi];B[mk];W[qc];B[qb];W[sb];B[nb];W[pc];B[pb];W[oc];B[ob];W[og];B[nf];W[rm];B[cr];W[cs];B[bs];W[ds];B[cp];W[do];B[ai];W[ag];B[sm];W[sl];B[sn];W[qk];B[br];W[fc];B[fb];W[ab];B[gl];W[fl];B[gi];W[eg];B[dh];W[ga];B[fa];W[ha];B[ra];W[sh];B[ma];W[la];B[na];W[ba];B[ca];W[ej];B[gj];W[ei];B[bj];W[ph];B[ls];W[fr];B[js];W[ac];B[ks];W[aa])

  2006年10月11日

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• 【打倒立命】秋期関東学生リーグ初日【第一歩】

  　午前中に明治大学に行く。目的は早稲田大学の応援である。　　午前中の早稲田一般チームはとりあえず問題ないようなので（あとから考えるとそれなりに問題があったのだけども）主な見物先は早稲田理工－駒沢戦。　駒沢は主将が元院生の強豪（プロ試験本戦進出経験者）、副将は十傑と王座一次を突破した伏兵Yくん、三将は某有名女流プロの弟君で、彼自身も埼玉県でベスト16に残った強豪。駒沢大はこの３枚看板を揃えて三部から二部へ昇格。一部駆け上がりを狙うチームである。それに対するが前回一部から陥落した早稲田理工だというわけである。開始早々天王山勝負だ。　早稲田理工としてはとりあえずあまり強くなさそうな（？）下2枚を叩いて上3枚のどこかに勝てばと言う勝算であろうか。　早々に主将戦に異変が出来。駒沢の主将が早稲田理工主将の研究手に引っかかりほぼ潰れに等しい情勢になってしまった。　副将戦は序盤から細かくなりそうだが細かくなればあの「半目の神」Yくんの独壇場だろう。意識して彼の碁を見たのは初めてだけど本当に細かそうな碁を打つね。ああいううち方が彼の強さの秘密か。十傑で当たったりするのかなあ。（１回戦は同じ地区ではあてないけどね）　他方、私が入学する前から現役だった大ベテラン三将は序盤からぬるい手を打ちまくって圧敗コース。四将は・・・悪そうだがまだ挽回がききそうか。他方五将は地が多くて悪くなさそう。　最初に主将戦で駒沢大投了。潰れに等しい形を挽回しようと必死の策動も最後は大石死亡で万事休す。自分が院生の頃はこれでよかったとか嘆いていましたが、別の元院生の人は「同じ院生として恥ずかしい」とか言い放っていました。きゃーはずかし。　副将戦は駒沢のYくんが地になりそうなところを荒らし、更に周辺の薄みをびしびしと追及して一気に勝ちを決めた。半目勝つにはやっぱりこういうところで決める手も必要ですね。しかし彼は後に立教大の副将に敗れることとなる。　三将戦はこの頃ぬるく打ったのを生かして猛追コース。地合の差をどんどん縮め、さらには切断を放ってもいで逆転！！！となるところで思考回路に穴ができたとしか思えない大ポカ。あえなく投了。一部で東大の副将を撃破した頃の力はどこに行ってしまったのか。ここまで１－２。　ここまでで下2枚のうち、四将は挽回しておりコミにかかりそうなムードだが、五将は現ナマ２０目オーバーで周辺の根拠にも響く巨大な手を「誘われてる」と思ったとかで打たずにいっぺんに形勢を損じた上、最後は石がもげてついに降参。