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碁法の谷の庵にて

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2007年08月12日
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 橋下徹氏が安田好弘弁護士らを中心とした光市母子殺人事件の弁護団について、懲戒相当云々を主張していますが、「弁護団が懲戒請求が妥当だ、という原因は説明責任を守っていないところにある」と説明しています。彼のブログからどうぞ。
 これに関して、思うところを述べます。彼の言葉遣いに品がないとか、そういう非難も見受けますが、それには目を瞑ります。


 確かに、今後の裁判員制度に向けて、一般の人たちにも弁護人側の行動の正当性を主張できるようになるのは必要なことです。市民に理解してもらえるようにするのも必要なことでしょう。これまででもそうでしたが、今後ますます必要性が増大します。
 しかし、裁判員はきちんと証拠を閲読し、きちんとした選任手続が行われ、裁判官に分からないところは直接教えてもらい、ケースに応じて止めてもらう上で判断をしてくれる人というのが大前提です。テレビや週刊誌で見たことで判決文さえ読まず全てが分かっていると勘違いしているような、神をも恐れぬ傲慢な人たちは裁判員から追い払われる可能性大ですし、そんな相手の説明責任なんて聞いたこともありません。日本人の赤ん坊にタミル語をまくし立てるくらい意味のない行動です。


 また、説明責任論、それも被害者や社会一般へのそれを強調すると、被告人に対する関係で有する「守秘義務」がぶち壊しになりかねません。守秘義務は日弁連の弁護士倫理はもちろん、弁護士法23条刑法の秘密漏示罪という形でも規定されている厳然とした弁護士の権利であり義務です。
 例えば、被告人が勝手にいうことを変えたためにこのような弁護になったんだとしても、弁護人は被告人に利益にならない限り、それをばらすことは許されません。是が非でも被告人のいうことが正しいというしかないのです。自分が弁護して無罪になった被告人を「有罪心証を持っていた」と訴訟外で言い放って懲戒された弁護士だっているのです。
 そうしなければ、秘密をばらされることをおそれて弁護士を国民が安心して利用できなくなってしまうと考えられているためです。これは日本に限ったルールではありません。また、刑事訴訟上の接見交通権は秘密が保障されています。秘密の保障はある意味では真相究明の妨害になりますが、秘密にしておけば、本当に自分の身を守るのに必要な事項を弁護士に安心して語れるという意味があると思います。
 法廷で語ることは、世間に向けて公開される傍聴の対象や判決の基礎になりますから守秘義務の範囲とは違うと思いますが、それ以上の内部事情をばらすことは、日本の刑事裁判の構造にも悖るというべきでしょう。



 それをばらすことなく一般論的な弁明をしながら、今回の件が理解されたでしょうか。限りなく疑問です。
 もちろん、大学にいく程度の脳みそのある人が、一度その気になって、何時間も缶詰になって弁護制度やそれを巡る諸相を詰め込んだ上でいろいろと説明すれば、賛否は脇に置いて一応の理解はしてもらえるようにも思います。
 ですが、そんなのは土台無理です。第一、記者会見で語ったことが全部報道されていたでしょうか。弁護団は分厚いレジュメを配ったに関わらずその内容さえも報道されていないといいます。時間が経って、主張の骨子がジワジワと明らかになって、弁護団の言い分に理解を示す人も増えています。
 本村洋氏が大規模にマスメディアを用いて主張を展開している中、それに抗して主張の正当性を主張するためには、マスメディアを利用するしかありません。そのマスメディアがそれを全部語ってくれないのでは、どうしようというのでしょうか。


 それでも、今回の弁護団は記者会見をいちいち開いて、(専門家の中には、記者会見はむしろ世論の反発の原因になるのでやめた方がよいのではという見解もある)年報死刑廃止に弁論要旨まで出し、安田弁護士らもあちこちの媒体で一・二審の弁護・検察・裁判所の手抜き振りを批判しているところです。
 はっきりいって、大きな事件でも、多くの弁護士は記者会見を、それもここまで世間に目が通る形でやることは少なく、せいぜい方針を大まかに明らかにするくらいしかしない中破格の説明責任の履行っぷりでしょう。これで足りないとすれば、それこそ先述した神をも恐れない人たちばかりのように思えます。

 橋下氏は、それとも記者会見など一切開かないような弁護士たちも含めて全部懲戒しろというのでしょうか?それならそれで筋は通りますが、これまで社会一般に対して説明をしなかったことを盾に懲戒されるという話は聞いたこともありません。
 説明責任を強調しようにも、守秘義務という厳然とした権利義務に対抗するだけの理屈や裏づけは乏しいのです。