最後もどうやら手無しの匂いは漂うがもうちょっと紛れるように打って欲しかった。「核ボタンを押した級のチョンボ」と言っておいた。マグロ漁船に乗せられたくなかったらあと何とかせいよ。　四将が何とか３目半残したのもむなしく、２－３で早稲田理工は敗れ去った。春に主力2人を失って二部陥落、しかも今年更に主力3人がいなくなる予定の早稲田理工、大丈夫か？　理工は午後に芝浦工大を4－1で下す。これは普通に快勝だったような。　午後第2局、早慶二部チーム対決が実現。今まで対戦はなかったんですな。　最初に終わったのは四将。中央の碁にしたがそれはちょっと甘すぎない？細かくするも1目半負け。しかし駒沢戦で役に立たなかった三将と五将が勝ち名乗りを挙げて王手。ところが快調に打っていた主将が石をもぎ取られて劣勢に陥る。副将は序盤からダメそうでコリャダメか・・・と思っていたら副将がなんとヨセの大所を全部打ってしまい最後は8目半の大差で勝利。副将は個人戦などで華々しく活躍しているわけではないのだが、上位連とも普通に渡り合えているのが頼もしい。今年で卒業なのが残念だが。主将は最後まで打って取られた石を最大限利用して追い込みを狙うも2目半差で振り切られ。客観的に見れば主将は早稲田理工のほうが格上なのだが、苦手意識らしい。　二部の方は駒沢と東京農工が３－０、千葉工業大と早稲田理工が２－１。千葉工業と東京農工を残している理工にまだまだチャンスはあるが。　さて、早稲田一般の方は春とメンバーは同じ。三将と五将が交代。三将は主力連をばたばたとなぎ倒したのに補欠のA君にパタッと負けてしまうあたりが実にすてきちゃんです。まあんなこたどうでもよろしい。　東大を倒した筑波大も含め、東工大横国大と全部5－0でシャットアウトしましたハハ。　他方、春に慶応を下した東大は筑波大になんと1－4負け。十傑で枠抜けした副将しか勝てず。筑波は主将・三将・四将とかなりの実力者であるのは事実。特に三将は相当な実力者で早稲田の三将さえかつて痛い目にあっているのだが、あの憎らしいまでに強い東大はどこに行ってしまったのだろうと思ったらなんと次の試合でいきなり現れました。　なんと中央大をシャットアウト。下４枚はともかく、中央大と言えばかの学生本因坊兼アマ本因坊が主将に座っているのですがなんと東大の主将が一部の部屋で最後まで残る大熱戦の末半目勝ち。ほかも残らず全滅させてしまった。　十傑でふらつきながらも東大の主将を下した私としては株があがると同時に実に溜飲の下がるニュースですなあ。中央大のある人のブログで「見たらがっかりした」とか書かれたんだもん。せめて「予想と違っていた」だったらよかったのにねェ。早稲田連中にも完封を厳命しておきました。　明日は大学院に行かねばならないので行かないけど、頑張ってね。　できれば結果をここに書き込むか携帯に送ってくれるとなおありがたいのだけど・・・。　さて、今週は大した波乱も起こっていない（！？）ので速報も力を入れませんでしたが来週の早東戦、早慶戦は力を入れて速報しますのでお楽しみに。慶応は学生十傑で私が抜けた山で第一シード、（知得くんに敗退したが）学生十傑５位の前主将が復活予定とかで、春より早稲田に厳しい戦いが予想されます。　「早稲田が関東最強というなら、俺たちを倒してからにしてもらおうか」というところでしょうか。　総じて早稲田優位とは思うけど、油断すると大火傷どころか最悪の結末も見えるので勝って兜の緒を締めておくように。