 説明責任的な観点から問題があったという視点はまだしも、説明責任論で世論を喚起した方がよほどよかったでしょう。

 あえて言っておけば、私と彼の間の裁判観は大きく異なるように感じます。その辺が見解の割れの原因かもしれません。
 私は、こと刑事裁判に関して言えば、被告人の権利保障こそが刑事裁判の主眼であると考えています。権利保障が要らないなら民衆法廷でも警察法廷でも何でもさせておけばいい話だからです。警察権力を彼らに協力させればいいでしょう。日本の裁判構造なら、裁判の場で真犯人が明らかになることなどまずありません。適正手続に基づく裁判という形をわざわざとる原因はそこにしか私は見出しません。ただ、国民の信頼保護も大切ですから、配慮が必要な事項だろうし、解釈論においても生かしていくべきところと思っているだけです。
 これに対し、橋下氏は「制度の享受者は国民」という記述があります。どうも、第一は国民のための裁きであって、そこにおいては配慮すべき事項として被告人の権利を設定しているのではないか?という感想を私は抱きました。




 もう一つ見逃せない事実があります。多くの人たちが橋下氏のあおりを受けて懲戒請求した内容はなんだったか、ということです。

 具体的に提出された文面を全て見たわけではありませんが、ネット上で一番広まっていたのは、「あんな弁護は許されない」という旨の懲戒テンプレートで、しかも「理解できないし理解したくもない」などと、もはや説明責任以前に説明自体拒絶するような理屈のテンプレートが一番出回っていました
 また、懲戒請求の火付け役が橋下氏であることは、いまさら疑えません。刑事訴追でもされない限り、自分に関係ないなどという態度は橋下氏自身取れないでしょうし、既に消えたかつての懲戒請求を求めるwikiのキャッシュでも橋下氏の発言に言及しています。
 また、弁護団に関するネット上での論争も、弁護団を批判する側から説明責任論はほとんど出てこず、あのような弁護は醜悪だという性質のものばかりでした。
 現在、当初存在した懲戒請求用のwikiの管理人はネット上から行方をくらましました。



 「弁護に関する説明責任をはたしていない」「弁護内容自体許されない行為をやった」というのは、全くと言っていいほど性質の違うものです。ちょっとやそっと理論構成が違うだけという性質のものではありません。

 きっかけとなったテレビ番組「たかじんのそこまで言って委員会」での発言では、確かに説明責任の点から問題があるというようなことも言っているように見えます。
 しかし、それ以前に弁護団が勝手に組み立てた、ああいう主張を許していいのかというような発言ばかりが先行して、説明責任に関することはすっかりかすんでしまっているように思えます。まして、ずばりと「説明責任不履行を理由に懲戒請求せよ」なんて一言も言っていませんし、ネットを色々と検索してみましたが、その後もフォローするような大きな言説は見られないようです。

 懲戒請求かけて欲しいと言い放ってから説明責任の話がずばりと出てくるまで2ヶ月以上。テレビ以外にブログという自分の自由にできる媒体を持っているのに、フォローもなし。
 毎度記者会見を開いている弁護団とどっちがましでしょうか。


 多くの人たちが説明責任ではなく弁護の中身自体を問題にしているという結末(実際に懲戒請求をした人のうちどれほどが説明責任を問題にしたのかは不明瞭な部分があるにしても)を考えると、理由付けの深い部分はまだしも、理由付けそれ自体が十分に理解されていなかったといえます。だとすれば、説明責任を問題にするなら、一番問題があったのは橋下氏ではないかというのが偽らざる感想です。

 橋下氏のブログ記事を見て、無邪気に橋下弁護士がんばれなどと言っている人たちもいますが、私から見れば、橋下氏は直接的にせよ間接的にせよ彼の言葉に応じて懲戒請求をした人の多くを見捨てていると思います。
 もちろん、橋下氏は彼らが自分のことを曲解しただけ、あるいは彼らは自分たちなりに考えてやったことだから自分と関係ないと言いたければ言えばいいでしょうし、きちんと理屈を作って懲戒請求をしている人はこんなことでびびるとは思いませんが、そういうことをいったらどういう評価が彼に下されるものか。まして、説明責任を果たしていないといって人を懲戒しろと騒いでいるのに、間違った思い込みをさせるような説明をするのでは。




 くれぐれも言っておきますが、私は懲戒請求を「するな」とは言いません。私の持っていない情報や思いもかけない理論構成が存在する可能性もあり、懲戒不相当であるという保証はしかねるからです。説明責任論に基づいて懲戒請求をした方は、ぜひ上の文章を参考にして反論を用意しておいていただきたい。というか、反論が用意できないんじゃ多分通らないでしょう。綱紀委員会に呼ばれて反論できずでは困りますからね。
 

 彼の文章には、他にもいくつか突っ込みたいところがありますが、それはまたの機会にでも。

 





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最終更新日  2007年08月12日 15時37分15秒
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