  2006年10月08日

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• わリーグエキシビジョン！！ゼネス2005　vs　nipparat

  　 　あれっ？わリーグってもう終わったんじゃないの？　　ちっちっち、今日はわリーグの優勝者の一角、表社会で医碁界の帝王、裏社会で野球碁聖と名高いnipparatさんと楽天のブログの主で「出雲の神将」と名高いゼネス2005さんによるパンダネット世界戦2回戦での激突がある。　ちなみに同じくわリーグ優勝者の北陸の棋神osamabnrdnさんもすでに次に駒を進めている。　え、何もう一人？日々の学業に追われて対局もままなりませんがね。その代わりといってはなんですが観戦記を用意しましたのでご覧あれ。私自身ゼネスさんのしばらくあとに始めたのでゼネスさんはよき目標であるわけで、その意味でもやはりこの碁は見届けたいと思った。というわけで「ゼネスのＷＷＷ（わんだぁ～うぉ～るわ～るど） 」ゼネス2005vs「コラム　医療　不思議体験　グルメ　囲碁」nipparat　棋譜は例によって一番下に貼り付けたのでどうぞ。　1,3,5は私もよく使う。3は小目のことも多いかな。　6手目の二間高ガカリに7と下一間は比較的最近流行っている手法。個人的には利かされの気がしないでもないが、白のサバキを拒否する強い手である。　8に対して9は私が「必殺マッハ15.5」などと呼んでいる愛用布石。自分と同じくらいの相手に、この形に持っていくと恐ろしいほど足早に打てるので私は好きだ。ちなみにマッハ15.5の由来が一発で分かったらあなたはマニアックですね。ネットで検索してもわかんないよ。　話を戻すと、19手目までどっかで見たような形。21手目は・・・まあどこかの誰かみたいなまねはしませんね、はい。　23のツケから持っていくのはあまり見ない。26手目は私だと隅をハネ下がると思った。上辺を持ち込みにすれば悪くないかと。30までと手広く構える一連の作戦か。31の天王山に打たせて32と入って本格的に戦いが始まる。　35と右辺に強力に圧力をかけた瞬間に36と割り打ち。43までとなってはやや白余裕が出来たか？46と右辺を飛び出して下辺の処置は黒に任せた。　47、49に対して50は少なくとも見た瞬間のびっくり度はあの私の食らったアテコミ以上かと。私は打たれた瞬間にあの意味に感づいてマジで悲鳴を上げてましたが、こっちはどうなんでしょう？　66までとフリ変わった結末の評価は難しいが、右側の黒が厚くなって右辺を攻め易くなった分やや黒のりか。ただ、逆に攻めそこなうと白がいい感じかも。下辺は１線にはねたりする手がうるさいし。早い話が善悪はこれから。　67のツケから潜行攻め。これは効いているかも。78で中央にキリを入れた瞬間81と踏み込み。これはかなり強烈。78手目のキリで18の14に曲げておけば成立しなかったのでそこに曲げておくのも一策だったかも。曲げておけば噛み取りも残ってもうとても攻められないし。　89の攻めはちょっと腰が伸びてる印象もあるけど代案も浮かばないんでこう打つしかないか？96と曲げられてみるとちょっと攻め続けるのがつらそうな感じだが、中央で103とはねたのが最強手。最強手は右辺もぎ取りと中央2子抜きのフリカワリを招いた。　白のほうは中央は二子抜きでかなり止まっており、他方右辺の黒の実利もかなり大きい。二度にわたる激しいフリカワリの応酬。これは見応えがある。　さてここで計算をしてみると…ちょっと白地の方が多そうですね。コミなくてもなかなかいい勝負って感じ。やっぱり中央２子を抜かせてはいけなかったのかな？　１７２は一路左に打ってヨセる方が切断睨みでちょっと得だったはずだけど。　最終結果は白の６目半勝ちとなった。　ゼネスさんの力が思う存分発揮されたはずなのだが、発揮するだけ発揮してあれっと言う感じがした。nipparatさんは力を力で受け止めるのでなく力をかわして優位に立ったという感じか。　ともあれおつかれさまでした。風の精ルーラvsひよこ雛形戦の次くらいに面白い碁だったたかも。（我ながら性格が悪いな）(;GM[1]FF[1]SZ[19]PB[mi１uhi,八段格,,]PW[nipparat,九段格,,]GN[第11期パンダネット杯]DT[2006/10/04]PC[パンダネット]RE[W+6.5]KM[6.5];B[qd];W[dd];B[pp];W[dq];B[fc];W[nd];B[qf];W[hc];B[cn];W[cl];B[cq];W[cp];B[dp];W[bq];B[cr];W[do];B[ep];W[co];B[br];W[dn];B[fp];W[fd];B[cd];W[ec];B[ce];W[cg];B[cb];W[db];B[bc];W[eg];B[nf];W[qn];B[ro];W[pk];B[on];W[kq];B[iq];W[nq];B[or];W[oq];B[pq];W[nr];B[pr];W[qo];B[qp];W[nk];B[ko];W[jp];B[in];W[hq];B[ip];W[ir];B[hr];W[gr];B[jr];W[hs];B[jq];W[hp];B[kp];W[er];B[bp];W[bo];B[aq];W[hn];B[hm];W[gn];B[qk];W[ql];B[qj];W[nm];B[nn];W[bg];B[bf];W[cf];B[be];W[pj];B[qi];W[im];B[le];W[lc];B[ol];W[pl];B[om];W[nh];B[mc];W[md];B[ld];W[lb];B[lh];W[ph];B[qg];W[mg];B[me];W[oe];B[of];W[lg];B[kg];W[kh];B[li];W[kf];B[jg];W[jh];B[ih];W[kj];B[lj];W[jj];B[lk];W[ig];B[oi];W[ni];B[oj];W[nj];B[ok];W[oh];B[pi];W[jf];B[il];W[jm];B[jl];W[hl];B[km];W[gm];B[ik];W[jn];B[jo];W[kn];B[ln];W[io];B[lm];W[hi];B[de];W[ee];B[jd];W[kc];B[je];W[pe];B[pf];W[ao];B[ap];W[js];B[kr];W[ks];B[ls];W[is];B[lr];W[pc];B[qc];W[qb];B[rb];W[pb];B[ic];W[ib];B[hd];W[gc];B[df];W[dg];B[ff];W[gg];B[ag];W[ah];B[af];W[bh];B[hk];W[gk];B[dr];W[eq];B[pd];W[od];B[ra];W[qh];B[rh];W[nl];B[hj];W[gj];B[qe];W[nc];B[qa];W[pa];B[ca];W[fb];B[jc];W[jb];B[hf];W[hg];B[da];W[ea];B[if];W[ij];B[kk];W[mm];B[mn];W[dc];B[fg];W[fh];B[ki];W[ji];B[es];W[fs];B[ds];W[cc];B[bb];W[gf];B[ge];W[ef];B[fe];W[gd];B[he];W[lf])　

  2006年10月04日

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